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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
端末過密時代の無線「DTNマルチキャスト配信」

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは、スマートフォンやタブレット端末同士が無線LANアクセスポイント(AP)なしで互いに通信しあい、“数珠つなぎ”の要領で大規模情報配信ネットワークを形成する「DTNマルチキャスト配信」。災害時の避難所での迅速な情報配信や、通信端末が過密な繁華街やイベント会場などでも高速かつ大容量のデータ配信ができる新しい通信技術です。

1.「DTNマルチキャスト配信」とは?

ここは大災害に見舞われ、孤立した被災地の避難所。固定電話も携帯電話基地局も失われ、個人が持ち込んだスマートフォンは多数あるものの、通信手段が何もない。そこに近隣の避難所からタブレット端末を抱えた市役所職員がやって来た。すると被災者の手元のスマートフォンに「避難状況・安否情報」や「支援物資リスト」などのファイルが次々に届き始める。避難した住民は何の操作の必要もなく、避難所で知りたい情報が、職員のタブレット端末から直接プッシュ配信されてくるのだ。数秒から数十秒の間に、そこにいた数十名の無線LAN端末に同じファイルが配信された。それを開くと安否確認や避難生活に必要な情報などが閲覧できる。スマートフォンやタブレットの機能性・機動性により、その情報は迅速に避難所全体に行き渡る……。こんなシーンを実現してくれそうなのが、NECが開発中の「DTNマルチキャスト配信」技術だ。
 この技術のデモ風景を図1に掲げる。専用アプリを導入したタブレットを10台用意し、1台のタブレットで撮影した画像ファイルを一斉に発信した。するとそのファイルが次々に他のタブレットに転送され、画面表示されていく。発信後、時間を置かずに同時に表示された端末数台は発信元からの転送が成功したものであり、遅れて表示された数台は、既に転送が成功した他の端末からファイルを受信したものと思われる。どの端末から受信したのかは分からないが、数十秒の間に9台の端末が同じファイルを受信完了した。

図1 DTNマルチキャスト配信のデモ
図1 DTNマルチキャスト配信のデモ

左:デモ用アプリ画面、右:DTNマルチキャスト配信の経過=9台の受信端末のうち数台が受信に成功したところ

資料提供:日本電気

1-1.「DTNマルチキャスト配信」技術のポイントは?

なぜ無線LANアクセスポイントもないところで通信ができるのだろうか。これには無線LAN端末が備える「アドホックモード」通信が利用されている。ご存じの人も多いと思うが、アクセスポイントを経由せず、無線LAN端末が直接相手の端末と通信するモードのことだ。この機能を利用すれば、アクセスポイントがなくても情報共有が可能だ。アプリケーション側で目的外の使用を制限しながら利用できるようにすれば、リスクなくアクセスポイントなしでの相互通信が行える。

ITインフラのない場所で使われてきたDTN

この手法を利用して、すばやく多数の端末に情報を自動配信できるようにしたのが「DTNマルチキャスト配信」だ。「DTN」は「Delay/Disruption Tolerant Network」の頭字語で「蓄積転送型ネットワーク」のこと。DTNそのものは、例えば野生動物の行動調査や気象観測などに利用されており、通信インフラが存在しないような地域での情報通信に使われるケースが多かった。このような環境では端末同士は遠く離れている場合が多いので、お互いが近づき、通信が成立するまでの間は端末内に情報を蓄積しておき、通信が成立した時点でそれを相手に渡し、受け取った端末が別の端末に近づいたら同じように情報を渡す。まるでバケツリレーのような形で情報を伝達する仕組みだ。

DTNマルチキャスト配信は端末過密環境で本領発揮

しかし「DTNマルチキャスト配信」は、逆に端末が接近して多数ある環境を想定している。まずは通信可能範囲内の端末を検知し(近隣探索機能)、その中の1つの代表端末に対してTCPでのファイル転送(配信)を行う。TCPで1対1で通信を行うが、無線レイヤではマルチキャストを利用する。すると近傍にいる他の端末はその電波を受信できるので、可能な限りデータを取得する。マルチキャスト配信にはUDPを使うのが一般的だが、UDPはTCPのようなフロー制御などの確実性を担保する機能がないため、パケットロスが生じたら正常にファイル転送できなくなる。端末が過密に存在する環境では特に遅延やパケットロスが多くなるため、ファイル転送のためにはTCPが必須なのだ。TCPを使うことで代表端末には確実にファイル転送ができるが、近傍にいる他の端末で発生するパケットロスには対応できないので、多くの端末でデータの欠落が発生してしまう。
 そこで、DTN技術の出番だ。データ転送が成功した端末は、近隣の端末にそのデータを直接転送できる。ファイルの中の一部のデータの受信に失敗した端末も、近くにある受信成功端末から不足するデータを受け取ることが可能だ。いちいち送信端末から再送する必要がないので、受信する端末が増えても送信端末に負荷をかけずにファイルを送ることができるのが特徴だ。
 また、その場に遅れて来た人の端末には、既にファイル受信済みの端末から自動的にファイルが送られる。更に、受信したファイルを保管した端末を別の避難所などに持っていけば、その端末を発信元として、そこにある端末すべてに情報を渡すことも可能になる。結果として、数十~数百台規模の端末へのファイル転送でも迅速に、確実なファイル転送が実現し、また遠隔地間でも端末(と人)が移動することで、広域ネットワークが使えなくても情報伝達が可能になるわけだ。これこそまさに数珠つなぎによる配信技術と言える。

図2 DTNマルチキャスト配信のイメージ
図2 DTNマルチキャスト配信のイメージ

資料提供:日本電気

1-2.DTNマルチキャスト配信の効果

同技術の評価実験の結果は目覚ましいものだった。計算機シミュレーションを用いてFTPによるファイル転送と比較すると、図2に見るように1MBのファイル転送で配信終了までの時間は台数が増えれば増えるほど効率化した。500台への配信では20倍の高速化が達成でき、時間は約94%短縮した。しかもFTPでは端末の半数がTCPタイムアウトにより通信が中断してしまっていたが、同技術では安定した配信が可能だった。

図3 DTNマルチキャスト配信とFTP配信の効率の違い
図3 DTNマルチキャスト配信とFTP配信の効率の違い

前提:FTPはTCPのユニキャストの同時利用。ProposalはDTNマルチキャスト。1MBのファイルを各端末に配信。
(注)従来方式(FTP)の場合、50%のノードは途中でTCPがタイムアウト終了

資料提供:日本電気

DTNマルチキャストの他にも無線LANでの送信パケットの衝突を事前に軽減し避ける技術もある。これは複数の端末間で送信タイミングをずらして、時分割制御することによりパケット衝突率を低下させる技術だ。数10ミリ秒から数100ミリ秒であらかじめ設定した単位で時間を分割し、ある端末が送信できる時間帯は他の端末が送信を待機し、自分の順番が来たら送信するように、互いにタイミングを計って送信と待機を繰り返すことで衝突を回避する(図4)。そもそも無線LANにはパケットが衝突してから再送するタイミングをランダムにずらす方法が採用されているが、事前に衝突の発生そのものを回避するという発想だ。

図4 送信パケットの衝突を回避する時分割制御のイメージ
図4 送信パケットの衝突を回避する時分割制御のイメージ

無線LANのパケット衝突の確率を低下するように複数の端末で送信タイミングを時分割制御し、端末過密環境で通信速度の低下を抑制。写真や動画などを複数の端末間で高速にリレーして拡散可能。

資料提供:日本電気

図5には、計算機シミュレーションを用いたパケットの衝突率と全体のスループットの評価結果を示す。衝突の発生率は1/5に低減し、スループットは約40%向上した。

図5 パケット衝突率(左)と全体のスループット(右)の測定結果
図5 パケット衝突率(左)と全体のスループット(右)の測定結果

■1つのタイムスロットにおける送信可能ノード数を変化させて実験を実施 前提:タイムスロット長Ts =50 [ms]、1データブロック(バンドル)=1パケット

資料提供:日本電気

2.「DTNマルチキャスト配信」技術の応用と今後

DTNマルチキャスト配信技術の利点は次の4点にまとめられる。

LTE/3G回線、無線LANアクセスポイントがなくても多数の端末にスムーズなデータ転送が可能。
転送データに欠落があっても、近隣の端末と補完しあって完全な情報共有が可能。
端末が移動することにより、遠隔地間でも比較的迅速な情報配信が可能。
電波が不安定な状態でも完全な状態でファイルが受信可能。

NECではこうした利点を生かしながら、無線LANアクセスポイントの利用もできるよう、可搬型のバッテリ付きアクセスポイントや、太陽光発電ユニットでセルフ給電する固定型アクセスポイントも同時に利用することを提案しており、試作機も完成している。
 この研究の一部は総務省の委託研究「大規模災害時に被災地の通信能力を緊急増強する技術の研究開発(災害時避難所等における局所的同報配信技術の研究開発)」なので、災害対策を基本に開発されているのだが、実際の用途はそれにとどまるものではない。例えば、首都圏などでの人と端末が過密に存在する場所では、無線帯域が混み合って通信がつながりにくい状況が生じやすい。その環境下でスムーズな大容量ファイル転送を行う際にDTN技術を応用し、道路を走る自動車間での情報通信(車車間通信)による交通状況情報の交換を図ったり、研修会などの会場で多数の参加者に教材や資料を配付したりすることも可能になるだろう。防災ステーションに到達した情報を周辺住民に即座に配布するのもラクになる。
 また、東京オリンピックを念頭に、会場内の多数の端末向けに試合の映像をストリーミング配信することも考えられている。更には特定エリアの端末限定の広告やクーポンの配信にも役立ちそうだ。
 NECでは、地方自治体の災害情報配信・共有システムや、防災無線をはじめとした社会インフラに広く適用し、安心・安全な情報配信ネットワークの実証を目指すとしている。無線LAN対応デバイスが増加することが予想される今後は、過密な情報端末環境の中での迅速な情報配信・共有の仕組みがますます求められることになるだろう。DTNマルチキャスト配信は災害時にはもちろん、平常時でも特定エリアでの活用の道がいくらでもありそうだ。

取材協力 : 日本電気株式会社

掲載日:2014年6月18日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2014年3月19日掲載分

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