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5. 要求のハンドリングと在庫量
要求の実現速度は、自社のビジネスの実行速度に直結している。何であれ、要求をソフトウェア製品に変えるスピードは速いに越したことはない。
要求が明確でない状態でソフトウェアをいきなり作り出すことはない(実際には、要求がはっきりしていないにも関わらず、それらしいソフトウェアを開発・納品し、欠陥があると指摘されるプロジェクトは多いが)。まず、明確な要求(図3-6の「要求仕様」)ありきである。すなわち、要求は、品質の優れた要求であることが望まれる。
図3-6 要求仕様しかし、図3-6で示すように、要求の背後には要求をはるかに超える人間の「欲求(潜在する要求)」がある。すなわち、欲求が顕在化した要求に変わり、次々とこれまでの要求に追加が生じるのである。ビジネス領域によっても異なるが、一般に、要求はよく変化する。
すなわち、過去の要求も現在の要求も変化し陳腐化し、新たな要求に置き換わるのである。このため、タイミングよく要求を捉え、仕様化し製品に変え出荷/納品し、ビジネスサイクルを完結しなければならないのである。
この上手・下手は経営成果に直結する。したがって、これは、前節で取り上げた要求エンジニアリングに熟達し、自社のプロダクトとプロセスのエンジニアリングに円滑に結びつけることを意味する。
欲求・要求は無限である。したがって、ビジネス機会も無限である。要求をどのように捉えるかは自社のビジネス機会を決定づける。この意味で、要求のハンドリングに熟達することはビジネスの強い要請である。
多くのソフトウェア技術者は、顧客や商品企画部門が要求を明確にすると教えられ、顕在化した要求が来るまでただ待っていることが多い。工数ベースのソフトウェア技術者は、要求を明確にしなくとも無為に時間が過ぎるだけで収益につながるため、みずからあえて要求を明確にしなければならないという理由もない。早く明確にすれば、むしろ収益減につながる。
製品を生み出すことで始めて成果につながる通常のソフトウェア技術者は、要求の到着を待ってはならない。むしろ、みずから要求を生み出すことが必要である。ここにソフトウェア開発に伴う創造力発揮の機会がある。
図3-7 要求とビジネス機会自社に対し要求が多いことは望ましいことである。しかし、要求はすぐに陳腐化してしまう資産とされている。要求を製品に結びつけるハウ・プロセスがなければ、しかも必要な時期に形ある製品として送り出せなければ、組織は大きなムダを出し敗退する(図3-7)。
ソフトウェア技術者の時間が適時に活かされなければ、大きなムダになってしまうのと同じく、要求をタイミングよく製品化するプロダクトとプロセスのエンジニアリングを発達させなければ、要求が多いことも負担になるに過ぎない。
つまり、要求の在庫量は、プロダクトとプロセスのエンジニアリングの品質や速度と大きく関わっていることがわかる。ものづくりでのこの対処は、我が国の得意な、そして成果を獲得してきた分野である。
このように、要求が多くあることはビジネス機会が多いことといえよう。もしプロダクトとプロセスのエンジニアリングが優れていれば、さらに要求を取り込み製品に変えることも現実味を帯び、しかもソフトウェアビジネスを大きく転換させる契機を与えるであろう。
