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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
カセットボンベで発電!ハンディ燃料電池

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマはなんとカセットコンロのLPGボンベをそのまま使って効率よく発電できる「ハンディ燃料電池」。ボンベ1本で24時間、電子機器などを駆動できる、SOFC(Solid Oxide Fuel Cell/固体酸化物形燃料電池)の実証に成功しました。

1.ハンディSOFC燃料電池とは

従来は据え置き型の発電設備として開発されてきたSOFC(Solid Oxide Fuel Cell/固体酸化物形燃料電池)の大幅な小型・軽量化に(独)産業技術総合研究所(産総研)が成功した。なんと燃料はカセットコンロに使われるLPGボンベでよい。手提げカバン程度のサイズで数kgの重量しかない試作機では、1本のカセットボンベで5VのUSB機器を24時間以上連続駆動可能なことが実証できた。これにより、大規模発電や家庭用発電・給湯設備(コジェネレーションシステム)としての利用以外に、災害対策用、アウトドアレジャー用など、多様な応用の道が開ける。

図1 実証に成功したハンディSOFC燃料電池
図1 実証に成功したハンディSOFC燃料電池

資料提供:産業技術総合研究所

1-1.燃料電池ってそもそも何?

「燃料電池」のイメージが湧かなければ、中学校で習った「酸化還元反応」を思い出してみよう。ボルタ電池やレモン電池などで発電実験をしたことがおありなのではないだろうか。乾電池などの1次電池も基本的には同じ原理で電気を作っている。しかし乾電池は電極の中に酸化剤と還元剤が入っているが、これらが空っぽになるまで使い切ると化学反応が進まなくなり「電池切れ」になる。燃料電池は「水の電気分解の逆反応」を利用したものだが、酸化剤(空気)と還元剤(水素)が電極とは別々になっていて、外部からどんどんつぎ込むことができるものだ。電解質や電極などが劣化しない限り、かつ燃料がある限り電池切れが起きない「発電装置」として使える。

高発電効率の燃料電池

一般的な火力発電や原子力発電は石油・石炭・ウランなどを燃やしてお湯を沸かし、蒸気でタービンを回したりピストンを上下させたりして「化学エネルギー→熱エネルギー→運動エネルギー→電気エネルギー」と変換を繰り返すが、変換のたびにエネルギーをロスする。燃料電池の場合は「化学エネルギー→電気エネルギー」の変換だけなので、発電効率がずっとよい。
 家庭用コジェネレーションシステムとして製品化された燃料電池の発電効率は45%を超えるところまでたどりついており、これは一般的な火力発電所(40%程度)や原発(30%程度)などよりも優秀な数字だ。ガスタービン発電と蒸気タービン発電を組み合わせたコンバインドサイクル発電の前段に燃料電池を組み合わせると、発電効率を70~80%くらいまで高められるとされている。

1-2.研究の空白地帯だったハンディタイプの発電機

燃料電池の研究の多くは大電力を効率よく生み出すことを目標にしており、大規模発電所の設備として開発が続けられてきたが、現在では開発ターゲットとして自動車搭載用、あるいは家庭用・業務用のコジェネレーションシステムへの応用を狙う研究も多くなってきた。しかし、製品化されたものはすべて据え置き型の装置であり、小型・軽量・可搬性のある発電装置への応用はこれまでほとんど研究されてこなかった。この空白の領域に挑戦したのが今回の産総研のハンディSOFC燃料電池だ。

大震災時に被災地に「あり余っていた」カセットコンロ用LPGボンベに注目

開発にあたった研究者は、大震災の時に様々な物資が不足したのに対して、カセットコンロ用のガスボンベは大量にあったことを聞き、この装置のアイディアが湧き出したという。
 ポータブル発電機としては、屋台などでよく見かける騒音の大きいエンジン発電機が普及しているが、その発電効率はわずか5%程度に過ぎない。しかも燃料に使う石油は被災地では決定的に不足していた。カセットコンロ用LPGボンベを使った燃料電池なら、発電効率をはるかに高くすることができ、燃料の備蓄や購入も容易なのではないかと考えた。

2.燃料電池の種類と特長

2-1.SOFC方式で開発した理由は

 燃料電池にはいくつかの方式がある。今回はなぜSOFC方式を用いたのだろうか。まず燃料電池に使われている技術を簡単に紹介しよう。その特徴は表1に示すとおりだ。

表1 燃料電池の技術
表1 燃料電池の技術

かつて大気汚染物質を出さない「アルコールで走る車」で注目された燃料電池が「固体高分子形(PEFC)」だ。これはほぼ常温で作動し、純水素かアルコールで発電する。しかし電極に使う白金のコストは自動車の場合なら10?100万円にものぼり、価格競争力の面から今までのところ普及は進んでいない。
 また「リン酸形(PAFC)」「溶融炭酸塩形(MCFC)」はどちらも電解質に溶液を用いる方式なので、腐食対策が必要な上、小型化が難しく、据え置き型で利用するしかない。これらの方式の欠点を解消できるのが「固体酸化物形(SOFC)」だ(図2)。

図2 SOFC方式の燃料電池の原理
図2 SOFC方式の燃料電池の原理

資料提供:産業技術総合研究所

PEFC方式では電解質中を水素イオンが移動するが、SOFC方式では酸素イオンが移動して電気を起こす。この方式の特徴は3つある。

原理的に、炭化水素など燃料は燃えるものなら水素以外でも何でも使える。
触媒として白金以外の安価な材料が使える。
電解質が固体で装置の持ち運びが容易。またコンパクトにできる。

これらのメリットからSOFC方式が選ばれた。

2-2.開発の課題とその解決

しかしSOFC方式には次のような欠点もある。

反応を起こすために高温(約700℃?1000℃)が必要で、起動までに時間がかかる。
炭化水素燃料を使うと電極に炭素が析出して発電効率が落ちる場合がある。
図3 マイクロチューブSOFCモジュール
図3 マイクロチューブSOFCモジュール

直流5~36V仕様

資料提供:産業技術総合研究所

まずはできるだけ低温で効率よく、急速に起動する仕組みがいる。これには産総研が2009年に開発を済ませていた400~600℃程度で作動するマイクロチューブSOFCを採用した。マイクロチューブは直径2ミリのパイプのようなもので、電解質、負極、正極が積層されている。電解質材はセラミックス包丁などと同じ堅牢なジルコニアで、持ち歩きや振動などで衝撃が加わっても容易には壊れないものを選定した。チューブ形状も堅牢性に寄与している。いくつかのチューブを図3のようにモジュール化し、必要な電圧が得られるようにした。

またLPGの主成分の1つであるブタンは熱分解による炭素析出が起こりやすい。それを燃料に使うと燃料極が急速に劣化して寿命が縮まる。そこでこれまでは貴金属触媒を含んだ外部改質器を使ってブタン含有燃料をあらかじめ水素などに改質して供給する必要があったのだが、今回は燃料極の基材全体に内部改質機能を持つ「ナノセリア」と呼ばれる物質を付加した。従来の材料では図4左のようにススがついたように炭素で覆われてしまっていたものが、ナノセリア付加によって同図右のようにきれいなままで使えるようになり、ブタン燃料でも安定した発電が長期間にわたって可能になることがわかった。

図4 従来電極(a)と改良電極(b)のブタン燃料を用いた発電後のSEM写真
図4 従来電極(a)と改良電極(b)のブタン燃料を用いた発電後のSEM写真

資料提供:産業技術総合研究所

次に高温を作り出す方法だが、もともとがカセットコンロ用のLPG燃料を使うので、そのガスを燃やして起動のための熱を作り出すことにした。SOFC燃料電池の筐体内に組み込んだLPGバーナーで内部を熱し、電池反応が起き始める400℃にまで昇温することにした。ハンディSOFC燃料電池の構成イメージを図5に示す。

図5 ハンディSOFC燃料電池の内部の構造
図5 ハンディSOFC燃料電池の内部の構造

資料提供:産業技術総合研究所

急速起動の検証では、電池反応が始まりUSB機器(直流5V)が駆動できるまでの時間は2分以内という結果だった。一般的にSOFCの起動には数時間以上かかると言われており、大幅な起動時間の短縮を実現した。なお、発電が始まれば発電で生じる排熱によって温度が維持できるので、LGPバーナーの燃焼に頼るのはこの2分間だけだ。
 実験では電極の劣化による電圧低下も起きず、安定的に電力供給ができることが実証された(図6)。

図6 ブタン直接供給による急速起動試験(USB機器接続時)
図6 ブタン直接供給による急速起動試験(USB機器接続時)

資料提供:産業技術総合研究所

2-3.実証結果と今後の実用化

カセットコンロ用LPGボンベには、電力に換算すると1時間で3kW程度のエネルギーが入っている。今回のハンディSOFC燃料電池は試作段階で発電効率が40%だが、それでも50Wの電力を24時間利用できることになる。災害対策として、これは十分な利用時間と言えそうだ。また排ガスとして一酸化炭素が出ることが懸念されたが、実験では検出されなかった。騒音も小さく、筐体表面の温度上昇も許容範囲内であることがわかった。図1のように手提げカバン程度のサイズで、重さは数kgになった。今後は発電効率を上げたり、より迅速に電力供給を開始したりできるように改善を加えていきたい考えだ。将来的には、次世代自動車など大型の移動体用電源などへの応用も目指す。

取材協力 : 独立行政法人産業技術総合研究所

掲載日:2013年7月10日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2013年5月22日掲載分

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