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エネルギー新時代


新エネルギーに挑む企業・研究機関

第32回 レアメタル不要のリチウムイオン電池 [大阪大学大学院]

大阪大学大学院理学研究科の森田靖准教授の研究グループは大阪市立大学大学院理学研究科・工位武治特任教授・佐藤和信教授の研究グループと共同で、正極の活物質に有機分子を用いて既存の1.3-2倍の電気容量のリチウムイオン電池を試作した。
 この試作により、リチウムイオン電池に必須とされるコバルトを用いず有機分子を用いることで、レアメタルフリーを実現でき、かつ低コストで高性能なリチウムイオン電池の開発の可能性が広がった。

レアメタルではなく正極に独自開発した特徴的な有機分子(左は分子式)を用いたリチウムイオン電池

レアメタルではなく正極に独自開発した特徴的な有機分子(左は分子式)を用いたリチウムイオン電池

意外に古い、有機分子を活用したリチウムイオン電池の研究

今回のリチウムイオン電池の開発で要となったのが、正極の活物質に用いた有機分子「トリオキソトリアンギュレン(TOT)」だ。TOTは森田准教授が開発した有機中性ラジカル(通常の有機分子は偶数個の電子をもち、その電子は2個で1つのペアとなるが、電子がペアを形成しない有機分子を有機中性ラジカルという)で、安定性が高いため正極物質に用いても充放電の繰返しによる劣化が低く、それによりリチウムイオン電池のサイクル特性の向上につながった。
 従来、有機分子を正極に用いたリチウムイオン電池の研究は、1969年の米国の論文に見られるほど古く、日本でも1979年、1984年に研究論文が発表されている。が、当時の研究内容はサイクル特性が著しく低く、実用化にはほど遠いものだった。
 ところが2001年に1つの転機が訪れた。当時、日本電気(NEC)が発表した有機ラジカル電池だ。この電池は正極にPTMAという有機中性ラジカルポリマーを用い、リチウムイオン電池に匹敵する出力電圧と高いサイクル特性を実現した。ただ、電気容量が既存のリチウムイオン電池の60-70%と低かった。

画期的に安定した有機中性ラジカルを開発

一方、この発表の事実はまったく知らず、2002年に森田准教授は高容量化と高サイクル特性をもたらす電極活物質としての有機分子の開発を始め、さまざまな研究成果を経るなか、過去に独自開発した「6-オキソフェナレノキシル(6OPO)」という有機中性ラジカルに着目した。
 「有機中性ラジカルは奇数個の電子をもっているのですが、こうした有機分子は、電子を受け取ったり放出したりすることで電子の数を偶数個にしようという性質があります。つまり、この性質を電池材料に応用すれば、エネルギーの貯蔵・放出を容易にできるわけです」(森田准教授)
 6OPOこそ奇数個の電子をもつ有機中性ラジカルであり、電池の活物質に使った場合に電気エネルギーの貯蔵・放出を容易にでき、また空気中での安定性が高いという特徴をもっていた。そこで6OPOを用いて電池を試作したが、リチウムイオン電池と同程度の電気容量(初回の放電容量152Ah/kg)は得られるものの、充放電の繰返しによる劣化(サイクル特性の低下)の早さ(100回充放電後の放電容量33Ah/kg)が問題として残った。

「そのサイクル特性低下の原因は、6OPOが電解質・電解液に溶けてしまうためなので、溶けない有機分子をつくらなければ」(森田准教授)と研究を加速させ、2011年に開発したのがTOTだった。
 (t-Bu)3TOT(3個のtert-ブチル基を導入したTOT)は、25πの巨大なπ電子系を有する世界最大の縮合多環型有機中性ラジカルであり、その安定性は6OPOよりさらに高く、空気中で300℃で加熱しても分解しない。さらに、t-Buのようなかさ高い置換基による立体保護がなくても安定である。従来、有機中性ラジカルは不安定なため、空気中での扱いが困難とされてきたことを考えると非常に画期的だ。また、市販の原料からも短い段階で高効率に合成でき、さまざまな置換基Rの導入もできる。TOTは1分子あたり4個以上の電子を貯蔵・放出できるように設計され、(tBu)3TOTを用いた電池の電気容量はリチウムイオン電池の約2倍(初回の放電容量311Ah/kg)に高められた。さらに3個の臭素原子を結合させた誘導体Br3TOTでは、結晶状態における分子間のネットワークを強めることで電解液への溶解を抑制し、充放電による性能劣化も大幅に改善した(100回充放電後の放電容量159~177Ah/kg)。
 「この有機分子を応用すれば、リチウムイオン電池のみならず、赤外線センサーや有機薄膜太陽電池などもつくれ、その研究もすでに始めています」
 森田准教授は、さまざまな置換基Rを導入したTOT誘導体を用いて近赤外光に応答する光電変換薄膜を調整し、それを活用して全波長領域に応答するハイブリッド型の太陽電池の開発も始めているように、次世代有機電子デバイスに向けた先端有機分子の創成を着実に進めている。

掲載日:2013年3月21日

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