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飲食品でヒット商品をつくる


「あの人気商品はこうして開発された」
「ヱビスビール」-じっくり熟成させたコクの深い国産ビールをつくろう
明治23年、ヱビスビールが発売された。発売から122年の長きにわたりブランド力を保持する飲料は日本にほとんどない。コクの深い本格ビールをつくる。その情熱がロングセラーの原点だった。

夏目漱石の短編「二百十日」の1コマ。

-阿蘇を旅する二人が鄙(ひな)びた旅館に投宿、いささか気の利かない「下女」とのあいだでユーモラスな会話がかわされる。
「姉さん、ビールも序でに持ってくるんだ。玉子とビールだ。分ったろうね」
「ビールは御座りまっせん」
「ビールがない?」(中略)
「ビールは御座りませんばってん、恵比寿なら御座ります」

恵比寿はもちろん、ヱビスビール(当時は「恵比寿ビール」)のこと。漱石が熊本の旧制第五高等学校に赴任したのは明治29年で、4年余の熊本生活を送った。この間に阿蘇を旅しており、この短編はそれを下敷きにしている。このころすでに、ヱビスビールは阿蘇の旅館にも浸透していたことを示している。

122年の長きにわたるブランド力

1890(明治23)年、ヱビスビールが日本麦酒醸造會社から発売された。ブランド名は、商売繁盛の神「恵比寿」にちなみ命名された

1890(明治23)年、ヱビスビールが日本麦酒醸造會社から発売された。ブランド名は、商売繁盛の神「恵比寿」にちなみ命名された

ヱビスビールの発売は1890(明治23)年。サッポロビールの前身・日本麦酒醸造會社が87(明治20)年に設立されて3年後のことだった。本格的なビールをつくろうと、ドイツ人技師カール・カイザーを招聘して醸造が始まった。以来122年、これほど長きにわたってブランド力を保っている飲料は日本にほとんどない。

ブランド名のヱビスは、商売繁盛の神として信仰される七福神の一神、恵比寿にちなむ。しかもこのブランドは、1901年に開設された貨物(恵比寿ビール)の専用駅「恵比寿停車場」およびに旅客駅の「恵比寿駅」(06年開設)、さらには28(昭和3)年に伊達跡(伊予宇和島藩伊達屋敷のあった一帯)の地名から改称された「恵比寿通1、2丁目」といったように、自らの商品名が駅名、地名へと広がった稀有な経歴をもつ。

ラベルには明治時代の発売当初から「YEBISU-BEER」と表記された。最初の1文字は「E」ではなく「YE」だ。現代では日本語の発音が曖昧になってしまったが、厳密にいえば恵比寿の「恵」は本来「ア行」ではなく「ヤ行」。通貨の円を「YEN」と発音し、日本銀行発行の札に「YEN」と表記しているのと同じだ。だから、ヱビスビールはいまも「YE」に対応したカタカナ表記として「ヱ」の文字を踏襲している。

日本初のビアホールを開店

1899年8月4日、日本初のビアホール「恵比寿ビヤホール」が開設。ヱビスビールの製造会社社長・馬越恭平翁のアイデアから建てられた

1899年8月4日、日本初のビアホール「恵比寿ビヤホール」が開設。ヱビスビールの製造会社社長・馬越恭平翁のアイデアから建てられた

日本麦酒醸造は、ドイツ人技術者の手による上質のビールを醸造し、商売繁盛をあてこんだブランド名でその真価を世に問うた。発売当初のヱビスビールは売上も好調だったが、やがて不況の余波を受けて苦境に立たされる。それは経営危機までささやかれるありさまで、三井物産の専務委員だった馬越恭平が1891年に再建役として送り込まれた。

馬越翁は容赦なく大なたをふるって会社経営を合理化し、アイデアマンとしての才腕を縦横無尽に駆使して市場開拓を進めた。ちなみに1899年8月4日に新橋際(現在の東京・銀座八丁目)に「恵比寿ビヤホール」を開設したのも馬越翁であり、これは日本最初のビアホールだったことから、いまでも8月4日はビアホールの日とされている。

その後、ヱビスビールは1900年にパリ万博で金賞、04(明治37)年に米国セントルイス博でグランプリを受賞するなどますます声価を高める一方、日本麦酒(1893年に日本麦酒醸造から社名変更)の事業も順風満帆に拡大していった。

ところが、昭和の時代に入り戦火が激しくなり始めた43(昭和18)年、ビールの配給制が敷かれ、すべてのビールの商標が「麦酒」に統一されてヱビスビールのブランドも市場からいったん消滅した。

この配給制は第2次世界大戦後もしばらく続く。黒沢明監督の往年の名作「野良犬」(1949年作品)をご覧になった人ならこんなシーンを憶えているだろう。それについて評論家の川本三郎氏が書籍(「ヱビス本」、枻出版社)でこう紹介している。

「先輩刑事の志村喬が後輩の三船敏郎を『配給のビールがあるのを思い出してね』と自宅に誘う」

ヱビスビール、復活

ビールの配給制は解けても、ヱビスビールはなおしばらく姿を消したままの状態が続く。が、戦前の芳醇な味わいを記憶している人は多く、その復活を待ち望む声が頻々とあがる。それに応え、内多蔵人社長(当時)の号令一下ようやく復活を果たしたのが、高度経済成長のまっただ中である71(昭和46)年のことだった。

当時のビール価格は大びん1本140円。その市場にヱビスビールは150円で挑んだが、ビール好きの消費者はその味に唸った。広告のコピーもストレートに「名品。いま、よみがえる。特製ヱビスビール」。72年、当時としては大ヒットの200万箱を売り上げた。

「名品。いま、よみがえる。特製ヱビスビール」-1972年に復活したヱビスビールは大人気を博し、200万箱を売り上げた

「名品。いま、よみがえる。特製ヱビスビール」-1972年に復活したヱビスビールは大人気を博し、200万箱を売り上げた

サッポロビール営業本部ヱビスブランド戦略部課長代理の上田啓二さんは語る。

「ヱビスビールがなぜこれほども長期にわたって支持され続けてきたかというと、ビール本来の醸造方法や醸造技術を醸造技術者たちがしっかりと継承し、さらにその時代にあったプロモーションを展開してきているからです」

ヱビスビールの製法は「熟成」に特徴がある。ビールは熟成期間を長くすることによって味が純化され、コクがより深まっていく。通常のビールの熟成期間が1カ月前後であるのに対し、ヱビスビールはその約1.5倍の期間を要して熟成させる。それゆえか、88年には人気グルメ漫画「美味しんぼ」で取り上げられ、「麦芽100%のヱビスこそが本物のビール。副原料を使うビールは本当のビールではない」と賞賛された。

72年の復活発売ではびんと缶の容器で商品をリリースした。ラベル上方には文字どおりえびす顔の恵比寿さまの絵、中央に「YEBISU」のロゴをあしらう。このパッケージデザインは91年にリファインして以降、部分修正をのぞけばほとんど変えていない。

そうした本物志向の醸造技術と巧みなプロモーションにより、ヱビスビールは揺るぎない評価を得て着実に売上げを伸ばし、国内のビール市場全体が漸減傾向にあるなか、着実に上昇歩調を維持してきている。

日本のビール文化を豊かにしたい

ただ、近年は消費者の可処分所得の低下によりビールを飲むシーンが変化している。特にプレミアムビールと称される商品群は特徴的だ。御多分のもれず、ヱビスビールも年末年始や祝いごとにしか飲まないという消費者も少なくない。それに対して「本当におめでたいときにしか飲まないというような特別なビールではないのです」と上田さんは続ける。

「日常のさまざまなシーンでちょっといいことがあったときには“ヱビス”といっていただける、人と人とのささやかな幸せの中にあるビールであってほしいのです。これまで120年以上守り続けてきた価値を大切にしながら、少しでも気軽に楽しくヱビス顔で飲んでいただけるビールであってほしいと思います」

2006年の「琥珀ヱビス」(左)、2009年の「シルクヱビス」とヱビスブランドのラインナップ商品をつぎつぎと展開

2006年の「琥珀ヱビス」(左)、2009年の「シルクヱビス」とヱビスブランドのラインナップ商品をつぎつぎと展開

その思いから展開しているのが、「日本のビール文化を豊かにして、お客さまによろこんでもらう」(上田さん)という取組みだ。2006年から始めたブランド派生商品がそれで、世界のビールの特徴を取り入れた新しいヱビスブランドを提供している。

このブランドラインナップ商品の皮切りとして06年秋に「琥珀ヱビス」を発売した。「琥珀ヱビス」は、ローストした麦芽(クリスタル麦芽)をヱビスビールに配合して味わいに深みを増した。同年の11月から12月にかけて販売する期間限定の予定だったが、人気が高かったためにその後も毎年期間限定で発売している。

07年には「ヱビス<ザ・ホップ>」を通年商品として発売し、09年には「シルクヱビス」を期間限定商品として発売したように、着実にブランドのラインナップを増やしている。

超長期熟成に挑戦する

2012年春、「ヱビス<ザ・ホップ>」を数量限定で発売。東日本大震災の影響で製造中止していたヱビスブランドのラインナップ商品が1つ戻ってくる

2012年春、「ヱビス<ザ・ホップ>」を数量限定で発売。東日本大震災の影響で製造中止していたヱビスブランドのラインナップ商品が1つ戻ってくる

また、07年の「ヱビス<ザ・ホップ>」は11年の東日本大震災の影響から製造を中止していたが、今春に多くの愛飲者のリクエストに応え、数量限定でアンコール発売する。最高峰品種のチェコ産ファインアロマホップとチェコ政府認証の希少な「エリートザーツのホップ」を用い、ホップのさわやかな香りが特徴のビールに仕上がっている。

さらに今年末には画期的なビールを売り出す予定だ。その新商品は、発売を1年前から予告する異例のビール。なぜ1年前から発売を予告するかといえば、熟成期間がなんと1年という商品だから。前述のように、ビールは熟成期間を長くすることで味わいに深みを増すことができ、この新商品もその熟成を徹底的に追求しているのである。

この超長期熟成の新ビールは、Webサイトだけで販売される予定であり、とりあえず5000本の製造を予定している。「とりあえず」というのも、これだけの熟成期間をかけるのは初めてであり、実際に何本が商品化できるかが現時点で厳密に予測できないからだ。それだけアグレッシブな商品なのである。

「120年余の歴史を経た現在でも、ヱビスビールを主軸にヱビスブランドを展開していくというのが基本的な考え方です。ブランドラインナップ商品を通じてヱビスビールを中心にブランド全体を盛り上げ、ビール文化そのものを豊かにしていきたいですね」(上田さん)

ブランドラインナップ商品によりたゆまず市場のトレンドを探り、同時並行でブランドラインナップ商品を介して市場に世界のさまざまなビール文化を発信しながらヱビスビールのブランド価値をさらに高める。ヱビスビールのブランド戦略は絶え間なく続くのである。

企業データ
サッポロビール株式会社
代表取締役社長 寺坂史明
東京都渋谷区恵比寿4-20-1
掲載日:2012年3月13日


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