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エネルギー新時代


新エネルギーに挑む企業・研究機関

第44回 熱を音に変えて加熱・冷却、発電する“熱音響機関” [東海大学]

2012年5月、東海大学工学部動力機械工学科の長谷川真也講師らのグループは画期的な熱音響機関を発表した。廃熱エネルギーを熱音響機関によって音波に変換し、その音波で冷却システムや発電システムを作動させるという技術。これが実用化されれば、現在この地球上に捨てられている大量の熱エネルギーが有効利用できる可能性がある。

現在、工場や自動車などで使われるエネルギーの65%以上は廃熱として未利用のまま捨てられている。そのため、その有効利用が近年の喫緊の課題となっているが、大きなネックとなっているのが廃熱の温度域が幅広いことだ。
 例えば、焼却炉や一部の工場から大量に排出される500℃以上の高温廃熱なら回生しやすいためその利用が進んでいるが、問題は低い温度領域の廃熱で、全廃熱の8割を占める300℃以下の廃熱になると有効な回生技術がないためほぼ全量が捨てられている。この廃熱をなんとか有効利用できないか。そこに熱音響機関開発における長谷川さんたちの着眼点があった。

熱音響機関といってもあまりなじみのない装置だが、熱音響の原理を身近のものから引用すれば「雷鳴」になる。雷鳴は、雷が放電する際に放つ熱量によって周辺の空気に温度差が生じ、その温度差によって不安定になった気体が振動する(音が生じる)現象だが、この現象を応用したのが熱音響機関となる。

長谷川さんたちが開発した熱音響機関の基本原理は、金属パイプの中にフィルターを設け、そのフィルターの両端に温度差を生じさせる(フィルターの片側を加熱して温度を上げ、もう片側は常温に保つ)ことでパイプの中の空気(気体)を不安定にして振動(音波)させる。そして発生させた音波を冷却、発電に利用するものだ。

300℃以下の低温でも効率よく作動させる

ところで、高効率の熱音響機関は1999年に米国ロスアラモス研究所のスウィフト博士によって世界で初めて開発され、以来、米欧の研究機関や大学で実用化に向けた研究が一気に加速された。熱音響機関の特徴は、可動部を一切持たないため半永久的にメンテナンスフリーで、かつ高効率にエネルギー変換(熱→音)し、ローコストで作製できることだが、その一方で(1)300-600℃の高温域で動作する装置が多いが、300℃以下の低温でも高効率に作動する装置の構成が不明、(2)可動部がないために動作条件が不明、などといった問題点が未解明のまま残っている。

それに対して長谷川さんたちのチームはある計算式をつくりあげ、その計算式によって上述の問題点を突破するための最適な理論解に瞬時にたどりつく手法をつくり上げた。長谷川さんは語る。
 「私たちがやったことはトライアル&エラーによってものをつくるのではなく、計算によってつくりあげたことであり、そこに大きな意味があります。この計算式ではわずか0.1秒で理論解を導き出すことができます」

長谷川さんたちが開発した熱音響機関は、写真1のように左右にループを持つパイプになっており、左側のループには3つの蓄熱器(フィルター)が設置されている。蓄熱器はフィルター部(中央)と加熱部(左側)、冷却部(右側)で構成され、加熱部と冷却部によって蓄熱器内に温度差をつくる。

写真1 熱音響機関の外観。左側の蓄熱器で音波を発生させ、右側の蓄熱器で冷却・加熱する。蓄熱器はフィルター部(中央)と加熱部(左側)、冷却部(右側)で構成される

写真1 熱音響機関の外観。左側の蓄熱器で音波を発生させ、右側の蓄熱器で冷却・加熱する。蓄熱器はフィルター部(中央)と加熱部(左側)、冷却部(右側)で構成される

例えば、加熱部を廃熱で加熱すれば、冷却部との温度差によって音波が発生する。パイプが閉空間なため音波はパイプ内を回り続けてエネルギーを貯め、ジェット機100機分ほどの騒音に匹敵するエネルギーが蓄えられる。
 発生した音波は右側のループへ伝わっていく。右側のループにも1つの蓄熱器が設置されているが、この蓄熱器を通過する際に音波は蓄熱器の壁と熱交換(吸熱)して周囲の熱を奪い、冷却する(写真2)。

写真2 音波は蓄熱器内で吸熱反応により冷却する

写真2 音波は蓄熱器内で吸熱反応により冷却する

蓄熱器のフィルターには網目状のステンレスやハニカム状のセラミックが用いられ、その網目(ハニカム)の大きさ(流路径)はステンレスで0.2mm以下、セラミックで0.67mmと小さい。熱音響機関ではこの流路径が小さいことが重要になる。というのも、音波(振動する気体)は大気中を伝わる際には熱交換しないが、狭い隙間を強制的に通過させると熱交換を発生させるからだ。

スピーカーの逆現象で発電もできる

今回の開発ではパイプ内に1MPaのヘリウムガスを充填したが、空気でも特に問題はなく、熱伝導率が高いことからヘリウムガスを用いた。
 冷却効果については、150℃の天ぷら油ほどの(廃)熱で-40℃に冷却と一般的な冷凍庫よりもすぐれた効果が得られ、300℃の(廃)熱ならば-106℃まで冷却できることも確認した。
 なお、蓄熱器を通過する際に音波は吸熱だけでなく放熱もするので、冷却のみならず加熱の機能も発揮できる。

熱音響機関は音波で発電もできる

熱音響機関は音波で発電もできる

既述のように、今回の熱音響機関は音波で冷却・加熱するだけでなく発電もできる。原理はスピーカーの逆の現象だ。スピーカーは電気エネルギーを空気振動(音、波動)に変換するが、熱音響機関は空気振動(音波)を発電機に与えて電気を発生させる。
 現在、米国製のリニア発電機で実験を繰り返し、熱→仕事変換効率も約150℃の(廃熱)温度で10%、300℃なら18%と既存の熱変換素子の7%を大きく凌いでいる。今後は最適な発電効率を求め、独自の発電機の開発も進めている。
 長谷川さんたちがこの熱音響機関を学術発表すると、内外から数百件にのぼる大反響が起こった。現在、研究機関、企業と共同研究を進めており、向こう5年以内には実用機が世の中に登場する可能性があるという。

掲載日:2013年9月 5日

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