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ロボ・ステーション


ロボットが拓く!あしたの農業
精密に植え付け作業を行う『ロボット田植機』と超省力作業技術に挑む【農研機構 中央農業総合研究センター 高度作業システム研究チーム】

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農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業総合研究センター 高度作業システム研究チーム
小林 恭 チーム長 玉城勝彦 上席研究員 長坂善禎主任研究員

わが国の食糧自給率がカロリーベースで40%を割ったことを受け、現在それを50%に引き上げることが重要な政策課題になっている。しかしながら、農業従事者数は減少の一途を辿っており、2005年度には210万人だった労働人口が2015年度には150万人にまで減少すると言われている。しかも、65歳以上が約4割を占める“超高齢化”を迎えている。明らかに、従来農法とは異なる“農業革新”の達成が求められており、その可能性を提示する農業ロボットへの期待が高まっている。中でも、中央農業総合研究センター(中央農研)が取り組む「ロボット田植機」は完成度が高く、また、今年度から立ち上げた有意なプロジェクトを含めて注目されている。

安定した自律走行を行うロボット田植機

中央農研が取り組むロボット田植機の開発は、1994年より実施された「未来型軽労化農業技術確立のための基盤技術に関する総合研究(通称「軽労化農業」)」によりスタートしている。現在は、農作業にかかる主要コストの35%を労働費が占めていることから、農業ロボットを中心とした作業体系を構築し、労働時間の大幅な減少を目指す取り組みの一環として進められている。その詳細は後述する。

中央農研にて研究開発しているロボット田植機。市販の6条田植機をベースに、RTK-GPSとIMU(慣性姿勢計測装置)などから構成される航法システムを搭載することで自律走行を可能にしている。 ロボット田植機に搭載しているRTK-GPSシステム。GPSアンテナと受信機。現在、これらの着脱を容易にする開発を進めている。

(左)中央農研にて研究開発しているロボット田植機。市販の6条田植機をベースに、RTK-GPSとIMU(慣性姿勢計測装置)などから構成される航法システムを搭載することで自律走行を可能にしている。(右)ロボット田植機に搭載しているRTK-GPSシステム。GPSアンテナと受信機。現在、これらの着脱を容易にする開発を進めている。

ロボット田植機は、市販の6条田植機をベースに開発している。搭載したRTK-GPS(Real-Time Kinematic GPS)により位置情報を、IMU(慣性姿勢計測装置)により車体の傾斜と進行方向をそれぞれ計測。これらをもとにメインコンピュータで各部の操作量を算出し、操舵や変速などをコントロールして自律走行を行う。
 RTK-GPSには、±2cmという高精度のものを使用している。わが国の田植え作業では、圃場の端から端まで30cm程度の間隔で苗を整然と植え付けた後、その狭い間を機械作業にて水田除草がなされる。田植機も、このような精密な植え付け作業に対応するように設計されており、その間隔を維持するためには、このような高精度が求められるからである。また、IMUには3軸の運動姿勢計測が行える日本航空電子製の光ファイバジャイロを使用しており、これらの計測データを組み合わせることにより、安定した自律走行を可能にしている。
 植え付け作業は、あらかじめ計算した目標作業経路に従って行うが、このようなシステムにより整然とした植え付け作業および安定した旋回動作が行えることを実証している。「植え付け作業だけを見れば、人間1人分の作業量をこなすことができるだろう」と、開発担当の長坂善禎主任研究員は話す。

ロボット田植機のシステム構成。ユニット化した航法ユニットを、データ通信プロトコルを合わせることで各種農業車両に共通で搭載できるシステム構成を目指している。ユニットの着脱を容易にするメカニカルなインターフェースの開発にも取り組んでいる。 ロボット田植機の作業方法。目標経路は、作業前にあらかじめ圃場の四隅の位置座標と入り口の座標を計測してメインコンピュータに記憶させ、作業機の幅1.8mを考慮しつつ、これらのデータから目標作業経路を算出していく。圃場の外周は最後に植え付けるようにしているため、2工程分プラスαに相当する3.8mをあけるように経路算出を行っている。

(左)ロボット田植機のシステム構成。ユニット化した航法ユニットを、データ通信プロトコルを合わせることで各種農業車両に共通で搭載できるシステム構成を目指している。ユニットの着脱を容易にするメカニカルなインターフェースの開発にも取り組んでいる。(右)ロボット田植機の作業方法。目標経路は、作業前にあらかじめ圃場の四隅の位置座標と入り口の座標を計測してメインコンピュータに記憶させ、作業機の幅1.8mを考慮しつつ、これらのデータから目標作業経路を算出していく。圃場の外周は最後に植え付けるようにしているため、2工程分プラスαに相当する3.8mをあけるように経路算出を行っている。

ただし、多くの農業ロボットが実用化されていない主因でもあるが、コスト高という課題を抱えている。農業用途ではGPSの使用台数は年間数百台レベルにとどまり、使用頻度などを加味するとRTK-GPSの価格は250万〜300万円程度になると言われている。
 そこで現在は、各種農業車両がCAN(Control Area Network)バスを実装していることを踏まえ、GPSをより効果的に利用できる方向で開発を進めている。つまり、RTK-GPS受信機やIMUなどから構成される、自律走行のための航法システムをユニット化し、データ通信プロトコルを合わせることにより各種農業車両に共通で搭載できるシステム開発を目指している。
  一部の営農家からは、田植機のほかトラクタやコンバインなどへの実装にかかる『全体の改造費が300万円程度であれば導入の余地がある』との声が挙がっているようで、後述するプロジェクトを通じて、低コスト化に挑んでいる。

農業ロボットを利用した作業体系の構築を見据えて

中央農研をはじめとする農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)では、今年度より3カ年の計画で「農作業ロボットによる分散錯圃に対応した超省力作業技術の開発」というプロジェクトを立ち上げている。わが国農業では、冒頭で紹介した内容に加え、農地の集積が進展していないという課題も抱えている。このように圃場が分散した状態を「分散錯圃」と言い、大区画化に向けた施策の研究がなされているが、手詰まりの状態になっている。そこで、小さな圃場が分散した状態であっても、各種農作業ロボットの導入により作業者1人当たりの作業面積を拡大し、大規模経営を可能にしようというのが同プロジェクトの目的である。

その特徴は、水稲や麦、大豆を対象に、耕耘や施肥、播種、防除、収穫など一連の作業工程を担う各種農作業ロボットの開発に加え、航法システムや通信・制御インターフェースの共通化、農業ロボットの安全対策、導入にかかる最適な営農モデルの策定にも取り組むことである。包括的であり、かつ経営も加味して研究開発を行う点が興味深い。

「農作業ロボットによる分散錯圃に対応した超省力作業技術の開発」プロジェクトの概要。大きくは(1)水稲・麦・大豆の農作業ロボットの開発、(2)農作業ロボットの共通化技術の開発、(3)農作業ロボットの体系化技術から構成され、(3)には農作業ロボットの安全対策、農作業ロボット導入の最適経営モデルの策定が含まれる。分散圃場においても、のべ労働時間の大幅な減少を可能にする超省力作業技術の開発を目指す。

「農作業ロボットによる分散錯圃に対応した超省力作業技術の開発」プロジェクトの概要。大きくは(1)水稲・麦・大豆の農作業ロボットの開発、(2)農作業ロボットの共通化技術の開発、(3)農作業ロボットの体系化技術から構成され、(3)には農作業ロボットの安全対策、農作業ロボット導入の最適経営モデルの策定が含まれる。分散圃場においても、のべ労働時間の大幅な減少を可能にする超省力作業技術の開発を目指す。


おもな内容を説明すると、共通化については、ロボット田植機での取り組みで紹介した、RTK-GPSを中核とした航法システムの標準化により、トラクタロボットにも適用することを目指している。生研センターでは、ロボット田植機とトラクタロボットを同様の航法システムで自律走行させる研究に取り組んでいる。また通信・制御インターフェースの共通化については、CANバスによる情報の受け渡し手順や、情報収集・記録・制御のためのミドルウエアの利用を検討している。農用車両における標準通信規格ISO 11783に従って進めている。

また、安全対策については昨年、経済産業省が発表した「次世代ロボット安全性確保ガイドライン」を参考に、既存の農作業体系を考慮しながら、農業ロボットが備えるべき安全性を検討している。ただ、農業ロボットは本質安全設計の達成が難しく、また、隔離の原則の適用が困難であるため運用面での対応も求められる。ガイドラインの策定はハードルが高いと想像されるが、「従来、ほとんど手が付けられていない内容なので、少なくとも提言を行えるレベルまで議論を深めたい」と、担当する玉城勝彦上席研究員は話す。またここでは、画像処理による周辺認識技術および遠隔監視システムの開発にも取り組む。

営農モデルの最適化については、技術的評価および経営的評価の両方から検討することを予定している。前者は、ロボットの運行計画や作業前後の運搬や据え付けなど、農業ロボットの運用時に付随する人の作業を明らかにし、ロボットを利用した農作業のあり方を体系化する。後者では、前者の検討なども踏まえ、農業ロボットの導入により見込まれる労働力および収益の向上、減価償却にかかる期間など経済性を算出し、農業ロボットの導入条件を明らかにする。
 ここでの検討は、従来の農業ロボットの研究で欠落していた内容であり、外部の関係者からも重要な課題設定であるといった評価を受けているという。

このように有意義な取り組みであるが、3年間の間に取り組まなければならないという大きな制約が課せられている。「すべてをやり遂げるのは厳しいかもしれない・・・」(玉城さん)としつつも、同プロジェクトを通じて「農業ロボットの作業体系を世の中に提示することに重要な意味があり、これを叩き台に、実証実験を行うための特区の創設など農政に働きかける材料にできれば」と前向きに話す。また来年度末ぐらいには「複数ロボットが複合的に動作するようなデモを提示したい」と続ける。

過去に、農作業ロボット関連の開発プロジェクトで、これほど導入を見据えた取り組みは、おそらくない。見方を変えれば、既述のロボット田植機に代表されるように、各農作業ロボットの技術レベルが向上したがゆえに取り組めると言え、その実用があと一歩の段階にきていることを伺わせる。
 導入条件が明らかにされれば、多くの営農家が農作業ロボットの導入に積極的になることが予想されるし、農業革新を達成するための重要なプロジェクトとして評価されるものになると期待される。


掲載日:2008年12月 4日

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