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エネルギー新時代


新エネルギーに挑む企業・研究機関

第33回 湯けむり、手のぬくもりで発電する温度差発電 [慶応大学]

高温と低温の温度差を利用した新たな発電システムの開発が脚光を浴びている。開発を進めているのは、慶応義塾大学環境情報学部の武藤佳恭教授とサイエンスパーク株式会社(神奈川県座間市)のグループ。熱海市と連携し、同市の温泉熱を利用した低温度差発電の実証試験を2009年から継続して進めている。

発電量は従来の3-4倍

温度差発電は、半導体素子の1つであるゼーベック素子を使って発電する方法。金属などの物体内部は、温度差がないと電子が均一に分布して安定状態にある。その安定状態に温度差を与えると、途端に電子が移動を始めて偏りが生じて電位差ができる。 この温度差(熱エネルギー)が電圧に直接変換される現象を「ゼーベック効果」という。1821年、エストニアの物理学者トーマス・ゼーベックがこの現象を発見したことからゼーベック効果と呼ばれる。
 武藤教授の説明によれば、この現象を利用して「異なる性質をもつp型とn型の半導体を導体で交互に連結したものがゼーベック素子」であり、温度差を感知したゼーベック素子が熱エネルギーを電気に変換する。
 武藤教授は温度差発電の利点として、(1)ゼーベック素子は半導体であるため機械稼働部分がなく小型化が可能、(2)耐久性に富みメンテナンス性に優れる、などを挙げる。
 温度差発電自体の発想は新しくない。ただ、従来の温度差発電は発電能力に乏しく、経済性も見合わないと長年ほとんど見向きもされなかった。また、発電量が少ない理由としてゼーベック素子の変換効率ばかりに目が向けられ、多くの研究者がその改善に挑んできたが、武藤教授は熱伝導の効率向上に着目し、銅製のヒートパイプを採用することによって熱伝導効率と発電量を向上させた。「同じゼーベック素子を使っても、性能(発電量)は従来より3-4倍くらい上がった」と武藤教授は胸を張る。

加熱側、冷却側に各5本の銅製のヒートパイプ(写真の奥)を加熱・冷却することで生じる温度差を利用して発電する「温度差発電」(左側の電気ポットの湯で加熱、右側のビーカーの常温水で冷却)

加熱側、冷却側に各5本の銅製のヒートパイプ(写真の奥)を加熱・冷却することで生じる温度差を利用して発電する「温度差発電」(左側の電気ポットの湯で加熱、右側のビーカーの常温水で冷却)

そのヒートパイプだが、内部に少量の作動液(純水)を入れて密封し、内部を真空状態に保っている。温熱源でヒートパイプの一方に熱を与えると、大気中よりも低い温度で気化(蒸発)する。高山でお湯が100℃に満たずに沸騰するのと同じ現象だ。こうして低温沸騰した蒸気は、熱を伴って反対側の冷たいほう、すなわち冷却部(冷熱源)へと移動する。
 移動した蒸気は反対側の冷熱によって冷やされ(放熱)、水に戻る(凝結)。冷えた水はパイプ内部を温熱源へと戻り、ふたたび熱せられて気化する。この気化と凝結の熱輸送の速度はなんと音速。音速で熱輸送を繰り返すことによって熱伝導率を上げ、発電効率を高めている。

湯けむりでも発電する

空冷式の温度差発電は、冷却は空気(大気)で行うため、水のないところでも使用できる

空冷式の温度差発電は、冷却は空気(大気)で行うため、水のないところでも使用できる

武藤教授らの研究グループがまず開発したのは、ディップ型水冷式温度差発電。ヒートパイプを温水と冷水に浸けて発電する技術だ。一般家庭への普及を念頭に設計したという。
 この発電装置は2010年に開発、クリスマスツリーを2週間点灯したあと、2012年12月熱海市の温泉施設に設置。温泉施設内のLED照明用として発電している。
 この発電で用いたヒートパイプは直径8mm。M字型の形状で、その真ん中に温度差を電気に変換するゼーベック素子(4cm角で厚さ2mm)を装着している。
 最初は温泉水を熱源として用いたが、2012年10月には温泉の湯気(湯けむり)を用いる方式に替えた。この湯けむり方式を考案したのは、武藤さんの研究グループ一員の大学院生(博士課程)山本浩之さん。「すべてを大気中に捨てている湯気を利用するほうが地元にも受け容れられやすい」と考えて開発した。
 ヒートパイプ5本(1本の直径10mm)を1ユニットとし、それを5連にした。熱源の温泉熱は80℃、一方の冷熱源は15℃程度の水道水。65℃の温度差で発電しており、赤色LED照明100個を安定的に点灯させている。

空冷式の温度差発電もつぎつぎ開発

武藤教授の開発熱はこれにとどまらない。温度差発電のさらなる進化を狙ってろうそく発電、焚き火発電、マグマ発電へと領域が広がっている。その中でもろうそくや焚き火を熱源とする温度差発電装置は、冷却側に水を用いず空気(大気)で冷やす方式を採用している。水を使わないため非常用電源としても役立ち、携帯電話の充電やLED照明の点灯などに対応できる。実験用の空冷式温度差発電装置も加熱部に載せた手のひらのぬくもり(温度)で十分に発電する。
 焚き火発電の原理は「ストーブ発電」として応用され、近々商品として発売される予定だ。実験段階でも焚き火の排熱250℃、外気10℃の温度差で10Wの発電性能を達成し、携帯端末の充電やLED照明はもちろんUSB機器、小型テレビも駆動できた。
 このように武藤教授の開発事例をながめるだけでも、温度差発電が電源多様化の起爆剤になる可能性を秘めていることを実感できる。

掲載日:2013年3月28日

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