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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
電子の回転で情報記録!「スピントロニクス」

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマはエレクトロニクスの常識を大きく超えた応用が考えられる21世紀の技術「スピントロニクス」の最先端研究。電流を使わず、貴金属材料も使わず、「音波」で情報記録や伝達ができるという新技術を独立行政法人日本原子力研究開発機構・先端基礎研究センター(以下JAEA)が発表しました。難解なスピントロニクスのあらましをこの機会にナナメ読みしてみましょう。

1.音波で情報記録や伝達を行う「スピントロニクス」とは?

電子が持つ「電荷」と「スピン」(後述)という2つの性質のうち、電荷の移動(電流)だけを利用してきたのがこれまでのエレクトロニクス。それにスピン要素も加えて情報記録や伝達、あるいは動力にも使おうというのが「スピントロニクス」だ。

電子デバイスの低消費電力化と小型化はエレクトロニクスではもう限界

電子デバイスの世界には2つの大きな課題がある。1つは電力消費の極小化であり、もう1つは電流を流すことで生じる発熱を低減することだ。このうち省エネ化については言うまでもないだろう。発熱の問題は、デバイス内の回路をよりいっそう超微細化するためのネックになる。
 すでにエレクトロニクスでは省エネ化も超微細化も限界に行き着くことが見込まれており、何らかのブレイクスルーが必要とされてきた。その答えとして有望なのがスピントロニクスだ。電子のもつスピンと、スピンが揃った電子が移動してできる「スピン流」なら、熱を発生させず、電力消費もいらない。それで情報の記録や伝達、あるいはモータ駆動などの動力にできるとすれば、超微細な情報機器はもちろんのこと、例えば人体の内部から手術をするナノサイズのロボットだって実現するかもしれない。そんな夢の実現のために、スピン流の生成や制御をどう行うか、ナノレベルの技術開発や基礎研究に世界の研究者がチャレンジしている。

1-1.「スピン」ってそもそも何?

ではスピンとはそもそも何なのだろう。ちょっと解説してみよう。素粒子研究の中で電子の性質を様々な実験で観測するうち、磁界の中に電子を置くと、それぞれがまるで小さな磁石のような動きをすることがわかった。その動きから、電子が自転している(スピンしている)ことが推測され、その角運動量(回転する勢い)のことを「スピン」と呼ぶようになった。スピンは磁力に関連しており、図1左に示すように電子が反時計回りに回転すると図の下部が磁石のS極、上部がN極に対応するような磁場が生じる。図1の矢印は、その磁力線の向きを表している。ちなみに、物体の磁力は、スピンで生じる磁場を起源とすると考えられている。

スピン方向を揃えることができれば「スピン流」の生成・制御が可能

電子の流れ(電流)は図1左上のようにスピンとは無関係に同じ方向に流れる。一方、特殊な方法でスピンの向きを上向きと下向きとに揃えてやると、上向きの電子は右に進み、下向きの電子は左に進むような「動き」が作り出せる。これが「スピン流」と呼ばれるものだ。

図1 スピンのイメージ(左)と電流およびスピン流のイメージ
図1 スピンのイメージ(左)と電流およびスピン流のイメージ

資料提供:JAEA

1-2.実用化されているスピントロニクスの例は?

電子のスピンは、磁場をかけるか、レーザ光を当てることによって一定方向に揃えることができる。磁場をかけて情報を記録する方法で代表的なのはハードディスクだ。1998年に開発されたハードディスクのためのGMR(Giant MagnetoResistive)ヘッド(読み取り用)は、ディスク記録面の磁化方向を、ヘッドの材料中の電子スピンの変化に対応させ、GMR素子の抵抗値の変化として「0と1」を読み取るものだ。この発明によりハードディスクの記録面に詰め込める情報量が飛躍的に増加し、平方インチあたり数Gビット程度だった記録密度が100Gビット超へと進化した。その後より微細な磁界信号を検出できるTMR素子(「関連するキーワード」参照)が開発されてヘッドに利用されるようになった。記録面の磁化方向はそれまでの水平方向から垂直方向へと変える(垂直磁気記録方式)ことが可能になって、再び一挙に記録密度を向上させた。今では平方インチあたり750Gビットにも達し、先端的な研究では8Tビットまで可能なのではと言われているほどだ。
 またTMR素子は次世代の省電力メモリとして有望なMRAM(「関連するキーワード」参照)にも利用されている。
 レーザ光を利用してスピンを揃える方法を使った代表例はMO(Magneto-Optical disk)だ。現在ではほとんど見ることがなくなったが、かつては大容量でコンパクトな記録メディアとして脚光を浴びた。

2.「動き」をスピン流につなげる研究とは

2-1.スピン流を生成するには強磁性体かレアメタルが必要?

さて、スピンを利用する技術は数あるが、スピン流を生成し、それを検知する技術となると最先端分野を除いてまだまだ研究段階だ。しかしこれまでのスピントロニクス研究では、あらかじめスピン方向が揃った強磁性体なら電流をかければスピン流が作り出せることがわかっている。またプラチナなどのレアメタルには電流によってスピンが揃いやすい性質があり、電流でスピン流が生成できることもわかった(図2:スピンホール効果)。

図2 スピンホール効果
図2 スピンホール効果

プラチナのようなスピン起動相互作用の大きい物質に電流を流すとスピン流が生成される。

資料提供:JAEA

またそれとは逆に、スピン流を電流に変換できること(逆スピンホール効果)もわかった。
 更に、強磁性体の両端に温度差を与えるとスピン流が生成され、電流として取り出せることも実証された(スピンゼーベック効果)。

2-2.磁力と貴金属を使わずにスピン流を作り出す方法

しかしスピン流を作る方法はそれだけなのだろうか。もっと応用しやすい方法があるのでは? そう考えたのがJAEA先端基礎研究センターの松尾衛氏らの研究グループだ。念頭にあったのは20世紀初頭にアインシュタインらが行った磁性体の回転運動と磁性の関係に関する実験だ。この実験では、天井からぶら下げた鉄の棒に磁石で磁場をかけると棒が回り出した。磁場で鉄の電子のスピン方向が揃うと、それが回転運動になって現れたのだ。同時期にサミュエル・バーネットらがちょうどその逆に鉄を回転させると回転軸に沿って磁気を帯びることも発見した。つまり回転運動によってスピンの向きが揃ったわけだ。
 しかし約100年前のこの研究は、これまでスピン流を作り出すという観点では利用されてこなかった。そのことに気づいた同研究グループは、数年前から回転運動とスピン流の関係についての研究を重ねてきた。そしてこのたび、ついに音波を用いた振動で回転運動を作り出し、スピン流を生成するための原理を発見したというわけだ。

音波で作り出す回転運動とスピン流

研究グループが想定しているスピン流生成法はこうだ。まず、比較的柔らかい金属に対して、圧電素子を使って音波(弾性表面波/レイリー波)で振動を与えると、表面をあたかも海の波のように変形させながら振動が遠いところまで進んでいく。その波うつ力は局所的には回転するような動きになる。表面付近の動きが大きいため、そこには強い磁場が発生する。電子スピンは磁場の方向に揃い、その性質として磁場の強い場所へと移動していく。その結果、金属の表面に向かって進むスピン流が生成できることになる(図3)。

図3 振動によってスピン流を生成する原理
図3 振動によってスピン流を生成する原理

資料提供:JAEA

つまり音波の振動による力学的エネルギーをスピン流へと変換できる可能性が示されたことになる。同研究グループでは、研究で導いた基礎方程式により、どのような金属でスピン流が効率よく生成できるかを計算している。その結果、プラチナのようなレアメタルではなく、アルミニウムや銅のような入手しやすい金属のほうが効率がよいことがわかった。

このスピン流生成法による効果

2-3.今後の展開

現在のところ、この研究は基礎理論の完成を見たところであり、実用化はもちろん実証実験もこれからという段階だ。それでも注目されるのは、「電流を使わない」「貴金属も使わない」のに、おそらく情報記録や伝達の手段として利用できるというところだ。JAEAは省電力の磁気デバイス開発につながる研究だとしている。もちろん圧電素子が振動を起こせるよう電流を流す必要はあるのだが、その損得についてもこれから明らかにされるだろう。
 なお、同研究グループの松尾氏によれば、「ナノマシンをスピン流で動かす」ことまで、視野の遠くには入っているという。電子自体の運動を取り出して、ナノサイズのモータや発電機に応用することがやがて可能になると言うことだ。SF映画の「スタートレック」や「ターミネータ2」などに出てくるようなナノマシンも、スピントロニクスの延長上で本当に現実のものとなるかも知れない。

取材協力 :独立行政法人日本原子力研究開発機構・先端基礎研究センター

掲載日:2013年9月11日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2013年7月17日掲載分

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