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ロボ・ステーション


ロボットが拓く!あしたの農業
【総括編】ロボティクスがもたらす農業革新(4)

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ロボティクスがもたらす農業革新(2)」および「ロボティクスがもたらす農業革新(3)」にて、おもな農業ロボットの技術動向および課題を紹介した。いずれの農業ロボットも発展の余地を残しつつも、対象農作物や用途に合わせて高度なつくり込みがなされている。しかしながら、大規模施設農業や大規模農場への導入が見込まれる程度で、これらの普及には否定的な見方が多い。その大きな理由は、サービスロボットと同様、それが備える価値と価格との間に大きなギャップがあるからである。農業ロボットの場合、ユーザーとなる農家や農業法人には経営の余裕がなく、その導入をより困難にしている。
 こうした中、農業ロボットをはじめとする各種テクノロジーとの親和性が高い農法として「精密農業(Precision Farming)」への注目が高まっている。

これは、科学・技術・経営という3つの理論が統合されたもので、“次世代農業モデル”として位置づけられている。2005年3月に決定された「農林水産技術基本計画」では、次世代の農業を先導する革新技術として明記され、また、洞爺湖サミットに向けて作成されたJSTの「地球規模の問題解決に向けたグローバル・エコシステムの構築」にも、その考えが盛り込まれている。

「ロボティクスがもたらす農業革新(4)」では、精密農業の概要および、それを支援する各種要素技術を紹介する。また、農業ロボットの導入における精密農業の意味、ロボットビジネスで必要な取り組みを考察する。ここでは概要の紹介にとどまるため、精密農業の詳細を知りたい方は、参考文献1)を参照いただきたい。

バラツキ管理から始まる精密農業

精密農業は、国際的にさまざまな捉え方がなされているが長年、精密農業の研究に従事してきた、東京農工大の澁澤栄教授の考えに基づくと、「複雑で多様なばらつきのある農場に対し、事実の記録に基づくきめ細かなバラツキ管理をし、地力維持や収量と品質向上および環境負荷軽減を総合的に達成しようという農場管理手法」と、定義される。
 農作物には収量・品質の年次変動はつきものであり、営農条件によっては同一地域内でも収量に大きな差が生じる。昨今の農地の利用集積や圃場の大区画化に伴い、圃場内および圃場間の土壌肥沃度のバラツキは増大しており、その差がより顕著に表れるようになっている。このような生産の不安定要因となる圃場のバラツキを管理・最小化し、農作物の収量および付加価値の向上を図るのが、精密農業の基本である。

作成した水田土壌マップの一例。石川県松任市、12.ha、2000年10月19日。均一に管理されている水田だが、東側(図中右側)の水分および硝酸態窒素、土壌電気伝導度(EC)の値が高くなるなどバラツキが見られる(図提供:東京農工大 澁澤栄教授)作成した水田土壌マップの一例。石川県松任市、12.ha、2000年10月19日。均一に管理されている水田だが、東側(図中右側)の水分および硝酸態窒素、土壌電気伝導度(EC)の値が高くなるなどバラツキが見られる(図提供:東京農工大 澁澤栄教授)

精密農業は、おもに「1.観察(土壌・生育調査」「2.制御(施肥・施薬)」「3.結果(収穫)」「4.解析・計画」の4段階のサイクルを実践することで進める。
 まず、1.では圃場のバラツキの記録・把握から始める。記録はノートで行ってもよいし、パソコン上で統計データや画像データを蓄積してもよい。圃場の肥沃度や排水状態などを記録する。栽培の段階では、成長の様子を目視や各種センサなどを用いて観察する。
  2.では、1.で行った圃場の記録や既存の知見などに基づき、場所ごとに施肥量や農薬施用量、潅水量などを適切に変化させて、土壌や作物育成のバラツキを小さくするような栽培管理を行う。それらの結果は、3.で収量や品質などとして現れ、これらの結果をもとに、4.で圃場の場所ごとの収量や土壌のバラツキを示すマップの作成や、経営指標の見直しなどを、農作物の販売データなど加味しながら行い、次作の営農計画に役立てる。

以上が精密農業の基本サイクルである。すでに精密農業は10年以上にわたり研究がなされており、精密畑作や水稲精密農業など、作物や圃場に適したかたちでさまざまなアレンジがなされている。

要素技術の利用により精密な管理が可能

このような精密農業で実施する、きめ細かい観察や、その記録・解析、データに基づいた制御は手作業でも実践することできる。が、各種ITやRobot Technology(RT)を利用することにより、意思決定のための情報の収集・分析を行いやすくなり、このサイクルをより強力に実践することができる。すでに各サイクルをアシストする要素技術がいくつも開発されている。

おもな要素技術のみを紹介すると、土壌調査を行うツールとして、東京農工大はオムロンと共同で「リアルタイム土中光センサ」を開発している。トラクタなどで牽引して用いるもので、約30cm/secの走行速度で深さ15〜30cmの地中情報を連続測定できる。CCDカメラや反射光ファイバプローブ、赤外線放射熱電対など複数のセンサを有しており、可視・近赤外の土壌反射スペクトルや観測深さ、土中カラー画像、地中温度、電気伝導度、土壌抵抗などが得られ、複数の土壌パラメータと同時に観測できる。トラクタにはGPSを搭載することで、位置情報と併せて取得することができる。

また、作物の生育調査を行うツールには人工衛星や航空機などに搭載した各種センサにより調査を行うリモートセンシング技術が開発されている。下の図に示したのは、北海道大学の野口伸教授らが開発した「ヘリコプタベースリモートセンシングシステム」である。パン(水平)方向とピッチ(上下回転)方向に姿勢制御ができる雲台を設置し、マルチスペクトルイメージングセンサ(MSIS)を搭載している。そのほかRTK-GSPやレーザ距離計なども装備している。 MSISにより太陽光の土や作物に対する反射率の空間変動を計測することで、作物の生長や栄養状態などを検出することができる*1

*1:環境と生物の実測データをリアルタイムに取得する技術として、農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター(http://www.agmodel.net/DataModel/field/field1.html)を中心に「フィールドサーバ」が開発されている。小型で耐候性が高い計測用Webサーバであり、温度・湿度・土壌水分などの環境センサやネットワークカメラなどを接続することにより、気温や湿度、日射量、土壌水分、CO2濃度などのデータを同時に取得でき、農場の気象や作物の生育状況などをモニタリングできる。

リアルタイム土中光センサの構造(図提供:東京農工大 澁澤栄教リアルタイム土中光センサの構造(図提供:東京農工大 澁澤栄教。
ヘリコプタベースリモートセンシングシステム(図提供:北海道大学 野口伸教授)ヘリコプタベースリモートセンシングシステム(図提供:北海道大学 野口伸教授)

「制御」工程では、場所ごとに必要な追肥や防除を行うための各種「可変作業機械」が開発されている。「観察」で得たバラツキ情報に応じて、化学肥料や農薬などの散布量を変更することを「可変作業」と言い、それを機械化したものが可変作業機械である。おもなものに、NEDOの「地域コンソーシアムプロジェクト」で開発された「可変防除機」がある。圃場情報管理用GISで作成した処方箋や作業速度などの実作業に応じて、肥料の散布量を任意に制御することができる。散布圧を検知する圧力センサや、ノズル散布量を検知する流量センサ、散布圧を可変制御する圧力調整用アクチュエータなどを搭載しており、ロボット化されている。

「収穫」工程では、農作物の収量や品質の測定が行える収量モニター付きの収穫作業機*2 などがある。また、「解析・計画」工程では、管理する圃場が画面上に地図表示され、各圃場に関する作物の作付け状況や栽培管理作業の進捗状況などの情報を記録したり一目で把握したりするツールや、「観察」「制御」「収穫」の各工程で得られた情報をもとに、「土壌マップ」や「生育マップ」などのかたちにまとめるマップ生成ツールなどがある。
 下図は、農研機構の交付金プロジェクト「精密畑作」で作成された栽培管理用ソフト「PFUManager」である。圃場における栽培管理作業を任意サイズのメッシュという単位に区切り、メッシュ単位で圃場や作物、作業に関わる各種情報を管理する。GPSなどに基づいて生成した位置情報と、その位置における土壌水分や収量などの属性情報をメッシュ単位に表示する。

PUFManagerのインターフェース。GPSセンサなどに基づいて生成された位置情報と、その位置における属性情報を、2次元マップ上に展開表示してデータ管理を行うPUFManagerのインターフェース。GPSセンサなどに基づいて生成された位置情報と、その位置における属性情報を、2次元マップ上に展開表示してデータ管理を行う

いくつかの農場では、これらの要素技術を用いた実証実験が実施され、成果を上げている。例えば、新潟県の長岡市および宮城県大崎市で実施された良食味米の生産実験では、可変施肥機や、無人ヘリを用いた生育情報測定、収量コンバインを利用した精密農業の実施により、圃場の玄米タンパク質含有量のバラツキを低減し、米の食味改善に寄与したことが報告されている。

*2:生研センターでは、水分測定部や収穫量測定部を装備したコンバインを製作している。収穫作業中に水分や質量などをリアルタイム表示し、また、一筆ごとの収穫量、米の平均水分量と変動値を表示・記録することができる。

農業ロボットの開発から見た精密農業のインパクト

このように、すでに各種要素技術が開発されているが、当然、環境負荷の軽減やコスト削減など具体的な経営目標により導入する要素技術、構成される要素技術の組み合わせは異なる。現在は、「IT活用型営農成果重視事業」にて、これら要素技術のパッケージ化が推進されている。
 同事業の詳細は、「ロボティクスがもたらす農業革新(5)」を参照いただきたいが、これまで異なる研究機関で開発されてきた要素技術を1つの農場に集め、それぞれの経営目標を達成させるために技術パッケージを完成させ、同時に、各要素技術の役割や比重を評価する、というものである。「ロボティクスがもたらす農業革新(2)」で紹介した農業ロボットの中には、この技術パッケージに包含されるものがあるという。

精密農業の本題からは逸れるが、このような活動を通じて感じられるのは、管理手法でありビジネスモデルでもある精密農業が存在することにより、それぞれの経営目標に応じて、必要な要素技術やロボットを選択・導入しやすい状況をつくり出していることである。
 かつて製造業において、「コンカレントエンジニアリング」や「PLM(Product Lifecycle Management)*3」といったイノベーティブな管理手法が導入され、同時に、これらを推進するCAD/CAEやPDMなどの各種ツールが次々と適用されたが、それに類似している。精密農業の存在が農業ロボットの開発および導入に良い影響を与えており、精密農業のインパクトがここにあると言える。

*3:設計・開発データのほか、生産部門や営業、保守部門まで、製品に関係する各部門およびパートナー間で情報を共有し、効果的に活用すること。

また、精密農業では上述の要素技術を通じて、さまざまな情報を取得し蓄積できるという特徴がある*4
 例えば、播種から収穫までの作業手順に沿った時間軸を設け、圃場あるいは圃場内の位置を空間座標として、観測した土壌や作物、気象情報、作業判断および内容などを、要素技術を通じて収集・記録していくと、いわば“農業時空情報”(「情報付き圃場」と言う)が蓄積される。同時に、これらのデータに加え、化学肥料の施肥や農薬散布など収穫から出荷に至る作業履歴*5を付加した「情報付き農産物」も生成される、これに流通情報や消費情報を加えることにより、トレーサビリティを完成することができる。
 すなわち、精密農業のサイクルを実施することにより、次年度の知的営農に役立つ情報を取得・蓄積し、同時に、消費者が必要とする農産物の履歴情報も蓄積し、彼らに提供できるのである。

精密農業における農業ロボットの意義。農作物情報を生産情報として後工程に引き渡し、蓄積していくことで知的営農に役立てることができる。同時に、流通および消費情報を付加することでトレーサビリティが完成。作物情報として消費者に提供することで作物の付加価値向上につながる。精密農業における農業ロボットの意義。農作物情報を生産情報として後工程に引き渡し、蓄積していくことで知的営農に役立てることができる。同時に、流通および消費情報を付加することでトレーサビリティが完成。作物情報として消費者に提供することで作物の付加価値向上につながる。

精密農業では、このような作業の情報化および、その情報の記録と利用に寄与する農業ロボットやRTを「第3世代農業ロボット」を表現しており、そこに農業ロボットの役割があると捉えている。
 つまり以前は、農業ロボットがセンシングやハンドリングを通じて得た情報は、それ自身を動作させるために利用していたが、そうではなく、それを営農の意思決定に役立てたり消費者に提供したりするために利用するという考え方である。消費者への作物情報の提供は、その付加価値の向上につながる。
 このように、精密農業により農業ロボットの概念の転換がなされており、その開発に大きな影響を与えている。ここにも精密農業のインパクトがある。

*4:例えば、土壌センシング装置などの圃場管理ロボットでは、土壌との接触を通じて土質情報を取得できる。栽培管理ロボットでは農薬散布などの栽培情報を、収穫ロボットではハンドリングを通じて作物の生育情報をそれぞれ取得できる。これらの情報は、選果ロボットを経て生産情報としてまとめて蓄積していくと、次年度以降の意思決定に役立てることができ、同時に、流通情報や消費情報を加えることでトレーサビリティを完成できる。

*5:食品の安全確保や環境保全のために農業行動規範として「GAP(Good Agricultural Practice)」の導入が推進されている。プロセスチェック方式によるリスク管理手法で、各工程においてリスクを低減するための適正な措置を実施し、それを記録し、見直しを行うという一連の取り組みにより安全性の確保などを図る。

精密農業から学ぶべきことは?

精密農業が農業ロボットの開発に与える影響および意味は、上述の2点にまとめられる。かたや、サービスロボットの分野では、精密農業に該当する“次世代サービスモデル”と呼べるようなものがない。そのために「4月特集」で紹介したような失敗パターン*6に陥っているのかもしれない。

農業ロボットに対する精密農業の意味サービスロボットの開発で学ぶべき点

次世代農法でありビジネスモデルでもある

  • イノベーティブな手法に沿って各種IT、RT(農業ロボット)を順次適用
    →導入した農業ロボットだけがイノベーティブ!?という状況を回避
  • 経営目標に沿って各種IT、RT(農業ロボット)を順次適用可
    ※抜本的な農業経営の革新につながる

情報を収集し蓄積するツールという発想転換

  • 情報付き圃場、情報付き農産物が得られる
  • 次年度の営農の意思決定に役立てることができる
  • 消費者に開示し共有できる。農作物の安心安全・付加価値向上に
    ※結果、競争力の確保につながる! コマツの「KOMTRAX」が好例

※サービスロボットにも「次世代***」という概念が必要!

成功を収めつつある事例として、アサンテが取り組むシロアリ防除ロボット開発プロジェクトを取り上げたが、同社では「次世代シロアリ防除サービス業」というビジョン(ビジネスモデル)を掲げ、各種ロボットシステムを適用したサービスプロセスを再構築しようとしている。そうした取り組みにより、結果として、各種ロボットシステムを適用しやすい状況をつくり出している。

また、ロボットビジネス推進協議会幹事の石黒周氏は、次世代ロボットビジネスの姿の1つとしてコマツの「KOMTRAX」を挙げてくれた。
 これは、建機内部に搭載したGPSや各種センサ、無線ネットワークを用いて、世界中の建機の稼働状況を遠隔監視するシステムで、各建機の位置や稼働時間、燃料残量、故障情報などを逐次確認することができる。定期整備部品のタイムリーな交換や異常発生時の迅速かつ的確な処置などに役立てている。また、収集した稼働データをもとに生産量や在庫調整、投資を判断し、需要変動への適切な対応により、シェア拡大に結び付けている。
 ロボット化した建機が収集した情報を、それ自身を稼働するためではなく、経営判断や顧客へのサービス提供*7に生かしており、精密農業における農業ロボットの概念の転換が、そのまま具現化された取り組みと言える。

ロボット開発では、ロボットが取得した情報を、それ自身の制御に利用することばかりに集中しがちだが、このような利用にこそ大きな価値があることを教えてくれる。ここにも精密農業に学ぶべき点がある。

本稿で精密農業を取り上げたのは、次世代農業モデルとして期待されているからでもあるが、農業ロボットの普及や、その概念に大きな影響を与えており、サービスロボットの開発に知見を与えていると思われたからである。サービスロボットを開発する以前に、まずは精密農業に類する『次世代****モデル』を検討し構築しておくことが、その効果的な普及につながるのだろう。

*6:具体的には、「1.サービスプロセスの局部を置き換える」「2.ターゲットが単純作業・肉体労働に集中する」「3.ロボット(機械)にっまとめ上げようとする」である。

*7:空間や人の行動に関する意味情報を「環境情報」として環境に埋め込む(構造化)べく2006年7月より進められている「環境情報構造化」プロジェクトにおいて、ATRが取り組む「人の計測」では、ロボットに情報提供を行うことでサービスを実行させるのではなく、直接サービス要員に情報を提供することの方に価値がある、すなわち重要なマーケティングデータになり得ると考えられつつある。

(参 考 文 献)
1)澁澤ほか:農業情報と機械化技術,精密農業,pp.35-pp42,朝倉書店,2007.
2)澁澤栄:わが国における精密農業の動向と展望,転換期の精密農業,農林水産技術ジャーナル30,5,2007.
3)農林水産技術会議:日本型精密農業を目指した技術開発,農林水産研究開発レポート No.24(2008),農林水産省,2008.

掲載日:2008年10月31日

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