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ロボ・ステーション


新産業の創造に挑む!ロボット特区大集合
「機構学の形の1つとして、誰でも扱える補助装具を具現化したい」〜からくり機構にこだわった、前例のない補助装具を開発〜【からくりロボット研究会】

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奥田真さん 川村達三さん
奥田真さん 川村達三さん

からくりロボット研究会

主幹 奥田 真

〒604-8381
大阪市福島区福島5-5-9(川村商事)
TEL(06)6453-6766/FAX(06)6453-6755

平均年齢64歳の超熟練エンジニアが「からくりロボット研究会」を結成し、身体に装着して使用するアシストスーツ(補助装具)を開発していることで話題になっている。
 ロボットスーツ「HAL」に代表されるアシストスーツは、各種センサによりユーザーの動作意図を読み取り、それをもとにアクチュエータ(電磁モータ)により、適切なタイミングでアシスト力を発生する。各分野の研究成果と言える最先端の要素技術をふんだんに実装することにより、システムを成立させている。
 ところが、彼らは江戸時代のからくり人形に倣い、機械要素のみで構成しようとしている。

「ロボット技術はアクチュエータや制御技術などの発展により進展してきました。HALはその代表ですが、少々先進的すぎて、一般の方が容易に利用するにはもうしばらく時間がかかるような気がします。一方、介護福祉で利用されている福祉装具は戦前からありますが、ほとんど進化していません」
 「われわれがやりたいのは、からくりをプラスアルファした簡素な装具で人間の筋力をアシストすること。これらHALと福祉装具の中間に位置する、日常的に使える補助装具を目指しているんです」
 そう熱心に切り出すのは、代表を務める奥田真さんである。
 また、「長年にわたる開発で培った知識と経験、特に機構学に関する知見を、補助装具というかたちで残しておきたい」という意図もある。ゆえに、機械要素のみで構築することに強いこだわりを持っている。

このような取り組みは、一見すると時代の流れに逆行しているうえ、実現困難な取り組みに思われる。しかしながら、身体に装着して使用するアシストスーツは安全性の確保が厳しく問われ、安全の専門家からは「本来は、メカニカルな機構により安全を保証するのが望ましい」という声が上がっている。それを踏まえると、機械要素のみで構成しようとする彼らの取り組みは、むしろ正当な取り組みと言えるかもしれない。

試作した全身タイプの補助装具。江戸時代のからくり人形に倣い、からくり機構を付加することで、誰でも扱えるような補助増具の実現を目指している。

試作した全身タイプの補助装具。江戸時代のからくり人形に倣い、からくり機構を付加することで、誰でも扱えるような補助増具の実現を目指している。

機構学の知識をかたちとして残す

からくりロボット研究会は、設計・開発を担当する奥田さんを中心に4名で活動している。
 すでに80歳になる奥田さんは、機械式計算機やジグザクミシン、ベルト式電動マッサージ器など、複数の企業でいくつもの製品開発を手がけた。また、それ以前の戦前には、学徒動員にてプレス機械をはじめ各種工作機械の開発も経験した。戦前から戦後の高度成長期にかけて、わが国のモノづくりを支えた1人だ。
 そんな超ベテラン設計者の奥田さんが現在、挑戦しているのが、からくり機構を活用した補助装具の開発である。

その開発を志したのには、おもに2つの理由がある。
 1つは、上述の通り、奥田さんの機構学の知識を形として残すこと。ここ数十年間、電気電子やソフトウエア技術が著しく発展したのに対し、機構学は停滞ぎみにある。具体的な形として残すことにより「次代の技術者に手本の1つとして継承したい」(奥田さん)という思いがある。
 もう1つは、過去の開発経験を生かして、誰もが容易に扱える道具の開発に挑戦すること。HALのような超ハイテク製品がある一方、義手をはじめ補助装具は戦前からほとんど進化していない。しかも、業界の閉鎖的な体質もあり、誰もが容易に扱えるようになっていない。奥田さんの機構学の知識を生かした、からくり機構を組み込んだ補助装具の実現により、その問題解決を図ろうとしている。
 このように、奥田さんたちの取り組みは現在のモノづくりのあり方と補助装具をめぐる業界のあり方の両方に向け、問題提起をしようとしていると言える。

2007年には、第一弾として、東京・上野の国立科学博物館で開催された「大ロボット博」にて、右腕のみを補助する「ガイアスーツ」(東洋プレス工業が出展)を出展した。転がりと滑り摩擦を制御する軸受を用いて右腕の負担軽減を試みたものだが、身体への密着度が低く、発生するモーメントが大きくなるため扱いやすさに課題があった。
 当時、奥田さんは海外プラントの立ち上げに関わっており、開発に参加できず、その完成度に不満を抱いていた。奥田さんの帰国を受け、より本格的な補助装具として、現在のような全身タイプの開発に取りかかるのである。

力の流れを考えた構造を持つ補助装具

試作した全身タイプの補助装具は、重量機材を用いた作業や介護に伴う重量負担の一部を、腕や肩、脚部の関節に内蔵したばねの反発力やラチェット機構により支える、というものである。
 腕などにかかる負荷は、ラチェット機構により任意の位置で固定することで、重い機材を抱えたままでも、同じ姿勢を長時間維持することができる。また、膝関節部には捻りコイルばねが組み込んであり、屈伸時にはばねを圧縮し、伸展時には圧縮したばねの力を開放することで、楽な伸展運動を可能にしている。

試作した補助装具の上半身部。肘関節部にラチェット機構が組み込んであり、任意の位置で固定することにより、重量物を把持したままでも同じ姿勢を長時間維持することができる。 膝部には捻りコイルばねが組み込んであり、屈伸時にばねを圧縮し、伸展時に開放することで楽な伸展運動を可能にしている。

(左)試作した補助装具の上半身部。肘関節部にラチェット機構が組み込んであり、任意の位置で固定することにより、重量物を把持したままでも同じ姿勢を長時間維持することができる。 (右)膝部には捻りコイルばねが組み込んであり、屈伸時にばねを圧縮し、伸展時に開放することで楽な伸展運動を可能にしている。

使用時に身体全体にかかる負荷は、靴に連結する足元機構部に逃すようにしてあり、かつ脇下に位置する松葉杖に乗りかかるように装着するため、ほとんど感じないようにしている。また、疲れたときは補助装具に乗りかかることができ、長時間の作業に耐えることができる。
 力の流れを考え抜いた設計がなされており、力線を意識した設計の基礎が学べる素材となっている。超ベテラン設計者の奥田さんならではの設計と言えよう。

ただし、「からくりに倣い、機械要素のみで構成しているだけに苦労は多い・・・」と、外部との折衝などを担う川村達三さんは漏らす。筋肉の単純な補助にとどまることから、「シーケンス制御程度の簡易な制御を実装することで、動作を補助するようなことも検討したい」(川村さん)という。そうすれば、「HALで行える7割程度の補助が可能になり、十分肩を並べられる製品レベルになるのでは」(同)と期待を込める。

現在の試作機は、あくまで基本原理を検証・確認するためのモデルであり、汎用部品ばかりで構成されているため、一見すると実用化にはほぼ遠い印象を受ける。しかし、「原理の追求はほぼ終えたし、複数の方法で筋肉を補助できることも確認できている。設計としては間違いない!」(奥田さん)とのことで、次は製品レベルに近い試作機の開発を予定している。一部機構を見直すほか、より軽量のCFRPを利用したり、身体に馴染みやすい柔軟素材を用いたりすることで、「近々、ブラッシュアップしたものを提示できるはず」(川村さん)という。

奥田さんは、基本原理を検証するために複数の全身タイプの補助装具を開発している。

奥田さんは、基本原理を検証するために複数の全身タイプの補助装具を開発している。

研究会の思想を理解してくれるのが条件

奥田さんらの開発に対し、すでに多方面から問い合わせや実用化を求める声が寄せられている。抱きかかえ動作の補助をはじめ介護者を補助する装具としてや、筋力が弱った人の動作の補助など要介護者をサポートする装具としての利用が期待されることから、介護福祉や医療に関連する機関からの問い合わせや開発協力への申し入れが多いという。

こうした用途は有望ではあるが、奥田さんたちはこれに限定しようとは考えていない。開発した基本原理をもとに遊びなどの用途に活用したり、一種のサポーターとしてスポーツなどの用途で利用してもらったりすることもイメージしている。「さまざまな用途に応じて使い分けることができ、かつアンダーウエアのように容易に装着できるものが理想型」と、奥田さんは説明する。

上述のような開発協力が得られれば、より早くそれに近づけることができるだろうが、この場合「自分たちの開発思想を共有し、尊重してくれることが条件になる」と川村さんは話す。つまり、「奥田さんの機構学の知識を残すことを目的に活動していること」である。これはどうしても譲れない条件のようで、いまは賛同してくれる協力者を見定めている段階という。

実用化に向けて順調に開発が進んでいるように思われるが、奥田さんは内心「自身のアイデアがなかなか具現化されない状況に苛立ちがある...」と吐露する。
 奥田さんが描いた図面をもとに各部品を製作しているが、それを担うのは同研究会に所属する日本プラントエンジニアリングの大浦徹さんのみで、本来業務を終えた17時以降から取り組んでいる。奥田さんが次々と様々な機構を思い浮かべるにもかかわらず、部品がなかなか仕上がってこないというのである。すでに80歳になっており、「残された時間を考えると、余計に焦りを感じてしまう」と言う。
 それでも、「これは現実ですし、嘆いても仕方のないことなので、1つひとつのアイデアを書きとどめていくことに専念したいです。それが結果として、われわれが目指す機構学の継承につながるでしょうから!」
 最後に、奥田さんはそう前向きに話してくれた。

奥田さんが描いた図面をもとに、大浦さんが製作している。写真は関節部を構成する部品の一部。

奥田さんが描いた図面をもとに、大浦さんが製作している。写真は関節部を構成する部品の一部。

8月3日に、HALをはじめとする生活支援ロボットの開発・普及、安全規格の策定を目的としたプロジェクトの概要が発表された。いずれも最新のロボット工学の知見に加え、最先端の要素技術を活用した開発が提案されている。
 からくりロボット研究会の取り組みは、これらと一線を画すばかりか、逆行さえしている印象を受ける。しかし、昨今の製品開発において「設計力の低下」「機構の発想力の低下」などが指摘されることを踏まえると有意な活動であり、今後のわが国のロボット開発やモノづくりを考えると、HALなどと同様、具現化しておくべき生活支援装具の1つであると感じられた。


掲載日:2009年8月18日

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