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ロボ・ステーション


新産業の創造に挑む!ロボット特区大集合
「長年にわたる植物工場への取り組みが、うちの強みといえるでしょう」〜計測・制御から植物工場をサポート、より安心・安全なシステムの提供にも意欲〜【演算工房】

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演算工房 岸本輝昭さん
演算工房 岸本輝昭さん

演算工房
代表取締役 林 稔

〒604-0847
京都市中京区烏丸通押小路上る秋野々町535番地
http://www.enzan-k.com/

食の安心・安全への意識の高まりや、食糧自給率の低下に象徴される食料安全保障の問題などを受け、植物工場(野菜工場)への関心がにわかに高まっている。4月に農林水産省と経済産業省が公表した、植物工場の普及に向けた提言では政策面での補助の必要性が明記された。それに伴い、異業種からの参入やそれを支援するビジネスも活発化しており、「第3次ブーム」と言われるに至っている。

「確かに、ここ最近は新規参入される事業者が増えています。これに対し、当社では計測・制御という切り口から、約20年にわたり植物工場に取り組んでいます。植物工場の運営では、各種センサの情報を断続的に記録(ログ)してデータベース化し、アルゴリズムや統計解析によりデータの関連づけを行い、的確にシミュレートすることが求められます。長期にわたる取り組みが必須であり、ここに当社の強みがあると言えるでしょう」
 そう冷静な口調で、植物工場の本質を語るのは、演算工房 商品開発部の岸本輝昭チーフエンジニアである。同社は、計測・制御、管理に関連するITシステムの開発を手がける企業で、その一環として、植物工場の環境制御システムの開発も手がけている。

「第3次ブーム」と言われるように、植物工場は1980年のはじめから稼働し始めており、特に真新しいシステムではない。システムの低価格化や光源の種類が増えたものの、システム構成は当時からほとんど変わっていない。こうした事実を踏まえると、岸本さんが言うように、植物工場の運営では経験が重要になると言える。
 こうした実績もさることながら、流通も包含した植物工場の提案や、より安心・安全な栽培を確保するための技術開発にも取り組んでおり、同市場で注目されるプレーヤーとなっている。

自然を相手にする領域をフォロー

演算工房は、トンネル工事を中心に土木建設業の計測、測量、施工管理など施工の情報化・自動化を支援している。また、横河電機の協力企業として、大阪府水産技術センターの水質監視システムをはじめ計測・制御、管理に関連するシステム開発を数多く手がけてきた。
 このような分野は、「いわば自然を相手に計測・制御を行っていると言え、農業分野も同様に農作物や気象状況など自然の把握が求められる」(岸本さん)ことから、計測・制御という切り口にて植物工場も手がけるようになる。

実際、このような切り口は、技術的にも共通していることが伺える。中でも、岸本さんが開発を担当した、シールド工法向け掘進管理システム「ARiGATAYA(アリガタヤ)」は、植物工場の制御システムに密接に関係しているという。
同システムは、シールドマシンに付加した各種センサの数値を読み込んで表示したり、測量結果を自動的に取り込んで計画線形との誤差を知らせたりするものである。センサを通じてシールドマシンの状況を断続的に監視・記録し、蓄積したデータを関連づけて事象の将来予測を行っている。
「データロガーとシミュレーションそのものの世界であり、センサを通じて管理・制御する植物工場にも共通する」
同社が植物工場を手がけるようになるのは自然な流れと言えよう。

掘進管理システム「ARiGATAYA」の計測監視の画面。現在の状況を「瞬時値データ」(上)として、今までの掘進の流れを「時系列データ」(下)としてリアルタイムに把握することができる。 線形管理の画面。日々の測量結果から今後の掘削目標値設定や蛇行セグメント組立シミュレーションによる蛇行組立修正を行う。

(左)掘進管理システム「ARiGATAYA」の計測監視の画面。現在の状況を「瞬時値データ」(上)として、今までの掘進の流れを「時系列データ」(下)としてリアルタイムに把握することができる。 (右)線形管理の画面。日々の測量結果から今後の掘削目標値設定や蛇行セグメント組立シミュレーションによる蛇行組立修正を行う。

とはいえ、「計測・制御の対象物がまったく異なるため、当初は苦労が絶えなかった・・・」と岸本さんは振り返る。それゆえに経験とノウハウが重要であり、「ビジネスパートナーの横河電機(当時は横河グリーンファーム)などに対し、植物の特性から生育方法に至るまで、さまざまな質問をぶつけては理解することを継続した」という。こうした地道な作業の繰り返しが、冒頭での発言に見られる自信につながっているのだろう。

アドバンストな「安心・安全」の提供を

一般に植物工場で計測しているのは、おもに温度、湿度、CO2濃度、水素イオン係数(pH)、電気伝導度(EC)、液肥の濃度である。80年代からほとんど変わっていない。一般には、例えば温度は20〜25度を維持し、リーフレタスなどの葉野菜の栽培では液肥を弱酸性にするのがよいとされるが、栽培対象や営農家の考え方により制御方法は多種多様である。しかも、栽培作物の成長度合いに応じて変更することも求められる。

これを踏まえ、同社が提供する植物工場向け制御システムは汎用的でありながらも、パラメータを調整することにより制御方法を柔軟に調整できるようにしている。
 また、営農家の経験と勘を統計シミュレーションに加味することにより、その精度を向上させている点にも特徴がある。
 「現在の植物工場では、すべてを自動化するには至っておらず、営農家の勘と経験に依存するところがまだまだあります。それをシステムに融合していくことが重要であり、当社ではそのデジタル化を進めています。植物工場の運営コストの問題がよく指摘されますが、計測・制御という切り口から、その低減に少しでも寄与すべく、このような特徴を持たせたのです」
 岸本さんは、制御システムの開発背景をそう説明する。

演算工房が提供している植物工場制御システムの画面サンプル。汎用的でありながらも、パラメータ調整することにより制御方法を柔軟に調整することができる。 演算工房が滋賀県下に設置している植物工場と研究施設。

(左)演算工房が提供している植物工場制御システムの画面サンプル。汎用的でありながらも、パラメータ調整することにより制御方法を柔軟に調整することができる。 (右)演算工房が滋賀県下に設置している植物工場と研究施設。

同社では、さらなる特徴を打ち出すために新たな取り組みを始めている。1つは、作物の病気を未然に防ぐことを目的とした生体信号センサの利用である。
 生体信号とは心電図や脈波、筋電図、脳波などのかたちで収集される生命活動の情報である。人体の健康および病気の診断に利用されている。植物も微弱ながら電流を発信しており、「同様に、この情報を作物の健康や病気の診断に活用することで、より適切な環境制御を行う」ことを目指している。生体信号センサには、本連載でも紹介したバイオシグナルの生体電気信号収集モジュールを利用することを予定している。

もう1つは、蛍光抗体法の利用による液肥中の細菌の検出である。蛍光抗体法とは、対象となる抗体に蛍光色素を標識しておき、抗原抗体反応の後で励起波長を当てて蛍光発色させ、顕微鏡で観察するという方法である。菌種により波長が異なる性質を利用して菌の有無の判定や特定を行う。ここでは、検査対象となる液肥と試薬を反応させて行うが、独自開発した蛍光検出センサと専用ソフトウエアにより短時間で、かつ簡便な検査を可能にしている。細菌検査、体外診断機器などの研究開発を手がけるティ・エフ・ディと共同開発した。

細菌検査装置の外観。蛍光抗体法により液肥中の細菌を検査。菌種により波長が異なる性質を利用して菌の有無の判定や特定を行う。密閉状態で栽培を行う完全制御型植物工場と言えども、液肥中に細菌が繁殖することが間々ある。これを効果的に防ぐことが期待される。 細菌検査装置の外観。蛍光抗体法により液肥中の細菌を検査。菌種により波長が異なる性質を利用して菌の有無の判定や特定を行う。密閉状態で栽培を行う完全制御型植物工場と言えども、液肥中に細菌が繁殖することが間々ある。これを効果的に防ぐことが期待される。

細菌検査装置の外観。蛍光抗体法により液肥中の細菌を検査。菌種により波長が異なる性質を利用して菌の有無の判定や特定を行う。密閉状態で栽培を行う完全制御型植物工場と言えども、液肥中に細菌が繁殖することが間々ある。これを効果的に防ぐことが期待される。

一般に植物工場は、特に完全制御型は完全密閉状態であり、無農薬で栽培できるため「安心・安全」な作物を提供できる、とされている。しかしながら、液肥に細菌が繁殖することがあり、ひどい場合は、栽培している作物すべてが売り物にならないこともある。必ずしも「安心・安全」とは言い切れない。また、環境制御しているとはいえ、作物を常に健康な状態にできているとは限らない。不健康になった後に制御を調整しているようでは、高品質な作物の提供は困難となる。
 同社の取り組みは、こうした不安を解消するものであり、アドバンストな「安心・安全」が提供できる植物工場を目指していると言える。他には見られない取り組みとして、早くも注目を集めている。

ビジネスモデル・流通を視野に入れた取り組み

演算工房では、上述の開発と併行して、植物工場を核としたビジネスモデルの検討も綿密に行っている。
 植物工場で栽培した作物は、高付加価値な作物として、露地栽培作物の1〜2割増の価格で店頭販売されている。ところが、植物工場の運営には償却費や電気代など大きな負担がかかり、その程度の付加価値では持ちこたえるのが難しい。実際、栽培した作物の売上げ規模はまだまだ小さく、それゆえに植物工場市場はベンチャーで占められている。

前節で紹介した取り組みに関連するが、同社では医薬品や健康食品の原材料として提供しようとしている。これらの原材料はおもに海外から調達しているが、植物工場の利用により国内調達が可能となり、かつ安定的に供給されれば、1〜2割増しどころか数倍の価格で提供できる可能性がある。
 提供する作物には高品質が要求されるため、上述のような独自開発を行っているわけだが、「関西には大手の製薬会社や化粧品会社が点在しており、きっと魅力ある提案になるでしょう」と、岸本さんは期待を込める。

また、同社は流通と一体となったビジネス展開も始めつつあり、「大阪駅北地区(通称:梅田北ヤード)先行開発プロジェクト」の「ナレッジ・キャピタル2009」にて、植物工場で栽培した野菜を提供する「ベジタブルブティック」を提案している(次世代ロボット開発ネットワーク「RooBO」によるプロデュース)。日本アドバンストアグリと国華園とのコラボレーションによるもので、演算工房は制御・管理システムの開発を、日本アドバンストアグリは光源(*)および液肥循環システムの提供を、国華園は種や苗などの提供およびグローバルな流通展開をそれぞれ担う。
 梅田北ヤードでは植物工場を実験プラントとして設置するにとどまらず、入居する飲食店への供給、さらには廃棄物の再利用を行うバイオマスシステムの開発も視野に入れている。 「まずは第一ステップとして梅田北ヤードに進出し、コラボレーションを通じて、当社の技術やソフトウエアを広げていければよいですね」 岸本さんはこの取り組みの効果をそう説明する。

「ナレッジ・キャピタル2009」にて展示した、植物工場で栽培した野菜を提供する「ベジタブルブティック」。日本アドバンストアグリと国華園とのコラボレーションによるもので、演算工房は制御・管理システムの開発を担当している。

「ナレッジ・キャピタル2009」にて展示した、植物工場で栽培した野菜を提供する「ベジタブルブティック」。日本アドバンストアグリと国華園とのコラボレーションによるもので、演算工房は制御・管理システムの開発を担当している。

植物工場の経営では、販路を確保しているか否かにより、それが左右されるきらいがあり、例えば、安定した経営をしているとされるフェアリーエンジェルでは、自社の直営レストランで栽培した野菜を提供し、消費者の認知度を高めることで販路の拡大を図っている。ベジタブルブティクは、こうした事実をきちんと踏まえた提案とも言えよう。

このように、すでにさまざまな仕掛けを始めている同社だが、最後に岸本さんは、同社が果たす役割を次のように語ってくれた。
 「植物工場そのものは古くからありますが、植物工場ビジネスとしてはまだ緒についたばかりです。植物工場の経営では、どこに向けて高付加価値な作物を提供できるかが重要になりますが、当社は計測・制御という技術面から、それに寄与したいです。ひいては、植物工場の普及につながるのではないでしょうか」

*:日本アドバンストアグリでは、液晶テレビのバックライトに用いるEEFL(External Electrode Fluorescent Lamp)とCCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)を植物工場用の光源に応用することで、生産コストの低減を図っている。また、光源の反射板の設計にも工夫を凝らしており、独自のU字型反射板の設置により、平面に強い光を均一かつ近接での照射を可能にしている。同社では、EEFL(External Electrode Fluorescent Lamp)とCCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)を総称して「HEFL」と表現している。


掲載日:2009年6月30日

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