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ものづくりの森


技能の森

新幹線の顔は匠の手づくり

新幹線の先頭車両は匠の手づくり
山下竜登社長(左)と

山下竜登社長(左)と"打ち出し板金の達人"国村次郎工場長

山下工業所は、ハンマーで金属の薄板をたたいて成形する「打ち出し板金」で他の追随を許さない独自技術をもつ。同技術でつくり出しているのは、日本が世界に誇る高速旅客鉄道車両「新幹線」の"おでこ"と呼ばれている先頭構体だ。従業員わずか35人の小さな工場では、国内最速となる時速320キロでの走行が可能な東北新幹線の次世代車両、E5系「はやぶさ」量産編成用の"おでこ"づくりが始まっている。今後8年間、E6系「こまち」などとともに連続生産の予定だ。

1964年に営業運転を開始した初代の0系以来、実験や試作を含め、歴代の主だった新幹線22種340両を超える"おでこ"が同社で打ち出しされてきた。自動車と同様に「最先端技術の結晶」と言われる新幹線。その顔が、熟練技能者の手作業でつくられてきたことはあまり知られていない。

低コストかつ柔軟な技術

打ち出し板金は、ハンマーを打ち下ろす位置と力の微妙な加減を自らの感覚で制御しながら美しい曲面をつくり出す

打ち出し板金は、ハンマーを打ち下ろす位置と力の微妙な加減を自らの感覚で制御しながら美しい曲面をつくり出す

打ち出し板金の最大のメリットは、専用金型が不要なため低コストかつ柔軟な対応ができるところにある。大規模な機械設備も要らない。 新幹線は、自動車や家電などの大量生産品とは異なり、一車種あたり数十編成程度の極少量生産品だ。特に先頭車両は一編成でも前後二両でとりわけ数が少ない。製造に自動化ラインや大規模な設備を使っていては採算が取れない。本格的な機械製造の場合、高価な切削加工機、プレス成形後のスプリングバック(変形された金属板が元の形状に戻ろうとする現象)を抑えるための熱処理施設、そして、製品ごとに上下何十組かのプレス金型が必要となる。一方、打ち出し加工の場合、「厚さ数ミリの板を人力主体で成形するため、機械加工に比べると、金属くずの発生量で何百分の一、電気代では何十分の一、といったレベル感での違いがあり、地球環境に大変優しい」(山下竜登社長)という。

柔軟対応できることも重要なポイントだ。日立製作所の鉄道車両製造拠点、笠戸事業所の協力工場である同社には「日立の技術者の方が朝みえて、夕方までにこう直してほしいという依頼が日常的にある」(山下社長)ため、急な要請にも、臨機応変に対応できる柔軟性は生命線とも言える。「もし機械に頼ったつくり方をしていたら、データの書き換えなど、加工に入る以前の段階で、どうしても準備作業が必要になってしまう。その点、手作業であれば、図面ひとつでなんとかなる」と人力に大きなメリットがあることを強調する。

打ち出し板金は、ハンマーでたたかれてへこんだ部分の周囲が、瞬時に盛り上がり、元に戻ろうとする力で曲面をつくる技だ。板は金属のかたまりでできた金床と呼ばれるフラットな作業台の上に置かれ、片手持ちの小型ハンマーで何度も叩いて曲げられる。技能者は、型板と呼ばれる補助具で曲がりの精度を何度も確認しながら調整作業を進めてゆく。ただ単にたたくのではない。金属板に対して常に狙った個所に垂直にハンマーを打ち下ろす。打ち下ろす時の微妙な力加減で複雑な曲面をつくり出す。まさに経験と勘だけで精度を出す「匠の技」だ。一人前になるには十年はかかるとされている

2008年に文部科学大臣より「現代の名工」として表彰された打ち出し板金の第一人者、国村次郎前第一工場工場長は、「45年間、打ち出し板金の仕事に携わってきたが、いまだに満足したことはない。ここをたたけば、こう曲がるという計算はできない。材料をセットしてボタンを押せば製品ができる世界とは違う」と板金加工の奥深さを語った。

山下社長は、打ち出し板金を「古典芸能に近い」と表現する。「あれこれ教えてもらって身に付くものではなく、基本はお弟子さんの独習。お師匠さんの動きをみて、自ら体を動かして身に付けるしかない。マニュアル化することができない。ゴルフで、ちょうど300ヤード飛ばす方法を教えられないのと同じ」と笑ってみせた。

固執は進化を妨げる

ただ、同社は"古典芸能"の打ち出し板金に固執しているわけではない。同社では、手作業での打ち出しよりも前の製造工程については、機械化を積極的に進めてきている。

例えば、定型サイズのアルミ板から部品を切り出す工程ではレーザー切断機を使用、直角曲げなどにはプレス機を使っている。また、粗押しと呼ばれる、おおまかな三次元曲面加工の工程には、上下運動するハンマーのついた汎用加工機を導入済みだ。「機械に置き換えできる作業はできる限り機械に任せ、それでもあぶり出てくる、どうしても人でなければつくれない部分や人がやったほうが効率的な部分に、技能者が注力できるようにしたい」(山下社長)という。

同社は、昨年、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の静粛型極超音速研究機主翼のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)成形用に大型の精密成形型を板金で製造した。これは、従来金属の塊などを削り出して製造されてきた成形型の製造に、打ち出し板金技術を適用した一例だ。また、従来温間成型でなければ加工が難しいとされてきたマグネシウム合金の圧延材を、打ち出して世界初のマグネシウム合金製バイオリンをつくり、秋の中小企業総合展で発表している。

「従来、企画や設計の段階で、あきらめられていた三次元曲面のある単品、少量の金属製品の成形に、打ち出し板金が有効であることがわかってきた。新幹線の"おでこ"だけでなく、これまで、手がけたことのない分野の新製品、新しい素材の成形にも、積極的に挑戦してゆく」(山下社長)予定だ。

データ

会社名 株式会社 山下工業所
所在地 山口県下松市東海岸通り1-27
電話 0833-41-3333

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