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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
スパコン大活躍!宇宙天気予報とは?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは「宇宙天気予報」。なんと大気圏外にも「天気」があるのです。地上の通信や衛星などに実は大きな影響をもたらしている宇宙天気の変動は、スーパーコンピュータで計算・予測して毎日予報されていました!

1.「宇宙天気予報」とは

宇宙天気予報は、地上から100km以上上空の「天気予報」だ。日本では独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が毎日公表している。対象とするのは「太陽風」。太陽の状態を常時観測し、観測所や探査衛星から得られる膨大なデータをスーパーコンピュータで処理し、地球や人工衛星への影響度合いをシミュレーションして予報を行っている。今年11月、従来のベクトル型スーパーコンピュータを刷新し、最新型のスカラー型スーパーコンピュータに置き換え、約16倍の理論演算性能向上を実現、予報精度の向上とともに1000年に1度の「極端現象(太陽表面の大爆発にともなう各種の影響)」のシミュレートを可能にした。

1-1.専門家が観測結果をもとに予測する「宇宙天気予報」とは?

 「太陽フレアは静かです。太陽風の速度がやや高くなっています。磁気圏は静かです。太陽放射線と放射線帯電子はともに静穏です」。これが毎日公表される「宇宙天気予報」の「概況」だ(図1)。

図1 「宇宙天気予報」のWebページの例
図1 「宇宙天気予報」のWebページの例

http://www.keyman.or.jp/3w/prd/00/00006400/?p_id=30005302&url=http%3A%2F%2Fswc.nict.go.jp%2Fforecast%2F

資料提供:NICT

概況の表現はシンプルだが、その意味するところは専門的で奥深い。右の画面のように、観測している主な要素は「太陽フレア」や「黒点」にとどまらず、「太陽風」「磁気圏の乱れ(じょう乱)」「放射線」の大きく5つある。それらのデータを総合してコンピュータで視覚化・シミュレーションを行い、その結果をもとに専門家が議論して予報を作成している。この会議を行っている場所は、NICT内の宇宙天気予報センターだ(図2)。

図2 宇宙天気予報センターでの予報会議の様子
図2 宇宙天気予報センターでの予報会議の様子

資料提供:NICT

予報センターの室内は畳4畳分以上あろうかという大型ディスプレイなどで3面がほぼ埋め尽くされている。その室内で観測映像と文字データ、グラフ画像などを参照しながら、専門家が意見を述べ合い、予報をまとめていく。全体で30分ほどの会議はほとんどが専門用語ばかりで難解だが、実際の太陽の映像や地球の電離圏の状態のグラフ変化を目の当たりにしながらの会議は、まったく専門外の筆者にも効率的に見えた。

1-2.宇宙天気予報が必要な理由は?

宇宙天気予報が対象とするのは、太陽の活動によって放出される「太陽風」だ。太陽風は「高エネルギー粒子」(陽子や電子など)やX線などから成る。太陽風は絶えず地球に吹き付けているのだが、太陽の活動は常に変動しているので、地球が被る影響もその時々で異なっている。例えばオーロラが現れるのも太陽風の影響だ。それだけならよいが、激しい太陽風は地磁気を乱し(磁気嵐)、地上100km程度から上にある「電離圏」と呼ばれる電波を反射する層の状態を乱す。宇宙空間では人工衛星の運用に影響を及ぼし、地上では放送・通信、送電系統、航空機の運航などに、時に深刻な影響を及ぼしている。

図3 太陽風の影響のイメージ
図3 太陽風の影響のイメージ

※CME:Coronal mass ejection/コロナ質量放出)

資料提供:NICT

例えば1989年3月には、太陽風の影響で地上に大きな地磁気誘導電流が発生し、カナダのケベック、モントリオール周辺で送電システムを故障させて停電を引き起こした。送電系統の損傷や障害がどんな深刻な事態を引き起こすか、私たちは昨年の原発事故で思い知っている。大規模な停電の可能性があらかじめ予測できれば、非常用電源を事前に十分確保することができるだろう。
 また2003年10月には日本の環境観測衛星みどり2号が太陽風の影響と見られる帯電を起こして利用不能になり、数十億円にものぼる損失を生んだ。同様の人工衛星の障害事例はたくさんある。事前に太陽風のレベルを知っていれば、その時間帯には姿勢変更などの特別なオペレーションを行わない、あるいは電源を落とすなどの対応によって障害回避が可能だ。また宇宙ステーションの船外活動などでは被曝の可能性があるが、太陽風の状態を予想して宇宙飛行士の活動スケジュールを組めば防げる。
 また電離圏の乱れは電波の伝播状況を乱す。GPSによる位置計測では電波の伝播状況の違いで数十メートルの誤差を生じることがある。特に航空機の離着陸などに必要な姿勢制御のための位置計測では、高さ方向では誤差を60cm以内に抑える必要があるので、安全運航への影響は大きい。太陽風の影響が予想される時は自動操縦から手動に切替えるなどの対応が考えられる。また高高度を飛ぶ航空機は影響を受けやすいので、太陽風が強い時には高度を低くする航法が実際にとられている。
 このほか、「スポラディックE層」や「プラズマバブル」といった電波の伝播状態を変える一時的、局所的な電離圏の乱れにより、短波のみならずVHF以上の周波数の放送や通信も異常伝搬を起こすことがある。あらかじめ発生が予想できれば、重要な通信には別の手段を使うなどの対応が可能かもしれない。

1-3.いったいどのように観測するのか

予報のベースになるのが太陽の観測だ。地上からの光学望遠鏡での観測は昔から行われてきたが、今では人工衛星による可視光、紫外線、X線など様々な波長での観測が主流だ。太陽観測用の衛星は3台ある。アメリカ航空宇宙局(NASA)の衛星だが、データはNICTにリアルタイムで手に入る。また地球と太陽の引力が釣り合う位置(ラグランジュ点)で太陽風の温度、速さ、磁場の向きを観測する衛星(米国と共同利用:ACE)もある。このデータも予報のために大切だ。
 もう1つが電離圏の状態の観測だ。NICTは国内4ヵ所に電離圏レーダ(アイオノゾンデ)を設置し、電波の反射状況を観測し電離圏の高さや厚みを計測している。同様の設備は南極昭和基地にもあり、また各国との協力により東南アジア電離圏観測網を形成し、広範囲の観測データを集められる体制になっている。更に国土地理院が設置している全国1200ヵ所のGPSデータ観測点からのデータも、電離圏の状態把握のために使われている。
 こうした観測情報はビッグデータそのものだ。それを計算して予報にまでこぎつけるには大きな計算能力と経験・ノウハウが要る。宇宙天気予報を行っている組織は世界に14あるが、そのうちNICTを含む5機関が相互に情報交換しその予報技術を競い合っている。NICTでは予報の正否をスコアづけしているが、NICTは世界のトップレベルを走っているという。その精度を決定づけているのが、NICT内で稼働する国産スーパーコンピュータだ。

2.宇宙天気予報の精度を上げたスーパーコンピュータ

2-1.最新スーパーコンピュータで計算性能を約16倍に向上

図4 採用されたスーパーコンピュータ
図4 採用されたスーパーコンピュータ

SR16000 モデルM1

資料提供:日立

NICTは1988年から宇宙天気予報を始めているが、シミュレーションにはスーパーコンピュータが欠かせなかった。「天気予報」なのだから、予報をもとに影響を予測して対策がとれるだけの時間がなければならない。できる限り、観測時点から間を置かずに予報を発表するためには処理速度が重要だ。もちろん精度も高くなければならない。コンピュータ資源はいくらあっても十分ということはないが、施設・設備面、ランニングコスト、導入コストとの兼ね合いでバランスをとった投資が必要だ。

NICTはその当時の先端だった国産ベクトル型スーパーコンピュータを導入し、シミュレーションを行うプログラムを独自開発した。しかしこのスーパーコンピュータはそろそろ更改しなければならない時期に至っていた。プログラムの規模はおよそ2万ステップあり、新しいスーパーコンピュータはこのプログラムを正常に動かせるばかりでなく、より大量のデータを高速に処理し、かつ既存の施設・設備の改変をできるだけ少なくして導入コストも運用管理コストも抑えられるようでなければならない。
 NICTでは主要プログラムを用いた総合性能評価方式による入札を募った。そこでコスト、性能ともに最もバランスがとれていたのが日立製のスカラー型スーパーコンピュータ(図4)だった。

今回のシステムの理論演算性能は従来システムの約16倍(25.49TFLOPS)であり、宇宙天気シミュレーションの精度はこれまでの約100倍になった。単純にコンピュータ性能が上がったばかりでなく、スカラー型コンピュータの特性に合わせたプログラムのチューニング(日立が担当)もこの性能向上の理由だという。また水冷方式をとることにより、コンピュータ機器の冷却効率が向上し、機器と冷却装置トータルでの使用電力が少ない点も評価された。同機種は気象庁でも利用されており、天気予報のメッシュを5km四方から2km四方にするなど、従来比30倍という性能向上を果たした実績もある。

2-2.世界初の「極端現象」のシミュレーションも可能に

新スーパーコンピュータの導入により、新たな挑戦も可能になった。従来は計算性能の限界によって不可能だった、1000年に1度起こるかどうかという太陽表面の大爆発による強大な太陽風の影響(極端現象)のシミュレーションが実現している。また、地表から高度500kmまでの電離圏及び大気(気象)状況を統一的に計算する大気のシミュレーションの開発にも取り組めるようになった。これは世界でも例がなく、実現すればNICTが世界初となる。

東日本大震災を機に、私たちは災害に対する認識を新たにした。これまで気にすることもなかった太陽風の影響についても、リスク管理の1領域として考慮しておく必要がありそうだ。またスーパーコンピュータと言えば国家プロジェクトの「京」の話題ばかりが報道されるが、先端の科学技術の研究・開発の背後には、「京」以外のスーパーコンピュータが実は地道に活用されている。この事実も思い出させてくれる取材だった。

取材協力 :独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)

掲載日:2013年2月27日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2013年1月23日掲載分

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