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ロボ・ステーション


ロボットが拓く!あしたの農業
ソフトハンドで次々ともぎ取るトマト収穫ロボット【岡山大学】

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岡山大学 門田充司 教授

岡山大学大学院 環境学研究科
門田 充司 教授

果菜類を対象とした収穫ロボットの研究は1982年以来、各研究機関でなされている。20年以上が経過した現在も、実用化に至ったものはないが、着実にその完成度を高めている。生研センターやロモビリティ陽東が手がけるイチゴ収穫ロボットはその一例であり、2010年前後ぐらいには実用化されると見られている。
 これらイチゴ収穫ロボットと並び、期待を集めつつあるのがトマト収穫ロボットである。その研究で知られる岡山大学大学院 環境化学研究科の門田充司教授らは、4本のフィンガーでトマトを優しく把持して、もぎ取るロボットを提案している。その動作は、人がトマトをもぎ取る作業に似ており、トマトを傷つける可能性が極めて低い。

今年は、かつてないほど「食の安全・安心」が叫ばれ、農作物のトレーサビリティの実現が求められた。収穫の段階は、農作物が生育環境から切り離されるため、生産履歴が途切れる場として問題視されている。ここに収穫ロボットを導入すれば、センシングやマニピュレーションを通じて果菜類の状態や作業内容を記録できる。同時に品質評価も行えば、生育環境などの情報と組み合わせることができ、生育環境も含んだ「情報付き農作物」として流通することが可能になる。自動化・省力化に加え、そうした観点からもトマト収穫ロボットの実用化には期待が寄せられている。

トマト栽培施設の大規模化・規格化が後押し

トマト収穫ロボットを含め、これまで収穫ロボットが実用化に至らなかったおもな原因は、仕様や機能を決定できなかったことにある。稼働する時間帯や地面の状況、品種や栽培様式など、想定される作業環境や収穫対象はさまざまであり、それらの決定を難しくしていた。

しかし近年、数ha規模の生産施設の建設が相次いでいるトマト栽培では、収穫ロボットの導入に有利な条件が整っている。ほとんどが施設栽培の先進国であるオランダより栽培管理技術を導入し、規格化された方法にて栽培がなされているからである。
 例えば、株の先端を誘引フックで吊り下げ、ロックウールによる養液栽培を採用し、コンピュータによる環境制御により年間を通して計画的な生産を行っている。また、剪定や誘引、収穫などの作業は、リフトを搭載した自走式台車を利用して行い、作物列に沿って移動できるよう床にはレールが敷設されている。さらには、作業効率を向上させるために、収穫適期の果実近辺の葉を落とした後で、一斉に果実を収穫するといった作業体系を採用している。

愛知県の野菜茶業研究所 愛知県の野菜茶業研究所のトマト生産施設

(左)大規模施設でのトマト栽培は、オランダより技術導入をしており、作業環境や栽培方法が規格化されている。敷設されたレールも規格化されている(写真は愛知県の野菜茶業研究所)。(右)株の先端を誘引フックで吊り下げ、ロックウールによる養液栽培を採用。また、コンピュータによる環境制御により年間を通して計画的な生産を行っている(写真は愛知県の野菜茶業研究所のトマト生産施設)。

このように、作業環境および栽培様式が規格化されており、仕様や機能を決定しやすい。しかも、ロボットの導入に際し、大規模な設備投資も作業体系の大幅な変更も不要にしている。「収穫ロボットが働ける場が、ようやく登場したと言えるでしょう」と、門田教授は強調する。

現在、門田教授らが研究開発しているトマト収穫ロボットは、三菱電機製の5軸垂直多関節ロボット「ムーブマスター」をベースにしたものである。搭載した距離センサとカラーカメラにより収穫適期のトマトの識別や距離検出を行い、次々と収穫していく。
 最大の特徴は、冒頭で紹介した、トマトを優しく把持してもぎ取る収穫ハンドである。ハンドはおもに4本のフィンガー、ラック&ピニオンで前後にスライドする吸着パッド、圧力センサなどから構成される。その仕組みは、まず吸着パッドを最も前方に伸ばした状態で果実に接近する。パッドは真空ポンプと接続しており、圧力センサにより内部圧力を計測している。パッドが果実に吸着したことを検知すると、パッドを後退させて4本のフィンガーで把持。最後に、収穫ハンド全体を回転させて果実を離層からもぎ取る、というものである。収穫するトマトを他のトマトから引き離し、フィンガーが把持しやすくしている。

トマト収穫ロボット

門田教授らが研究開発している「トマト収穫ロボット」。4本のフィンガーでトマトを包み込むように把持し、離層からもぎ取る。トマトは離層という膨らんだヘタの部分を親指の爪で押すことにより、簡単に収穫することができる。


トマト収穫ロボットのハンド部

トマト収穫ロボットのハンド部。スライドする吸着パッドでトマトを吸着することにより、収穫対象のトマトを把持しやすくしている。


また、フィンガーは複数のシリコンが連結された構造となっており、その内部に通したケーブルがフィンガーの先端に固定されている。ケーブルの移動は、吸着パッドの前後スライドと連動しており、それが後退するとケーブルが引っ張られてフィンガーが湾曲する。非常によく考えられたシンプルな構造である。
 「生産者にとって、導入コストの回収は長くても3~5年度に抑えたいはず。また、パート従業員と同等の作業量をこなすと仮定した場合、彼らの人件費と比較すると、価格は数百万円程度に抑えなければ導入には至りません。可能な限り簡素なものを追求した結果、このような構造になったのです」。門田教授は、そう説明する。
 このように、トマトを包み込むように優しく把持できるうえ、シンプルな構成にまとめ上げている点が、開発した収穫ロボットへの期待をより一層強くしている。

収穫ロボットを選択肢の1つにする

トマト収穫ロボットの利用方法は、上述のような簡素な構造にまとめる意図もあり、作業者との協調作業を想定している。ロボットは収穫に専念し、作業者が作物列間の移動や満杯になったコンテナの交換を行うことをイメージしている。また、収穫対象のトマトの手間に茎や他のトマトがあり、距離センサやカラーカメラによる認識が困難な場合は、ロボットによる収穫を断念して作業者に任せるアルゴリズムにしている。

距離センサとカラーカメラによりトマトのカラー画像と3次元情報距離情報を取得する

距離センサとカラーカメラによりトマトのカラー画像と3次元情報距離情報を取得する。カラー画像により房の中から赤いトマトのみを選出。輪郭を抽出して果実を識別する。画像情報を安定して得られるよう夜間に運用し、収穫対象のトマトを照射しながら収穫することを考えている。
最近は、レーザスキャンにより凹凸情報を得ることで、重なっているトマトの境界情報を取得する研究にも取り組んでいる。

収穫対象については、「導入当初は業務用が適当だろう」を門田教授は話す。現在の収穫ロボットでは、トマトのへタを取り除いてしまう可能性があり、生食用トマトには向いていない。しかし、業務用であればヘタの有無は問われないし、今後の各種要素技術の向上により生食用ハンドへの改良が見込まれるからである。すでに門田教授は、業務用トマトなどの栽培を行う大規模生産施設に収穫ロボットを持ち込み、実証実験を行っている。

現在、わが国における5,000㎡以上の大規模トマト生産施設の総面積は100haを超えており、施設数は20~30以上あると考えられている。施設によっては、トマト栽培にかかる全作業時間の2割強を収穫作業が占めることがある。パート従業員の確保が難しくなっていることを踏まえると、収穫ロボットのニーズが高まっていると言える。また、海外に目を向けると、オランダの技術を導入した大規模生産施設の総面積はわが国の数十倍もある。作業環境および栽培様式も共通であるため、海外での販売も十分に見込まれる。
 繰り返しになるが、大規模トマト生産施設の登場は、収穫ロボットの実現の可能性を大いに高めていると言える。

今後の展開について、門田教授は「収穫ロボットを用いたトマト生産システムのモデルケースの提示が次の目標」と話す。収穫ロボットの導入に必要な設備や規模、作業体系を例示することにより、「生産者が経営を考えるうえで、収穫ロボットが選択肢の1つに位置づけられるようにしたい」と、続ける。
 今はまだ生産者の中には、手作業によりトマトをきれいに収穫することにこだわりを持っているところがある。しかも、それを付加価値にしている。門田教授らの活動などを通じて、トマト収穫ロボットへの理解が進み、実用化に至ることを期待したい。すでに導入環境は整っているので、そう遠くはないと想像される。


掲載日:2008年11月21日

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