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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
1波長1Tbps!光ナイキストパルス通信

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは「光ナイキストパルス通信」。現行の光ファイバを使いながら、簡単な設備で超高速かつ信頼性の高い通信が行える技術です。1波長で一挙に1Tbpsのビットレートで通信できるようにするこの技術とほかの高速化技術や光ファイバのマルチコア化技術とを組み合わせれば、ケーブル1本で100Tbps程度の高速化にすぐに手が届きそうです。

1.光ナイキストパルス通信とは?

「光ナイキストパルス通信」は、これまで1光波長あたり10Gbps~40Gbpsが限界だった光ファイバによる通信を、一挙に1Tbps以上にまで高速化する超高速光通信の新しい技術だ。1Tbpsと言えば1秒間に125GBが送れる速さなので、例えば4.7GB容量のDVDなら約27枚分のデータが1秒で送信でき、スーパーハイビジョン動画制作のための無圧縮配信(72Gbpsが必要)でも十数チャンネルが余裕をもって配信できる計算になる。

世界の通信トラフィック量は年間40%の増加率を示しており、あと20年で現在の1000倍になると見込まれている。そのトラフィックに耐えられるように、超高速・遠距離伝送が可能な光通信技術が国内外で盛んに研究されている。その1つが光ナイキストパルス通信だ。

発明したのは光通信研究の名門、東北大学電気通信研究所の中沢正隆教授(光通信工学)。中沢教授の研究室が研究を進めている「多値化」通信技術などとともに光ナイキストパルス通信を利用すれば、従来からの光ファイバによる通信環境のままでも飛躍的な超高速・遠距離通信が実現する可能性が見えてきた。

図1 光ナイキストパルスの実験室風景
図1 光ナイキストパルスの実験室風景

資料提供:東北大学電気通信研究所・中沢研究室

1-1 光ナイキストパルス通信がほかの超高速光通信技術と違うのは?

近年は光ファイバの伝送速度の「世界記録」更新が相次いでいる。国内の研究機関やメーカー、キャリアの研究で目覚ましい結果が公表された。例えば「光スーパーチャネル技術で1光波長あたり1Tbpsの大容量信号の1万kmを越える超長距離伝送実験に成功」(NEC)、「19コア光ファイバにより305Tbpsで10kmの信号伝送実験に成功」(情報通信研究機構)、「1本の光ファイバに1波長171Gbpsの信号を432波長多重させ69.11Tbpsで240km伝送させることに成功」(NTT)などの事例が登場している。これらは特殊な光ファイバや変調器などを利用しているのだが、今回の光ナイキストパルス通信の発表は、次の点で今までの高速化研究と一線を画している。

●まったく新しい光パルスによる通信技術。
●これまでと同じ光ファイバが使える。
●特殊な装置を必要としない。

現在のところ、1光波長で160Gbpsの速度によって500kmの光ファイバの伝送を行い、高品質(1億分の1の信号誤り率)、低消費電力の通信に成功している。この技術の延長上で1光波長あたり1Tbps以上の高速通信が可能になるという。

1-2 光ナイキストパルスとは?

現在の遠距離用光ファイバでは1光波長あたり10Gbpsでの通信が実現しており、波長を100本束ねて送信(光波長分割多重化/OWDM:Optical Wavelength Division Multiplexing)することにより1Tbpsの通信が達成できる。ところが現行の遠距離用標準規格の光ファイバは、数百を超える波長を多重化するのが難しい。たくさんの波長の信号を「詰め込む」ためには大きな光パワーが必要なので、その負荷に光ファイバが耐えられず、燃えてしまうことがあるからだ。

そこで、低パワーでも確実に遠距離伝送ができるように、1本の光波長で多くの情報を送る技術が研究されてきた。例えば、1つの光パルスで普通は1ビットしか送れないところを、周波数の位相を変えて数ビットの情報を送れるようにした「位相変調」方式や、パルスの振幅の大小を判別して1パルスあたりに最大4ビット(16値)~10ビット(1024値)を詰め込める「多値化」方式が研究されている。

しかし、これまでの光パルスは頂点と裾野がなだらかに連続していく「ガウス型」や「Sech(セカントハイパボリック)型」と呼ばれるパルス形状(図2)だった。この形状のパルスでは、パルスの裾野がその後に続くパルスの裾野と重なると信号が干渉し合い、ビットの識別ができなくなって誤りが生じてしまう。そのため単位時間にできるだけ多くの情報を詰め込もうと思えば、パルス幅を短くして裾野が重ならないようにしなければならない。しかし、あまりに短くすると伝送中の歪みの影響を受けやすくなり、数百kmといった長距離伝送では歪みが蓄積して符号誤りが起きやすくなる。

そこで、中沢教授が注目したのが「ナイキストパルス」だ。これを用いて、少しずつ時間をずらして複数のチャンネルの信号を送る「時分割多重(OTDM:Optical Time Division Multiplex)」方式を適用すれば、パルス幅が長くても干渉が防げると考えた。ナイキストパルスは図3のような形状をしている。ある一定間隔で強度が必ずゼロになる特徴があり、その時点に次のパルスがあったとしても、パルス同士が干渉せずビットを識別することができる。その結果、従来の2倍以上に高密度に情報を詰め込んで伝送できる。

図2 これまでの一般的な光パルスの形状
図2 これまでの一般的な光パルスの形状

資料提供:東北大学電気通信研究所・中沢研究室


図3 光ナイキストパルスの形状
図3 光ナイキストパルスの形状

資料提供:東北大学電気通信研究所・中沢研究室

図4 光ナイキストパルスの連続送信例
図4 光ナイキストパルスの連続送信例

資料提供:東北大学電気通信研究所・中沢研究室


1-3 光通信で問題になる「距離」と「誤り率」の解決

光通信では、伝送経路で信号増幅を繰り返すため、ノイズが混入し、符号誤りが多くなることが問題とされている。信号増幅を短い距離間隔で行うことで解消できるが、実際には地上で80kmおき、海底では30kmおき程度で信号増幅器を設置することが多い。その間隔を短くするには大きなコストがかかる。

そこで、長距離伝送でノイズが混入しても忠実に符号が取り出せるような工夫がいる。光ナイキストパルス通信の実験は、従来からのレーザーのパルスを、汎用的なパルスシェーパー(液晶素子であるLCoS)によって整形して、そのパルスを遠距離用の標準的な直径125μmシングルコア光ケーブルで伝送した。1光波長で160Gbpsの速度で500kmのケーブルを通しても、信号誤り率は1億個のパルスのうち1個を誤認識するレベル(10のマイナス9乗)に過ぎなかった(図7)。現在では信号処理技術の進歩により、信号誤りの補正がかなり効くため1000分の1程度の誤り率でも実用的だと言われていることからすると、非常に信頼性が高いと言える。

図5 パルスシェーパー(中央)
図5 パルスシェーパー(中央)

資料提供:東北大学電気通信研究所・中沢研究室

図6 実験に使われた光ファイバのボビン
図6 実験に使われた光ファイバのボビン

資料提供:東北大学電気通信研究所・中沢研究室

図7 従来の方式(ガウス型パルス)とナイキストパルスの伝送誤り率の比較
図7 従来の方式(ガウス型パルス)とナイキストパルスの伝送誤り率の比較

資料提供:東北大学電気通信研究所・中沢研究室

1-4 超高速光サンプリング法も開発

パルスの情報を取り出すシンボルの間隔は、6.25ピコ秒と極めて短い。そこからデータを抽出するために、新たに超高速光サンプリング法も発明された(図8)。非線形光ファイバループミラーと呼ばれる光サンプリング回路を作製し、幅が1ピコ秒の狭い光ゲートでデータを抽出することに成功した。この図はどこかで見たような気がしないだろうか。そう、アナログ-デジタル変換のサンプリング手法を光分野に応用したのがこの手法なのだ。これもこの研究の大きなポイントの1つだ。

図8 超高速光サンプリング法のイメージ
図8 超高速光サンプリング法のイメージ

資料提供:東北大学電気通信研究所・中沢研究室

もし従来のガウス型パルスを6.25ピコ秒間隔に並べると、干渉を避けるためにパルス間隔の30~40%(少なくとも2.5 ピコ秒以下)をとらなければならない。光ナイキストパルス通信は同じパルス幅なら2倍以上のパルスを詰め込むことができ、伝送効率が大幅に向上する。

2.光ナイキストパルス通信の用途

光ナイキストパルス通信は、主に大都市間を結ぶ500kmクラスの遠距離通信に適用することが考えられている。対応するルータなどのエンドポイントで必要となる機器がこうした超高速に対応すれば実用化が可能になるが、まだまだ数年は先のことになりそうだ。

なお、今回の実験で使われた特殊な機器はパルスシェーパーだけだったが、これは将来、機器というより薄いフィルタ1枚というような「部品」のようなものにできるという。これは既存の設備をほとんど変えずに高速化できることにつながる。

一方、更に高速化を図るためには、前述した多値化技術などとの組み合わせや、マルチコアファイバ(現在は19コアの光ファイバが最大)を利用することもできる。またケーブルへの光ファイバの高密度実装についても研究が進み、直径11ミリのケーブルに200芯の光ファイバを実装することができるようになっている。うまく組み合わせられれば遠距離間の通信が、遠からず一足飛びに100Tbps超レベルに高速化するかもしれない。

光ナイキストパルス通信は、「超高速化には超短パルスが必要」というこれまでの常識を打ち破り、光ファイバの「物理的限界」と考えられていたビットレートを易々と超えていく可能性がある。ほかの高速化技術と、周辺の機器の対応動向なども含めて注目していきたい。

取材協力 :東北大学 電気通信研究所 超高速光通信研究分野

掲載日:2012年11月14日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2012年10月3日掲載分

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