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ロボ・ステーション


ロボットが拓く!あしたの農業
【総括編】ロボティクスがもたらす農業革新(3)

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ロボティクスがもたらす農業革新(2)」では、主要な農業ロボットを取り上げ、その開発動向および要素技術を概説した。本稿では、これらの実用化に向けて課題となった共通技術を取り上げ、その詳細を紹介する。車両系農業ロボットでは航法システムを、マニピュレータ系農業ロボットではセンシングをそれぞれ取り上げる。また、併せて検討がなされている運用モデルについても触れる。
 なお本稿も、生研センターの松尾陽介氏の協力および講演資料を参考にまとめている。

実用化には、まずはGPSの低価格化!?

すでに「ロボティクスがもたらす農業革新(2)」でも述べたが、車両系ロボットのキーテクノロジーの1つとなるのは航法システムである。最近は、高精度かつ比較的低コストのGPS が普及し始め、車両系ロボットの発展に寄与している。わが国における最近のGPS事情は、次の図のようにまとめられる。

わが国における最近のGPS事情

種類補正精度価格(円)特徴・課題
単独GPSなし10m〜数万超安価、取扱性良
ビーコン・GPS海保庁1.5m10万安価、中精度
内陸では単独GPS
MSAS・GPS国交省0.5m20万安価、中高精度
DGPS民間・有料0.5m70万+α高価、中高精度
StarFireGPS民間・有料0.2m150万+α米国では40万円
高価、高精度
RTK-GPS電子基準点
→携帯電話
0.05m250万+α高価、超高精度

代表的なものを説明すると、「DGPS(DifferentialGPS)」は、正確に位置がわかっている地点(基準局)の測定結果から誤差を求め、その誤差を補正情報として配信することにより測位精度を高める方式である。海上保安庁が船舶を対象に発信するサービス網や、FM局が発信するサービス網、人工衛星による補正情報配信などを利用することができ、その情報を使用して測位精度を向上することができる。

「RTK-GPS(Real-Time KinematicGPS)」は、DGPSよりも測位精度を向上させる方式として、搬送波にのった情報のほかに、搬送波自体の位相を測定して測位精度を cmレベルまで向上させる方式である。
 DGPSと同様、基準局を設置するが、自前で設置する場合と公共サービスを使用する場合があり、後者の場合、国土地理院の電子基準点のリアルタイムデータを使用した仮想基準点方式が実用化されている。
  ロボティクスがもたらす農業革新(2)で紹介した、中央農研が開発する田植えロボットでは、携帯電話などにより補正情報配信サービス局と通信し、その情報を得るようにしている。移動局のみのRTK-GPS受信機で、基準局および移動局の2台を用いたときと同等の測位精度を得ながら、従来機よりも低コストでシステムを構築している。

GPSに要求される精度は、用途によって異なるが、わが国の農業ではかなりの精度のものが求められる傾向にある。例えば、わが国の田植え作業では、圃場の端から端まで数十cm間隔で苗を整然と植え付け、その後、その狭い間を機械作業にて水田除草を行う。このような精密な農作業を行うことから、「通信遅延による誤差などを考慮すると、高精度または超精度レベルのGPSを利用する必要がある」(生研センターの松尾氏)。
 ところが、農業用途ではGPSの使用台数は年間数百台レベルにとどまり、また使用頻度などを加味すると、これらの精度を満足するStarFireGPSや RTK-GPSの価格帯は上図で示したレベルになる。GPSのより一層の低価格化が達成されなければ、車両系ロボットへの積極的な採用には至らないような気配だ。

システムの共通化や利活用の検討による低コスト化

航法システム以外にも目を向けると、下の図で示すように、ベースとなる農業車両の高機能化および自動化制御を支える要素技術が進展しており、農業車両のロボット化が進めやすくなっている。特に、車載LANとして標準となっている「CAN(Control Area Network)」の搭載による「Drive-by-Wire」化の進展は、その自動化に寄与している。
  Drive-by-Wireとは従来、油圧など機械的に実現する操舵や制動などの機能を、電気的なスイッチと電気的なアクチュエータなどにより実現しようとする考えである。クルマなどで進展しつつある「X-by-Wire」と同様の概念である。各種農業機械の操舵や変速、スロットルなどのDrive- by-Wire化が進展しており、農業用コントローラの高機能化も伴い、各種農業車両のロボット化の追い風となっている。
 先ほどの田植えロボットは2006年にバージョンアップがなされ、すべてのセンサやアクチュエータをCAN(Controller Area Network))バス上に配置し、より高度な制御を可能にしている。

ただ、ベースとなる車両は200万〜300万円程度であり、「現段階の設計技術では、そのロボット化には、さらに倍近くのコストを要する」(同)。実用化のためには、上述の航法システムも含めた、農業用コントローラなどの共通化・汎用化による低コスト化が必要であり、生研センターでは昨年より「農用ロボット車両による農作業システム研究」というテーマにて検討を進めている。

農用車両・機械の高機能化の動向

  1. 操舵機構などのDrive-by-Wire(DBW)化
    • 全油圧操舵機構〜電磁弁追加で自動制御
    • 変速機構の電子・油圧シフト化、オートマ化
    • スロットルの電子制御化
  2. 農機用コントローラの高機能化
    • 各種機械の自動制御化の進展により
  3. 農機用表示・操作装置の高機能化
    • →マン・マシン(ロボット)インターフェースの改善

→農用車両・機械のロボット化が容易に。

農業ロボットの高度化に向けた課題
耕耘ロボットや田植えロボットなどの車両系ロボットの実用化に向けて
(生研センターの開発戦略より)

  1. ロボット農作業システムのモデル化
    • 実用可能なロボットの利活用モデルの構築
  2. 航法システムなどの共通化、汎用化
    • 航法システム、コントローラ、ミドルウエア
  3. 各種ロボット作業の実証
    • 改良・開発ロボットによるモデルの実証

また車両系ロボットの実用化に向けては、上述の技術開発に加え、農作業システムのモデル化も求められる。これは、農業ロボットを実用化するための利活用モデルのことで、より簡単に言えば、車両系ロボットを最も効率的に利用でき、かつ最も遊びが少ない使い方とも言える。
 例えば、1台の田植えロボットを導入した場合、常時人がロボットを監視しているのではなく、作業者の1人は補給用の苗をストッカーまで取りに行き、もう1 人が苗を田植えロボットに補給していくことで遊びを少なくするといった、農業ロボットの使用を前提とした効率的な作業方法を、人員や経営面積なども試算しながら検討し、モデル化していく。
 生研センターでは、上述の研究を通じて開発した耕耘ロボットや田植えロボットをベースに、このようなモデルの実証を行うことも予定している。

作業環境の規格化も求められるマニピュレータ系ロボット

マニピュレータ系ロボットの中心となる果菜収穫ロボットでは、特に果実の検出・認識、収穫適期を判定するセンシングの高精度化が重要になる。
 一般的な果菜収穫ロボットは、対象果実の色や形状、サイズなどの特徴量をもとに熟度の判定や、茎など他の物体との認識、位置検出を行う。多くは、複数のCCDカラーカメラで捉えた画像をもとに色を判定し、さらにステレオ画像法(両眼立体視)により3次元位置計測を行う。
 ただし、収穫対象の果実が葉や茎に隠れていたり果実が重なっていたりすると、視覚アルゴリズムは複雑になる。使用状況に応じてテーラーメイドで視覚アルゴリズムを修正していてはコストアップになるうえ、収穫作業の効率化には寄与しない。
 そこで、センシングをアシストする取り組みの1つとして、作業環境を固定化し、かつ人との協調・協同作業を前提とした開発がなされている。

ロボティクスがもたらす農業革新(2)で紹介した、生研センターとエスアイ精工が開発したイチゴ収穫ロボットはその一例である。バージョンアップした2号機は、視覚部はカラーカメラ3台と偏光フィルタ付きLED照明5灯から構成され、上述のような方法で果実を認識しているが、光環境の変化が少ない夜間に収穫を行うため安定した画像を得ている。さらに、未熟果や複雑なものは取りにいかず、後で人が判断して収穫を行う協業を前提とした設計にすることで、1つ当たり9〜12秒という短い時間での収穫を達成している。確実性とスピードを両立させている。

こうした取り組みをさらに進めていくと、栽培様式および環境をロボット作業に適したものにする、すなわち、ある程度規格化された環境を用意することが有効になると思われる。例えば最近、わが国でも数ha規模のものが建設されるトマト生産施設では、オランダの技術導入などにより規格化が進んでいる。
 ここでは、株の先端を誘引フックで吊り下げ、ロックウール(岩綿)による溶液栽培を行っている。収穫作業には、リフトを搭載した自走式のバッテリ台車を利用し、作物列に沿って移動できるよう床面にはパイプを設置。また、収穫適期の果実近辺の葉を落とした後に一斉に収穫を行っている。さらに、加工用および業務用の栽培品種には、収穫時にヘタが果実に付かないように品種改良した「ジョイントレス」という品種を栽培して効率化を図っている。

このように設備や作業体系、作物の規格化がなされており、大規模な設備投資や作業体系の大幅な変更をしなくても、農業ロボットを導入できるような環境が構築されている(必ずしもロボットの導入を意識したわけではないが)。
 「開発コストを抑えるうえでも、果菜収穫ロボットによる作業に栽培様式や環境を合わせたり、人と協調・協同する作業体系を考えたりしながら開発を進めていくことが重要であり、また、それが実用化への近道になるだろう」と、生研センターの松尾氏は説明する。同センターは、これらの取り組みにも意欲を示しているという。

ここでは触れていない内容もあるが、マニピュレータ系農業ロボットが抱えるおもな課題を挙げると、下図のようにまとめられる。

マニピュレータ系農業ロボットが抱えるおもな課題

栽培様式や環境の整備も併せて検討することが求められている。なお、ハンドリングやマニピュレータの高性能化といった課題に対し、産業用ロボットメーカーなどと共同研究するといった取り組みはなされていないという。多くの場合、農業用ロボットで使用するマニピュレータは、汎用の多関節ロボットをカスタム化して使用している。

  1. 検出・認識の高精度化
    • 収穫穫適期判定のためのセンシング(大きさ、色)
  2. ハンドリングの高性能化
    • 傷つきやすい軟弱物(農産物)の把持・搬送
    • ハンドリングの確実性、スピードのアップ
  3. 栽培様式・システムの研究、提案
    • ロボット(収穫)動作に適した環境の構築、導入
    • 人との協調、協働作業体系の提案

本稿では、農業ロボットが抱える、共通的な技術的課題を紹介した。利活用モデルや栽培様式および環境を含めて包括的な検討がなされていることを理解いただけたと思う。しかしながら、接ぎ木ロボットや搾乳ロボットなどを除き、ほとんどの農業ロボットがいまだに研究開発のレベルにとどまっている。その最大の原因は価格である。
 農業ロボットや農業機械は販売台数が少ないために、ある程度の価格帯となるうえ年間の使用頻度は少ない。農業経営が苦しい中で、減価償却に多くの年数を要することになる。「ある程度の経営面積・規模を有する農家でないと農業ロボットの導入は難しく、そうしたところから徐々に導入モデルをつくり上げていかざるを得ないだろう」と、生研センターの松尾さんは、導入の難しさを表現する。

農業ロボットのような先進的なシステムを導入し、かつ安定した営農を行うためには、本稿で挙げた課題をクリアするだけは、一部にとどまる可能性がある。抜本的に農業の進め方を変革するような取り組みが必要のようであり、「ロボティクスがもたらす農業革新(4)」ではその一例となる農業技術を取り上げる。

(参 考 文 献)
1)松尾陽介:ロボット化技術を応用した農業機械の開発 〜生研センターの取組みを中心に〜,平成18年度
新技術セミナー,2007年3月7日
2)澁澤ほか:農業情報と機械化技術,精密農業,pp.35-pp42,朝倉書店,2007

掲載日:2008年10月31日

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