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ロボ・ステーション


ロボットメーカーの開発戦略 次の一手はこれだ
ロボットへの取組みは、産業を次のレベルに引き上げる【トヨタ自動車】

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井川 正治専務取締役

井川 正治 Igawa Shoji

専務取締役
1975年、関西大学 大学院工学研究課 修士課程修了。同年、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。1997年に第1生技部 副部長、1999年に第1生技部長を経た後、2000年に生産管理部長に就任。2001年6月に取締役および貞宝工場長に、2005年6月より同職に就任する。2002年には型技術協会 会長を務めている。

パートナーロボットの発表以来、トヨタがロボットビジネスにどれほど力を入れようとしているのか、その動向に注目が集まっている。トヨタがパートナーロボットの開発に取り組む意味について、また、現在開発中のロボット技術について、専務取締役の井川正治氏に語ってもらった。

なお、本稿は「2005国際ロボット展」の基調講演「トヨタ パートナーロボット」をもとにまとめたものであり、一部講演内容と表現を変更している。

トヨタがロボット開発に取り組む意味

ここ数年、社会構造の変化に伴い、ニーズが多様化かつ高度化しています。つまり、「家事をもっと楽にこなしたい」「ゆとりのある暮らしを送りたい」といった家庭の要望に加え、「高齢社会を迎えながらも労働力を確保したい」「高いGDPを維持したい」という社会の要望が高まっていることです。従来機械ではこれらの解決は難しく、そこで、ロボットが有効な手段になると考えています。

旧UFJ総研が実施した「家庭内労働のロボットによる代替ニーズ」調査によると、食器・料理道具を拭くといった「食後の後片づけ」、風呂場を掃除したり整えたりする「掃除・後片づけ」、アイロンをかけるなどの「衣類等の洗濯」、調理済みの料理を温める「食事の準備」が上位に挙がっていました。家電製品の高度化では、これらを満足できないのは明らかです。

しかし、ロボットならどうでしょう。例えば、キッチンでの作業を検証してみると、食事の下こしらえや後片づけなど非創造的な家事はロボットに任せ、味付けなど創造的な家事を人間が行うことが想定できます。それだけでも食事の時間が長くなり、家族団らんの時間を確保できるはずです。

トヨタ パートナーロボット

これらのニーズを満足するためには、積極的な外国人の雇用の受け入れなど社会制度の変革なども必要でしょうが、トヨタはモノづくり企業なので、人と共生できるロボットの開発で寄与したいです。1980年代より脈々と取り組んできた産業用ロボットの制御技術に加え、クルマの運動制御技術を保有しており、これらを基盤にパートナーロボットづくりという夢に取り組みたいです。


トヨタのロボットは、目的に応じて腕、指、口を使って道具を用いることができる楽器演奏ロボットは、人工唇により演奏者の唇の振動を実現し、ロボットハンドにより楽器を操作する。

優しさと賢さを追求したロボットを

トヨタでは、パートナーロボットの開発において、人のような「身軽さ」、柔らかさをもつ「優しさ」、器用に道具を使いこなせる「賢さ」を兼ね備えることを重視しています。おもな適用分野として、アシスタントや福祉、製造、モビリティなどを考えています。また、ロボットに求められる機能は適用分野によってさまざまであり、それに適したカタチが必要です。そこで、「二足歩行型」「二輪走行型」「搭乗歩行型」の3タイプの開発を進めてきました。この多様さが、トヨタ・ロボットの大きな特徴の1つと言えます。

また、道具を使える点も大きな特徴です。人は目的に応じて、腕や指、口で道具を用います。しかも、優しくかつ繊細に使えます。このように、腕、指、口すべてを使うロボットとして開発したのが楽器演奏ロボットです。人工唇により演奏者の唇の振動を実現し、ロボットハンドにより楽器を操作します。電子楽譜に従って一連の動作を行うことで、トランペット演奏を可能にしました。そのほか、二輪走行技術は自動車のヨーレートセンサを応用して開発したジャイロセンサにより、二足歩行技術は、人が松葉杖をついて倒れを防止するように松葉杖をつく位置に脚を運ぶ制御技術により、それぞれ実現しました。2005年の「愛・地球博」を目標に据えていたので、トヨタグループおよび新規採用の技術者を100名程度招集して取り組みました。

なお、歩行搭乗型ロボット「i-foot」は、「ガンダム世代」と言われる若手技術者の発案により開発したものです。社内には安全面を危惧して反対の声が上がりましたが、「どうしてもつくりたい!」という本人の意志を尊重しました。アングラ開発だったことから、開発段階はこれを文字って「UG1号」(Under Ground)と呼んでいたようです。

現在は、これら以外にも開発を進めているロボット技術があります。1つは、人の作業や技術をアシストするウェアラブル・アシストシステムです。トヨタでは、2001年に世界で初めてインパネの搭載作業をアシストするシステムを開発し、わずかな力での搬送や所定の位置での停止動作を可能にしています。ただし、固定装置であるため移動範囲が狭く、搬送や搭載という特定作業しかアシストできませんでした。

開発中のシステムは、作業者が腕に装着して肘関節の動きをアシストします。肘関節の皮膚表面に貼り付けた筋電位センサで筋肉にかかる負荷を計測。作業者が肘を曲げようとしているのか、あるいは伸ばそうとしているのか、といった動作の意図を読み取ります。そして、これに応じたアシスト力をモータで発生するというものです。移動範囲に制限がなく、さまざまな作業をアシストできます。おもな用途には、インパクトレンチなど重い工具の位置決め動作など工場内での作業を考えているが、身障者を抱きかかえる動きなど生活面での利用も視野に入れています。

井川 正治専務取締役

もう1つは、ロボットを跳躍させる技術です。ロボットの運動性能を向上する一環として開発したもので、つま先関節を利用して跳躍力を発生します。約40mmの高さの跳躍を実現しています。また、ジョイスティックを使って、跳躍時にロボットの方向を自在に制御することもできます。現状では、片足のみの実現にとどまっていますが、この技術をパートナーロボットの運動性能の向上に役立てていきたいです。


安全規格を策定しない限りは、パートナーロボットの提供、市場の立ち上げは不可能と話す井川専務取締役。その重要性と早期の規格の策定を強調した。

計測技術と安全規格の確立を

今後、パートナーロボットの開発を進めていくに当たり、クリアしなければならない課題があります。1つは、計測技術の高度化です。すなわち、人の「カン」や「コツ」などを計測し、理論化することです。例えば「人間を掴む」というタスク1つをとっても、力を加え過ぎるとダメージを与えてしまうし、逆に、柔らかく力を加えると掴むことができません。非常に厄介な問題です。トヨタのようなモノづくり企業だけでは、到底扱えない課題です。このような問題では、大学などの研究機関で理論化を行い、トヨタなどのモノづくり企業がシステムとしてインテグレートするという役割分担ができればと思います。

もう1つの課題は、パートナーロボットの安全規格の策定です。「愛・地球博」などのイベントでロボットを公開していますが、本来なら来場者の方に「i-foot」に搭乗してもらい、その楽しさを実感してもらいたいと願っています。しかし、安全規格が整備されていない中では、来場者が乗り込んで操作を体験してもらうことができません。ましてや、販売することもできないので産業として成り立ちません。パートナーロボット市場を立ち上げるためには、これをクリアすることが重要です。

つま先関節を使って跳躍するロボット

わが国は、有数のロボット先進国であり、関連する特許の出願件数も圧倒的に多いです。ゆえに、パートナーロボット分野ではわが国がリーダーシップを発揮していくべきであり、産学協同で安全規格のガイドラインを定めていくべきでしょう。


2005国際ロボット展で公開した、つま先関節を使って跳躍するロボット。約40mmの高さまで跳躍ができる。

ロボットにより産業は次のレベルに向かう

パートナーロボットを発表して以来、『ロボット事業をどこまで拡大するのか?』と聞かれることがよくありますが、私が生きているうちに、パートナーロボッ ト市場そのものが大きくなるとは考えにくいです。ですので、現段階では具体的な目標などは立てていません。とはいえ、21世紀中には大きな産業になるでしょうし、わが国の産業を次のレベルに引き上げるモノづくりの1つだと捉えています。

また、パートナーロボットは、理科離れが進む子供たちに夢を提供することができ、科学技術立国・日本を盛り上げることにもなります。その開発が若者の夢であり続けるために、パートナーロボット事業の発展に努めていきたいです。

企業データ

トヨタ自動車

〒471-8571 愛知県豊田市トヨタ町1番地


掲載日:2007年8月 7日

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