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ロボ・ステーション


ロボットが拓く!あしたの農業
【総括編】ロボティクスがもたらす農業革新(5)

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インタビュー
東京農工大学 教授 澁澤 栄 氏
ShibusawaSakae:共生科学技術研究院環境資源共生科学部門教授農学博士 1953年生まれ。北海道大学農学部農業工学科卒業後に、京都大学大学院農学研究科修士課程農業工学専攻修了。京都大学大学院農学研究科博士後期課程農業工学専攻中途退学。農学博士。石川県農業短期大学助手、東京農工大農学部教授を経て、2004年4月より現職に就く。

ロボティクスがもたらす農業革新(4)」にて、精密農業は「次世代農業」のモデルとなり得るものであり、この導入により各種農業ロボットを円滑に導入できることを説明した。ここでは、精密農業の第一人者である東京農工大の澁澤栄教授に、精密農業における農業ロボットの捉え方と役割、今後の精密農業の展開を聞いた。また、農業ロボットの開発時に押さえるべき視点についても話してもらった。

――精密農業における農業ロボットの役割とは?

精密農業の主題は、農家の意思決定の支援にあり、判断の文脈(コンテキスト)を提供することにある。農業ロボットを、それを支えるためのコア技術と位置づけた場合、一般に考えられているロボットを再定義することが必要だと思う。

農業ロボットには各種センサに加え、多様なアクチュエータを有しており、センシングやハンドリングを通じて、作物や土壌の状態をはじめとする生産情報や作業規範(プロトコル)を取得できる。このようにセンシングおよびハンドリング機能、大容量のメモリを生かして大量の情報を蓄積し、事実として提供するツールが、精密農業におけるロボットの捉え方と言える。このようなタイプのロボットを「第3世代農業ロボット*1」と表現している。

*1:第1世代農業ロボットは、ロボット工学の農業への応用、あるいは植物の物理特性にもとづいて、既存の産業用ロボットの適用がなされたものを、第2世代農業ロボットは、園芸学的アプローチと工学的アプローチの融合を図り、作業者と協調可能なロボットをはじめ、新しい農業生産システムを構築したものを、それぞれ指す。

――つまり、情報を取得・蓄積・提供するツールとして捉えるべきだと・・・?

農業ロボットは長年にわたり、労働力不足の解消、3K労働や単純労働からの解放などを目的に研究開発がなされてきた。それゆえに、農業ロボットを研究開発している人たちには、先ほどのような捉え方は馴染みがないかもしれない・・・・・。

しかしながら、上述の通り、農業ロボットを利用することにより作業内容そのものを情報化することができ、その情報の記録と利用が可能になる。
 例えば、土壌センシング装置などの圃場管理ロボットでは、土壌との接触を通じて土質やpHなどの土壌情報を取得できる。栽培管理ロボットでは潅水や農薬散布などの栽培情報や、色や寸法、病気の有無などの生育情報を取得できる。さらに、収穫ロボットではハンドリングを通じて作物の3次元位置、主幹からの方角、色や寸法、生育情報などを取得できる。
 これらの情報は、選果ロボットを経て生産情報およびプロトコルとしてまとめられるが、これらの情報を毎年蓄積していくことにより、次年度以降の意思決定に役立てることができる。さらに、流通情報や消費情報を加えることにより、トレーサビリティを完成させることができる*2
 消費者に向けて、一気通貫で生産情報やプロトコルを流すところにこそ、農業ロボットの役割があるとも言えるだろう。

このように、農業ロボットが土壌や作物とインタラクションした結果はすなわち、これらの状態を表している。それを意識すれば、貴重なデータとして知的営農に役立てることができるし、それを提供するツールとして農業ロボットを捉えられる。しかし、ロボットを動作させることにしか意識が及ばないと、次のロボットを開発するためのデータとしてしか扱えないのである。

*2:トレーサビリティの観点から言えば、現在農業ではそれが消失する個所が4つあると、澁澤教授は指摘する。1つ目は選果、2つ目は出荷、3つ目は倉庫あるいは加工工場、4つ目が店頭である。生産および流通の履歴情報が消失し、新たな情報が付加されている。しかし、第3世代農業ロボットの導入により、生産・流通の履歴情報を一気通貫で共有することが可能になる。「ここに農業ロボットによる革新の本質がある」と、澁澤教授は説明する。

――精密農業が目指す方向性は?

実際に精密農業が取り組まれ始めて5〜6年が経過し、成果が出始めている。また、これまでの国プロなどを通じて、関連する各種要素技術が開発されている。そこで現在は、精密農業の最終段階として、技術パッケージ化を推進する「IT活用型営農成果重視事業」(2006年〜2008年)が国家事業として取り組まれている。

これは、IT技術を活用して、圃場から得られる情報をもとに肥料成分流出量の5割削減、農薬散布量の5割低減に取り組む。同時に、経営効率化への取り組みを通じて、事業実施主体に適した環境負荷の大幅低減と経営効率化を両立する仕組みをつくり上げる、というものである。

技術開発については、土壌センサやリモートセンシング、各種農業ロボットなど、これまで別々の研究機関で開発されてきた精密農業の要素技術を1つの農場に集め、経営目標を達成するために技術パッケージとして完成させることが進められている*3。技術パッケージの中で、各要素技術の役割や比重が評価され、ボトルネック技術のレベル向上が図られる。
 このように、要素技術のパッケージ化と技術管理のビジネスモデルを目指しているのは、通常の生産技術の研究開発と同じ取り組みと言えるだろう*4

IT活用型営農家成果重視事業における技術パッケージ評価の考え方
IT活用型営農家成果重視事業における技術パッケージ評価の考え方

また、このような日本型の精密農業と運用の仕組みを海外に移転・輸出することが検討されている。
 「洞爺湖サミット」に向け、JSTがまとめた『地球規模の問題解決に向けたグローバル・イノベーション・エコシステムの構築』にて、「作物生産技術」「品質保証技術」「デザイン・イン型食料生産技術」の3つをパッケージとして研究開発することが言及されている。「精密農業」という表現は出てこないが、これら3つを支える技術として明らかに位置づけられている。
 デザイン・イン型食料生産技術とは、消費者ニーズを生産段階から取り入れ、農業情報の収集および管理技術、工程管理技術を活用して、それを満たす高付加価値作物を生産するシステムのことである。わが国では、作物の品質の価格に直接反映する食の市場が存在し、また、市場に近いところに生産の場がある、という特徴がある。このような生産技術をつくり上げるのに適した土壌がある。

JSTの提言には、これら3つの技術の国際展開を図るために、関連技術の知財化および国際標準化を進めることが盛り込まれている*5
 海外移転が達成されれば、日本型精密農業で栽培された、安心・安全な高付加価値作物を高級食材として流通させることができる。さらには、日本発の農法により世界各地の消費者が安心できる食料を地球規模で生産し、かつ安定的に供給していくことで国際貢献にもつなげることもできる。

*3:「日本型水稲精密農業実証実験」「消費者に信頼される生産体制を支える精密畑作農業技術の開発」「未来型軽労化農業技術確立のための基盤技術開発に関する総合研究」を通じて、全国の独立行政法人、県立農業試験場、大学などで開発された成果を活用できることになっている。

*4:米国では、リモートセンシングサービスのパッケージ化が進められている。衛星や航空機を利用したリモートセンシング画像データがWebサービスを通じて提供されており、それを販売店や農業コンサルタントが加工処理をして処方箋サービスを提供したり、金融機関が利用して保険やリスク管理サービスを提供したりすることがなされている。

*5:かつて製造業において「コンカレントエンジニアリング」や「PLM(Product Lifecycle Management)」の概念が導入され、それを支援する各種ITツールが日本にもたらされた。デジタルプロセスイノベーションが達成され、生産効率は格段に向上したが、海外ITベンダー、コンサルタントに依存することになった。日本型精密農業の国際展開は、それに近い取り組みと言えるかもしれない。

――ロボット工学に期待している技術開発は?

これまでの流れとは関係なしに言えば、まだまだ必要とされるセンシング技術がある。例えば、土壌情報ではN(窒素)P(リン)K(カリウム)のうちPと Kをセンシングできない。これらは意思決定に必要な情報であることはわかっているので、誰かが取り組んでくれるとありがたい。加えて、土の硬さや土中の空気量も計測できればと思う。

また、病気や害虫の検知に役立つセンサ類の開発も望んでいる*6。昨今の気候変動により亜熱帯地方の病害虫が日本に迫ってきており、このようなセンサ類は必須となりつつある。非接触かつ広範囲に病害虫を同定できるようなものがあればと思う。

*6:関連するセンシング技術に、経済産業省の「地域イノベーション創出研究開発事業」の採択テーマの中に、「作物健康センサーによる圃場環境の複合検知システム開発」がある。

――現代農業ロボットの開発が抱える課題とは?

農業ロボットの開発に言及すると、農業機械の開発と異なることを理解したうえで進めるべきだと思う。
 農業機械は、おもに作業の効率化や省力化への寄与を目的に開発されており、従来農法にそのまま適用できる。これに対し、(第3世代)農業ロボットは作物の生産情報などを扱えるため、フードサプライチェーン全体に影響を及ぼすような役割を有している。ゆえに、この利用を前提としたビジネスモデルが必要であり、精密農業はそれになり得る。また、精密農業において、農業ロボットのパワーが発揮されるものになっている。

ところが、現在農業ロボットの開発では、それを利用するための作業体系やビジネスモデルがあまり議論されていない。農業ロボットだけを見ればイノベーティブなのだが、現在農法に調整しながら展開しようとしているために、結果、従来と同じような作業体系になっている。
 農業ロボットは、従来農法と異なるフェーズにおいて使用することを押さえるできであり、また利用に当たり、作業体系とビジネスモデルを伴ったシナリオを描くことが必要であることを理解しておくべきである。

ただ、精密農業はまだ緒に付いたばかりである。実際に農業ロボットを適用して、農業経営に寄与したモデルをつくることが求められている。数年前より、いくつかの農業法人と取り組んでいるが、農業が変革し始めたときに、1つの典型的なモデルとして提示できるようにしたいと思う。


掲載日:2008年10月31日

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