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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
印刷物の偽造を防止する「人工DNAインキ」とは?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは「人工DNAで偽造防止するインキ」。かつてのどんなインキよりもセキュリティの高い印刷物が実現します!

1.人工DNAで偽造防止するインキとは?

大日本印刷とタグシクス・バイオがこの2月に開発を発表した、人工DNAを利用した新しい偽造防止効果の高い印刷用インキのこと。このインキを用いて印刷した印刷物は、第三者による偽造がほとんど不可能だ。有価証券をはじめ高セキュリティが求められる印刷物への適用が期待されている。

1-1.印刷物の偽造防止技術とは

紙幣や有価証券、契約書その他の重要文書は偽造されると大問題。そこでさまざまな偽造防止技術が開発され、適用されてきた。おなじみなのは紙幣に入った「透かし」だ。紙幣の場合は紙を漉く過程で特殊な技術で漉き込まれているのだが、巧妙に印刷すると一見判別しにくい透かしを入れることができる。これだけではセキュリティが保てないので、更に高度な偽造防止効果を狙ってさまざまな工夫が重ねられてきた。
 その工夫は、特殊な技術や設備がなければ実現できない要素を複数つけ加えていくことだ。1つひとつの要素は模倣・複製が可能だとしても、複数の要素を組み合わせることで偽造の難易度(=コスト)を際限なく上げていく方法がとられている。
 例えば1万円札なら表面の赤い印章の下あたりに「10000」の文字が浮かび上がる。これは「潜像」と呼ばれる印刷技術だ。また同様に傾けた状態で両はじの余白部に半透明なピンクの模様も見られる。これは「パールインキ」と言う特殊なインキによる印刷だ。更に超細密な地紋や彩紋、マイクロ文字、紫外線を当てると発光する「特殊発光インキ」、角度により色が変化する「光学的変化インキ」、画像の色や模様が角度によって変わる「ホログラム」などの技術が1枚の紙幣に利用されている。
 こうした技術は何も紙幣だけでなく、各種の商標保護(Brand Protection/BP)用途、ギフト券などの証券類、パスポートなど個人認証用途の印刷物に利用されており、その全体像は図1に見るとおりだ。今回の人工DNAを使った偽造防止用インキは、これまでのどんな技術よりもセキュリティレベルが高い領域を目指したものであり、材料技術の面で最先端を行くものと言える。

図1 印刷関連技術のセキュリティレベル
図1 印刷関連技術のセキュリティレベル

資料提供:大日本印刷

1-2.DNAによる偽造防止とは?

例えば犯罪捜査で遺留物のDNAから犯人を特定したり、食肉などから産地を判定したりといったニュースを時々目にするように、DNAは究極のアイデンティティ証明として使われている。生物固体のDNAに決して同じものはないからだ。しかしそのDNAを生物自身ではなく別のものに利用するというのはどういうことだろう。少しDNAについておさらいしてみよう。

DNAの構造と複製

どんな生物でも細胞内にDNAを持っている。DNAは「生命の設計図」と呼ばれるように遺伝を司る情報を保存し、細胞が増殖する時にはDNAが忠実に複製されるようになっている。その秘密は2重らせん構造にある。まるで2本の紐を縒り合わせたようなその形状はCGで見たことがおありだろう。その1本の紐(DNA鎖と呼ぶ)はどの生物でもたった4種の塩基の並びによってできている。塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)と言い、AにはTが、GにはCが必ず結びつく。もし一方のDNA鎖に塩基が「AGCT」の順で並んでいたら、他方のDNA鎖は必ず「TCGA」の配列に並ぶことになる。これら塩基がどのように配列されるかが、生物の種や個体間の差を生む。この塩基配列こそ遺伝情報を保つ「遺伝暗号」だ。

図2 DNAの構造
図2 DNAの構造

資料提供:大日本印刷

 この2重らせん構造の結びつきをほどいて2本のDNA鎖にすると、それぞれのDNA鎖の塩基が周囲にある塩基を呼び寄せて、塩基のペアを作っていく。その結果、ほどく前と同じ構造のDNAが2通りできることになる。これが、細胞分裂の準備段階で行われるDNA複製の原理だ。
 現在ではこれを人工的に行うことができる。DNAのある程度の領域を取り出し、熱を加えてDNA鎖を2本に分離し、材料となる物質とプライマーと呼ばれるDNAの「種」のような塩基のつながりを加えるとDNAの複製ができる(「関連するキーワード」のインキの偽造防止技術の項参照)。
 しかしこのような分析や複製が行えるのは特殊なノウハウと設備を有する組織に限られ、偽造するためのハードルは非常に高い。生物由来のDNAでも相当に高いレベルのセキュリティが確保できよう。しかし、複製が理論的に可能なところが弱点だった。

コラム:関サバの偽物排除に貢献するDNAインキ

大分県の名産である関サバや関アジは偽物が横行しているのがいわば常識。それを防ぐ目的で漁業組合が専用のタグを利用していたがタグ偽造が可能なことからもっと偽造効果の高い方法が求められていた。2012年2月には植物由来のDNAを混ぜ込んだラベル印刷インキを日本写真印刷株式会社とApplied DNA Sciences, Inc.が共同開発し、そのインキでブランド保護ラベルを作成した。またシドニーオリンピックでは公認グッズの識別にDNAインキを用いた認証マークが使われたこともある。これまでのこうした生物由来のDNAによる偽造防止とは違い、人工DNAを利用したことが今回の発表のポイントだ。

人工DNAとは

そこで、自然界に存在しない、つまり構造が明らかになっていない塩基対を追加する方法が考えられた。その塩基対はAGCTと同様に、結びつく塩基が必ず1つに特定され、DNA塩基と同様に働くことができなければならない。米国の3グループと、日本の理化学研究所のグループが、1990年代半ばから人工DNA開発にしのぎを削っていたが、人工の塩基対ができても複製の際に他の塩基対と結びついてしまう問題があった。理化学研究所のグループはこの問題を対になる塩基の分子の大きさを変える技術により解決(2006年)し、世界で初めて複製可能な、つまり工業的に応用可能な人工DNA開発に成功した。
 今回、大日本印刷と共同開発にあたったタグシクス・バイオ株式会社は、この理化学研究所のメンバーによるベンチャー企業だ。両社が協力してDNAの弱点である環境劣化の克服や、オフセット印刷への適性などに関する技術開発が重ねられて実用化の目処がつき、今回の発表に至った。

人工DNAが偽造防止になる理由とは

なぜ自然界のDNAは複製でき、人工のDNAが複製できないのだろうか。それはDNAの増幅に必要なPCR(Polymerase Chain Reaction)法は、人工の塩基を加えなければできないからだ。PCR法でDNAを増幅するには、既知の塩基配列で作った短いDNA鎖であるプライマーを作成し、分離したDNA鎖の一方に最初につけてやる必要がある。この時、人工の塩基が他の4種の塩基配列のどこに入ってくるかが、第三者にはわからない(図3)。解析のために必要な試薬もDNAによって異なるため、配列を推測することも困難だ。また、最新のDNAの解析法を用いるとほとんどの塩基配列を解析することが可能になってきているが、本人工DNAでは最新の解析法を用いても配列を見破られない仕掛けも備わっている(「関連するキーワード」のインキの偽造防止技術の項参照)。

図3 人工塩基対を加えた「人工DNA」のイメージ
図3 人工塩基対を加えた「人工DNA」のイメージ

資料提供:大日本印刷

人工DNAを含むインキを使った印刷の真贋の識別

実際にこのインキで印刷した証券の見本を図4に掲げる。リスの目の部分にこのインキが使用されている。現物を見ても他の部分との違いは見当たらないが、この印刷部分を針の先でほんの少量削り取り、中に含まれるDNAをPCR法で増幅し、シーケンサと呼ばれる装置で解析することにより、塩基配列を突き止めることができる。そこに人工のDNAが含まれていないかでまずは最初の真贋鑑定ができ、もしもDNAが含まれていた場合でも異なる塩基配列のDNAだった場合には偽物と判断できるというわけだ。

図4 人工DNA含有インキを使ってオフセット印刷したサンプル
図4 人工DNA含有インキを使ってオフセット印刷したサンプル

資料提供:大日本印刷

また人工塩基を用いることにより、人が触った場合などのように外部からDNAが混入した場合でも鑑定の過程で区別ができるので誤認識が防止できるのも特長だ。
 印刷物に適用するためには、生物由来のDNAの弱点である光や温度、湿度などの環境条件による保存性の低下を避けるため、特に光に強い塩基配列を突き止めて適用し、また印刷物表面に人工DNAが露出しないよう表面を保護インキでコーティングする工夫をした。

2.人工DNAインキの利用分野

2-1.人工DNAインキの課題

人工DNAを印刷用のインキに1万分の1程度の量を混入させたものが今回の人工DNAインキだ。人工DNAの製造にはコストがかかるのが1つの課題と言えよう。しかし大日本印刷によると、金券などを50万枚作成する前提で、DNAインキを使わない場合のコストに対して10~20%程度の増加で済むという。
 また真贋鑑定のためには特殊な設備と技術が必要なため、利用者の手元で鑑定することができず、人工DNAの開発元などで鑑定することになる。人工DNAがサンプル(印刷物の人工DNAインキを針の先ほど採取する)の中に含まれるか否かを確認する「簡易認証」で最短半日程度、インキ内のDNA塩基配列を解析し、真贋を判定するのに最短で1日半程度ということだ。

2-2.応用分野

実現コストと真贋鑑定のコストを考えると、応用分野は紙幣やパスポート、金券/ギフト券、契約文書、証明書など、非常に高度なセキュリティが求められる印刷物に限られることになりそうだ。大日本印刷では今後1年で約3億円の売り上げを目指すとしているが、むしろ市場に向けてのシーズ提供と考えており、応用分野についてのアイデアを募集中とのことだ。

取材協力 :大日本印刷株式会社

掲載日:2013年5月22日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2013年4月3日掲載分

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