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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
驚愕!丸めて使える「薄型有機電子デバイス」

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマはついに2μmの薄さに到達した有機電子デバイスです。世界で最も「薄く・軽く・柔らかい」トランジスタとLEDが誕生しました。

1.「薄膜有機電子デバイス」とは

基材と電子回路の大部分に有機材料を使った機器を「有機電子デバイス」、数μmの薄さのシートを「薄膜」という。この7月に東京大学の染谷隆夫教授や関谷毅准教授らの「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」チームが発表したデバイスは、世界で最も薄く軽い、「薄膜状の有機電子デバイス」だ。
 薄くて柔軟な有機電子デバイス製品としては有機ELディスプレイや電子ペーパーなどがある。しかし市販製品は最薄でも全体で数mm程度あり硬い。イメージとしては「板」であり、巻物のように丸めることはできても細かく折り曲げることはできなかった。東大では3年前に10μm級の有機電子デバイスを開発して薄さの世界記録を保持していたが、この7月、キッチン用ラップフィルムの1/5にあたる2μmの薄さでトランジスタやLEDの機能を果たす世界最薄・最軽量の薄膜有機電子デバイスの開発を発表した。重さは1平方メートルあたりにして3g。しかもグシャグシャに丸めても機能はそのままという、驚くべき曲げ耐性がある。

1-1.グシャグシャに丸められる!「薄膜有機電子デバイス」

図1 有機電子デバイスを形成
図1 有機電子デバイスを形成

フィルムの厚さ2μm

資料提供:東京大学 染谷・関谷研究室

図1に示すのが、開発された薄膜有機電子デバイスの1つだ。このひらひらする4.8cm角のフィルム上に、144個のトランジスタによるタッチセンサが4mmピッチで並んでいる。指でつまんだ感触はまるでキッチン用ラップフィルムのようだ。キッチン用ラップは約10μmの厚みなのでおよそ薄さは1/5。この大きさでは、つまんでいても重みはほぼ感じられない。動かすと空気の抵抗を感じるのみだ。


その柔らかさは格別で、手のひらに置いて握ると凹凸に従ってフィットする。最小折り曲げ半径(曲率半径)は5μm。図2左のように手の甲に貼れば、手指が動いて甲の形が変形しても、センサであるシートが変形に追従するのでセンシングが続けられる。また図2右のようにグシャグシャに丸めても、電気的性質はそのままだ。

図2 柔らかい薄膜有機電子デバイス
図2 柔らかい薄膜有機電子デバイス

資料提供:東京大学 染谷・関谷研究室

1-2 同じ技術を利用した薄膜有機LED

この薄膜有機電子デバイスの技術を応用して、同時期に発表されたのが「薄膜有機LED」だ。こちらも同じ薄さと重量だが、電極の間に発光する有機LEDを挟み込み、電圧で光のON/OFFを制御することができる。
 有機LEDはディスプレイ装置や照明として実用化されており、消費電力、色再現性、応答速度の点で従来のLEDよりも優れた特徴をもっている。それが従来のような板状ではなく、薄膜として実現することで、更に幅広い応用の可能性が見えてきた。
 図3に示すのが薄膜有機LEDの実物だ。現在のところは水や空気の影響により劣化しやすいため、研究室内の密閉された環境で取り扱うようになっている。

図3 薄膜有機LEDの点灯実験
図3 薄膜有機LEDの点灯実験

資料提供:東京大学 染谷・関谷研究室

図3下部や図4上に見るように、薄膜有機LEDはグシャグシャになっても光り続けられる。また図4下は延ばしたゴムの上に薄膜有機LEDを貼り、ゴムを収縮させたところだが、まるでアコーディオンの蛇腹のようにLEDが折り畳まれ、天地が半分にまで縮まりながら、それでも光っているのがわかる。

図4 薄膜有機LEDの折り曲げ(上)と圧縮(下)
図4 薄膜有機LEDの折り曲げ(上)と圧縮(下)

資料提供:東京大学 染谷・関谷研究室

最小折り曲げ半径はこちらは10μmだが、驚くほどにフレキシブルなことは写真からでも実感できるだろう。また光の輝度は1平方m換算で100カンデラなので、室内でのモバイル機器には使用できるレベルと言えそうだ。

1-3 薄膜有機電子デバイスの製造プロセス

ここまでの薄さでLEDやトランジスタを含む電子デバイスが実現した一番のポイントは、薄膜形成は容易だが高温に弱いポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチレンテレナフタレート(PET)基材にダメージを与えることなく、有機半導体、絶縁体、電極を積層するプロセスにある。
 図5に有機トランジスタの構造を示す。図に見るように、いくつかの素材が重ねられているのだが、基材は市販品の中で最も薄い1.2μmのもの(PEN)を選び、他の素材も容易に入手できる市販品が使われている。一般的なシリコンなどの無機トランジスタ作製には数百℃という高温の製造プロセスが必要になり、極薄の基材では傷んでしまい均質な品質で製造できなかった。今回は「陽極酸化法」と呼ばれる独自のプロセスを開発して、100℃以下という「室温プロセス」により、1.2μm厚の基材を傷めることなく、19nm厚のアルミニウム酸化膜を密着させて均質に形成することに成功した。
 この技術開発により薄くて柔軟性のある電子デバイスが実現したわけだが、試作したデバイスには機械的・化学的な強さも備わっていた。あらかじめ伸長させたゴムの上に、この薄膜状の電子回路を固定することでアコーディオンのように波型の電子回路を作製することができ、伸び縮みは233%まで可能である。また、体液や汗と同じ成分の生理食塩水に2週間以上浸す実験も行ったが、顕著な電気特性の劣化は観測されなかった。

図5 薄膜有機トランジスタの構造
図5 薄膜有機トランジスタの構造

資料提供:東京大学 染谷・関谷研究室

一方、有機LEDの構造は図6に見るとおりだ。こちらも上記の技術を応用してアルミ電極を形成するほか、従来は高温の製造プロセスが必要だった透明電極の素材を、低温でも効率的に形成できる導電性高分子(「関連するキーワード参照)に替えることで低温での製造を可能にした。両電極間に通電によって発光する有機半導体を挟み込む構造を、1.4μmのPET基材の上に作りこむようにして、全部合計した厚みで約2μmになる。

図6 薄膜有機LEDの構造
図6 薄膜有機LEDの構造

資料提供:東京大学 染谷・関谷研究室

試作品は「スピンコート」と呼ばれる高速回転による薄膜形成と陽極酸化法によって作られているが、量産時にはインクジェット方式やグラビアオフセット印刷方式も可能で、印刷技術の研究も同プロジェクト内で進行中とのことだ。

2.薄膜有機電子デバイス実用化への課題と今後

2-1 薄膜有機電子デバイスの応用領域

この研究プロジェクトが目指している応用領域は、主に医療・ヘルスケア分野だ。フレキシブルで軽量な、装着感がない圧力や温度センサとして、日常的な健康管理への応用が期待されている。
 典型的な例で言えば、血中の酸素濃度を長時間継続して計測するヘルスケアセンサだ。現在では指先クリップ型や腕時計型のセンサが市販されており、脈拍計測に加えて光を当てて血中のヘモグロビンの飽和度を皮膚の外部から計測することができるが、装置装着の違和感は大きく、普通の生活環境では使いにくい。薄膜有機LEDによる発光と薄膜有機トランジスタによるセンシング機能を組み合わせれば、装着感が極めて少ないヘルスケアセンサが実現しそうだ。

また、柔軟性に富み、衝撃や落下などにも強い特性から、日常生活のどの場面でもあまり扱いに注意しなくても壊れないところにも応用の利点があるだろう。更に、シートに集積したセンサにより、「点」ではなく広い面積からの情報を拾うことができることも、これまでのセンサデバイスにはない特徴だ。例えば、入院患者が起こす床ずれ検知などの運動状態モニタ、モーションセンサなどにも応用できそうだ。

薄膜有機LEDに関しては、曲面に貼り付け可能な照明やデジタルサイネージ、フレキシブルなディスプレイ装置などとして、これまでにない意匠・設計による製品開発にも生かせよう。

2-2 薄膜有機電子デバイスの課題と今後

実用化は間近に見えるが、解決すべき課題はまだある。
 最も重要なのは耐久性だ。例えば心臓ペースメーカは5年?10年の体内での稼働に耐えるが、薄膜有機電子デバイスの生体との適性や寿命は未知数だ。有機素材であるだけに熱や水分に弱い欠点もあり、生体の内部と外部での適性の検証には、これから長期間が必要になるだろう。
 特に薄膜有機LEDは現状では大気中での劣化が見られるため、管理された環境でしか利用できない。開発プロジェクトでは、大気の中でも安定した性能を発揮できる有機半導体や封止技術の開発を行っている。

また有機LEDでは輝度も課題だ。LEDは電気エネルギーを光と熱に変えるが、まだ発熱が大きく、効率的に発光できていない。材料の変更や放熱機構の工夫により、現在の100カンデラ/平方メートルの輝度を、モバイルデバイスのディスプレイ用にも使える1000カンデラにまで上げることが当面の目標になっている。

電力供給やデータの送受信も課題だ。電池からの給電や無線給電、無線通信の技術を利用のシチュエーション別に開発していく必要がある。研究チームは昨年、同様の厚みの薄膜基材に有機太陽電池を形成する技術も開発しており、これで電源、電子回路、発光素子を2μm程度の薄さで揃えることが可能になっている。太陽光のないところでの利用や装着性などにも課題があり、同チームではこれら技術の応用について医療機関との間で議論を活発に続けているとのことだ。同チームの関谷准教授は「医療用装置の発明から実用化まで数十年かかることは珍しくないが、この技術は医療現場の目の前の課題解決のために役立つもの。できるだけ早く送り届けたい」と語る。10年後には、「着けているかどうかわからない」ようなヘルスケアセンサが普及しているかもしれない。

取材協力 :東京大学 染谷・関谷研究室

掲載日:2013年10月23日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2013年9月4日掲載分

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