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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
超高密度記録を生む「光スイッチング磁石」とは?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは、赤と青のレーザ光を当てると光の「波面」の角度が変わる「光磁石」によるスイッチング技術。東京大学の大越慎一教授らのグループが世界で初めて開発した「キラル構造」をもつ光磁石材料により、1平方インチ当たりで数十TBの記録が可能な光磁気素子が誕生するかもしれません!

1.「光スイッチング磁石」とは

光によって磁性の状態を変える「光磁石」研究の中で発見された、光によって磁性の状態を変える物質のこと。熱も磁場も電流も用いない光スイッチングに成功したことで、光磁気記録デバイスや光センサ、光コンピュータ、光通信などへの応用が期待されている。

1-1.始まりは「光磁石」から

「光磁石」はレーザ光を当てるだけで常磁性体から強磁性体へと変化する物質のことだ。これまで光記録方式として光磁気ディスク(MO)やブルーレイディスクなどが用いられてきたが、これらは全部、レーザ光を材料に照射して、光吸収による熱を利用して材料の結晶状態を変化させる方法だった。青色レーザの使用やレーザ光の絞り込みなどの技術により、市販ブルーレイディスクでは19.5Gbit/平方インチという高密度記録が可能になっているが、熱を用いるこれまでの技術ではさらに次世代の飛躍的な記録密度向上ができない壁にぶつかっている。
 そこでまったく新しい光磁気記録技術の研究開発が続けられているが、中でも光磁石は、その課題解決の有望な方法だ。特長は、熱ではなく、磁場でもなく、光そのものによって磁性の変化を生む点だ。記録や書き換えのためのレーザ強度が小さくて済み(=消費電力が少ない)、現在よりもはるかに高密度な情報記録ができる可能性がある。

光磁石材料で発見された「光スイッチング」現象

これまで開発されてきた光磁石の材料(光磁性体)は、レーザ光によって物質に電荷移動を引き起こすことで物質が持つスピンの状態を変化させ、一定方向にスピンを揃えることで磁気を生じさせるメカニズムをもっていた。一方、今回の研究では電荷移動ではなく、レーザ光によって物質のイオンのスピン状態を直接変化させる方法に挑んだ。
 以前から金属イオンに配位子と呼ばれる分子やイオンが結合した「錯体」には、光や温度、圧力により「スピンクロスオーバ」と呼ばれる現象がおき、物質の磁気的性質を変える(イオンのスピンが低スピン状態と高スピン状態との間を行き来する)ことができることがわかっている。その物性を示す錯体として様々なものが合成されてきたが、このたび大越氏らが開発に成功したのは、「オクタシアノニオブ酸鉄(II)ブロモピリジン」という物質で、これは「キラル構造(不斉構造)」と呼ばれる3次元構造をとるものだ(図1)。

図1 開発された光磁石の「キラル構造」のイメージ
図1 開発された光磁石の「キラル構造」のイメージ

資料提供:東京大学

研究グループはこの物質にレーザ光を当てて物性変化の状態を見た。すると、波長473nmの青色レーザ光を当てると磁性を持つ光磁石(15K=-258℃の磁気相転移温度、保磁力3000エルステッド/一般的なフェライト磁石の保磁力と同程度)になり、その状態でさらに波長785nmの赤色レーザ光を当てると磁性の強さが変化する(12K=-255℃の磁気相転移温度、保磁力2100エルステッド)ことがわかった。  さらにまた波長473nmの青色光を当てると強い磁力の状態に戻り、青色と赤色のレーザ光を交互に当てると、強い磁力の状態から弱い磁力の状態に繰り返し変化させることができた(図2)。こうした実験と分析により、照射するレーザ光の波長により、スピンクロスオーバ現象が生じて磁力の状態が変化していることが確認された。このようなキラル構造の物質での光スピンクロスオーバ現象はこれまで報告されておらず、これが世界初の発見だ。

図2 波長の違うレーザ光照射による光磁性の制御
図2 波長の違うレーザ光照射による光磁性の制御

資料提供:東京大学

1-2.キラル構造の光磁石で光波面の90度スイッチングに成功

物質の磁力をレーザ光で制御するこの研究には、もう1つの重要な目的があった。それは磁力の変化により、光のスイッチングが可能なのではないかという仮説の証明だ。もしも光のスイッチングが可能なら、それを利用した情報記録が可能になるかもしれない。研究グループは、物質に光を入射した時に出射される、入射光の波長の半分の波長の光(第2高調波)に着目した。入射光が物質の表面近くで反射して出てくる第2高調波の状態が、物質の磁力が強いときと弱いときとで変わっていれば、光スイッチングが行われていることになる。
 新しいキラル構造の物質での実験の結果、この予測が的中した。非磁石状態の物質に水平の入射光を入れると垂直な波面の第2高調波が観測された。それに青色レーザ光を当てて光磁石状態Iにすると、出射光の波面の角度が90度回転し、水平な波面の第2高調波が出射されたのだ。その状態の物質に赤色レーザ光を当てて弱い磁力の光磁石状態IIにすると、出射光の波面は垂直に戻った。つまり、見事に光スイッチングが行えたわけだ(図3、図4)。この可逆的な光スイッチング現象も、世界で初めての発見だ。

図3 光の波面の90度光スイッチング
図3 光の波面の90度光スイッチング

資料提供:東京大学

図4 スピンクロスオーバによる光磁石化と状態変化
図4 スピンクロスオーバによる光磁石化と状態変化

資料提供:東京大学

このような第2高調波の変化は、キラルな結晶構造の作用(結晶項)と、磁性スピンの状態による作用(磁性項)の2つが引き起こしているという。結晶構造の作用が主になれば第2高調波の波面が垂直になり、磁性スピンの作用が主になれば水平になる。「キラル構造」と「光誘起スピンクロスオーバ」の両方がこの現象を引き起こしているということだ。
 なお、光の波面のスイッチングは通常の磁石のファラデー効果やカー効果などでも生じるが、波面の変化と同時に楕円率変化も生るため、このようなきれいに90度回転した波面は得られない。

2.「光スイッチング磁石の応用が期待される超高密度記録

しかし90度回転した波面が得られるだけでは一度に2値の記録しかできない。それでも十分有用ではあるが、実は回転角度は光の照射量に応じて細かく制御できる。上手に制御すれば、一度に多値を記録することも可能になるはずだ。これが、この研究の大事なポイントだ。
 図4に見るように、光の波面の回転角は、0度から90度までの間で細かく制御することができる。例えば90度の角度を256段階で区切ると約0.35度になる。その角度変化を正しく捉えることができれば、1つの記録領域に2の8乗で8ビット=1バイトの情報が書き込めることになる。

図5 光の波面角度の制御
図5 光の波面角度の制御

資料提供:東京大学

角度の検知が例えば0.02度程度まで可能とすれば、1つの記憶領域に4096段階、2の12乗で12ビットの情報記録が可能なことになる。平方インチ当たりで言えば30GB程度になり、ブルーレイディスクなど既存の光学メモリデバイスとは比較にならない高密度記録が可能になりそうだ。なお、HDDの先端的な研究では1インチ当たり8TBまで記録可能とも言われているのでそれよりも記録密度が少ないように見えるが、光磁石の場合は一般的なレーザ光に替えて近接場光の利用も視野に入っている。近接場光ならフォーカスを30平方nmまで絞り込めるので、もしその場合に同様の角度計測が可能なら、インチ当たり換算で数十テラバイトに達する記録密度が達成できる計算になる。
 「光スイッチング磁石」は、こうした情報記録デバイスの有望な技術であるとともに、光コンピュータ、光センサ、光シャッター、光通信など様々な用途に貢献するものになりそうだ。現在はマイナス258℃といった低温でなければ光磁石化などが起こせないが、常温でも光スイッチングを生かせる技術の研究も進められている。
 なお、この研究の詳細は、英国科学雑誌「Nature Photonics」に掲載され、掲載誌の表紙を飾るとともに、大越教授のインタビュー記事も掲載された。

取材協力 :東京大学 大学院 理学系研究科 化学専攻 教授 大越慎一

掲載日:2014年2月26日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2014年1月8日掲載分

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