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ロボ・ステーション


ロボットメーカーの開発戦略 次の一手はこれだ
人間共生をキーワードに研究開発を行っています【日立製作所】

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玉本 淳一主任研究員

玉本 淳一 Junichi Tamamoto

機械研究所 都市・ロボティクスプロジェクト、先端ロボットユニット、ユニットリーダ、主任研究員
 1993年、早稲田大学大学院理工学研究科修了。同年、日立製作所に入社。同社機械研究所にて郵便区分機やATMの研究・開発に携わる。2004年より人間共生ロボット「EMIEW」の開発を担当し、現在に至る。

日立製作所は、「人間共生ロボット」の実用化を目標にサービスロボットの開発を行っている。その象徴である「EMIEW2」は、小型・軽量化と機敏移動を両立したことに加え、同社が開発した各種知能化技術も搭載している。同社が目指すロボットに一歩近づいたものになったと言える。その機能の詳細について、先端ロボットユニットの玉本淳一主任研究員に聞いた。また現在、考えている応用例についても話してもらった。

人との共生を目指して

当社では、人と共存しサポートするロボット、すなわち「人間共生ロボット」をキーワードに研究開発を進めています。人が使用する各種機器の自動化および知能化がより一層進展していくことを考慮して、掲げたものです。これらの技術を近未来のロボット事業の創出につなげることと、既存製品に適用していくことの2つの方向性で取り組んでいます*1

*1:EMIEW2の要素技術を切り出して、他の製品に適用するという流れもある。例えば、建設現場での安全支援として、建設機械にレーザレーダを用いた障害物検出機能を搭載し、運転しているオペレータに注意を促すことが考えられる。EMIEW2で使用しているレーザレーダは屋内向きで検出エリアが狭いので、センサのみを変更し、検出のアルゴリズムを継承して適用することになる。

当社は、早くからロボットの研究・開発に取り組んでおり、1960年代の半ばから着手しています。
 80年代には、早稲田大学との共同開発による2足歩行ロボット「WHL」(Waseda-Hitachi-Leg)や、「極限作業ロボットプロジェクト*2」に参加して開発した4脚歩行ロボットを発表しました。90年以降は、「医療・福祉」「生活」「公共」の3分野に向けた応用展開を目指すようになり、歩行支援装置や、自動地図生成機能を備えた掃除ロボット、原子力防災ロボットなどを開発しました。

*2:1983年から90年にかけて、通商産業省(現経済産業省)の下に取り組まれた、わが国初のロボットに関する国家プロジェクト。原子力発電所、海洋、工場火災現場などで作業するロボットの実現を目指した。また、欧米との国際研究協力プロジェクトという側面もあった。

このような長い開発の歴史がある中で、人間共生を意識した開発を始めたのは2000年に入ってからです。当時は、パーソナルロボットの展示会「ROBODEX」が開催され、ヒューマノイドロボットが非常に注目されていました。それを受け、当社内では上述の応用展開に向けた開発とともに、技術開発の象徴となるロボットの開発にも取り組むべきだ、という気運が高まりました。

そして、NEDOの委託事業「次世代ロボット実用化プロジェクトプロトタイプ開発支援事業」への参加をきっかけに、人間共生ロボットの開発プロジェクトが始まり、2005年3月に「EMIEW」〔Excellent Mobility and Interactive Existence as Workmate(開発名称)〕を発表しました。
 その後、人がいる環境で働くことができるロボットを追求し、オフィス環境での利用を目指して開発したのが「EMIEW2」です。

2005年の「愛・地球博」に出展した「EMIEW」。 2007年11月に発表したEMIEW2。

2005年の「愛・地球博」に出展した「EMIEW」。高さ1,300mm。重量約70kg。(左)
2007年11月に発表したEMIEW2。サイズは、300mm(幅)×250mm(奥行き)×800mm(高さ)。重量は13kg。停止時や作業時には膝を下げて、安定した4輪姿勢に変形することもできる。


人間共生という流れからすれば、家庭用のパーソナルロボットも考えられます。
 ただし家庭用ロボットでは、販売価格は10万〜20万円程度まで下げることが求められます。現状の技術レベルを考えると、この価格帯では、大した機能を持たせることは困難です。また、マニュアルをきちんと読まずに使用されたり想定外の利用がなされたりすることが予想され、安全面で問題があります。そうしたこともあり、EMIEW2はビジネスユースとなるオフィス用途を目指しました。

大幅な軽量化と脚車輪機構の採用

EMIEW2の特徴は、安全のための小型・軽量化を達成しつつ、実用的な移動能力を持たせたことにあります。以下に、その詳細を説明します。

重量については、EMIEWが約70kgだったのに対し13kgという大幅な軽量化を達成しています*3。人や障害物との衝突を回避する機能を持たせることで、ある程度の安全性を確保できるかもしれませんが、出会い頭での衝突など、万一の事故が起きること想定されます。本質安全を達成すべきという理由から、このような軽量化を図りました。また、オフィスでの成人女性の可搬重量の基準とされることが多い15kg以下にしたいという理由からも、この重量にしています。

*3:ホビー用途のロボットは小型・軽量だが、実用的な移動能力を備えていない。一方、十分な移動能力を備える実用指向のロボットは、それゆえに重量が大きい。前者の小型・軽量、後者の実用的な移動能力の両方を満足することを狙って開発している。

また、サイズも大幅にダウンサイジングしており、高さは800mmに低減しています。一般にデスクの高さは700〜750mm程度と言われており、わずかに首を出して、その上を確認できるギリギリの高さとしてこの値にしています。オフィス用途に適した最小のサイズと言えると思います。

移動能力については、脚車輪移動機構の採用により機敏な車輪での移動と段差歩行を可能にしています。
 車輪による移動は、EMIEWで開発した2輪による6km/hの高速移動を継承しています。人の歩行速度は約4km/hとされており、人にフラストレーションを与えず、かつ先回りして案内できるよう、この速度設定にしています。上述の通り、大幅な軽量化を達成しているため、万一、最高速度の6km/hで衝突しても、子供に危害を与える心配はないです。

また、段差歩行は、ドアの敷居など車輪での移動が困難な段差を乗り越える際に利用します。駆動機構に搭載したレバー(つま先)を下ろし、足裏を形成して歩行をします。停止時や作業時には膝を下げて、安定した4輪姿勢に変形することもできます。

レバー(つま先)を下げることで足裏を形成して歩行動作を行う。

レバー(つま先)を下げることで足裏を形成して歩行動作を行う。これにより段差があるところでもスムーズに移動することができる。


駆動機構は2自由度がありますが、これらはすべて車輪内部に収めています。2足歩行時には、つま先部分には全重量がかかることになりますが、強度設計に配慮しつつ高密度な設計を行うことで、このような機構を可能にしています。

日立の知能化技術を結集

EMIEW2では実用性を重視したため、当社の知能化技術を集約しています。
 おもな機能として、地図生成/位置認識、遠隔音声認識、障害物回避を搭載しています。

まず、地図生成/位置認識*4は「SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)」を搭載することで対応しています。SLAMとは、各種センサから取得した情報から自己位置推定と地図生成を同時に行う手法で、 EMIEW2では首部に搭載したレーザレーダ(高さ約60cm)から得た情報をもとに行っています。例えば、狭いデスクの間を通過するときは、レーザレーダによりデスクとEMIEW2自身との相対位置を推定し、自分の向きを調整しながら行います。いったん地図を生成すると、次回の移動に利用でき、より効率的な移動が行えるようになります。

*4:地図生成/位置認識技術は、2006年3月に発表した屋外監視向けカメラロボットの技術を継承している。これは、屋内を移動しながら搭載された距離センサを用いて周辺の物体を検知し、地図を自動的に作成することができる。さらに、この地図を使って自分の現在位置を平均誤差5cm以下の精度で把握して、目的地までの経路を自動的に算出することができる。

EMIEW2では、首部分にレーザレーダを搭載している。

EMIEW2では、首部分にレーザレーダを搭載している。これが地図生成/位置認識、障害物回避の要となっている。


また、遠隔音声認識*5は、音の発生位置を瞬時に測定する技術と特定方向からの音声のみを抽出する技術により実現したものです。音源が約1.5m離れていても認識することができます。
 具体的には、14チャンネルのマイクロフォンアレイで検出した音量差と位相差をもとに音源位置を推定し、その方向のみの音を抽出することで認識しています。
 人の場合、例えば多くの人が雑談している中でも、自分の興味のある人の会話などは自然と聞き取ることができます。このとき、人は音を処理して必要な情報だけを再構築していると考えられており、このような聴覚の特徴を「カクテルパーティー効果」と言います。このような特徴を持たせていると考えてもらえば、この機能が理解しやすいと思います。

*5:高精度の音源位置を測定できる遠隔音声認識技術は、2007年4月に発表している。音声合成に関しては、「ボイスソムリエ」という製品名で販売している。漢字カナ混じり文を入力するだけで、アクセントの付与や読み仮名判定を行い、自動的に正しい日本語を作成することができる。販売は、日立ビジネスソリューションが行っている。

さらに、障害物回避機能*6はEMIEWから継承した技術です。人のすれ違う行動パターンをロボットの移動制御に取り入れており、検出した人とEMIEW2がすれ違うタイミングでの位置を予測して回避ルートを決定しています。検出はレーザレーダで行っています。

*6:歩く人の間を縫って人混みの中を移動する障害物回避機能は、2006年9月に発表している。筑波大学と日立製作所との連携事業実施協定の一環として推進している坪内教授・油田教授らの研究グループと同社機械研究所との共同研究成果でもある。

このような高度な機能を達成するため、EMIEW2ではリモートブレインを採用しています*7。ロボット分野ではよく用いられている手法で、リアルタイム性が要求される処理は本体側で行い、それが要求されない処理は外部PCで担うというものです。
 EMIEW2では、センシングやモータ制御など10ms単位での処理が求められる機能は本体側で担い、音声認識や地図生成/位置認識など100ms単位での処理は、外部のPCにデータを送信して処理を行っています。
  このような知能化処理はより一層高度化して、CPUにかかる負荷の増大が予見されますので、今後の発展を考えると、外部PCとの役割分担を考えることは重要になると思います。

*7:外部PC側では、音声案内や進行管理に関する処理も担っている。進行管理とは、各ポイント間での移動経路の管理、最適なルートの決定などである。EMIEW2本体側とPC側で互いに状況を確認し、異常があれば停止するようになっている。
 なお、EMIEW2の制御には、商用のPOSIX準拠のUNIX系リアルタイムOS(RTOS)「QNX」を利用している。マイクロカーネルアーキテクチャを取っており、シンプルなプロセス間通信と高速なプ ロセススイッチによりリアルタイム制御を行う。

以上が、おもなEMIEW2の技術的なトピックスであり、冒頭で言いました、人と共存しサポートするロボットを追求した結果、搭載したものです。われわれが掲げる「人間共生ロボット」に一歩近づいたものになったと言えると思います。

まずはオフィス環境での自律移動を実現する

当社では、案内・巡回や搬送・管理、さらには生活支援の分野へのロボットの適用を視野に入れていますが、まずは実証フィールドとして、オフィス環境での受付・案内やセキュリティを目指しています。それが、これまでに紹介した特徴につながっています。

例えば受付・案内では、来客を受付から所定の場所まで案内させること、つまり、受付担当から面会者への引き継ぎのシーンでの利用を想定しています。受付でロボットに応対されるというのは、応対される側の慣れの問題あり、敷居が高いようにと思われます。ゆえに、このようなつなぎの場面のプロセスを担うことを考えています。
 最初は、限定されたプロセスのみを担うことになりますが、社内での実証を通じて、課題を抽出していきたいです。

EMIEW2による受付・案内の様子1(記者発表会より)。 EMIEW2による受付・案内の様子2(記者発表会より)。

EMIEW2による受付・案内の様子(記者発表会より)。


また、セキュリティについては、固定監視カメラで死角になるような個所の確認や、オフィス内の随時監視を想定しています。後者は、不審者がいるようなときのみ厳しく監視するというもので、オフィスワーカーに対して、固定カメラによる常時監視が与える心理的ストレスの緩和が期待されます。

最終的には、これらを含むビル内の新しいサービスの一部を担うことをイメージしています。当社グループ内には、総合的なビルソリューションやメンテナンスを手がける部署や関連会社がありますので、グループ全体として、こうしたプロセスに組み込むことを検討できればと考えています。

今のところ、このようなアプリケーションを考えていますが、より具体的なものは、実証を重ねていくうちに見えてくると考えています。したがって、そのベースとなるよう、まずはオフィスビル内での完全な自律移動を追求していくことに主眼を置いています。シーズ指向の開発と言えるでしょうが、これを達成しないことには、何も創出されないと考えていますので。
 今後、数年間をかけて技術的な実証を積み重ね、事業部側に提示できるようにしたいです。


掲載日:2008年2月19日

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