環境に優しい空調システムを商品化【ヤノ技研】
起業して自分らしい仕事をしたいと考えるシニアにエールを送るコーナーです。
定年退職の直前、在職中に関わった特許が会社の方針転換で“お蔵入り”に。今後絶対求められる技術であることを確信した矢野さんは起業を決意。会社と交渉して特許を譲り受け、起業しました。
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公的機関からの表彰楯がさりげなく置かれている。「70歳で辞めるつもりが75歳ぐらいまで働かないといけないよう」と語る矢野氏だが、顔は楽しげ <やの・なおみち>昭和16年生まれ。大学院卒業後、大手産業機器メーカー入社。住宅事業部等で主に建材研究に携わるが、平成14年、会社が住宅事業から撤退。自ら発明、特許出願した潜熱蓄熱材の技術を活かすべく、半年後の同年12月、会社から特許を譲り受けて、(有)ヤノ技研設立。同17年、資本金1950万円の(株)ヤノ技研に改組。蓄熱事業による省エネ、省資源化で環境問題への貢献を目指す。 |
自身の発明による特許技術の商品化
- ――どのような事業をしておられますか。
- 蓄熱装置の企画・製造・販売業務を柱に、空調システムの企画・設計施工・販売、建築材料と住宅設備の研究開発およびコンサルティング、市場開拓と技術開発に関するコンサルティングという4事業を展開しています。現在、事業の対象は住宅分野がメインですが、今後は工業分野や農業分野への展開も考えています。
- ――特許技術の商品化を目指して起業されたと伺いましたが。
- 私は在職中、板状の特殊ポリエチレン容器の中に※PCMを充填、独自の技術で密封した潜熱蓄熱カプセルを利用した住宅空調システムの開発に携わっていました。PCMの主成分を変えると相変化の温度を−30度から80度ぐらいまで設定できるため、暖房や冷房、冷暖房、低温貯蔵など様々な用途に使えます。特許をもつこの技術は私が発明しました。
※PCM:物質には温度変化に伴い、固体から液体(融点)、液体から気体(沸点)へと相が変化する性質があるが、相が変化する時に、大量の熱エネルギーを蓄熱(蓄冷)、あるいは逆に放熱(放冷)する。この熱エネルギーを潜熱という。PCM(潜熱蓄熱材)とは、潜熱を利用するための媒体となる物質のことである。相変化の伴わない物質のエネルギー変化に比較し、潜熱のエネルギーははるかに大きいので、その利用により省スペース設計が可能となる。 - ――それをどのように空調システムに活かされたのですか。
- PCMカプセルを30枚程度積み重ねて作ったブロックを、さらに必要枚数組み合わせて断熱ボックスで囲んだ蓄熱槽がベースです。例えば住宅だと18度の温度で空調に必要なエネルギーを発生することができます。設置するスペースに合わせたサイズの蓄熱材にダクト空調と1台の市販エアコンを接続すると、安い深夜電力を利用して必要な時に蓄熱装置から熱を取り出して空調することができます。
- ――つまり、潜熱蓄熱カプセルの利用で環境に優しい空調装置ができるということですか。
- この装置は薄型カプセルを使うのでコンパクトで熱効率が高く、安価で簡便かつメンテナンスも容易なうえ、室内に空調機器は一切見えません。これを1台設置するだけで換気・空気浄化・マイナスイオンも含めた一体型の効率のよい全館空調が実現します。これまで個人住宅のほか住宅展示場、病院や老人ホームなどにも採用されました。

2部屋続きの140平米をそれぞれ研究と製作に充てている

LサイズとSサイズがある。薄い板状のカプセルに同社の業界トップクラスの技術が凝縮
CO2削減義務化が事業に追い風
- ――矢野さんは元々このような事業をしようと考えておられたのですか。
- 全然。私は定年退職するまで起業しようとはまったく思っていませんでした。ところが退職の直前に不振を理由に会社は住宅建材事業からの撤退を決定、私の潜熱・蓄熱に関する多くの特許もお蔵入りすることになりました。「手塩にかけた子どものような特許を埋もれさせるのは惜しいな」と思いながら取引先やお世話になった先生に挨拶に行くと、皆が「蓄熱の技術は将来の省エネに必要なのにもったいない」と言うので私もその気になりました。
- ――事業撤退の挨拶回りに行き、起業の決意を固めて帰ったというわけですね。
- 元々自分でも「これからの世の中には蓄熱技術が必要だ」と思っていたこともあり、起業して特許技術を事業化しようと決めました。そこで会社に交渉したところ、法人を作る条件で工業所有権を譲渡してもらえることになりました。要らなくなった実験装置や原材料も譲ってもらえたので助かりましたが、輸送費が結構かかりましたね。
- ――起業に向けてどのような準備をされたのですか。
- 本を買ってきて勉強し、自分で有限会社設立の手続きをしました。最初は大阪市内に6畳ひと間を借りて調査や企画、技術コンサルタントなどの仕事をしていたのですが、実際に装置の注文を受けて作るようになると手狭なので神戸に引っ越しました。今の場所は3カ所目です。資本金は退職金をはたきました。
- ――現在どんな状況ですか。
- CO2削減が義務化されるなど事業に追い風が吹いているのを感じます。2007年度のNBK大賞企業部門省エネルギービジネス賞を受賞し、今年に入って海外から「売ってくれ」とか「一緒に販売しよう」といった打診が入るようになりました。しかしスタッフが4人しかいないので手が回らず、販売力の充実が最大の課題です。現在の年商は2000万円弱ぐらい。近いうちに工業分野でメーカーに採用されることがほぼ決まっています。
- ――ところで、起業して義憤を感じておられることがあるそうですね。
- どんな事業でも軌道に乗るまでに10年はかかる。同級生は皆退職してゴルフや海外旅行で楽しく遊んでいるのに、収入がないから余計な税金は払わなくて済む。僕は休みなく働き、名目だけの収入をもう一度会社へ放り込んで働いているのに、税金だけはたくさん取られる。日本が技術立国というなら、世の中に必要なことをしている会社だと認めたところに、もう少し税制上の優遇措置をして欲しいと思うことがしばしばありますよ。
- ――最後に今後の計画などを教えてください。
- 子育てを終えた僕ら世代の起業は儲け第一主義ではありません。蓄熱材はCO2排出量の多い火力発電所の電力減に繋がり、地球温暖化対策という観点から非常に重要な取り組みなのです。今後5、6年でやる気はあるが職場に恵まれない若い人たちを雇い、これからの時代に必要な環境の技術を身につけてもらえるようなベース作りをしたいですね。
今年7月、フクオカベンチャーマーケットに出展、来場者に説明する矢野さん。用意した3日分のカタログが2日でなくなり慌てる場面も
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