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ロボ・ステーション


ロボットメーカーの開発戦略 次の一手はこれだ
『まずは単機能の道具型ロボットから』が、松下の開発コンセプトです【パナソニック(旧社名:松下電器産業)】

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小林 昌市

小林 昌市 Kobayashi Shoichi

ロボット開発室 開発第一チーム チームリーダー
1952年11月生まれ。1976年3月、愛知県立芸術大学 美術学部 デザイン科(工業デザイン専攻)卒。77年4月、松下電器産業に入社。78年4月より、総合デザインセンターにてAVCシステムの企画提案および実施デザインを担当する、90年4月より、システムプランニングセンター、都市開発・施設件名などの企画、プロデュースを、99年4月からは、システム創造研究所にて社会システムやネット家電の構想企画・デザインを担当する。2002年10月、A3ロボット戦略室へ異動。生活支援ロボットのコンセプト企画を担当する。そして05年4月からは、ロボット開発室にて開発企画を担当する。

松下電器産業では、「ライフアシストロボット」というコンセプトのもと、ロボット開発に取り組んでいる。そして、ロボットの導入期においては単機能の道具型ロボットから始めるべきとの考えから、「Mechanorg(メカノーグ)」という概念を提唱し、実践している。
 ロボット開発室 開発第一チームの小林昌市チームリーダーに、Mechanorgの概念および提案したロボットシステムの概要を聞いた。また、開発した各ロボットの導入時に想定される課題についても語ってもらった。

新しいロボットの概念「Mechanorg」

当社が「生活支援ロボット」という切り口で開発に着手したのは2002年10月からです。
 基本的な考え方は、少子高齢化社会を迎えるに当たり、高齢者や要介護者など社会的弱者の方を、力でサポートすることにあります。また2000年以降、従来の物質的な豊かさではなく、知的な豊かさが望まれるようになり、"自分の意のままに"をサポートするようなものが求められていると感じていました。このような変化により、新たなサポーターとしてロボットへの期待が高まっていると捉えたことが、生活支援ロボットを目指した契機になっています。

当社では、それ以前より生産技術部門にて産業用ロボットの開発を手がけていました。ここでは効率性を追求する、いわば機械中心の開発でしたが、生活支援ロボットの開発では人を中心に、つまり機械が人に合わせることが求められます。このようなパラダイムシフトを押さえたうえで、開発をスタートさせています。

開発を進めるに当たり、当社では生活支援ロボットの市場ライフサイクルを次のように捉えました。2020年頃には数多くのロボットが導入されて、"ロボット社会"を迎えると仮定すると、「揺籃期」(2000年〜2005年)、「導入期」(2005年〜2010年)、「成長期」(2010年〜2020年)、「成熟期」(2020年〜)の4段階に分けられました。現在は、導入期に該当します。

ユーザーニーズに合わせた開発が求められるのは当然ですが、当時はまだ、技術優先で開発せざるを得ない段階にあると思われました。したがって、初めから多くの機能を追求するのではなく、まずは単機能の道具型ロボットを目指すべきだと考えました。
 また、当社では産業用ロボットの開発を通じて、移動型ロボットや位置決め制御、画像処理技術、ハンドリングなど多くの技術を蓄積していました。ニーズ調査の結果*1から「掃除・片付け」など生活の中での3K作業への要望が高いことを把握していましたが、これら現行技術を暮らしに役立て、かつ、その可能性を追求するという観点から、単機能で道具型ロボットを目指すようになりました。それが、当社が提唱している「Mechanorg(メカノーグ)」という概念に結び付きます。

*1:松下電器産業では、2002年12月25日〜03年1月10日にかけて、14の生活シーンに対し151の不満を設定して、生活の中での不満調査をWebアンケート形式で実施した(有効回答数540)。その結果、上位10項目中、6項目が掃除・片付けに集中したという。具体的な結果は次の通り。1位「レジに並ぶ」(回答数400、74.1%)、2位「夕食の、汚れた食器を流しで洗う」(回答数322、59.6%)、3位「夕食の、メニューとレシピを決める」(回答数308、57.0%)、4位「お風呂の掃除をする」(回答数302、55.9%)、5位「洗濯物を物干しなどに干す」(回答数292、54.1%)、6位「流しやガス台の掃除をする」(回答数289、53.5%)、7位「洗濯物をたたむ」(回答数284、52.6%)、8位「雑誌・書籍などを片付ける」(回答数278、51.5%)、9位「布団やベッドのシーツ交換」(回答数276、51.1%)、10位「生ごみを処理する」「家の中を掃除機で掃除する」(回答数274、50.7%)。

Mechanorgとは、機械を意味する「Mechano」と組織体と意味する「Organism」を合わせた造語です。人間の形をしているHumanoid(ヒューマノイド)に対し、単機能ながら生活に役立つ、機能に特化した形のロボットもあると考え、提唱しました。
 また現在、ロボットにはさまざまな名称がありますが、ほとんどのロボットが効用から定義されています。例えば、公共・厚生サービスという切り口では、レスキューロボットや医療・手術用ロボットなどが、人と共存してサービスを行うという切り口では、ホームロボットやセキュリティロボットなどがあります。しかし、ロボット開発をビジネスとして成立させるためには、このような効用ごとに分類したロボットを目指すのではなく、これらの間で水平展開できる機能を成立させることが重要です。このような考えもMechanorgの概念に結び付いています。

Mechanorgを表すコンセプトモデル

Mechanorgのコンセプトを発信するモデルとして、2004年11月に人随伴搬送ロボット「Porter Robot」を開発しました。物を運ぶことに特化した単機能のロボットです。物を抱えるようにして搬送します。

ユーザーは超音波を受発信するトラスミッタを持って使用します。Porter Robotは超音波センサを搭載しており、トランスミッタとの間で超音波を受発信することで、ユーザーとの距離と角度を算出し、その後をついていきます。ユーザーがロボットの前にいながら操作しているイメージになります。頭部には全方位センサを搭載しており、これで周囲の人を検知して利用を促すメッセージを発します。

Mechanorgのコンセプトモデルとして発表した人随伴搬送ロボット「Porter Robot」。サイズは1290×540×680mm。質量56kg。最大走行速度6km/h。ユーザーは超音波を受発信するトランスミッタを携帯して使用する。ロボットから発信された超音波をトランスミッタで受信し、それをロボット側に発信することで、ロボットがユーザーとの距離と角度を算出して後をついていく。

Mechanorgのコンセプトモデルとして発表した人随伴搬送ロボット「Porter Robot」。サイズは1290×540×680mm。質量56kg。最大走行速度6km/h。ユーザーは超音波を受発信するトランスミッタを携帯して使用する。ロボットから発信された超音波をトランスミッタで受信し、それをロボット側に発信することで、ロボットがユーザーとの距離と角度を算出して後をついていく。

安全に配慮して超音波センサに加え、本体下部には測域センサやバンパセンサを搭載している。これらのセンサにより障害物との衝突を回避する。

安全に配慮して超音波センサに加え、本体下部には測域センサやバンパセンサを搭載している。これらのセンサにより障害物との衝突を回避する。

また、移動には倒立2輪移動機構を採用しています。本来、より安全に荷物を搬送するのであれば、3輪もしくは4輪の方が望ましいです。しかしながら、倒立2輪移動機構では小回りが効いて動きにきびきびした感じが創出されますし、加速時や停止時の傾きがロボットらしく、かつ擬人的に見える効果があります。また万一、人とぶつかっても、いなすことができます。これらの効果を重視して、この機構を採用しました。

2005年9月には関西空港にて実証実験を行いました。実際にPorter Robotを使ってもらうことで、どの程度役に立つのかを検証しました。また、今年の3月1日、2日の2日間にわたってホテル近鉄ユニバーサル・シティにて再度、実証実験を行いました。自律移動および搬送など技術的な課題を検証するために行ったものです。
 今後の課題については後で紹介しますが、Porter RobotはあくまでMechanorgのコンセプトを発信するために開発したものです。ですので、そのままの形で商品化することも、ビジネス展開することも想定していません。

2005年9月開催の「ロボット祭in関空」で実施したPorter Robotの実証実験。2005年に愛知万博で実践された安全対策と同様、安全を確保するために、スタッフがロボットに随伴している。ホテル近鉄ユニバーサル・シティで実証実験を行ったものは、若干システムを変更しているという。

2005年9月開催の「ロボット祭in関空」で実施したPorter Robotの実証実験。2005年に愛知万博で実践された安全対策と同様、安全を確保するために、スタッフがロボットに随伴している。ホテル近鉄ユニバーサル・シティで実証実験を行ったものは、若干システムを変更しているという。

自然な抱き上げ動作ができるトランスファーアシストロボット

2005年4月からは、現在の「ロボット開発室」が創設され、従来のコンセプトを開発する組織から開発体制が拡大しました。ここからは、同様の意味ですが「ライフアシストロボット」というコンセプトで開発に取り組んでいます。
 当時、中村邦夫社長(現会長)より「人を安全に介護できるようなロボットを!」という指示があり、『健常者から要介護者まで究極の意のままユニバーサルデザインライフを実現』を目標に取り組んでいます。また、2006年の「CEATEC JAPAN」では、大坪文雄社長がキーノートスピーチで「介護」「家事」「運搬」をアシストするロボット開発を話したことを受け、これらの分野での応用を目指しています。ただ、中村会長の強い思いなどがあり、介護を重要なアプリケーションとして取り組んでいます。

介護には、介護者の介護支援というアプローチと、要介護者や高齢者の暮らしの支援というアプローチがあります。後者には、歩行や立ち上がりなどの自立支援に加え、片付けや掃除、調理などの家事支援も含まれると考えています。まずは前者への取り組みとして、要介護者の移乗作業を支援する「トランスファーアシストロボット」を開発しています。
 介護作業の中で、移乗作業は最も重労働と言われており、通常は2人で行う作業を1人で迅速に行えることを狙っています。

開発したトラスファーロボットは、双腕アームによる自然な抱き上げ動作を可能にしたのが特徴です。「パワーアシスト制御」と「モーションアシスト制御」により実現しています。
 前者は、介護者が操作用ハンドにかけた力を力センサで検知し、その情報に基づいて約10倍に増幅するものです。片腕約4kgの力で約80kgの身体を抱きかかえることができます。後者は、抱き上げ時の規範モデルに従って、無理のない姿勢へと誘導するものです。モデルは、被介護者の平均的な腰の位置を仮想回転心としており、背中および脚のずれが発生しにくいです。
 また、アームには反転ベルト方式を採用しており、摩擦の負担をかけことなく要介護者の身体の下に滑り込むことができます。
 現在までに、試作2.5号機を開発し、昨年の「国際福祉機器展」で参考出展しました。

2007年の「国際福祉機器展」に出展した「トラスファーアシストロボット」試作2.5号機。パワーアシストおよびモーションアシスト制御により、自然な抱き上げ動作による移乗作業を実現している。

2007年の「国際福祉機器展」に出展した「トラスファーアシストロボット」試作2.5号機。パワーアシストおよびモーションアシスト制御により、自然な抱き上げ動作による移乗作業を実現している。

介護施設や病院に加え、家庭でも利用できることを目指していますが、小型化が大きな課題になっています。使用時は本体の幅が1m以上にもなり、家庭で使用すると、抱きかかえたまま部屋から出るのが困難です。また、双腕で抱きかかえる構造のため、後方にカウンタウェイトを設置する必要があり、総重量は200kgを超えています。家庭で使うためには、構造も根本的に見直す必要があります。
 現在、松下介護サポートサービスが運営するサンセール香里園にて、ヘルパーさんに試用してもらい、意見を伺いながら改良に努めています。移乗作業を支援するロボットを開発されている企業には、すでにビジネス展開をされているところもありますが、当社はまだまたこれから、といったところです。

ごく一部のプロセスの置き換えでは導入は難しい

今後の開発課題についてはいくつかありますが、1つは要素技術の高性能・高機能化が挙げられます*2。特にマニピュレーションと自律移動を重要な技術として位置づけています。

*2:要素技術に関する課題に言及すると、「ロボット用の高性能・高機能なものが開発されるとありがたい」と、小林チームリーダーは話す。現在は、市販の部品を流用しており、モータにはスイスのmaxon motor社のものを利用することが多いという。

マニピュレーションについては現在、差動シャフト機構を採用した、軽量のロボットハンドを開発しています。昨年9月に、ロボット学会で発表しました。
 おもな機構は、モータの回転力を伝達しつつ軸が前後にずれる差動シャフトと、それに噛み合うウォームホイールから構成されます。ウォームギヤは、人の指の第2、第3関節に当たる部分に付加しています。ウォームギヤが回転して、まず第3関節部分が曲がりますが、差動シャフトの軸が前後にずれることで第2関節部分も曲げることができます。このように1モータで2つの関節を動作でき、重量をわずか640gに抑えています。
 また、形状に倣って掴む動作ができ、ジョッキのような不定型な物も把持することができます。

自律移動については、そのプラットフォームを構築することを目的に、新たにリネン類巡回搬送ロボットを開発しました。上述のPorter Robotとともに、ホテル近鉄ユニバーサル・シティにて実証実験を行いました。
 このロボットは、シーツやタオルなど交換用備品を積載して、客室で作業する清掃係に配達します。自律でフロア廊下を巡回し、リネン室と各客室を往復します。事前に作成した地図情報を有しており、天井のマーカーを確認しながら、それと照合して自己位置を推定しています。こちらも駆動輪は2輪ですが、前後に1つずつ大きなキャスターを付加しており、高さ2cm程度の段差を乗り越えることができます。

2月28日、29日の2日間にわたりホテル近鉄ユニバーサル・シティで実証実験を行った「リネン類巡回搬送ロボット」。あらかじめ地図情報を有しており、天井のマーカーで自己位置を推定しながら自律移動する。

2月28日、29日の2日間にわたりホテル近鉄ユニバーサル・シティで実証実験を行った「リネン類巡回搬送ロボット」。あらかじめ地図情報を有しており、天井のマーカーで自己位置を推定しながら自律移動する。

背面にシーツやタオルなどリネン類を収納する。ロボット頭部の後ろ側にタッチパネル画面があり、ホテルの見取り図が表示される。タッチパネルで巡回ルートを入力することができる。

背面にシーツやタオルなどリネン類を収納する。ロボット頭部の後ろ側にタッチパネル画面があり、ホテルの見取り図が表示される。タッチパネルで巡回ルートを入力することができる。

コンセプトモデルだったPorter Robotに対し、このロボットは実用化に一歩近づけたものとして位置づけています。ただし、そのままの形で実用化するかは未定です。あくまで自律移動のプラットフォームとして提示したものであり、用途に応じてロボットの上体部を変更することを考えています。同じグループの松下電工さんの「HOSPI」に近いコンセプト*3と言えます。

*3:松下電工では、自律走行機構をプラットフォームとして、今後の開発に継承していく方針を示している。カルテ搬送ロボット「HOSPI」と血液検体搬送ロボット「HOSPI-AL」の2種類を開発したことから、病院のように不特定多数の方がいる環境にはHOSPIを、特定作業者と共存する環境にはHOSPI-ALを展開していくという。

実証実験の結果、いくつか課題*4がありましたが、今後は自己位置推定について開発を進めていくつもりです。ホテルの床面にはじゅうたんが敷いてあり、その影響により軌道からずれることがあったので、「SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)」の搭載を視野に入れています。SLAMとは、各種センサから取得した情報から自己位置推定と地図生成を同時に行う手法です。自律移動ロボットではよく用いられています。ロバスト性の高いSLAMの構築を目指して開発する予定です*5

*4:利用に関する要望としては、リネン類巡回搬送ロボットが客室に先回りしている方が使い勝手が良いという声があった。

*5:自律搬送ロボットの開発については、松下電工側と技術的なやり取りはまだないという。双方の知的財産は互いに利用できるようになっており、今後は共同開発を進めていくという。

ただし、ここで注意しなければならないのは、搬送というバックステージ的な作業*6では厳しいコストダウンが要求されることです。導入期においては、フロントステージを意識した取り組みが必要かもしれません。例えば、人とインタラクションできるような機能を持たせ、そのアピール効果により導入にかかるコストを補うような取り組みが。さまざまな用途を模索しつつ、導入にかかる障壁をクリアする方策を検討したいです。

*6:サービスの現場は、大きくフロントステージとバックステージに分けられる。前者は、顧客との関係構築を担うのに対し、後者は肉体労働や単純作業が多く、また顧客との接点がないため作業をルーチン化しやすい。サービス事業者からすれば、必ずしも後者は利益を生み出すところではないため、コストセンターと捉えている傾向がある。

また、もう1つの課題は現在、試作3号機の開発に向けて取り組んでいるトランスファーアシストロボットです。同機はビジネス展開に向けた重要なステップとなるため、小型化には相当高いハードルを設けています。このために、その発表までには少々時間がかかるかもしれません。
 その導入に関しても、先ほどと同様、障壁をクリアする取り組みが必要になると思われます。移乗作業のアシストを目指して開発していますが、実際の介護の現場で利用してもらうためには、その前後のプロセスも含めてアシストすることが求められると予想されます。つまり、移乗作業というピンポイントでの提案ではなく、介護プロセスをきちんと捉えたうえでの提案が求められるということです*7。小型化と併せて、そのための素材を集めているところです。

*7:ロボット開発では、あるサービスプロセスのごく一部を置き換えようとする例が多い。しかし、サービス業は一連のプロセスを通じて価値を創出するシステムになっているため、局部的にロボットやRT(Robot Technology)に置き換えられても、あまり効果的な提案に思われない。結果、導入に至らないケースが多い。

このように、介護を1つの重要なアプリケーションに位置づけて取り組んでいますが、当社が最終的に目指すのは、生活を豊かにする生活支援ロボットの開発です。介護に便利なものは、一般の方が利用しても容易に扱えて、かつ便利なものになるはずです。介護向けに展開しつつ、一般の方が快適さを享受できる生活支援ロボットの開発に結び付けたいです。

企業データ

パナソニック(旧社名:松下電器産業)

〒571-8501 大阪府門真市大字門真1006番地


掲載日:2008年4月 1日

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