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アイデアを刺激する 最新科学技術キーワード


糖鎖

生体の設計図である遺伝子はわずか4種類の塩基でできたDNAで構成され、そこからたんぱく質を作る。だが、これでは不十分。生命活動を考えるには、さらに第3の生命鎖と呼ばれる「糖鎖(とうさ)」を考慮する必要がある。糖鎖はグルコース(ブドウ糖)などの単糖がつながった配列を持ち、細胞やたんぱく質が体内で十分に機能するには、糖鎖がついた状態であることが必要。身近な例では血液型の違いやインフルエンザなどのウイルス感染にも糖鎖はかかわっている。日本が世界を引っ張る糖鎖研究を探った。

【複雑な構造】

DNAやたんぱく質を構成するアミノ酸は細菌から人間に至るまで、一直線に並んだ生物共通の構造を持つ。だが、糖鎖は一直線に伸びず、途中で枝分かれしている。さらにDNA同士やアミノ酸同士が結合する場合、結合の仕方は1通りしかないが、糖鎖には単糖が持つ複数の"結合の手"が存在し、同じ材料でも異なる糖鎖構造を作ることができる。

また、人や犬などの生物特有の単糖から構成される糖鎖もあり、人では10種類の糖の組み合わせで糖鎖を作る。人間同士であっても個体差や病気の状態などで、たんぱく質につく糖鎖構造が変わる。産業技術総合研究所糖鎖医工学研究センター長の成松久さんは、「たんぱく質には糖鎖がついていることを意識すべきだ」と糖鎖の重要性を強調する。
 成松さんの研究チームは2009年10月に、肝硬変の原因となる肝臓の「線維化」の程度を測定できる糖たんぱく質マーカー(標識)の検査システムを世界で初めて開発した。肝臓の線維化はウイルス性肝炎と人間の治癒機能が原因で起こる。従来は病態を見るのに患者の体に針を刺して患部組織を採取していた。線維化などは血液中に適切なマーカーがないためで、患者側の負担は大きい。

左から順に肝臓の線維化が進む様子。線維化の状態により、たんぱく質(図の左上と右上にある大きなかたまり)につく糖鎖が変わる(産総研提供)

左から順に肝臓の線維化が進む様子。線維化の状態により、たんぱく質(図の左上と右上にある大きなかたまり)につく糖鎖が変わる(産総研提供)

【肝臓の病態把握】

それに対し、この検査システムは同じたんぱく質であっても状態によって違う糖鎖構造になる性質を利用。血液中の糖たんぱく質の糖鎖を解析し、肝臓の病的状態を把握できる。肝臓以外の臓器への適用も目指すという。
 糖たんぱく質の立体的な構造はどうなっているのか―。理化学研究所で糖鎖構造生物学研究チームのチームリーダーを務める山口芳樹さんは、糖たんぱく質が持つ糖鎖とその糖鎖に反応するレクチンというたんぱく質が結合する状態を、X線を使った結晶構造解析や核磁気共鳴法(NMR)で解明を試みている。たんぱく質の結晶構造解析の研究は古くからあるが、多くは糖鎖を重要だとは考えていなかったという。
 実際に、世界中の研究者が使うたんぱく質の立体構造データベース(DB)「プロテインデータバンク(PDB)」の中でも、糖鎖がついたものはまだ1割程度だという。

【アジアで研究連合】

免疫システムで異物の認識や排除にかかわる抗体の糖たんぱく質(理研提供)

免疫システムで異物の認識や排除にかかわる抗体の糖たんぱく質(理研提供)

では、世界の糖鎖研究の状況はどうか。「糖鎖の分野は日本が引っ張っている」と産総研の成松さんが話す通り、この分野で日本はリーダー格。そこで成松さんが中心となって中国や韓国などアジア5カ国に呼びかけ、09年10月末に「アジア糖鎖科学コミュニケーション(ACGG)」が発足した。米国の糖質科学コンソーシアム、欧州のユーロカーブとともに、連合での研究の進展が期待される。
 立体構造を知る際の課題は糖たんぱく質の大量精製だ。大きな結晶のほうが結晶構造解析には有利で、そのためには多くのたんぱく質が必要になる。だが、大腸菌にたんぱく質を作らせる一般的な方法では、目的とする糖鎖がついたたんぱく質が得られない。そこで、ほ乳細胞にたんぱく質を作らせているが、「取れる量が少ないのが悩みの種」(山口さん)という問題を抱えている。
 成松さんは、現在の糖鎖解析技術では「がんなどの疾患の早期診断はできない」と断言する。現状では、ある程度がんが進行してから、採取した生体組織のたんぱく質の糖鎖が特殊なものに変化したことを検出できる程度。糖鎖を使ったマーカーでがんになるかどうかの予測をするには、ごく微量の糖たんぱく質を高感度で検出できる技術が必要という。

展望・この技術

感染症やがん治療薬の開発にも

実は糖鎖は身近にあり、血液型は典型例と言える。科学的には赤血球につく糖の一部が変わるだけで、A型やB型などに変化する。血液型は占いや性格診断によく使われ、会話の中でも他人の血液型を聞くことは多い。だが、ある血液型と特定の病気のかかりやすさなど科学的に根拠がある知識はそれほど知られていない。
 たんぱく質の研究が進み、立体構造が発表されているが、多くは「糖鎖がなく働きが不明な状態」(山口さん)。たんぱく質研究をプロテオームと呼ぶように、糖たんぱく質を対象とした研究を「グライコプロテオーム」と呼び、認知されつつある。取り扱いが難しく複雑な糖鎖だが、研究が進めばインフルエンザなどの感染症やがんの治療薬などの開発につながるだろう。


掲載日:2010年3月 4日

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