本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

スタートアップガイド

J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト

  • J-Net21とは
  • スタートアップガイド
中小機構
  • メルマガ登録
  • RSS一覧
  • お問い合わせ

HOME > 製品・技術を開発する > デジ・ステーション

デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
データセンタになるワンボックスカー「ICTカー」

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは、大規模災害時での通信インフラ損壊時に被災地に駆けつけ、電源途絶状態でも5日間にわたってスマートフォンによる通話手段を確保し、小さなデータセンタとしても機能するという「ICTカー」。しかも、その通話機能はアタッシュケース1個に収めることもできるというのです! その仕組みとはいったい……?

1.災害対策のために生まれた「ICTカー」

通信インフラが破壊された地震などの被災地に自ら移動し、迅速な通話機能の復活と被災者データ収集・管理、さらには行政機関や病院などのITシステムを代替運用できるデータセンタ機能まで搭載する、新しい災害支援用車両のこと。東日本大震災でのICTインフラ損壊から教訓を得て、NTT未来ねっと研究所(以下、NTT研究所)と東北大学、富士通、NTTコミュニケーションズが約2年前に開発に着手し、2014年1月に公表した。研究開発の一部は総務省の支援を受けている。
 現在のところICTカーによるサービス提供エリアは車両から半径500m以内のスポット、運用可能期間はバッテリ車両搭載の燃料のみによる発電で5日間。ただし燃料供給があればさらに長期間の運用、あるいは被災者の携帯端末充電などの電力シェアも可能になる。
 被災地の情報通信を車両搭載機器により緊急支援するアイディアはすでにいくつかが実証段階にある(関連するキーワードの項参照)。しかしこれまでは主に広域ネットワークへの早期接続に重きが置かれていた。今回のICTカーは、携帯電話基地局さえ失われた被災地域内部での通話機能を早急に回復することを優先して考えているところに特徴がある。

1-1.ICTカーが目指す災害対応とは

ICTカーは、一般的なワンボックスタイプの車両にサーバ、ストレージ、無線LANおよび制御用通信機器、アンテナ、バッテリ、発電機、冷却装置といったデータセンタ設備と同様の要素を非常にコンパクトな形で搭載している(図1、2)。

図1 ICTカーの外観
図1 ICTカーの外観

資料提供:NTT未来ねっと研究所

図2 ICTカーのリア部に搭載されたICT機器
図2 ICTカーのリア部に搭載されたICT機器

資料提供:NTT未来ねっと研究所


図3 自立式アクセスポイントモジュール
図3 自立式アクセスポイントモジュール

資料提供:NTT未来ねっと研究所

車両に備え付けられた設備のほか、自立式アクセスポイントモジュール(図3)を4セット積載可能だ。自立式アクセスポイントモジュールは太陽光発電装置、バッテリ、アクセスポイント、アンテナなどで構成されている。このセットで見通しがよい場所なら100m程度の距離で通信可能になる。
 目的の被災地に向かう途中、あるいはカバーエリア拡大のニーズに従って自立式アクセスポイントモジュールを配置することにより、ICTカーを中心に半径500m程度離れた地点までサービス提供ができる(図4)。面積で言えば皇居よりもやや狭い程度のエリアではあるが、避難所内や近隣避難所を含めたネットワーク活用が期待できる。しかもICTカー到着からサービス開始までのセッティングは数十分~1時間で可能だ。アクセスポイント間のネットワーク形成にはセンサネットワーク技術により周辺アクセスポイント群の集中制御を可能にしており、ネットワーク構築にも時間はかからない。被災者はスマートフォンの登録が済み次第に通話が行えるようになる。

図4 ICTカーによる被災地の無線LANエリア化のイメージ
図4 ICTカーによる被災地の無線LANエリア化のイメージ

資料提供:NTT未来ねっと研究所

必要最小限の通信回復機能を実現するためには「IP-PBX」「無線LANアクセスポイント」「バッテリ」の3点セットがあればよい。NTT研究所では人間がこれらを簡単に運べるよう、「アタッシュケース型ICTボックス」も開発している(図5、6)。

図5 アタッシュケース型ICTボックス
図5 アタッシュケース型ICTボックス

資料提供:NTT未来ねっと研究所

図6 アタッシュケース型ICTボックスの中味
図6 アタッシュケース型ICTボックスの中味

資料提供:NTT未来ねっと研究所


ケース内右上に見えるのがインテルのNUC(超小型PC)にIP-PBXソフトを載せたもの。それにつながる小さな機器がアクセスポイント、左側にあるのがバッテリだ。このコンパクトサイズでも、IP-PBX単体の性能としては、通話は5000端末が登録可能、同時接続は140通話まで、約5時間の運用が可能だ。

1-2.ローカルでの通話をスマートフォンのWiFi機能で実現

では通話の仕組みを紹介しよう。中核となるのは「スマートフォン内線化」技術だ。本サイト「IT製品購入ガイド)」では企業内でスマートフォンを内線として使う手法について詳しく紹介しているが、その中の1手法であるIP-PBXを導入する方法のバリエーションにあたる。つまり、スマートフォンのWiFi機能を利用し、アクセスポイントを介して無線LANで交換機能を持つIP-PBXサーバに接続する仕組みだ。企業内なら「内線番号」を利用するところだが、この場合は各スマートフォンにVoIP通話を行う専用アプリを配布し、もともとの電話番号をそのまま内線として使えるようにした。エリア内の人々が従来からの電話番号で通話し合えるようにするためだ。契約するキャリアにかかわらず、同じ方法で通話ができるのがポイントだ。

被災者が行う具体的な操作としては、まず無線LANアクセスポイントへの接続設定と通話アプリのダウンロード、IP-PBXへの電話番号登録が必要だ。複雑なようだが、会津大学学園祭での実証実験などの結果では操作に慣れた人なら1~2分、不慣れな高齢者などでも15分以内に設定が完了できたという。その後はアプリを立ち上げ、通話相手の電話番号をダイヤルすれば通話ができる。
 ただし通話はあくまで「内線」であることに注意がいる。ICTカーのカバー範囲以外の遠隔地との通話は、エリア内に残存する電話局舎の光ファイバ網への接続、あるいは衛星通信の利用が前提になる。東日本大震災の際には固定/携帯電話回線が失われても光ファイバへの影響はごくわずかだったので、光ファイバ網が使える可能性は高いと言える。しかし避難所との距離の問題で難しい場合もあるだろう。衛星通信装置については今回の発表にないが、すでに車載用モジュールが市販されており、実際に機能を搭載した緊急派遣車両を用意した自治体もある。こうしたモジュールや車両との連携で簡単に広域ネットワークへの接続が可能になりそうだ。

なお、外線発信に関してはIP-PBX機能により利用者が意識することなく固定/携帯電話への発信が可能だ。例えば構内交換機の場合、外線発信するときに先頭に“0”をつけてからダイヤルする例が多いが、これを不要としている。ダイヤルした際に相手が「内線」エリアに存在しなければ自動的に外線発信を行う機能を持っているため、災害時利用の際には利便性が高い。一方、外線着信の場合は、発信者がIP-PBXに設けられた「代表番号」にダイヤルする必要がある。いったんIP-PBXと接続した後、通話先電話番号をプッシュして通話相手のスマートフォンを呼び出すことになるので一手間かかる。また被災者がいる避難所エリアの代表番号がわからなければ発信できないので、それを広く広報する仕組みを作る必要もある。これは大きな課題になる部分だ。
 もう1つの課題は同時接続数だ。車載IP-PBXは5000端末を収容し140端末の同時接続・交換ができる性能があるが、無線LANの帯域がそれに見合わず、場合によってはつながりにくい状況が生まれる可能性がある。

1-3.被災者データ収集・管理は迅速、簡単、短時間化

図7 被災者データ収集・管理システム
図7 被災者データ収集・管理システム

資料提供:NTT未来ねっと研究所

ICTカーの役割のもう1つは、エリア内の被災者のデータを収集、データベース化して管理環境を作ることだ。従来は被災者に名前などを紙に記入してもらって帳簿にする、あるいは表計算ソフトに入力するといった手間をかけていたが、ICTカーでは、タブレット端末で被災者をカメラ撮影し、被災者手持ちのIC自動車免許証、交通系ICカード(Suicaなど)、おサイフケータイなどのID情報を同端末のNFCリーダで読み取って、情報を紐付けることができる。ICカードなどを持たない人にはあらかじめ用意した「空の」ICカードを配布し、固有IDと個人情報とを紐づければよい。ICカードなどから抽出できない情報は、各種書類をカメラ撮影した画像やボランティアによる入力テキストで補完する。このような方法だと被災者登録にかかる手間は1人あたり数十秒で済む。あとで人手による修正や追加入力はあるだろうが、登録作業は格段に時短できることになる。 このデータ収集に用いられるシステムも、図7のように1個のアタッシュケースに収められるコンパクトサイズだ。どこにでも設置して被災者の登録作業を行うことができる。登録した情報をもとに、被災者の避難所間の移動や健康状態の確認、支援物資の受け渡し管理などが合理化・効率化することが期待される。また広域ネットワークに接続できた場合は安否情報を安否情報確認サイト「J-anpi(http://anpi.jp/top)」と連携させることも可能だ。

1-4.ICTカーは冷却装置も備わる小型データセンタ

ICTカー内部には1日以上の運用に耐えるバッテリと、燃料がある限りはいつまでも使える発電機、通信設備、サーバ、ストレージがあり、機器は定格の温度環境で稼働できるように空冷システムも備えられている(図8)。いわばデータセンタ設備のひととおりが車両内にまとまっているわけだ。

図8 ICTカーのサーバ床下に冷却材
図8 ICTカーのサーバ床下に冷却材

資料提供:NTT未来ねっと研究所

冷却用には車両の床面に潜熱蓄熱材(図8の白いタオルのようなもの)が装備されている。その領域に外気を通し、冷やした空気をICT機器搭載ボックス(図では開放されているが、通常は右のボックスのように閉じられる)内の機器正面に導く。そして機器背面でファンが回転して熱気を車外に放出する。電力消費を最小限にできる相変化方式の空冷システムになっている。
 このような仕組みで安定稼働ができ、かつサーバにはある程度リソースの余裕があるので、通話や被災者情報管理以外の情報処理も可能だ。そこで搭載サーバにいくつかのシステムを仮想化して集積し、それぞれ個別に運用することも想定されている。稼働させる対象としては自治体の行政システムや、病院の業務システムなどが考えられる。仮想化技術を利用することで、電力やネットワークインフラが損なわれて使えない物理サーバの機能を丸ごとICTカー内に移行でき、各種住民サービスを迅速に回復させることができそうだ。

2.ICTカーの今後

ICTカーや移動式ICTユニットには、一般に市販されている製品が利用されており、コモディティ製品も多い。これは低コストかつ柔軟に代替が効くようにとの設計思想からきたものだ。特にアタッシュケース型ICTユニットのハードウェアは電気店で販売されているものばかりで、上手に買えば5万円を下回るかもしれない。こうした低コスト化は図られているとはいえ、ICTカーのほうは相当のコストがかかるのはやむを得ない。被災時対応だけでなく、平時にも、例えば通信が込み合う繁華街やイベント会場などでの携帯電話通話の混雑に対して通話オフロード対策として活用するといった、より利用価値を高める工夫ができるとよい。
 また衛星携帯電話やMCAシステムなどによる広域ネットワークへの接続とは目的が異なることにも注意したい。ICTカーは被災直後の安否確認や被災状況伝達など緊急連絡や通報よりも、災害から1日程度経過して避難所や近隣地域内で被災者の生活が始まるタイミングでの支援効果が期待されている。
 なお、NTT研究所ではこの2月から高知県の南国市と黒潮町で、自治体および住民が参加してICTカーの効果検証のための実証実験を行う予定だ。それらの実験を経て今後1~2年以内にNTTグループ各社や地方公共団体などへの導入を目指す。また2013年11月に大きな台風被害を受けたフィリピン政府からICTカーによる応急復旧の要請が寄せられており、総務省はじめ関係機関と対応に向けた検討を進めているところだ。

取材協力 : NTT先端技術総合研究所

掲載日:2014年3月26日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2014年2月5日掲載分

検索

このページの先頭へ