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ロボ・ステーション


ロボットビジネス勝利の方程式を探る!
「米Intelと同じ"内クローズ・外モジュラー"のポジショニングを指向」―サービスロボ用通信プラットフォーム事業【D3基盤技術】

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(株)D3基盤技術
代表取締役 吾妻修一

〒305-8568
茨城県つくば市梅園1-1-1 産業技術総合研究所内
http://www.d3platformtechnologies.com/index.html

昨年からスタートした「生活支援ロボット実用化プロジェクト」(NEDO)にて、人と共存環境下で稼働するサービスロボを対象に安全技術の構築が取り組まれている。それに伴い、ロボットの安全性確保に対する関心が高まっている。
 これに対し一つの解を提示しようとするのが、3月に起業したばかりの産業技術総合研究所発のベンチャー・D3基盤技術である。提案する通信プラットフォーム「D3モジュール」はロバスト性を確保しており、安全性が要求されるサービスロボ用通信プラットフォームの標準化技術に近い位置にある。また、その地位を獲得するために、よく練られた事業戦略を打ち立てている。

サービスロボに適した高信頼性の通信モジュール

D3モジュールは、オーストリアTTTech社の通信プロトコル「TTP(Time Triggered Protocol)」をベースにロボット向けに開発した、FPGAチップに搭載可能な通信モジュールである。TTPチップのIPコアおよび内部ロジックをそのまま継承し、かつロボット向けに小型・高速化している。

4ノード以上での分散制御システムでの利用を想定しており、64ノード分のタイムテーブルを用意。また、これを搭載したロボットシステムとしての安全認証を考慮し、リアルタイム(RT)OS「QNX」上で動作することを前提に開発している。Linuxのように不特定多数が開発したRTOSの利用は、ロボットシステムとして安全認証を受ける際、不利になると判断されるからである。

TTPは、あらかじめ定義した送信時刻で通信する「タイムトリガ方式」を採用している。ロボットでよく用いられる「CAN」は「イベントドリブン方式」を採用しており、複数のノード(ネットワークを構成する要素)が同じタイミングで通信しようとすると信号が衝突する。また、どちらのノードの信号から送信されるのかは確率論的になされるため、厳密な意味でリアルタイム性が保証されていない。

これに対し、タイムトリガ方式は一定間隔で信号を送信するため、各ノードの信号が衝突することがなく、データ送信が確実になされる。決定論的に通信がなされるためリアルタイム性が担保されており、しかも、想定外の事態が発生したときは、エラーとして信号が切り離される仕組みを備えている。安全性および信頼性の確保が要求されるサービスロボに適した通信プロトコルと言える。このような「distributed(分散型)」「deterministic(決定論的)」「dependable(信頼性)」という特徴から、「D3」という名称を付しているのである。

図1:D3モジュールの概要と提供方法

図1:D3モジュールの概要と提供方法

また、ロボットシステムとして安全認証を受けるうえでもTTPは有利に働く。安全認証の実績を多く有しており、例えば、エアバス「A380」にて客室代圧制御システムに採用され、TTPコントローラのハードウエアは商用航空機アビオニクスシステムへの実装に関する設計保証ガイドライン「DO 254」レベルAを、ソフトウエアは航空機向けソフトウエア開発ガイドライン「DO 178B」のレベルAの安全認証を、欧州航空安全局EASAより取得。また、TTP採用の電子制御装置「TTC200」が、機能安全規格「IEC 61508」のSIL3(Safety Integrity Level:安全度水準)の認証を、独TUV Nordより受けている。
 D3モジュールとしては、厳密には認証準備段階にあるが、TTPコアおよびロジックをそのまま継承しており、実績重視で認証されることを踏まえると、安全認証を受けやすいと言える。

D3モジュールの提供方法は、採用したロボットが量産されたときのライセンス収入を見込み、IPコアと開発ツールとのセットを予定している。ただし将来的な構想であるとし、まずはFPGAに実装し、これを搭載したPCIボートや分散制御モジュールの提供から始める。

"内クローズ・外モジュラー"のポジショニング

安全認証に有利なのもD3モジュールの特徴であるが、ビジネス展開上、注目されるのはTTPとロボット用ミドルウエア「RTミドルウエア」との間を埋めるような機能を有していることである。ここで発生する擦り合わせ(インテグラル)的な調整作業を不要にする(モジュール内に隠蔽する:内クローズ)一方、インターフェースをオープン(外モジュラー)にしており、これにより、ロボットメーカーはアプリケーション開発に専念することができる。つまり、通信という非競争領域での開発から解放され、競争領域の開発に特化することができる。高効率な開発がもたらされることになる。

また、こうした特徴により、米Intel社がパソコン業界でデファクト標準になったのと同様、"内クローズ・外モジュラー"のポジショニングをとることができる。米IntelはCPUおよびチップセットの中に"擦り合わせ的な要素"を押し込む一方、外部インターフェースはオープンにし、互換性を持たせることでデファクト標準を獲得した。
 D3モジュールも同様の仕組みを盛り込むことでデファクト標準を獲得し、安定的な収益を確保することを目指している。このような"ロボット業界のIntel"を目指す事業戦略はしたたかであり、ここに、起業して間もない同社が注目される最大の理由がある。

図2:D3基盤技術の事業の特徴(その1) 図3:3D基盤技術の事業の特徴(その2)。本文では触れていないが、安全認証を受け、かつ要素部品を積極活用したモノづくりへの移行も目指している。

[左]図2:D3基盤技術の事業の特徴(その1)
[右]図3:3D基盤技術の事業の特徴(その2)。本文では触れていないが、安全認証を受け、かつ要素部品を積極活用したモノづくりへの移行も目指している。

話は少々反れるが、ロボットは「総合技術」と称されるがゆえ、自動車産業と同様、高度な擦り合わせ技術が要求される垂直統合的な産業(「内クローズ・外クローズ」、もしくは「中インテグラル・外インテグラル」)になると考えられている。例えば、2005年5月に経済産業省より公開された「ロボット政策研究会中間報告書」では、『ロボットは、幅広い技術の統合システムであり、技術も市場も十分に成熟していない現時点では、個々の製品ごとに技術の擦り合わせを要する典型的な垂直連携型産業である』と記されていた。

当時、日本企業の多くが「ツーカーの関係」「あうんの呼吸」に象徴される「まとめ能力」「チーム力」「統合力」を組織能力として蓄積し、擦り合わせが求められる製品開発を得意とすることが、東京大学の藤本隆宏教授より指摘された(※)。この報告書は、それを受けてまとめたものと推測されており、その後、高度なモノづくり企業を抱える地域でロボット開発による産業振興が取り組まれた根拠の1つになった。

かたや、「RTミドルウエア」プロジェクト、それを受けての「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト」などではロボット開発のオープン化(外モジュラー化)、つまり組み合わせ型のモノづくりを指向する水平分業化が取り組まれている。また、米Willow Garage社は基本ソフト「ROS(Robot Operating System)」をオープンソースで開発・公開し、それを使ったロボットプラットフォームを「PR2」として無償提供することで、同様の方向性を目指している。

今後、市場拡大が期待されるサービスロボ産業が「垂直統合型」になるのか「水平分業型」になるのかは現段階では不明だが、擦り合わせ技術が要求される前者でも、組み合わせによる開発が行える後者であっても、コア技術やブラックボックス化できる技術を有していなければ、事業の継続は困難である。このような意味でも、RTミドルウエアとの調整作業をブラックボックス化したD3モジュールは、長期的に見て重要な技術になると言える。

このように技術面およびビジネス面で期待される同社だが、悩ましいのは、D3モジュールを実装するサービスロボが普及していないことである。2008年秋以降の世界的な景気後退の中では労働力が過剰の状態にあり、今後数年間は、その量産化を期待するのは難しいかもしれない。
 同社も十分承知しており、当面はおもに研究用途に向けて提供することを予定している。また、パートナーの構築によりデファクト標準を進めつつ、数年後に生活支援ロボット実用化プロジェクトなどを通じてデジュール標準となったときに、一気に普及するような土壌の形成に取り組み始めている。

※製品やシステムのアーキテクチャの基本タイプは、大きくは「擦り合わせ型」(インテグラル)と「組み合わせ型」(モジュラー)に分けられる。前者は、ある製品のために特別に最適設計がなされた部品を微妙に相互調整しなければトータルなシステムとしての性能が発揮されないような製品を指す。具体的には、自動車や家電製品、精密機械、ゲームソフトや組込みソフトが該当する。後者は、すでに設計された有りものの部品を巧みに寄せ集めることで最終製品を完成できるタイプの製品を指す。インターフェース(メカニカルおよび通信、ソフトを含む)が標準化されており、部品そのものも機能的に完結している。パソコンや自転車などが代表的な製品。戦後、日本企業の多くが「ツーカーの関係」「あうんの呼吸」に象徴される「まとめ能力」「チーム力」「統合力」などを営々と蓄積してきた。それゆえに、わが国は擦り合わせが要求される製品開発を得意とすることが、東京大学の藤本隆宏教授より指摘されている。

(解説:ロボナブル編集部)


掲載日:2010年5月11日

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