本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

スタートアップガイド

J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト

  • J-Net21とは
  • スタートアップガイド
中小機構
  • メルマガ登録
  • RSS一覧
  • お問い合わせ

HOME > 製品・技術を開発する > ロボ・ステーション

ロボ・ステーション


ロボットメーカーの開発戦略 次の一手はこれだ
ロボットを看護の現場に適用するためには、その文化を変えることが大切です【ダイヘン】

画像をクリックすると拡大表示します

笠上 文男本部長

笠上 文男 Fumio Kasagami

執行役員 事業開発推進本部長
1950年7月生まれ。1975年3月、大阪市立大学 工学部機械工学科卒業。1977年3月、同大学大学院 工学研究科前期博士課程修了。同年、ダイヘンに入社。アーク溶接ロボットの開発および開発管理に従事する。1991年4月、長崎大学大学院に入学。開発管理業務と並行して、産業用ロボットに関する制御法を研究する。1994年3月、長崎大学大学院 海洋生産科学研究科博士課程を修了する。1997年より、パーソナルロボットなど新分野における事業検討を開始し、各種ロボットを開発。2002年からは介護福祉ロボットの開発と事業化に従事する。また、2003年6月には同社執行役員に就任する。


高木 宏一郎氏

高木 宏一郎 Koichiro Takagi

事業開発推進本部
1971年4月生まれ。1995年3月、愛媛大学 工学部 電気電子工学科卒業。同年、ダイヘンに入社。配電自動化機器の開発設計に従事する。2002年度からは、事業開発推進本部にて生活支援ロボットに関するビジネス検討などに当たる。

ダイヘンは、「リングサーボ」をはじめとする独自のマニピュレーション技術を駆使して、患者移動支援ロボット「C-Pam」を開発した。ベッドからストレッチャーへの患者の移乗を安静かつ安全にでき、システムの完成度は非常に高い。にもかかわらず、病院での導入はあまり進んでいない。
 その普及に向け、現在、新たに取り組んでいる活動などついて、事業開発推進本部の笠上文男氏と高木宏一郎氏に語ってもらった。ロボットを非産業分野に適用するうえで、示唆に富む考えを提示してくれている。

産業用ロボットの技術を非産業分野へ生かす

当社は、30年ほど前から溶接ロボットをはじめとする各種産業機器の開発を手がけてきました。溶接ロボットを多く利用する自動車分野では24時間フル稼働することが求められますが、それを通じて、機器の信頼性に関するノウハウを蓄積してきました。また、アーク溶接の対象となる自動車部品の場合、溶接の品質を一定に保つためには、ワーク(加工物)を溶接ロボットの動きと同期させながら動作させることが求められます。このような制御を、一般に「協調制御」と言いますが、当社は「シンクロモーション制御」として世界に先駆けて開発しました。

このような高い信頼性とマニピュレーションに関する技術を身近な分野で生かしたい−−。そう考え始めたことが、非産業分野でのロボット開発を始めるきっかけになりました。

まず1999年には、吉本興業さんと共同で「お笑いロボット」を開発しました。北海道の「小樽よしもと」に設置したもので、多彩な演技力とギャグで笑いと安らぎを提供するロボットでした。また、身振り手振りによる楽しい案内をするマネキンタイプの「案内ロボット」も開発しました。

その後、2000年に日本ロボット工業会で介護・福祉ロボットに関する研究会が発足しますが、その参加を機に、その分野での応用を視野に入れたロボットの開発に取り組むことになります。2002年から東京大学大学院と患者移動支援装置の共同開発を始め、翌年にはC-Pamが完成します。その後、改良を重ね、小型化した現在の普及タイプを開発し、2004年10月より発売を開始しています。

看護の現場では、いまだに人手による重作業がなされています。特に、患者さんをベッドからベッドへ、またはストレッチャーからベッドへと移乗させる作業は、患者さんを落とさないように支えながら行うため、大変な労力を要します。そのために、看護師の多くが腰痛を経験していると言われています。少子高齢化が進む中、若い看護師がいなくなり、その負担がさらに大きくなることは必至です。したがって、彼らはメンタルケアに専念し、このような重作業はロボットに任せられる仕組みを用意してあげることが重要で、C-Pamはそれを可能にするシステムとして開発しています。

独特の構造とリングサーボによる安全・安静な移動

ひと口に患者さんの移乗と言っても、症状によっては姿勢を変えず、安静を保ちながら移乗させなければならない場合があります。C-Pamは、患者さんに肉体的な負担をほとんどかけずに、寝た状態のまま移乗することができます。これを可能にしている秘密は、その独特な構造と制御方式にあります。

C-Pamは、外周をエンドレスベルトが回転する機構を上下2段に重ねた4組のユニットから構成され*1、それらを身長方向に連結させています。片側から患者を移乗する片側タイプと、両側からの移乗ができる両側タイプの2種類があります*2。下部ベルトでC-Pam自身が自走しながら、上部ベルトを逆回転させることで、患者さんとC-Pam上面との水平方向の相対速度を生じさせずに患者さんの下に滑り込み、持ち上げることができます*3。そのため、 C-Pamを乗せたストレッチャーをベッドに横付けし、C-Pamがベッドへ移動しながら患者さんを乗せてストレッチャーに戻るという、ごく簡単な手順で移乗することができます。

*1:各ユニットに加わる荷重の比率を、成人男性を対象とした場合、東部:胸部:腰部:脚部=0.5:0.4:4.0:1.5という平均値を得ている。ここから、1個のユニットの搭載能力は40kgとし、駆動には20WのDCモータを採用し、また、ユニット間での同期連動動作により小型化を図っている。

*2:片側タイプおよび両側タイプそれぞれに専用のストレッチャーが用意されている。

*3:さらに説明すれば、リングサーボのネットワークにより上下2段の機構に組み込んだ、それぞれのモータを同期連動動作させているため、身体下部への安静な滑り込みを可能にしている。

片側タイプの「C-Pam s」 両側タイプの「C-Pam w」

片側タイプの「C-Pam s」と両側タイプの「C-Pam w」。両側タイプは、患者の移動に装置の両側が使え、また看護師が段取りを考える手間がないため運用が容易という特徴がある。

また、患者さんを移乗するロボットですので、安全には万全を期しています。
 モータ制御には、当社が独自に開発した「リングサーボ」を組み込んでいます。これは、産業用ロボットのモータ制御で使用されている位置制御以外に、一定トルクを出すトルク制御や一定速度で動作させる速度制御が行える制御方式です。作業内容や使用状況に応じて、それぞれの制御方式に自律的に切り替えることができます。常にモータの位置・速度・トルクの情報を送信でき、衣服を引っかけるといった異常を感知したときには、自動的に停止できるようにしています*4

*4:音声ガイドがあるため、看護師や要介護者が装置の動作を耳で確認することができる。また、2mのコード端にある操作ボックスは片手で扱うことができ、要介護者を介助しながら操作できる。

落下防止対策としては、本体下面の四隅に光学センサを組み込み、すき間を検出したときは自動停止し、検出した方向に動作しないようにしています。それ以前に、ベッドの下に入り込む薄い板状の構造になっているため、万一故障しても、患者さんを落下させるリスクはありません。

8個のDCモータを同期連動動作させることで、患者の下にスムーズに入り込むことができる。患者の姿勢が横向きでも、その状態を維持しながら安静な移乗ができる。

8個のDCモータを同期連動動作させることで、患者の下にスムーズに入り込むことができる。患者の姿勢が横向きでも、その状態を維持しながら安静な移乗ができる。


このように、スムーズかつ安全な移乗を可能にしていますが、実際の介護の現場では、それだけでは不十分であることに気付きました。例えば、人間の身体の柔らかさへの対応です。エアーマットで寝ている患者さんを移乗させる場合、身体がかなり深く沈み込んでいるため、その下部に滑り込むことは難しいです。C- Pamにはガイドを付けていますが、もう少し折れ曲がるようにするなど工夫が必要です。ただ、すべてのベッドや検査台に対応するというのは現実的ではないので、バリエーションを増やすことで対応できればと考えています

看護現場の文化を変えることが普及へのカギ

2004年7月から3カ月間にわたり、大阪府立急性期・総合医療センターにて、C-Pamの実用性に関する実証実験を実施しました。また併行して、関西地区を中心に35の病院に持ち込んでデモンストレーションを行いました。集中治療室や透析室、整形外科病棟など、さまざまな場所で実施しました。脳外科や心臓外科などで手術された患者さんには、末梢点滴など多数のチューブが付いていますが、これらを引っ張ることなく安静に移乗することができました。随所でC -Pamの必要性を実感していただくことができました。

しかし一方で、「患者さんの移乗に時間がかかる」「従来と同様、人の手で移乗させる方が一番効率的」といった声も多く寄せられました。また、患者さんのご家族の中には、C-Pamで移乗されるのを快く思わないようなコメントされる方もいました。そうしたこともあり、C-Pamの導入にはなかなか結びついていません。看護の現場では、良い装置があるからといって、そう簡単に使ってもらえるものではないということを痛感しました。

笠上 文男本部長

「新しい装置を病院や社会に提供するためには、それを利用する仕組みの変更も必要です。ですので、C-Pamと看護マットなどと組み合わせた移乗システムを構築することで、例えば、重病患者にはC-Pamが当然のように利用される仕組みをつくり上げたいです」と、話す笠上本部長。


高木 宏一郎氏

高木さんは、関西地区を中心に多くの病院にC-Pamを持ち込んでデモンストレーションを実施した。「ほとんど病院で患者の移乗作業に困っているようで、当社に声をかけて下さることが多いです。しかし、各病院それぞれの事情があって、なかなか購入には至っていません」と、普及への難しさを語る。


そこで、いまはC-Pamにより病院での看護作業をどのように変え、患者や看護師、病院にとって価値あるシステムをつくり出すことができるのか、ということに注力を置いています。つまり、患者さんの移乗には介護用マットなどが用いられていますが、これらとC-Pamを組み合わせた患者さんの移乗システムを構築し、例えば重病の患者には、当然のようにC-Pamが利用されるという仕組みをつくる、ということです。看護現場の“文化”を変えると言ってもよいでしょう。もちろん、当社だけでは不可能な作業ですので、そうした仕組みの開発や普及、営業や保守を含めた事業パートナーを模索しています。

C-Pamをもっとコンパクトに、もっとスピーディーに改良していくことは可能です。しかし、それだけでは世の中に役立つシステムには成り得ません。病院や事業パートナーと一体となって気長に、患者さんの移乗システムの構築に取り組んでいきたいです。これができてはじめてC-Pamの価値が生まれるはずでしょうから。

(取材&テキスト作成 村田 寛之)

企業データ

ダイヘン

〒532-8512 大阪市淀川区田川2-1-11

参考文献

1) 笠上文男:患者のベッド移動を楽にするための移動支援ロボット、ハートナーシング2006年12月号、pp.20-pp.24、第19巻、第12号、2006.

参考Webサイト

患者移動支援装置「C-Pam」専門サイト


掲載日:2007年10月 2日

前の記事次の記事


このページの先頭へ