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エネルギー新時代


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第26回 従来の常識とされた製法とは真逆のプロセスで砂糖とバイオエタノールを生産 [アサヒグループホールディングス]

サトウキビを原料として砂糖およびエタノールのいずれの生産量も大幅に増やせる。そんな技術をアサヒグループホールディングス・豊かさ創造研究所が2012年10月に開発を発表した。これは(独)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)・九州沖縄農業研究センターとの共同研究成果で、従来の製糖法の発想を大きく転換した「逆転生産プロセス」と称する製法であり、2015年の実用化をめざしている。

多収性のサトウキビの新品種を開発してみたが…

新たに開発した多収性サトウキビ(右)と従来の品種(左)

新たに開発した多収性サ
トウキビ(右)と従来の品
種(左)

従来の製糖法は、サトウキビの搾汁からまず砂糖(ショ糖)を生産し、そのあと糖蜜に残された糖分(ショ糖の残りと還元糖)からエタノールを生産する。それに対し新製法では生産順序を逆にし、まずエタノールを生産したあとに砂糖を生産するというプロセスをたどるため、同社はこれを「逆転生産プロセス」と名づけた。
 同プロセスの発想の原点は、バイオエタノールを量産して新規事業につなげようという思いからだった。そこで2002年にサトウキビを原料としたバイオエタノール生産の研究開発に着手したものの、原料のサトウキビが高価すぎるためにエタノールの生産としてはコストが合わなかった。
 そこで2つの取組みに着手した。1つが多収性サトウキビの利用、もう1つが砂糖とバイオエタノール併産だった。多収性サトウキビの導入によって原料の生産量を増やせれば、原料単価の低下と農家の収入増を同時に実現できる。また、付加価値の高い砂糖と併産することでバイオエタノール生産に占める原料コストの負担を軽減できる。
 サトウキビはイネ科の多年草でススキの仲間。ススキは寒さに強く、肥料がない土地でも生育する。そこで製糖用サトウキビとサトウキビ野生種を交配した種(KY01-2044)を共同研究相手の九州沖縄農業研究センターが開発した。
 こうした多収性サトウキビの品種開発は世界各国で取り組まれているが、多収性サトウキビを製糖に用いるにはデメリットも大きいため、現実的には製糖業界に浸透していない。というのも、サトウキビには砂糖の原料となるショ糖と砂糖原料にならない還元糖の2種の糖分があるが、還元糖は、ショ糖が砂糖になるための結晶化を阻害するため、多収性といえども全糖分に占める還元糖が増えることによって砂糖の収率が低下してしまうからだ。つまり、多収性サトウキビの栽培を増やせば砂糖生産の絶対量も増えるかもしれないが、それに比例して砂糖の収率が上がるわけではなく、還元糖が増える分だけ確実にショ糖の結晶化(=砂糖生成)を阻害するため、むしろ砂糖の生産効率を下げてしまいかねない。そのため製糖業界は多収性サトウキビのように還元糖の多い原料の使用を避けるのだ。

砂糖もエタノールも共に増産しよう

新種の多収性サトウキビを開発したものの、結局、砂糖やエタノールの生産効率を上げるためには品種の改良だけでは意味がなく、むしろ製法そのものの見直しが必要であると結論づけた。
 従来の製法だと、まずサトウキビ搾汁の中のショ糖を結晶化させて砂糖を生産し、残った還元糖に酵母を加えてエタノールを生産する。この生産フローでは、砂糖を生産する段階のサトウキビ搾汁には還元糖も共存しているため、どうしてもショ糖の結晶化が一定程度阻害されてしまう。
 ところが、先にサトウキビ搾汁の中の還元糖を処理(=エタノールの生成)してしまえば、あとで砂糖を生産してもショ糖の結晶化を阻害されることはない。つまり、エタノールを生産しながら砂糖の収率を上げられるわけだ。従来の常識とされた「砂糖生産→エタノール生産」のプロセスを「エタノール生産→砂糖生産」と真逆に転じさせる。この常識破りの斬新な発想から考案されたのが「逆転生産プロセス」だった。

従来の砂糖・エタノール生産とまったく逆のフローによる「逆転生産プロセス」

従来の砂糖・エタノール生産とまったく逆のフローによる「逆転生産プロセス」

偏食の著しいダメ酵母が一転して理想の酵母になった

同プロセスの要となるのが従来とまったく異なる酵母だ。それは、砂糖の原料であるショ糖にはなんら影響せず、還元糖だけを選択的にエタノールに変換する理想的な酵母。逆転生産プロセスの生みの親である同研究所バイオエタノール技術開発部長の小原聡さんは2006年、酵母バンクに保存される多くの酵母の中から、それまで偏食が著しいダメな酵母として見向きもされなかったインベルターゼ欠損酵母に可能性を見出し、それを用いたところみごとに還元糖だけを選択的にエタノールに変換することに成功した。セレンディピティともいうべき逆転の発想だった。
 ショ糖を加水分解して果糖とぶどう糖を生成させる酵素の総称

「インベルターゼ欠損酵母なら、搾汁中の還元糖のみを選択的にエタノールにできるのではないか。それにハッと気づいたときは興奮しました。そして、いままで研究者からは見向きもされなかった欠損酵母が狙ったとおりの働きをしました。ただ、最初に実験に用いた欠損酵母は食品用に認可されていない酵母でして、食品用に用いるためにはサッカロマイセス属のセルビシエという種類の酵母でなければなりません。そこで私どもはこのセルビシエの仲間のインベルターゼ欠損酵母をオリジナルで新たにつくり、それを使うことにしました」
 従来のエタノール生産では、糖蜜に酵母を加えて発酵させ、発酵後に遠心分離器で酵母とエタノール(液体)を分離する工程を要するが、この新酵母だと酵母同士が任意に結合して発酵槽に沈殿するため、工業的に分離する必要がなく従来よりもコストを抑えられる。

この酵母を使った新製法の特許はすでに日本、オーストラリア、南アフリカ、ロシア、メキシコで成立し、タイ、ブラジルなどでも出願済だ。
 「逆転生産プロセスはすべての常識をぶち破った製法といえます。過去に原料であるサトウキビ、砂糖、エタノールの3つを併せて研究した人はほとんどいませんでした。また、私どもが砂糖の製法に関してズブの素人だったから発想できたプロセスかもしれません」と小原さんは述懐する。
 現在、豊かさ創造研究所・バイオエタノール技術開発部では、連続生産の実績を積み上げることによって2015年に逆転生産プロセスの実用化をめざしている。
 製糖関連、エタノール製造関連、そしてサトウキビ生産関連に3者にメリットをもたらす「三方よし」の新製法となり得る逆転生産プロセス。農工融合の分野に次世代のビジネスチャンスが広がっているようだ。

<関連リンク>

掲載日:2013年1月24日

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