本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

スタートアップガイド

J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト

  • J-Net21とは
  • スタートアップガイド
中小機構
  • メルマガ登録
  • RSS一覧
  • お問い合わせ

HOME > 製品・技術を開発する > デジ・ステーション

デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
塗るだけ発電!驚愕のスピンゼーベック素子

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは「ペンキで発電できるかも」と騒がれた塗布プロセスを利用して作成できる「スピンゼーベック素子」。温度差を電力に変えるこの素子、産業や生活、あるいは地球環境の中で「捨ててきた熱」や「発生源近くでしか利用できなかった熱」をより有効なエネルギーとして活用する道を示してくれています。ペンキ発電までの道は遠いようですが、熱源を広く覆ってエネルギーハーベスティングできるため、無尽蔵な「地熱」なども従来とは違った視点から電力源として視野に入るようになりました!

1.「スピンゼーベック素子」って何?

図1 ガラス板へコーティングした試作品
図1 ガラス板へコーティングした試作品

資料提供:日本電気

熱を加えると発電する熱電変換を、従来技術の限界を超えた効率で実現することが期待されている最先端デバイス。原理となるスピンゼーベック効果は2008年に日本で発見されたものだ。昨年NECと東北大学が開発したスピンゼーベック素子は、基材へのコーティング(塗布)で製造可能なシンプルな構造をとり、地熱などの比較的小さな温度差でも電力への変換ができるため、廃熱の効率的な活用への道を開くと考えられている。
 図1はガラスの上に磁性膜と金属膜とをコーティングしたスピンゼーベック素子の試作品。ガラス面を突き抜けるように熱の流れを加えることにより、金属膜面から電気を取り出すことができる。


1-1.従来からの熱電変換デバイスとの違いは?

「ゼーベック素子」(熱電対)の課題とは

熱を電気に変換するデバイスとして有名なのは、p型半導体とn型半導体を接合した「ゼーベック素子」(「関連するキーワード」の項参照)だ。
 しかしゼーベック素子では実用的な電圧を作るために図1に見るような複雑な構造をとる必要があり、しかも平らな面以外で使うことが難しいとう課題がある。また発電効率を考えるとコスト的に見合わず、現実的な応用が難しい面もある。

図2 従来の熱電変換素子(ゼーベック素子)の構造
図2 従来の熱電変換素子(ゼーベック素子)の構造

NEC技報/Vol.66 No.1 「新原理「スピンゼーベック効果」による熱電変換の可能性」より

資料提供:日本電気

ゼーベック素子より「シンプル」「高効率」「低コスト」なスピンゼーベック素子

そこでもっと単純な構造で、どんなところにでも作り込むことができる素子の登場が期待されていた。今回のスピンゼーベック素子は、そのいずれの期待にも答えるものだった。しかも発電効率がさらによくなる可能性もある。その構造は、図3のように磁性絶縁体と金属とを膜状にして、基材の上に2層にコーティングしたものだ。磁性膜側が金属膜側のどちらかに熱源があれば、金属膜で電流が取り出せる。

図3 2層構造で作成したスピンゼーベック素子
図3 2層構造で作成したスピンゼーベック素子

資料提供:日本電気

図2に比べてとシンプルすぎるほど簡単な構造だ。しかも「膜」でできていることがポイントで、面積が広ければ広いほど、大電力が取り出せる。柔軟性のある基材と組み合わせれば、凹凸の激しい面(例えば熱をもった地面)を覆って発電ができるようになる(図4)。

図4 大面積を覆うスピンゼーベック素子のイメージ
図4 大面積を覆うスピンゼーベック素子のイメージ

資料提供:日本電気

1-2.スピンゼーベック素子の原理は?

ゼーベック素子は熱で電子や正孔(キャリア)を物質内で移動させることで電流を作る仕組みだが、スピンゼーベック素子は、熱の流れに沿ったキャリアの移動をほとんど伴わず、絶縁体中で動けない電子を介してスピンだけが伝搬する原理を利用しているところが根本的な違いだ。
 「スピン」という言葉は聞き慣れない方も多いだろう。理科の授業でもほとんど習うことがないが、これを研究する「スピントロニクス」は、従来のエレクトロニクスの限界を破る将来性あふれる科学の一領域になっている。これについては7月17日掲載の記事「スピントロニクス」で簡単に紹介しているので、是非ご一読いただきたい(この記事では「熱」でなく「音波」を発電に用いる技術を紹介している)。

「逆スピンホール効果」によりスピン流から電流を生む

 「スピントロニクス」記事で紹介しているように、電子のスピンの方向が物質内部で揃っているところに熱の流れが生じると、そこに「スピン流」も生まれる。絶縁体の場合は電子が原子にとらわれて移動しない(局在している)のだが、熱を加えると、局在した外殻電子が持つスピン(局在スピン)が隣のスピンに影響し合うことで、電流は流れないがスピンが持つ運動量だけが流れるようになる。その流れ「スピン流」を接合する伝導体に注入すると、今度は伝導体内部でスピン流が生まれることになる。 そのスピン流は、伝導体内で垂直方向への電流を生む。これは「逆スピンホール効果」と呼ばれる現象だ。これを利用すれば、電子を移動させなくても、スピン流さえ生じさせれば電力が得られるというわけだ(図5)

図5 ゼーベック素子と縦型スピンゼーベック素子の発電原理のイメージ
図5 ゼーベック素子と縦型スピンゼーベック素子の発電原理のイメージ

資料提供:日本電気

ゼーベック素子の課題を克服

スピンゼーベック素子は原理的にゼーベック素子よりも優れているところは何だろうか。
 実はゼーベック素子には物理法則上の制約があり、性能向上に壁があることがわかっている(ウィーデマン・フランツ則)。発電効率を上げるには「素子内部で熱流が流れにくく、電流は流れやすい」ことが必要だが、伝導体中の「熱流」の正体は主に電子の振動の伝搬だ。現在最も効率よく発電できるゼーベック素子の半導体材料でも、熱流の流れやすさは電子の量によって決まってしまう。つまり熱流の流れにくさと電流の流れやすさはトレードオフの関係にあり、材質の研究が進んでも、それぞれ独立して改善するのが難しいのだ。
 一方、スピンゼーベック素子では、2層構造により、磁性絶縁体部分で「熱流を流れにくくする」ことができ、伝導体部分で「電流を流れやすくする」ことができる。それぞれの材質を独立して改善することにより、ゼーベック素子の効率限界を突破することができるかもしれない。これが、スピンゼーベック素子が将来の技術として注目されるゆえんだ。

2.スピンゼーベック素子の特徴と応用

2-1.温度差が小さくても大面積にすれば大電力に

原理的には温度差があればあるほど発電量が増えることにはなるが、温度差を生むために無駄なエネルギーを使うのでは本末転倒だ。スピンゼーベック素子がターゲットにする熱源は、「捨てられる熱」と「使いにくい熱」だ。世界で排出されている熱の多くは、約150℃以下の気体や温水だという。地熱にはもっと温度が高いものもあるが、地域的に局在するので利用が難しい。太陽熱は普遍的だがこれも集めにくく使いにくい。そうした比較的温度の低い熱源のエネルギーを、使いやすい電気に変換して有効活用するのが大きな目的になっている。 スピンゼーベック素子では現在のところ0.395mV/Kの熱電変換係数が実現されているが、これはゼーベック素子と比べてもまだ小さな値だ。しかしより大面積化することと、温度差が大きくなるような熱源選択と素子設計、さらには材質の改善、膜厚の改善などによって、素子面積あたりの発電量として太陽光発電と同程度にまで性能を向上させることが可能と見込まれている。

2-2.コーティングによる生産が可能で、曲面、凹凸面にも適合する素子も実現

また素子の製造にコーティング(塗布)が利用できることを示したのも今回の発表のポイントだ。今回の素子では磁性絶縁体としてイットリウム-鉄ガーネットにビスマスを添加したものを、伝導体には白金を使用した。磁性絶縁体は液状にして基材に塗布し、熱を加えて乾燥・定着させて磁性膜を形成した。伝導体はその上に蒸着させた。ゼーベック素子や一般的な電子デバイス等の製造で不可欠なパターニングが不要なため、歩留まりのよい生産が期待できる。また数平方mといった大面積の素子製造も容易になるはずだ。さらに基材などを工夫すれば曲面や凹凸面に適用できる素子も開発可能だ。
 こうした特徴から、ペンキのように熱源に塗ることで発電できる可能性については、「現在の方法では無理だが、同原理の応用で可能性がないとは言えない」のだそうだ。 なお白金は高価な素材だが、コストを抑えてしかも十分な逆スピンホール効果が得られる金属の利用も検討されているという。
 スピンゼーベック素子による発電は、今のところコスト面では一般的な火力発電(1kWh当たり7~8円)の10倍以上はかかると見込まれ、寿命の検証にもまだまだ時間がかかりそうだ。とはいえ、広く、薄く、エネルギーを収穫して再利用する「エネルギーハーベスティング」はこれからの社会の重要なキーワードだ。スピンゼーベック素子は、そのインフラとして有望な技術の1つであることに間違いはない。

取材協力 :日本電気株式会社

掲載日:2013年12月25日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2013年11月6日掲載分

検索

このページの先頭へ