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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
顔画像だけで脈拍がバレてしまう技術とは?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは顔を撮影すれば脈拍が分かる「顔画像からの脈拍計測」技術です。従来は専用機器が必要だった脈拍計測が、PC内蔵カメラなど一般的なカメラで行うことが可能になりました。

1.顔画像からの脈拍計測とは

カメラ内蔵PCの前に座って普通に仕事をしたり、趣味の時間を過ごしたりしているだけで、脈拍変化が自動計測され、時系列の変化から健康状態を把握、異常が続くようなら休息や医師の診察などをPCが自動的に勧めてくれる……そんな未来イメージが描ける基礎技術が誕生した。富士通研究所がこのたび開発した「顔画像からのリアルタイムな脈拍計測」技術だ(図1)。

図1 WebカメラからPC作業者の顔画像を撮影して脈拍をリアルタイムに計測
図1 WebカメラからPC作業者の顔画像を撮影して脈拍をリアルタイムに計測

資料提供:富士通研究所

1-1.これまでのヘルスケアのためのセンシング技術は?

この技術の背景を理解するために、まずはヘルスケアのためのセンシング技術の意義を理解しておこう。
 高齢社会でありストレス過多社会とも言われる現代にあって、病気を治す医療と並んで病気を起こさないための予防医療がますます重要になっている。会社においてもメンタルヘルスの悪化や過労などによる従業員の長期休暇や退職例がまま見受けられるところだ。部下や同僚の健康状態の変化に「もう少し前に気づいていたら」と思った経験がおありの方も多いのではないだろうか。もちろんこれは他人事ではない。重大な健康トラブルに陥る前に、休息や気分転換、あるいは運動、食事制限など、必要な対策がとれるよう、自分の体調管理に気を配ることが大事だ。
 健康リスクが顕在化する前に気づくためには、表面に出るとは限らない「バイタルサイン」(生体情報)の異常を知る必要がある。それには日常的なモニタが欠かせない。バイタルサインには脈拍、血圧、呼吸、運動の状態、血中酸素などさまざまなものがある。医療機関では精度の高いセンサが揃っているが、患者以外の人がヘルスケアに使うには、家庭や仕事場でも日常的に装着できるセンサが必要だ。
 現在は低消費電力の超小型センサが次々に開発されており、例えば腕時計のような形で運動状況や体温、体の導電率異常などの検出を行うセンサ、指輪のような形で血中酸素を図るセンサ、頭にかぶって脳波を図るセンサ、絆創膏形/Tシャツ形センサなども登場している。こうしたウェアラブルなセンサの情報を収集するために無線技術が使われることも多い。人体内無線通信システムや「BAN(Body Area Network)」(IEEE802.15.6)のような技術開発も行われており「ワイヤレスヘルスケア」という言葉も生まれている。

1-2.特別な機器を必要としない「顔画像」からバイタルサインを読み取るのが特徴

従来のバイタルサイン検知が特殊なセンサを必要としていたのに対し、今回の発表は汎用的なカメラを使うところが違う。PCやタブレット端末、スマートフォン、監視用のWebカメラなどでも十分に計測可能なところに意義がある。開発者によれば、これは富士通が数年前から提唱している「ヒューマンセントリック・コンピューティング」という考え方に基づいているとのこと。「システムの介在を意識させることなく、今ここにいる私のために役立つことをしてくれるコンピュータ」を理想として、スマートフォンの操作性など幅広い領域で行っている研究の一環として、センシング技術の領域で何ができるかを追求した1つの結果がこの「顔画像からの脈拍計測」技術だ。

2.顔画像からの脈拍計測の技術のあらまし

2-1.どのように脈拍を検出するのか

では計測技術について簡単に説明していこう。
 脈拍はご存知のように心臓の収縮と弛緩によって全身に血液を送り出す時の脈動のことを言う(健康な成人なら1分に60~100回の間が正常値)。これが極端に多くなったり少なくなったりすると、ストレスや病気のサインと見ることができ、生活を見なおして是正を図る、あるいは医師の診察を受けてみるといった対応がとれる。
 今回の開発技術では、血液中の赤血球に含まれるタンパク質であるヘモグロビンに注目した。ヘモグロビンは血液の「赤さ」の正体であり、光の中の緑の成分を吸収する性質を持っている。したがって、顔などの露出した体の部分をよく観察すれば、脈動により血流量が増えた時はヘモグロビンがその部分に増えるので緑色の光が吸収されて薄くなる。次の瞬間には血流量が減少するので今度は緑色が濃くなる。その変化を的確に観測できれば脈拍は簡単に計測できることになる。
 脈拍計測の全体の処理の流れは、図2に見るようになる。まずカメラでは連続して動画で人の撮影を行う。その画像から、現在では一般化している顔検出技術によって顔の領域だけを抽出する。その画像からG(緑)成分だけを取り出して変化の状況をとらえる。一定時間(最低5秒程度)の撮影により、脈拍が計測されて、画面表示や情報記録が行われる。

図2 顔画像からのリアルタイムな脈拍計測の全体の処理の流れ
図2 顔画像からのリアルタイムな脈拍計測の全体の処理の流れ

資料提供:富士通研究所

しかし課題は2つあった。どのように緑色成分の輝度変化を検出するのかと、人がカメラの前で動いた場合にどのような対応を行うかだ。

2-2.余計な光成分(ノイズ)の除去

まずは顔画像に含まれるさまざまな波長の光の中から、ヘモグロビンの影響がわかる緑色の成分だけを抽出するためには、同社が既に開発・研究を済ませていたソフトウェア上の分光技術を利用し、画像の色成分をRGBに分け、RとB成分はノイズとして除去した。
 G成分だけの値の変化(増減)を時系列で並べると、図3のように脈拍を振幅の頂点としてとらえることができる。ある程度(5秒以上)この振幅が計測できれば脈拍がわかる。

図3 顔表面のわずかな輝度変化から分光技術で脈拍数算出
図3 顔表面のわずかな輝度変化から分光技術で脈拍数算出

資料提供:富士通研究所

ちなみに同社の分光技術は、対象物のスペクトル情報を高い精度でピクセルごとに測定することを追求してきており、これまでは「ハイパースペクトルカメラ」と呼ばれる特殊なカメラを利用し、例えばヘリコプターから地上を撮影して外来樹木の植生状況を分析するなどの実績を作ってきた。今回は特殊なカメラではなく、汎用カメラでの画像にこの技術の一部を応用した。

2-3.人の「動き」によるノイズの除去

この技術はそもそも、人間が特別な操作をせずにバイタルサインを検知しようという発想から生まれているだけに、人が脈拍測定をするつもりでPCの前に座るといったケースは例外で、いつもの仕事を普通にこなしている間に、いつの間にか脈拍が測定されて、その時系列変化を集計できるようにしたい。
 この前提では、対象者はじっとしているわけではなく、電話をかけたり、隣の人と話しをしたりと、たいていは小さくとも動いていて、時々は計測不可能なくらいの動き(離席、下を向いて引き出しを探る、など)をすると考えなくてはならない。
 そこで同社は動きもノイズとして除去する仕組みを開発した。これによれば、計測が不正確になるくらいに人が動いている間は計測を中断し、また動きが緩やかになった時に計測が再開できるようになる(図4)。

図4 人の動きを検知して、計測値はノイズとして除去
図4 人の動きを検知して、計測値はノイズとして除去

資料提供:富士通研究所

脈拍は個人差があるほか、一時的な活動によって大きく変動し、食事や会話、仕事の種類などによっても変わる。健康管理のために脈拍データを役立てる時は、1日の中での脈拍の変動を個人ごとに記録し、そのパターンと大きく異なるパターンで脈拍が変動した時にそれを検知、通報する仕組みでなければならない。そのパターンを記録し、リアルタイムに比較できるようにするために、特定の時間でなく、常時のモニタが必要になるわけだ。

2-4.技術の応用、今後の展開

現在のところ計測技術が開発された段階であり、ヘルスケアに活かすための実用化はまだこれからだ。同社では今年度中にこの技術を使った製品を発表する考えだ。健康管理情報や個人情報の取り扱い方、製品またはサービスの形態や機能などについて現在も検討中とのことだ。
 例えばクラウドサービスとしての提供や、タブレット端末やスマートフォンのカメラを利用するアプリとしての利用が考えられている。また応用領域としては、高齢者宅に設置したWebカメラ、あるいはTV電話での体調不良発見、オフィス作業者の体調不良の発見、空港やイベント会場などのゲートでの体調不良あるいは過度な緊張(犯罪者などは緊張で脈拍が高いことが多い)を見分けるといった用途が想定されている。
 同社の想定の範囲外で更に想像の羽を広げれば、緊張の度合いを計測することによる「嘘発見器」のような利用法も可能かもしれない。スマートフォンで恋人の顔を数秒撮影すれば、浮気がばれる時代がくるのかも。いや、これはコンプライアンスやプライバシーがからむ重要な問題だ。個人での利用以外では、完全な「匿名化」を行った上で診断に結び付けるといった、プライバシーを守る技術の追加が必要だろう。
 今のところ、自分自身以外が自分の脈拍などのバイタルサインを常時管理することが許されるかどうか、社会的な議論は行われておらず、コンセンサスは何もない。当面の間は、自分が自分の健康状態を管理するセルフチェックの道具として使われることになりそうだ。

取材協力 :株式会社富士通研究所

掲載日:2013年7月24日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2013年6月6日掲載分

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