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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
ペタビット光通信へ!マルチコア光ファイバ

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは、昨年の秋に光ファイバ1本で世界最高速の1.05Pbps(約1000兆ビット/秒)伝送実験を達成したマルチコア光ファイバの基礎技術。日本が世界をリードしているこの技術、いったいどんなものなのでしょうか。

1.マルチコア光ファイバとは?

1本の光ファイバでどれだけ多くの情報が伝送できるのか? その技術開発に世界の研究者がしのぎを削る中、昨年9月にNTTの研究所などが1本の光ファイバで1秒あたり1.01Pbpsという超高速での長距離(52.4km)伝送に成功した。これが「1ペタビット超え長距離伝送」の世界初の事例になった。その驚きも覚めやらぬ同年10月には、アメリカにあるNECの研究所などが1.05Pbpsでのデータ伝送実験に成功したというニュースが聞こえてきた(こちらは3km)。これが現時点での1本の光ファイバによる世界最高速度になっている。1Pbpsと言えば、2時間のハイビジョン映画約5000本を1秒で伝送できる速さだ。
 矢継ぎ早の世界記録更新の原動力になったのは、日本が世界の最先端を走る光ファイバのマルチコア化技術だ。NTTの事例では1本のファイバに12コア、NECのほうは14コアを備えていたが、どちらも元を正せば日本のNICT(独立行政法人情報通信研究機構)が続けてきた「マルチコア光ファイバ」技術開発に端を発している。
 昨年NICTが発表した19コア光ファイバは、NICT、古河電気工業、オプトクエストの共同開発によるもので、図1に示すように、1本の光ファイバの中に19本の光の通路(コアと呼ぶ)を備えるものだった。NICTではこの光ファイバで合計305Tbpsのデータを10kmの距離で同時伝送することに成功した。このマルチコア光ファイバが現在のところコア数密度では最大で、かつ長距離伝送が実証された光ファイバの世界記録になっている。

図1 19コア光ファイバの断面形状
図1 19コア光ファイバの断面形状

資料提供:情報通信研究機構

この前年にはやはりNICTが7コア光ファイバによる毎秒109Tbpsでの16.8km伝送実験に成功している。それが図1の右側上の写真だ(右側下は海外事例)。それから1年をかけてこの7コアの外側を取り囲むように更に12コアを追加して19コア光ファイバを実現した。それまでマルチコア化の実質的な限界が7コアと考えられてきたところに、それ以上のコア数の多重化が可能なことを示した点に大きな意義がある。この成功に導かれながら、弱点だったコア間の光の干渉(クロストーク)による損失などを抑えるようにコアを間引いたのが、12コア、14コア光ファイバだと考えてよい。

1-1.ペタビット・レベルのネットワークの必要性

光ファイバネットワークの大容量化は今後ますます増大する一方の通信トラフィック量に対応するために、迅速に進めていかなければならない課題だ。現状でもブロードバンドの一般化やモバイルデバイスの普及などにより国内で前年比20%、世界で40%という勢いでトラフィック量は拡大している。今後ますます普及が予想されるユビキタスセンサーネットワークやリアルタイムデータベース検索、超臨場感(五感)通信のためのテラビットアプリケーションなどにより、更に増大傾向が加速するだろう。
 こうした傾向に対応して基幹中継網は1987年の最大容量だった1.6Gbpsから、20年をかけて1.6Tbps(3ケタ向上)にまで発展した。しかしこれではやがて不足することが目に見えている。ところがこれまでの技術では、さらなる容量向上は頭打ちになることが明らかなのだ。 NICTによれば2030年には情報量は3000倍(年率1.5倍)~1万倍になることを想定しなければならず、現在の遠距離光ファイバネットワークは「容量危機」に直面しているという。そこで、産学官オールジャパン体制で開発が推進されているのが「毎秒ペタビットが伝送できる光ファイバ」だ。

1-2.ペタビット伝送を可能にする技術は?

そんな光ファイバの大容量化はどのようにして実現できるのだろうか。以下に大容量化の方法をかいつまんで紹介しよう。

シングルモード光ファイバ(SMF)で波長分割多重方式を採る

光ファイバにはシングルモードファイバ(SMF)とマルチモードファイバ(MMF)の2種類がある。このうちMMFは損失が大きいため長距離伝送に向いていない(「関連するキーワード」の項参照)。MMFに較べて比較的細いコア径をもち伝搬に損失が少ないのがSMFで、長距離伝送に利用されるのはほとんどがこれだ。光のモードが1つなのでシングルモードと呼ばれている。
 SMFは従来からイーサネットのように異なる信号を時系列に分割して順番に送り出す時分割多重伝送方式で利用されてきたが、同時に信号が送れないので高速化が難しかった。
 そこで、信号を異なる波長の光に乗せて伝送する方式が生まれた。これが波長分割多重方式で、同時に複数の信号が送れるので高速化ができる。しかし多重化すればするほど光ファイバに光パワーを入力しなければならなくなる。あまりにパワーが大きいとコアが溶けてしまう(ファイバフューズ)ので、入力は数W程度が限界だ。現在の基幹ネットワークでもすでに数百mWで利用されているため、あと数倍程度にしかパワーアップできない。この方式での大容量化は近年着実に進み10Tbpsを達成したものの、その後は足踏み状態だ。

多値変調方式を組み合わせる

更に多くの信号を詰め込むために生まれたのが多値変調方式だ。これは光の波の性質を利用して、その位相(光の振動状態)や振幅で複数の信号を表す方式だ。1つの光パルスでも複数の値(2値~10値あるいはそれ以上)の情報が伝送できるので、さらなる大容量化が可能だ。この技術の進展により、波長分割多重方式の限界を超えた大容量化が実現し、現在は100Tbpsに限りなく近づいてきた。
 しかし、この方式でももう限界だ。その理由は、1本のコア内を流れるトータルの光パワーが増加することで生じる雑音(ノイズ)の増加だ。光の波の振幅や位相が少しでも揺らぐとノイズとなり、伝送誤りを起こす。そのため通信容量をそれ以上に増やすことができなくなってしまうのだ(非線形シャノン限界)。

空間分割多重方式(=マルチコア光ファイバ)を利用する

その100Tbpsの壁を打ち破ったのが新しいマルチコア光ファイバだ。わずか1~2年で100Tbpsを超えたばかりか、一足飛びに1Pbps超えを達成することになった。

図2 光ファイバ1本あたりの最大伝送容量の変遷
図2 光ファイバ1本あたりの最大伝送容量の変遷

資料提供:情報通信研究機構

1-3.マルチコア光ファイバの意義と課題

マルチコア光ファイバによる大容量化は非常に分かりやすい。これまで1本の光ファイバに1本のコアを備えるのが常識だった光ファイバに、コアが多数できたのだ。コアが増えることにより容量も増えることになる。例えば19コア光ファイバでは、1波長あたり172Gbps、100波長を使っての信号伝送実験が行われ、100(波長)×172(Gbps)×19(コア)で305Tbpsが達成できた。
 コアあたりの伝送速度はまだまだ伸ばすことができる。例えばNTTの12コア光ファイバの場合は、波長分割多重と多値変調技術を組み合わせた「偏波多重32値QAMデジタルコヒーレント技術」によりコアあたり84.5Tbpsの伝送速度を達成した(12コア合計で1Pbps超)。コアあたりの伝送速度を上げつつ、コア数を増やしていけば、省スペースで大容量の長距離情報伝送が可能になるわけだ。これを「空間多重」方式と言う。しかし、そこにはいくつか課題がある。

マルチコア光ファイバの課題と解決
図3 調芯装置の外観
図3 調芯装置の外観

資料提供:情報通信研究機構

1つは、コア数を増やすとコア間のクロストークの問題で伝送効率が上がらなくなることだ。もともと複数のコアを持つ光ファイバのアイデア自体は光ファイバ誕生時からあったのだが、クロストークの問題が解決できないうちに、投資効果の高い他の技術開発に研究の矛先が向かった経緯がある。7コア光ファイバ開発の段階でコアからの信号漏れの大幅な低減が図られ、コアの配置の仕方や材質の選び方などの工夫により解決の道が見えてきているものの、まだ改善の余地が大きい。

またもう1つ、信号をシングルコア光ファイバに取り出す時(シングルコアファイバとの結合時)に生じがちなコアのずれを防ぐことも課題だ。コアの間隔は数十μmなので、複数のコアから同時に信号を取り出すのが難しい。マルチコア化が7コアまでと言われていた理由はこれだった。しかし19コア光ファイバでは図3のような「調芯装置」(空間結合装置とも呼ぶ)を開発してこの問題をひとまず解決した。これは、同心円状に並ぶコアの外周部分と内周部分や中心からの光をレンズとプリズムで曲げ、ファイバコリメータと呼ばれる機器に接続したシングルコア光ファイバに受ける仕組みだ。それぞれのコアと結合先のコアとの中心が合うようにする。

複雑な構造に見えるが、光ファイバ自体を加工することなく他の光ファイバとの結合ができるので工事はシンプルになり、またコア数が多かろうと少なかろうと同じ技術で結合が可能になるところが特長だ。これが1つの技術的ブレイクスルーとなり、7コア超のマルチコア化が実現した。


2.マルチコア光ファイバの種類と今後

では最後に、現在実用化あるいは研究段階にある光ファイバの主なタイプをまとめて見てみよう(図4)。

図4 光ファイバのタイプ
図4 光ファイバのタイプ

資料提供:情報通信研究機構

現在遠距離通信で主流なのが左端のシングルモードファイバであり、コア径が太いのがマルチモードファイバ、その中間で2~3程度の複数モードで伝送可能なのが数モードファイバというタイプだ。マルチコアのほうでも各コアが独立した伝送路になっている「非結合」方式(7~19コア光ファイバがこれ)と、コアが結合して実質的にマルチモード伝送を行う「結合」方式がある。またコアが数モード伝送に対応するものも考えられている。コアの外側に穴を開けてクロストーク低減を図ったもの(右端下)もある。これからのネットワークでは、こうした各種の光ファイバを適材適所で使い分けていくことになるのだろう。
 マルチコア光ファイバは、今後もさまざまな大容量化技術が組み合わせられ、世界記録更新が続くものと期待される。当面の実用化はデータセンタやスパコン内といった限られた領域から始まると思われるが、ひいては企業システムや個人のIT利用に影響する技術でもある。既に60コア、80コアの光ファイバ開発に手を上げている企業もあり、これから関連機器を含めさまざまな技術開発が続いていくものと思われる。動向には引き続き注目していきたい。

取材協力 : 独立行政法人情報通信研究機構

掲載日:2013年8月28日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2013年7月3日掲載分

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