本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

スタートアップガイド

J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト

  • J-Net21とは
  • スタートアップガイド
中小機構
  • メルマガ登録
  • RSS一覧
  • お問い合わせ

HOME > 製品・技術を開発する > デジ・ステーション

デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
世界が注目!テラヘルツ帯無線通信とは!?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。
 今回のテーマ、「最新テラヘルツ帯無線通信」は、今のWi-Fiの数十倍の通信速度を実現できる可能性を秘めた超高速無線通信技術。光と電波の中間領域のため利用が難しかったテラヘルツ帯は、電磁波の世界に残された最後の技術フロンティアなのです!

1.テラヘルツ帯無線通信とは?

テラヘルツ波(周波数300GHz~3THz)は、光と電波の中間領域にあたり、発生させるための発振回路の技術的ハードルの高さから、これまで未開拓電磁波領域と呼ばれていた。
 2012年5月、東工大の浅田研究室では、共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunnel Diode)(以下RTD)と呼ばれる半導体素子を用いることで、542GHzのテラヘルツ波を発生させ、3Gbpsの通信速度でのデータ通信に成功した。

図1 浅田研究室の開発した共鳴トンネルダイオード
図1 浅田研究室の開発した共鳴トンネルダイオード

右下、拡大写真の四角形中央部にあるのが「共鳴トンネルダイオード(RTD)」

この成果は2012年5月に学術誌「Electronics letters, vol 48, no 10」に発表されるやいなや、BBCなどの海外メディアからも取り上げられ、全世界の注目を集めた。
 一般に無線通信速度はキャリア周波数(通信に用いる周波数)の10分の1程度までが期待できるとされており、今回の実験結果である542GHzという周波数帯域であれば、理論上は50Gbps程度の高速通信が期待できる(現時点ではオンオフキーイングという単一周波数における振幅の強弱を用いた単純なデジタル変調方式しか用いていないことと、RTD以外の配線などの周波数特性などが、通信速度の主な律速要因となっている)。
 50Gbpsという通信速度だけでも、現在の無線LANの最新規格IEEE802.11nの最大速度600Mbpsの100倍近いが、IEEE802.11nが150Mbpsのチャンネル(帯域幅40MHz)を4本同時に使用することで帯域を限界まで広く取ることで高速化を図っているのに対して、テラヘルツ帯の周波数領域は電波法の範囲に含まれておらず、電波として割り当てがまだ決まっていないため、「チャンネルあたりの帯域幅の確保がしやすいこと」、「周波数自体が高いため帯域幅も自然と広くなること」などを踏まえると、通信速度の上限は数百Gbpsまで到達すると考えられている。(国内の電波使用状況については総務省の「電波利用ホームページ」を参照いただきたい)

2.テラヘルツ帯無線通信の仕組み

テラヘルツ帯(周波数300GHz~3THz)の電磁波は、発振・増幅装置の製造が難しく、電波と光の中間の未開拓領域「テラヘルツギャップ」と呼ばれてきた。

図2 テラヘルツギャップ
図2 テラヘルツギャップ

電波と光の中間「テラヘルツ帯」は未開拓領域

電気的なアプローチと光学的なアプローチの両方から、多方面においてこのテラヘルツギャップ開拓への挑戦が進められているが、今回の東工大のアプローチは、従来からよく知られてきたLC発振回路に、最先端の半導体技術によって実現する「量子トンネル効果」を使った素子を組み合わせることで、従来の限界を超える超高周波での電気的発振と電磁波の放射を実現するものである。

図3 RTD発振素子の働き
図3 RTD発振素子の働き

回路図における点線の左がRTD、右がスロットアンテナを表す

上の等価回路図で、点線の左側がRTDにあたり、発振回路を構成するために必要不可欠な、出力を取り出す負荷(電磁波を放出するスロットアンテナ)を駆動(発振を維持、増幅)するための「負性抵抗」と呼ばれる役割を果たす。

図4 RTDの構造と負性抵抗領域
図4 RTDの構造と負性抵抗領域

RTDは、量子井戸によって負性抵抗領域をつくりだす

テラヘルツ帯での発振を実現するには、素子の動作速度(電子の移動速度)が十分に高速でなければならないが、今回東工大が開発したRTDにおいては、厚みわずか分子5個分、1.4nmのAlAs(アルミニウムヒ素)層で、4.5nmのGaInAs(ガリウムインジウムヒ素)層を挟み込むことでできる量子井戸によって、動作速度の高速な負性抵抗領域をつくりだしている。

図5 共鳴トンネル効果で負性抵抗領域ができる仕組み
図5 共鳴トンネル効果で負性抵抗領域ができる仕組み

左のエネルギー状態図の2障壁の間が量子井戸、これを水平に貫いているのが共鳴トンネル。右のグラフの(b)から(c)までの区間が負性抵抗領域

電子の持つ波の性質から、波長の1/2が量子井戸の幅と一致する特定のエネルギー準位の電子だけが障壁と量子井戸によってつくりだされる共鳴トンネルを通リ抜けることができる。このトンネルは、上の図の(a)から(b)までの電圧では機能するが、(c)に至ると左のエミッタ側のエネルギー準位がトンネルよりも高すぎるため通れなくなってしまう。この(b)から(c)に至る短い区間では「電圧が下がると電流量が増える」ことになり、通常の抵抗による「電圧が下がると電流量が減る(減衰)」の逆、すなわち信号の発振・増幅を行うことができる。
 この共鳴トンネル効果を利用したRTDの非常に高速な動作によって、テラヘルツ帯での発振と電磁波の発生・放出が可能になるのだ。

3.実用化への道のりと将来性

テラヘルツ帯での発振・増幅への取り組みには、本技術に用いられたRTDのほかに、量子カスケードレーザのような光学半導体から、HEMT、HBT、Si-CMOSなどのトランジスタなど、様々な半導体デバイスが存在する。
 従来の技術でも、テラヘルツ帯の発振・増幅ができる装置はあったものの、数メートルの規模の電子管やガスレーザや、複数の固体素子を組み合わせる必要があったことが、その活用の妨げとなってきた。
 電磁波利用における未開拓領域として残されてきたテラヘルツ波の活用の鍵を握るのは、コンパクトな素子単体でテラヘルツ波の送信を可能とする、最先端半導体デバイスであることは間違いないだろう。

ナノテクノロジが製造の鍵

テラヘルツ帯で用いられる半導体素子に共通するのは、分子線エピタキシー法(MBE)や有機金属気相成長法(MOCVD)のような、ナノメートル単位、1分子層単位で半導体結晶を設計、製造できる技術によって、実現が可能になってきたデバイスであることだ。
 今回ご紹介した東工大のRTD素子の場合、超高真空を要するため量産には不向きとされるMBEによって製造されているが、基礎技術の確立を目指す研究段階で使いやすい方法を取っているだけであり、「より量産に向いたMOCVDでも既に発振素子を製造しており、特性にも問題はない」(浅田雅洋教授)という。
 これらの微細な半導体構造による量子効果を活用したデバイスは、その発展とともに製造技術が急速に発展していくと考えられる。例えばRTD素子をシリコン上に複数並べてアレイを構成することで、より高い出力(現在は1素子で230μW)と指向性のコントロールを実現するといったことも、製造技術が可能にする領域である。

テラヘルツ波の特性と高速通信

前述のように300GHz~3THzの幅広い帯域に渡る無線通信の空白地帯であるテラヘルツ波には、余裕を持った帯域割り当てが期待でき、大容量通信の領域で、4K映像の配信から遠隔医療、固定局無線、無線ホットスポット、チップ間伝送まで、幅広い用途が期待されている。
 電磁波の基本的な性質として、周波数が高いほど指向性・直進性が高いので、航空機や電車などにおいて座席ごとに指向性の高いテラヘルツ波を届けることで、空間的にチャンネルを分離させた高速通信(混信がないため広帯域を割り当て可能)も可能だと考えられている。逆に、現在の無線LANのように室内のどこでも通信できるような無指向性の無線通信には、出力面から見ても余り有利ではないが、赤外線に比べて周波数の低いテラヘルツ帯はコンクリートなどを透過することが可能なので、ビームフォーミング的な技術を使えば、通信場所を問わない技術ソリューションも不可能ではないと考えられている。

イメージングや非破壊成分分析

テラヘルツ波は、紙や衣服を透過し、金属のみを反射するという特性を持っており、空港のセキュリティチェックや食品のイメージングにも利用できる。更に、有機物ごとに異なる固有の吸収スペクトルから、封筒内の禁止薬物を検出することや、医薬品の品質検査などにも応用することが可能だという。
 電波と光の中間領域であるテラヘルツ帯には、超高速無線通信からレントゲン的のようなイメージング用途まで、極めて広大な技術フロンティアが広がっているといえるだろう。

取材協力:東京工業大学 大学院総合理工学研究科 浅田研究室

掲載日:2012年8月22日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2012年7月18日掲載分

検索

このページの先頭へ