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ロボ・ステーション


ロボットメーカーの開発戦略 次の一手はこれだ
ASIMOが存在することで生まれる空間価値を提案したい【本田技研工業】

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重見 聡史本田技術研究所

重見 聡史 Shigemi Satoshi

基礎技術研究センター 第2研究室 第22グループ マネージャー 主任研究員
1987年3月、東京電機大学 電子工学科卒。同年4月、本田技研工業に入社。同年10月には本田技術研究所に配属となり、以後、自動車のECU(Electric Control Unit)の開発を手がける。1996年9月からはロボットの研究に従事し、ASIMOの実現に貢献する。2004年12月に発表した「次世代 ASIMO」以降は、開発リーダーを務める。

2007年12月、本田技研工業は2足歩行ロボット「ASIMO」の新機能を発表した。2体のASIMOが共同作業を行ったり、近づく人の動きを予測して回避したりする機能など、より高度化した知能化技術を紹介し、人がいる環境での実用化に近づいたことを印象づけた。
 プロジェクトリーダーを務める本田技術研究所の重見聡史主任研究員に、開発した新機能の概要と今後の開発目標について聞いた。また、2010年頃以降の実用化に向け、市場へのASIMOの提案方法についても聞いた。

サービス空間としての提案を視野に

当社では、人と共存し、人に役立つロボットを目指して開発しています。それが開発のフィロソフィーでもあり、その考えのもと各種技術を進化させてきました。

人と共存するためには、まず人がいる同じ環境で移動できることが必要です。それには2足歩行が最適と考え、1997年に発表した「P3」*1までは、歩行技術に焦点を当てて開発してきました。当社の基本はモビリティにあるので、その1つとして取り組んだという側面もあります。
 その後、「ASIMO」を発表した2000年以降は人とのインタラクションを、それ以降の2005年頃からは実環境で役立つことを、それぞれ重視して開発しています。ようやく、人がいる環境で稼動できるレベルになったと思います。

*1:1997年9月に完成した安全自律型2足歩行ロボット。全高1,600mm、重量130kg。歩行速度は最大で2km/h。 1996年12月に発表した「P2」は全高1,820mm、重量210kgだったが、ボディ部材へのマグネシウム合金の採用や、分散型制御の導入などにより、大幅な小型・軽量化を達成した。

ASIMOに限らず、ロボットという新たな機械は、人に受け入れてもらうまでに相当な時間を要します。そのため、開発と併行して、ASIMOをどのように感じているのか? また、どのように受け入れているのか?といった内容も、デモなどを通じて分析してきました。約7年にわたり取り組んできました。
 最も前向きに受け入れてくれるのは、子育てを終えた年齢に差し掛かる女性の方です。相当な親近感を抱いて接しています。逆に、最も冷静に接しているのが20代や30代の男性でした。

昨年12月から今年の1月にかけて、本社青山ビルの2階ロビーでASIMOの試験運用を実施し、2体を協調させて案内および飲み物のデリバリーサービスを行いました。本社青山ビルには毎日、数多くのビジネスマンが訪れており、上述のASIMOを冷静に捉えている方が多く含まれます。あえて、そうした方にデリバリーサービスをご利用いただきましたが、ほとんどの方が喜ばれていました。われわれが思っている以上に、ASIMOは受け入れられているようです。

本社青山ビルで実施した飲み物のデリバリーサービスのイメージ

本社青山ビルで実施した飲み物のデリバリーサービスのイメージ

そこでは常時稼動していましたが、ASIMOと人が共存するには最適なスペースでした。そして、ASIMOが存在することにより、新たな空間を創出・提案できたように感じました。ですので、ASIMOがいるサービス空間としての提供や、ASIMOを含む空間デザインというアプローチを採ることを視野に入れつつあります。

知能化技術の発展により実環境での利用に近づく

ここで、2007年末に発表したASIMOの新機能を紹介しておきます。おもなトピックスは「共同作業機能」「すれ違い、回避行動機能」「自律充電機能」です。

まず共同作業機能は、複数のASIMOをネットワークで結び、それぞれのASIMOの作業状態を常に共有し、最も効率の良い割合で作業分担をさせています。具体的には、それぞれのASIMOの現在位置、タスクの内容、タスクを実行する位置までの距離とルート、バッテリー残量を管理し、これらから最も時間効率の良い作業分担を、その都度算出して行います。

2体が協調しながら飲み物を届ける。それぞれのASIMOの現在位置、タスクの内容、タスクを実行する位置までの距離とルート、バッテリー残量を管理し、これらから最も時間効率の良い作業分担を、その都度算出して行っている。

2体が協調しながら飲み物を届ける。それぞれのASIMOの現在位置、タスクの内容、タスクを実行する位置までの距離とルート、バッテリー残量を管理し、これらから最も時間効率の良い作業分担を、その都度算出して行っている。

これらの管理は、外部サーバーで行っています。サーバーと言っても、使用しているのは汎用的なノートPC1台です。行動や計画など行動戦略に関わる制御は外部PCで処理し、障害物の回避など反射行動的な制御はASIMO本体で処理しています。いわゆる「リモートブレイン」を採用したと考えてもらえばよいと思います。複数体のASIMOを運用しているため、外部PCが「親」として機能しています。また今回は、2体の協調作業にとどめましたが、10体を同時運用することもできます。

次に、すれ違い、回避行動機能は、近づいて来る人を頭部のアイカメラで捉えて進行方向と速度を割り出し、その後の動きを予測しながら人の動きを妨げない進路をとる、というものです。予測される動きを移動範囲として持たせており、これにより突然、人が進行方向を変えても回避することを可能にしています。今回、初めて採用した考え方であり、人との共存環境での移動を可能にしました。

近づく人に道を譲るASIMO。近づいてくる人の進行方向と速度を算出し、その後の動きを予測しながら、人の動きを妨げない最適な進路をとる。すれ違うための十分な場所がない場合は、一歩下がって道を譲る。

近づく人に道を譲るASIMO。近づいてくる人の進行方向と速度を算出し、その後の動きを予測しながら、人の動きを妨げない最適な進路をとる。すれ違うための十分な場所がない場合は、一歩下がって道を譲る。

そして、自律充電機能は、バッテリー残量が一定値を下回ると、空いている充電ステーションの中から最も近いものを検出し、自律的に充電を行う機能です。充電ステーションの赤外線センサにより、ASIMOと充電ステーションそれぞれのコネクタ間の位置決めを行います。ASIMO側が、赤外線センサから発信される赤外線に合わせて姿勢を傾けて補正を行うようにすることで、高い繰り返し再現性を確保しています。

自律充電を行うASIMO。バッテリー残量が一定値を下回ると、空いている充電ステーションの中から最も近いものを検出して充電を行う。 自律充電を行うASIMO。バッテリー残量が一定値を下回ると、空いている充電ステーションの中から最も近いものを検出して充電を行う。 自律充電を行うASIMO。バッテリー残量が一定値を下回ると、空いている充電ステーションの中から最も近いものを検出して充電を行う。

自律充電を行うASIMO。バッテリー残量が一定値を下回ると、空いている充電ステーションの中から最も近いものを検出して充電を行う。

これらの機能に関係する知能化技術に言及すると、特筆すべき点は、新たに行動選択プログラムを導入したことです。ある目的やタスクに応じて作成した行動モジュールを用意しておき、それを適時選択して行動するようにしています。各モジュールの関係は上位行動と下位行動とに、階層に分けてプログラミングを行っています。これらをイベントドリブンで処理することにより、実世界の状況や与えられたタスクに柔軟かつリアルタイムな対応を可能にしています。上述の2体のASIMOによるリアルタイムでの共同作業は、このようなソフトウエアのつくり込みにより達成されています。
 見た目にはわかりづらいですが、実環境で稼動し続けるために非常に重要であり、今回の開発で最も注力したところです。

人と人とをつなぐ存在にしたい

すでに紹介しましたが、2カ月弱にわたり本社青山ビルの2階ロビーで案内サービスなどを実施しました。当面は、このようなオフィス空間でのサービス提供をイメージしながら開発します。やがては、公共空間でのサービス提供を行うことを考えていますが、まずは茂木や鈴鹿などの自社フィールド内でつくり込みをしていきたいです。

サービスに関しては、当社なりに分析を進めています。単なるデリバリーからおもてなしまで幅広く、かつレベルもさまざまであることを理解しています。すでに実施した、オフィスでの案内やデリバリーは定型サービスの1つとして取り組んだものですが、現状の技術レベルを考慮すると、最初のとっかかりとして正しいアプローチだったと思います。

これをベースに、次に検証したいのは、サービスを実施するタイミング、すなわち間合いです。例えば、飲み物をデリバリーするとき、会話の途中に割り込んで飲み物を置くよりも、適切なタイミングに現れて、一礼をして飲み物を置く方が好感を持たれるはずです。このようなふとしたことで、人の感じ方や捉え方は大きく異なります。サービスを提供するからには、顧客満足の検証まで求められますが、まずは、このような人とロボットの関わり方や接し方を押さえておきたいです。

また、サービスには顧客との関係性を構築する「フロントステージ」と、単純労働が中心となる「バックステージ」がありますが、ASIMOに関しては、後者への適用はまったく考えていません。はじめに言いましたように、ASIMOは人とのインタラクションを重視して開発しているので、前者での利用が適しています。また、ヒューマノイドの特性を生かすうえでも、前者での利用がよいはずです。身体を持つASIMOは身振り手振りや仕草を交えたノンバーバル(非言語)コミュニケーションをとることができ、これを通じて、相手にさまざまな印象を与えられるからです。
 このような特徴をサービスに落とし込むことができれば、サービスの差別化につながるはずと考えています*2

*2:「ASIMOを"動くコンピュータ"と捉えた場合、記憶する機能を利用して、対話する相手に応じたコミュニケーションがとれるのではないか」という考えを、重見主任研究員は示す。「例えば、5年前に出会った人に対し、当時と同様の応対を行うという具合に」。さらに、「記憶力を生かして、人をアシストするところから導入されるのではないか」とも話す。

さらに、ロボットによるサービスと言うと、人と協働で提供するという方法が考えられがちですが、それも考えていません。ASIMOには、人と人とをつなぐ役割を担うことを期待しています。簡単な例を挙げると、お客さんのもとにコーヒーをデリバリーし、同時に、店員が伝えたいと思っているような、コーヒーの原産地などの情報を伝えるようなことです。コーヒーをつくることはできないかもしれませんが、このように人と人との間に立ってコミュニケーションをつなぐ――。そのような存在を目指したいです。

ASIMOが存在することで生まれる価値を提案したい

これまで、ASIMOの開発では身体能力にこだわって開発してきました*3。その結果、トレイの把持をはじめ手作業も行えるようになりました。今後は、インタラクションに関連する機能強化に軸足を置きたいです。ASIMOには音声認識や画像認識などの機能を搭載していますが、人と1対1でコミュニケーションをするのは、まだまだ難しいです。それに対応できるレベルを狙って取り組みたいです。
 これに関連する技術として、2007年度末で終了する「次世代ロボット共通基盤開発プロジェクト」(経済産業省)があり、音声認識モジュールや画像認識モジュールが開発されていると聞いています。その採用について具体的な計画はありませんが、良い機能が提供されるのであれば、利用を考えてみたいと思います。

*3:2004年に発表したASIMOは、3km/hでの走行時の跳躍時間は0.05秒だったのに対し、2005年に発表したASIMOでは、6km/hでの走行時の跳躍時間は0.08秒まで、跳躍時間を拡大している。このような跳躍を可能にするために、姿勢制御にはいくつかの工夫がなされている。ASIMOは走行時に、瞬間的に上体を少しかがめてから跳躍をしているが、それを繰り返していくと前のめりになり、しっかりとした跳躍ができなくなる。そこで、瞬間的に上体をかがませると同時に、戻すような動きをさせて調整している。極端なイメージになるが、走り幅跳びのように上体を反った姿勢を、瞬間的にとらせているという。
 また走行時は、足が地面を離れる直前と着地した直後は、足底と地面との間の圧力が低く、脚の振り上げ時に慣性力が作用して、身体が回転しやすい状態になる。そこで、上半身の曲げやひねりを用いて慣性力をキャンセルさせて、安定した走行を可能にしている。こうした動作は人とは異なり、ASIMO用にチューニングしているという。

また、共通基盤技術に関連して言うと、「ネットワークロボット」*4および「環境情報構造化」*5のプラットフォームとの連携を議論しています。ASIMO単体で、すべての状況認識を行うことは困難なので、こうしたインフラは積極的に利用したいですし、こうした一定のルールがある環境の中で、きちんと動作できるようにしておきたいです。一定のルールがある空間でつくり込みをし、技術の向上に伴い、実フィールドへと出て行くという流れで、ロボットが世の中に出て行くと考えていますので。

*4:複数のロボットを協調・連携することにより複合的なサービスを提供する技術。「ビジブル型」「アンコンシャス型」「バーチャル型」の3タイプのロボットを、ネットワークを介して協調・連携することにより、ロボット単体ではできない機能の実現を目指している。ビジブル型とは目や腕、首などを持つヒューマノイドロボット、犬やアザラシなどのペット型ロボットのこと。アンコンシャス型は壁や天井に設置された据置き型カメラやセンサ、またはウェアラブルコンピュータを、バーチャル型はパソコンや携帯電話の中のキャラクターエージェントをそれぞれ指す。

*5:ITやユビキタスコンピューティング、ネットワーク通信技術、GPS、RFIDタグなどのセンシング技術と連携して、ロボットが動きやすいように環境側を整備するプロジェクト。空間や人の行動に関する意味情報を「環境情報」として環境に埋め込む(構造化)べく2006年7月より進められている。場の計測」「モノの計測」「人の計測」の3つの観点から開発がなされている。

そのほかの開発課題として安全技術が挙げられますが、他のロボットメーカーさんと同様、試行錯誤しているところです。ただ、以前、私はクルマのECU(Electric Control Unit)の開発を手がけていましたが、フェールセーフの考え方はクルマもロボットも同じです。ASIMO以降の開発では、フェールセーフに基づいたシステムおよびソフトウエア開発を行うことで、信頼性や安全性を高めています。
 ロボットメーカーさんの中には、外部の専門家を交えて安全をつくり込み、上市されているところがありますが、このような取り組みは検討中です。当社では、まだ先の話しになるのではないかと思います。

「ASIMO がこれほど多くの方に支持されるとは思っていませんでした。ですので、何としてもASIMOが存在することで創出される新しい空間や価値を提案し、世の中に出していきたいです」と、話す重見主任研究員。通常、このような事業化に向けた検討は事業部でなされるものだが、「こうした議論自体が楽しいですし、また、研究所でこそ検討すべき内容だと考えています」と、さらりと返してくれた。

「ASIMO がこれほど多くの方に支持されるとは思っていませんでした。ですので、何としてもASIMOが存在することで創出される新しい空間や価値を提案し、世の中に出していきたいです」と、話す重見主任研究員。通常、このような事業化に向けた検討は事業部でなされるものだが、「こうした議論自体が楽しいですし、また、研究所でこそ検討すべき内容だと考えています」と、さらりと返してくれた。

当社では、すでに2010年頃以降にASIMOを実用化することを表明しています。その頃には、接客サービスをさせてみたいですが、サービス事業者さんなどからの提案やアイデアを受けて取り組むことを考えています。
 すでに言いましたように、ASIMOが存在することにより新しい空間が創出されると考えています。そこに提案されたサービスなどを組み合わせて、 ASIMOがいるサービス空間として提案したいです。このような空間デザインというアプローチを採る方が、新たな価値が創出されるのではないかと感じています。さまざまな提案をもらいながら、さまざまな場所で、ASIMOが存在する新しい空間や価値を提案していきたいです。

企業データ

本田技研工業株式会社

〒107-8556 東京都港区南青山2-1-1

参考Webサイト

ASIMOオフィシャルサイト


掲載日:2008年3月11日

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