水産物の新たな流通システムで漁業の再生を目指す【旬材】
自分らしい仕事をしたいと考え、起業したシニアにエールを送るコーナーです。 大企業の役員の道を捨て、55歳で起業した西川益通氏。新しい水産物の流通システムを作り、かつて自分と会社を支えてくれた日本の漁業の再生を目指す。
「当社の事業は離島振興を考える国交省や一次産業振興を考える農水省、経産省などからも注目され、こうした組織の支援を受け取引システムができた」と語る西川益通社長。 |
株式会社 旬材 代表取締役社長 西川益通(にしかわ・ますみち) 1946年、大阪市生まれ。1972年、ヤンマーディーゼル(株)入社。ヤンマー造船(株)等、関連企業に勤務した後、ヤンマー西日本(株)常務取締役を経て、2002年、(株)旬材を設立。 |
衰退する漁業を何とかしたいと55歳で退職・起業
- ――2002年に55歳で起業されたとうかがっていますが、ヤンマー西日本の常務という安定した地位を得ながら、なぜあえてリスクのある起業を選んだのでしょう。
- ヤンマーに30年あまり勤めていたうち、25年くらいはヤンマー造船で船を製造・販売する仕事をしており、売った船の数は13万隻を超えます。専門知識もなかった私がずっと船の仕事を続けてこられたのは、全国の漁業関係者が船についていろいろと教えてくれたからなんです。
- そうした恩人である漁業者が近年、“魚が売れない”“魚の価格が安い”“後継者がいない”といった厳しい状況に追い込まれていると聞き、何とかしたいと思いました。役員会に漁業振興の提案もしましたが、一次産業の衰退を受け、会社自身も厳しい経営環境にあり、顧客を支援するどころか、従業員に早期退職まで促さなければならない状況でした。であれば、自分で何とかしようと、起業することにしたのです。
- ――漁業者の支援として選んだのが魚の販売事業ですが、なぜそれを選んだのですか。
- 私は船の販売を通じ全国の漁業者とのつながりがあったので、この人たちから魚を仕入れて売れないかと考えました。といっても、通常流通に参入したところで実績も経験もありませんから、生き残れる見込みはありません。そこで、通常流通以外のものを扱おうと思いました。
- ――通常流通以外のものというと?
- 水産物というのは、まとまった数が揃わないと通常流通に乗せることは難しく、たとえば、ある魚を100ケースほしいと言われた場合、10ケースや20ケースが用意できるだけでは取り引きしてもらうことはできません。実は、こうした通常流通に乗らない水産物は年間の水産物の流通量1兆5000億円のうち約半分を占めているのです。ですから、こうした通常流通にのらないものを仕入れて販売すれば、どことも競合することなく、漁業者の支援にもなる事業ができると考えたのです。
- ――具体的にはどのような形で事業にしているのですか。
- 水産物の売り手である漁業者と買い手である飲食業や小売業などとを、インターネット上の取引システムで直接結んでいます。毎朝、全国の提携漁業者から、その日に上がった魚の情報が画像データとともにリアルタイムでインターネットを経由して寄せられ、その情報を見た飲食店や量販店など、買い手側のバイヤーが発注し、取引が成立する仕組みです。
- 卸などの中間業者を介さずに漁業者と店側が直接取引することで、漁業者は通常流通より2割高く売れ、一方、買い手側も通常流通より2割安く買えるというわけです。当社は、売り手から売値の2%、買い手から10%の手数料をいただき、システムを運営しています。
- ――取引先はどのくらいありますか。
- 全国の200〜300の漁業者から買い付け、飲食店や量販店、仲買、加工業、通信販売会社など、2000を超える先に販売しています。当社が強いのは、通常流通が止まっているときも商品が動かせる点です。たとえば、百貨店などは正月2日から初売りをしますが、その時に魚を揃えるためには元旦に船を出さないといけません。当社では全国の漁業者とつながりがあるためそれができます。また、通常流通に乗らない珍しい魚もが扱える点も当社の強みになっています。
- ――業績はいかがですか。
- 起業した年は全国に支店を作るなど、インフラ作りに力をいれたので赤字でしたが、2年目以降は黒字化を実現し、売り上げも年々拡大しています。売上高は15億円程度ですが、手数料収入が主なので売り上げの約80%が利益になり、商品の取扱額で考えれば売上高150億円規模の仕事をしているわけです。
- ――お話を聞いていると、これまで順調に事業を拡大されてこられたようですね。
- そうでもないんですよ。当初は全国の漁業者から直接水産物を買い付けてネット上で消費者に販売していましたが、事業として成り立つほどの売り上げにはなりませんでした。外食や量販店などに販売する仕組みに変え、事業として成り立つようになった3年目には、私自身が脳梗塞を患い、普通にしゃべることができなくなってしまいました。これでは仕事にならない、せっかくはじめた事業だけれどもたたまなければ周囲に迷惑がかかるだろうと、廃業も考えました。
- ――けれど、廃業することなく事業を続けられました。
- 自分がいなければ会社は立ち行かなくなると思っていたのですが、私が入院している間も社員たちは黙々と仕事をしてくれ、結果として、前年と変わらないほどの売り上げを上げることができたのです。自分がいなくてもまわるまで会社が成長していたことを実感しましたね。
- ――大変な状況も乗り越え、現在、事業は順調に拡大しているようですが、今後の事業展望を教えてください。
- これまでのシステムは漁業者が捕ってきた魚を買い手が見て、買うかを判断するという、相対取り引き(1対1)ができるものでした。現在は、新たに“来月どんな魚がほしい”といった予約買い付けや多数対多数の取り引きもできるシステムを構築しており、順調にいけば、10月には新システムのプロトタイプができ、来年の2月には本格稼働できる見込みです。
- これが完成すれば、予約が入った魚を捕ってくるといったように、漁業にも計画生産的な発想を取り入れることができるようになります。このほか、CSチャンネルで農漁業の情報を発信する番組を作る予定です。
漁業者は2割高く売れ、店は2割安く買える
仕入れた水産物は通販会社などに販売するほか、自社でもネット通販で販売している。漁業でも計画生産ができるシステムを構築
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