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HOME > 製品・技術を開発する > 飲食品でヒット商品をつくる

飲食品でヒット商品をつくる


「あの人気商品はこうして開発された」
「具のソース」-若い主婦の“3つのLESS”に応える付加価値の高いソースをつくりたい
2010年、「具のソース」がキューピーから発売された。具材がたっぷり入った万能ソースだが、それは現代の若い主婦層のニーズに応えた商品開発だった。

2010年に発売されたキユーピーの「具のソース」は、商品開発に主婦の感覚を鋭く反映させる女性担当者の発想と熱情から誕生した。具のソースは、文字どおり万能ソースとしての強みを発揮してどんどん市場を広げている。限られた時間の中で手早く、しかもおいしく仕上げて食卓に豊かさをもたらす調理素材だ。

開発のきっかけは「こんな調味料があればいいな」という素朴な願い。そんななにげない思いがヒット商品を生み出した。

「手づくり感」に価格以上の価値がある

近年、業務用に開発された商品が家庭用につくり変えられ、ヒット商品となるケースが増えている。業務用商品には一般商品としてヒットするヒントが隠されているともいえよう。キユーピーのヒット商品「具のソース」もその系譜に属す。なぜなら、商品化の発端は、業務用商品である「具沢山ソース」にあったからだ。

あるとき、キユーピーの業務用商品の担当部署に外食産業の某ユーザーから要望が寄せられた。

「もっと具だくさんのフィリング(菓子やパンの具材)がほしい」

その要望に応えようと、ザクザクに刻んだ野菜などをたっぷり入れたソースをハンバーガー向けのPB商品(プライベート・ブランド商品)として供給した。さらにそれは2006年に業務用商品「具沢山ソース」として発売された。

あるとき、その「具沢山ソース」をスーパーの売場で白身魚のフライや鶏から揚げなどの惣菜にかけて売ってみた。すると、それらの惣菜の売り上げは通常の2倍以上にも伸びたという。

「主婦の本音がにじみ出ている」と開発者の渡辺智子さん(商品開発本部フードサービス開発部)が評する「具のソース」

「主婦の本音がにじみ出ている」と開発者の渡辺智子さん(商品開発本部フードサービス開発部)が評する「具のソース」

家庭用商品である「具のソース」の開発を手がけた商品開発本部フードサービス開発部の渡辺智子さんは当時を振り返る。

 「これはすごい!と思いました。『具沢山ソース』をかけたので販売価格も少しだけ上がりましたが、それはお客さまにとってたいした問題ではなかった。むしろ、彩りや手づくり感が価格以上の価値としてお客さまのニーズをとらえている。中食でこれだけの反応があるならば、内食(家庭用)でも可能性があるのではないか。そうした読みから『具のソース』の開発を始めました」

とはいえ、開発を具体的にスタートさせた08年当時、「具」を前面に押し出したソース商品はまだ世の中になかった。また、ソース以外の食品でも「具だくさん」が商品の特性として訴求されるのはしばらくあとのことであり、当時の消費市場には具がたくさん入っているという付加価値への認識はほとんどなかったのだ。

この商品を開発したのはきっと女性に違いない

そんな世間の状況だったが、具だくさんという付加価値をどう訴求するかに心血を注いだ。そして、あれこれ頭をひねりながらたどりついた結論が、調理時の主婦のニーズである3つのLESSへの対応だった。その3つのLESSとは-。

まずはタイムレス(Time less)。幼児をかかえながら仕事をしたり、自分の時間をもっと大切にしたいと考えている若い主婦は常日ごろ、なんとか手早く料理を仕上げたいと考えている。つまり調理時間の短縮を意味するタイムレス

つぎにスキルレス(Skill less)。最近は包丁やまな板を使わない若い主婦が増えている。野菜でもなんでも、もっぱら調理はさみでカットする。調理技術に乏しくても、それなりに調理してしまう方法を調理専門家も推奨する。つまり、調理には可能な限り簡便化が求められるスキルレスの時代なのだ。

そして最後はストレスレス(Stress less)。育児や仕事で忙しいのに毎日メニューを考えるのは辛い。さらには、メニューを考えるだけでストレスになる。そのためメニューを考えるストレスの軽減(ストレスレス)を求める声が少なくない。

特別な調理技術がなくても、手づくり感があって簡便におかずをつくれるソース。それを目指してキユーピーは「具のソース」を開発した

特別な調理技術がなくても、手づくり感があって簡便におかずをつくれるソース。それを目指してキユーピーは「具のソース」を開発した

 「調理時間がなくても、特別な調理技術がなくても、あっという間に立派な一品ができるのなら、忙しい主婦を応援できるのではないか」(渡辺さん)

そう考えて3つのLESSへの対応をコンセプトにして商品開発を始めた。実際、渡辺さん自身も日々仕事に打ち込みながら主婦業も巧みにこなしている。その切実な現実感も商品コンセプトを強固なものへとしていった。

 「女性誌の取材をお受けしたとき、ご担当の女性記者からこう言われました。『取材する前からこの商品を開発したのはきっと女性に違いないと思っていた』と。やはりわかるのですね、開発したのが女性だと。なぜなら、この商品は主婦の“本音”がにじみ出ているからですかね」と、渡辺さんは明るく笑う。

課題は長期保存と具材のコントロール

コンセプトが固まりいよいよ商品づくりが始まった。が、ここからいくつかの課題を乗り越えなければならなかった。特に常温での長期保存と具材のコントロールが大きな課題だった。

例えば、業務用商品は冷蔵状態で流通・保管され、調理もプロがするため商品としての管理上の対応事項が少ない。それに対して家庭用商品は常温で流通させなければならず、調理する主婦も千差万別のため品質保持には一層の神経を遣わなければならない。そのため常温で長期保存できるような商品設計が求められた。ただし、単に長期保存できる設計にすればいいわけではなく、当然、味とのバランスを図らなければならない。

「たくさん食べていただくためには、商品の味は極力マイルドにしなければなりません。味が濃すぎてしまうとたくさん食べられないからです。ところが、開発しようとした商品はソースであり、長期で常温保存させるためには塩味や酸味など味を濃くしなければなりません」

食べやすくするためにはマイルドな味が優先され、長期保存のためには塩味や酸味がそれなりに強く利いた塩辛く濃い味が優先されるが、それらを同時に解決しなければ常温での長期保存は実現できない。それはまさに、食べやすい味と長期保存(品質保持)の両方を同時に解決するという二律背反への挑戦だった。

 「まだ味が濃すぎる。これでは食べられない」(開発部)

 「いや、これ以上味を薄めると、品質保持が保証できなくなる」(研究所)

そんな侃々諤々の応酬を経ながら、最終的には長年にわたるドレッシング開発で蓄積されたノウハウ「味のマスキング技術」によって解決への道を見出した。マスキングとは、塩味、酸味などさまざまな味覚の組合せにより味の感じ方をコントロールする手法。品質保持に必要な塩分や酸の値とマイルドな味を実現するための低塩・低酸のバランスをどこに求めるのかを追求し、マスキングによって濃い味でも旨味を適度に加えることによってそれを和らげられることを導き出した。

2010年春に「具のソース」として「ポン酢風味大根おろし」(左)と「野菜とごま味のキムチ風味」(右)、「卵と野菜のタルタル」の3種類が発売された

2010年春に「具のソース」として「ポン酢風味大根おろし」(左)と「野菜とごま味のキムチ風味」(右)、「卵と野菜のタルタル」の3種類が発売された

具材のコントロールも大きな課題だった。具が豊富であるという食感を訴求するために多くの具材を原料としているが、具材の大きさと中身の均一性が問題となった。というのも、内容量の50%を具材にしたうえ、さらに具材によっては容器の注ぎ口の口径とほぼ同じ大きさにしたため、使うときには具材の目詰まりが起こり、さらに保管していると重力によって容器の中の具材が底へと沈殿してしまうのだ。

この課題の解決でも研究所に蓄積されてきた技術が活かされた。物性を管理する技術を駆使し、食感のある具材の大きさにしながらも、具材が容器の底に沈殿しないようなソースの粘度を徹底的に追求した結果、ソースに入れる具材の大きさとソースの粘度との絶妙なバランスを探し得た。

常温での長期保存と具材のコントロールという大きな課題に対して100種前後の試作を繰り返した渡辺さんは、「周囲から鬼とまでいわれました(苦笑)」と述壊するほど納得するまで自らに妥協を許さなかった。

まったく新しい概念の商品だから使い方も提案する

2010年春、それまでの市場にはなかったまったく新しい概念の万能ソース「具のソース」が発売された。新しい商品カテゴリーのため、それを消費者にどう認知してもらい、どう使ってもらうかにも苦心した。

 「新しい商品として店頭でお客さまの目にとまっても、それがどのように使えるのかがすぐに理解できなければいけません。おめかしメニューではなく、家庭にある日常的な食材に使え、すぐに思い描けるようとパッケージにメニュー提案をしましました」

例えば、「チキンカツやとんかつ、コロッケにかけてボリューム満点ミックスフライ」「パンに塗って、チーズをのせて焼いてピザトースト」「お湯を注いで具だくさんミネストローネ」といった具体的なメニューが提案されている。

2010年秋に「肉味噌風そぼろ」(左)、2011年夏には「トマトと野菜のタルタル」(右)が発売され、「具のソース」のラインナップは5種類になった

2010年秋に「肉味噌風そぼろ」(左)、2011年夏には「トマトと野菜のタルタル」(右)が発売され、「具のソース」のラインナップは5種類になった

「具のソース」は、10年春の発売時に「卵と野菜のタルタル」「ポン酢風味大根おろし」「野菜とごま味のキムチ風味」の3品、同年秋には「肉味噌風そぼろ」、さらに11年8月に「トマトと野菜のタルタル」を加え、現在はシリーズとして5品を展開している。

発売当初、社内の一部には既存商品とのカニバリズムを懸念する声もあがったが、蓋を開けてみるとカニバリどころかシナジーが創出され、両者とも好調に売り上げを伸ばした。また、初年度は計画を上回り、食品のヒット商品の目安とされる10億円を突破、翌年度は震災の影響で出荷に変調をきたしたにもかかわらず手堅く前年比横ばいで推移した。

既述の3つのLESSにも示されるよう、当初のメインターゲット層は20-30代の女性だったが、いまでは50-60代のベテラン主婦層にも販売のすそ野を広げている。文字どおり「万能ソース」としての強みを発揮し、市場拡大にまい進している。

企業データ
キユーピー株式会社
代表取締役社長 三宅峰三郎
東京都渋谷区渋谷1-4-13
掲載日:2012年4月10日


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