J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト] > 経営課題を解決する > ものづくり・技術・開発 > ものづくりの原点
第83回
自社金型100%で日本のモノづくり力を強化[西尾精密]
独自の冷間圧造技術で難問に取り組む

ホーマーとヘッダーによる冷間圧造加工では、高精度な金型により切削加工をしないで、素材に対して「穴をあける」「絞る」「膨らめる」「切る」事ができる(毎分約60個)。
西尾精密(浜松市北区、西尾眞之社長、053-542-0624)がモノづくりの目標に掲げるのは「材料半分、コスト半分」だ。同社は高精度な自社製金型を使い、切削なしで複雑な形状に加工する独自の冷間圧造技術に特色を持つ。
冷間圧造は金属材料を常温で金型に入れ、絞り加工・据込み加工・孔明加工などの工程を用いて、金型の中で圧縮して必要な形状に高精度につくり上げる手法。切削しないギア類や、ヘッダーやホーマーで成形するカム類は、切削加工と比べ材料ロスを大幅低減できるメリットがある。
キーテクノロジーとなる金型の設計と製作は社員全員で手がけ、100%自社製を実現している。現在、ギア、カム類など自動車部品が売り上げの約6割を占め、同社には「他社ではできない」という難加工案件が次々と持ち込まれている。
原材料高が続く中、地球環境にもやさしく、低コスト、高品質を実現する同社の高度な技術は、大手自動車メーカーなどから高い評価を得ている。
産業発展へ、ものづくり学校を開校
「モノづくりの楽しさを伝え、日本の産業発展に貢献したい」。西尾眞之社長が理想実現のため、私財を投じて設立する「ものづくり学校」が今夏、浜松市北区に開校する。
この「ものづくり学校」は特定非営利活動法人(NPO法人)を設立して運営するもの。独自の冷間圧造技術や、金型製作の特許技術などを惜しみなく公開し、他社の技術者育成を支援する施設は全国でも珍しい。
ものづくり学校設立のため、浜松市北区の山間部にあるかやぶき屋根の古民家を購入した。講師は西尾社長や同社社員が務め、大企業の技術者や中小企業の後継者に製造技術や製造の管理手法を伝授する。
同施設はモノづくりの講座以外に、地元住民にも文化交流の場として解放し、環境保全活動の推進にも役立てたい考え。「若い経営者や技術者が将来を語り合えるような場にしたい」(西尾社長)と期待を寄せる。
外筒と内筒の間に金属帯を巻き付けた金型で特許出願
西尾精密は高度な金型製作技術を生かした「金型の新製法によるコスト削減および販路拡大」で、経済産業省の中小企業ものづくり高度化法の認定を受けた。
このテーマでポイントとなるダイスを外筒と内筒に分けた構造の金型は、ダイスが損耗した場合に部分交換で対応できるメリットがある。ただ従来は高圧をかける複雑なつくり方をしていたため、コストが高く、なかなか普及しなかった。
そこで同社では外筒と内筒の間に帯状の金属バネを多重に巻き付け、その外筒、内筒と金属バネのすき間を最小限に抑える独自の巻き方により、安定性と耐久性を高めた。使用するバネは厚いものでも可能で、これにより従来1カ月近くかかっていた納期は1、2日に短縮できるという。
現在、特許を出願中であり、今後は耐久性などデータ収集し、国内外へ販売していく計画。技術流出の懸念については「簡単にまねできないし、常に探求心を持って先へ進むから大丈夫」(同)と一蹴(いっしゅう)する。今後も自社技術の高度化へ突き進む構えだ。
掲載日:2008年5月15日