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飲食品でヒット商品をつくる


「あの人気商品はこうして開発された!」
「辛そうで辛くない少し辛いラー油」―ラー油市場に一大変革を巻き起こした
桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が発売以来、爆発的にヒットしている。店頭では常に品薄のため、買いに行ってもなかなかお目にかかれない。この状況が続けば、近い将来、「伝説的ヒット商品」と称されそうだ。
その未来の伝説的ヒット商品の誕生物語を紹介しよう。

瓶詰食品のトップメーカー・桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が爆発的ヒットを記録している。2009年8月の発売以来、いまでも店頭でめったに入手できない品薄状態が続く。発売してから1年半超もの間、店頭で商品を購入しづらいのだから、近い将来、伝説的ヒット商品と呼ばれることは間違いないだろう。

ところで、その未来の伝説的ヒット商品はどのように生み出されたのだろうか-。

独特のユーモアーを持つ企業

1950(昭和25)年に発売された「江戸むらさき」。戦後初の桃屋の新商品が江戸むらさきだった

1950(昭和25)年に発売された「江戸むらさき」。戦後初の桃屋の新商品が江戸むらさきだった

桃屋は年商130~140億円ほどの中堅食品メーカー。創業は1920(大正9)年に遡る。そして50(昭和25)年に海苔佃煮「江戸むらさき」を発売し、その3年後に人気喜劇俳優の三木のり平を新聞広告に起用した頃から“全国区”のメーカーとして知られるようになった。さらに58年からはアニメCMも始め、「国定忠治篇」のCMが大人気となると、江戸むらさきの売上げも急伸していった。

桃屋の商品はCMもさることながら、卓抜したネーミングにも定評がある。「おもしろネーミングの元祖的企業」ともいわれ、73年発売の「江戸むらさき ごはんですよ!」などはその典型だ。いまでもほとんどの人が聞いただけで海苔の佃煮を連想できる。ことほどさようにインパクトのあるネーミングの商品展開を得意とする、独特のユーモアーを持ち合わせた企業だ。

人気喜劇俳優の三木のり平を起用して宣伝を展開。桃屋は“全国区”のメーカーとして知られるようになる(写真は昭和28年、三木のり平直筆のイラストによる広告)

人気喜劇俳優の三木のり平を起用して宣伝を展開。桃屋は“全国区”のメーカーとして知られるようになる(写真は昭和28年、三木のり平直筆のイラストによる広告)

その桃屋が瓶詰の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」を発売したのが、暑いさかりの2009年8月だった。この新商品はたちまち市場で火がつき、あっという間に全国へ広がっていった。

「当初、これほど多くのお客さまに支持されるとは誰も予想しませんでした」

営業企画室の森本豊彦さんは発売当時の驚きをそう振り返る。というのも、かつて発売した新分野の調味料「キムチの素」(75年)や「つゆ」(76年)などは、数年を要して市場に定着させ、ブランドとして育成してきた。その経験から新商品の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」も、数年間かけてじっくりとブランド育成するつもりでいた。が、その予測に反して発売後またたく間にヒット商品に名を連ねていったのだ。

具材を食べるラー油

1975年に「キムチの素」を発売。桃屋の辛味調味料の走り的存在だ

1975年に「キムチの素」を発売。桃屋の辛味調味料の走り的存在だ

ラー油は漢字で「辣油」と書き、“辣”は「辣腕」「辛辣」「悪辣」などの言葉から推測できるように、「針や刃物で刺すように辛い」「激しい」「むごい」などの意味がある(「大漢語林」「角川新字源」)。

本来、ラー油は中華料理(特に四川料理)で用いられる辛味調味料で、日本ではギョーザのタレの調味料などとして広く認知されている。

中国・四川省のレストランではたいていラー油の容器が卓上に置かれている。そして容器の底には細かく刻んだ唐辛子などが沈んでおり、口中に含むと脳天を突き抜けるような劇烈な辛さに見舞われる。

それに比べると日本のラー油の辛みは格段にやさしい。また、唐辛子など細かく刻まれた辛味材料は容器の底に沈んでおらず、油分だけというのが日本人のラー油に対する共通認識だろう。

ところが2000年代に入ると、具材がたっぷり入ったラー油が日本でも注目されるようになった。辛さはさほどではないが、油分だけではない具材入りのラー油である。それは沖縄系ラー油と呼ばれ、調味料としてよりも、具材を食べることを目的としたラー油だった。やがて旅行人口の増加と旨いもの発掘ブームの拡大により、「石垣島ラー油」や「くめじまラー油」など沖縄系ラー油が全国で脚光を浴びるようになっていった。

商品化の条件は十分に揃った

油分だけのラー油から具材入りラー油へ。日本人の辛味に対するニーズは変化している。桃屋もこの傾向を把握していた。日本人の辛味への嗜好が高くなっている、と。が、一方で健康への関心から人々の味覚は薄味、減塩へ傾斜していることも捉えていた。辛味とは逆の方向だ。

しかし、人間の嗜好は複雑なもので、薄味、減塩に傾きながらもときにはパンチのある味を求める。しかも、食べるならさまざまな食材を辛い味で楽しみたい、また、手軽に調理したい。そんなニーズも潜在的にあるはずだ。そう読んだ桃屋は「いままでになく、しかも辛いだけでなく素材のおいしさを引き立てる応用力のある商品」の開発を考えた。

「穂先メンマ やわらぎ」(87年)など桃屋は唐辛子を用いた商品を多数開発してきた。それによる商品開発のノウハウが後の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」にも活かされた

「穂先メンマ やわらぎ」(87年)など桃屋は唐辛子を用いた商品を多数開発してきた。それによる商品開発のノウハウが後の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」にも活かされた

また、ちょうどそのころ、国内では長期不況による節約志向の結果、外食の機会が減るとともに内食化が進んでいた。いわゆる「家メシ」「家呑み」の増加だ。その現象にも桃屋は着目していた。森本さんは説明する。

「外食の機会が多かった人、つまり調理技術を持たない人は、家で簡単に食事することを模索しているとの仮説を立てました。『おとなのねこまんま』という本が売れたように、“のっけ飯ブーム”“卵かけごはんブーム”といったオンザライスを見直そうという機運があったからです」

内食化は当分続く。しかも簡便で応用力のある食品が求められる。それを辛味商品で提供する。桃屋はかつて「キムチの素」、「穂先メンマ やわらぎ」(87年)など唐辛子を使った商品を多く手がけている。それによって原料調達や素材開発のノウハウを蓄積している。さらに、辛味ブームも一過性ではなく定着してきている。商品化の条件は十分だ。そう判断した桃屋は、新しい辛味商品の開発に踏み切った。 

ネーミングに込めた味の秘密

商品コンセプトである「いままでになく、しかも辛いだけでなく素材のおいしさを引き立てる応用力のある商品」を実現すべく、ラー油をベースにした商品開発に着手した。具材を食べるラー油。沖縄系ラー油によって国内で認知され始めたが、その中にあって桃屋はオリジナリティの強い商品を志向した。そこで味の決め手にしたのが揚げたニンニク(フライドガーリック)だった。このフライドガーリックは数年前から同社が研究に研究を重ねた技術で、豊かな香りと食感を生み出す。消費者に“食べる”ということを意識させ、また、調味用具材としてもさまざまに応用できることを訴求する。これによって商品コンセプトを的確に表現できる。

が、オリジナルな風味と食感を表現するのにフライドガーリックは最適だが、瓶に詰めたあとも香りと食感を長期間維持させるのは容易なことではない。試作に試作を重ね、数年を費やしてこれを実現する加工法を完成させた。

また、食感とうま味の他に辛さの調整にも苦労した。辛さの好みは個人ごとに異なるため、幅広く受け入れられるように「少し辛い」というレベルの辛さに的を絞った。

この少し辛いという味と品質を保つため、ベースとなるラー油は、厳選した菜種油とごま油、そして色合いのいい粗挽き唐辛子を用いて桃屋が自ら抽出した。

ただ辛いだけでなく素材のおいしさを引き立てる、そのコンセプトに基づいて開発された「辛そうで辛くない少し辛いラー油」。そのネーミングは“おもしろネーミングの元祖的企業”を地で行っている。もってまわったような表現のブランドネームにも思えるが、インパクトはネーミングに十分表れている。

が、このネーミングにはおもしろさやインパクトだけではなく、実は桃屋のメッセージが込められている。見た目は真っ赤で辛そうだが、食べてみるとそれほど辛くない。が、少しだけ辛い。そしてその秘密が、フライドガーリックや自社で抽出するラー油など、こだわりの食材を絶妙なバランスで仕上げていることにある。その味の秘密をネーミングに込めて表現した。辛さに対する消費者の嗜好を巧妙に突いた表現でもあったのだろう。

巧みなウェブ活用で展開した販売戦略

消費者自らがレシピを考えられる“応用力”が、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」の特徴だ

消費者自らがレシピを考えられる“応用力”が、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」の特徴だ

09年8月、桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が発売された。

瓶詰商品のため中身が見える。具材がたくさん入っている。ラー油なので辛いだろう。が、パッケージをみると“少し辛い”と書いてある。辛いのが苦手な人でも大丈夫かな?食べてみる。フライドガーリックやフライドオニオンが香ばしくて美味。サクサクッとした食感もいい。なるほど、確かにそんなに辛くない。でも、少し辛いからやみつきになりそう――。

こんな食味が平成ミセスや独身サラリーマンを魅了し、その人気を広げていった。

また、発売直後に爆発的ヒットへとつなげたのがウェブの活用だった。最初にサンプリングサイトや食品口コミサイトで情報を流し、サイト上で口コミが広がるとつぎにテレビCMを投入して大ブレークを招いた。このウェブサイトの活用は大きかった。ブログやSNSで消費者がつぎつぎと情報発信した。

「滅茶苦茶はまります。おかずいりません」

「炊きたてのご飯にのっけてたべてみると...なんだろ?コノ美味さ!」

「最近、桃屋の辛そうで辛くない少し辛いラー油のことしか考えられない...」

いまも昔も口コミほど効果的な宣伝はない。

さらに、ブロガーたちは「冷ややっこにのせる」「チャーハンにまぜる」「納豆にまぜる」など自ら試したレシピも発信した。

その結果、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は発売3カ月後に「ラー油市場のシェア65.5%」(09年11月2日付日経MJ)と報じられるまでに急伸し、その後品薄状態に陥った。

現在では競合商品が100種以上あるものの、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」の売行きは群を抜いている。いまでもスーパーなどの店頭では品が薄く、陳列棚で目にする機会が少ない。また、たまに商品が入荷しても即座に売り切れてしまう。「棚効率が悪く、ほかの商品で棚を埋めたいのですが、いつもお客さんに桃屋のラー油はないのと言われて困っているんです」とは、某大手スーパーの売場主任の嘆きだ。

新市場の誕生

「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は食べるラー油という新しい食品分野を生み出した

「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は食べるラー油という新しい食品分野を生み出した

つくってもつくって売れていく「辛そうで辛くない少し辛いラー油」。それは日本のラー油市場に大きな変化をもたらすきっかけとなった。「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が発売される以前のラー油市場は約13億円だったが、他社の参入もあって「食べるラー油」が一大ブームとなり、現在では約10倍に市場が拡大したといわれる。しかも、調味料としてのラー油の売上は横ばいということから、100億円に近い規模の市場が食べるラー油によって生み出されたことになる。まさに新しい食品分野が誕生したといえよう。

桃屋は調味料としてのラー油を“おかず”へと変え、食べるラー油というまったく新しい概念をつくり上げ、普及させた。食べるラー油のブームを牽引した「辛そうで辛くない少し辛いラー油」はまだ品薄状態が続いているが、ヒット商品からロングセラー商品へ向けて進んでいる。

企業データ
株式会社桃屋
代表取締役会長兼社長 小出孝之
東京都中央区日本橋蛎殻町2-16-2
TEL 03-3668-5771
掲載日:2011年4月13日


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