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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
放射線を可視化!超広角コンプトンカメラ

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。
 今回のテーマ、「超広角コンプトンカメラ」は、日本の最先端技術の粋を極めた宇宙観測用のカメラを、他分野へと応用したもの。ガンマ線を高い解像度で撮影できるカメラは、放射性物質の検出と除染に役立つのはもちろんのこと、医療や食品から非破壊検査まで幅広い分野での活用の可能性を秘めています!

1.超広角コンプトンカメラとは

図1 超広角コンプトンカメラ
図1 超広角コンプトンカメラ

実証実験用に試作されたコンプトンカメラ。
2つのコンプトンカメラモジュールを並べて、感度を2倍にしている。
引用元:JAXAプレスリリース「『超広角コンプトンカメラ』による放射性物質の可視化に向けた実証試験について」

「超広角コンプトンカメラ」とは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2014年に打ち上げを予定している次期X線天文衛星「ASTRO-H」に搭載予定のガンマ線観測センサの技術を、地上用途に応用して、ガンマ線を放出する放射性物質の分布を可視化できるよう試作したカメラ。東京電力からの問い合せをきっかけに、JAXAが急遽作成したものだ。

宇宙科学研究所(ISAS)高橋研究室は、世界最高感度での宇宙ガンマ線観測を実現するために、過去10年以上にわたる研究開発を名古屋大学、東京大学、広島大学、大阪大学などの研究者とも協力して進め、要素技術を蓄積してきた。「超広角コンプトンカメラ」には、宇宙科学研究所と株式会社アクロラドが開発したCdTe半導体素子、三菱重工業株式会社名古屋誘導推進システム製作所と共同開発した高密度実装技術などをはじめとする、世界最高水準の日本のハイテク技術が惜しみなく注ぎ込まれている。

この装置は、その名の通り「超広角」の視野を特徴としている。これまでにもガンマ線を可視化する装置はあったのだが、ピンホールやコリメータと呼ばれる鉛製の遮蔽物を検出器前方に設置する必要があり、視野が限定されていた。一方、コンプトンカメラでは、コンプトン散乱(後述)と呼ばれる物理現象を利用したイメージングを行い、コリメータを必要としない。更に、今回の「超広角コンプトンカメラ」は、半導体検出器を高密度で積層することで、装置に入ってきたガンマ線が装置から逃げにくい構造となっており、結果として180×180度にわたる視野を実現した。従来の装置の視野が40×40度程度であったことと比べると10倍以上の視野をカバーできることになる。

この広い視野は、今回のように敷地や家屋にセシウム137(Cs-137)やセシウム134(Cs-134)が広く分布している状況では、有利である。また、サーベイメータなどを用いた人の手による調査では難しかった、屋根などの高所に集積する放射性物質を画像化することもできる。このため、福島第1原発事故の除染作業などに役立てることが期待される。

図2 福島県飯舘村で行われた測定試験の結果
図2 福島県飯舘村で行われた測定試験の結果

放射性物質が「見えて」いる。画像は60分間の積算イメージ。
引用元:JAXAプレスリリース「『超広角コンプトンカメラ』による放射性物質の可視化に向けた実証試験について」

今後JAXAは日本原子力研究開発機構とともに東京電力の協力のもとで超広角コンプトンカメラを用いた放射性物質の除染作業など、実用化に向けた検討を進めていくとしている。

2.コンプトンカメラは「レンズのないカメラ」

ガンマ線は電磁波の一種だが、屈折や反射といった現象をほとんど起こさないため、普通のカメラで用いられているレンズ(ミラー)を使った集光と撮像素子による画像化は不可能である。

図3 電磁波とは?
図3 電磁波とは?

電磁波のなかでも、ガンマ線は最もエネルギーが大きい。

また波長が長く、エネルギーが低いX線は光子と物質の相互作用が光電吸収と呼ばれる物理過程によって支配され、例えば、アルミ箔1枚で止めることができる。そのような場合には、CCDやCMOSセンサなどの薄いシリコン半導体で作られた撮像素子を用いた検出方法が有力である。しかし、X線以上にエネルギーが高いガンマ線は、それが難しい。放射性物質から放出されるガンマ線は数100キロ電子ボルト(keV)の領域が多く、このエリアにおける相互作用は、「コンプトン散乱」という現象が主になるためだ。

図4 サッカーのシュートを後ろにはじき飛ばしたキーパー
図4 サッカーのシュートを後ろにはじき飛ばしたキーパー

シュート(ガンマ線)が強力すぎて、キーパー(電子)はボールを後逸してしまう。

コンプトン散乱とは、簡単に言えば、サッカーのシュートボール(ガンマ線の光子)をキーパー(物質中の電子)がはじき飛ばすような運動である。シュートの勢い(ガンマ線のエネルギー)が強くてキーパーはキャッチ(光電吸収)することができず、かろうじてパンチングするものの、後ろのネットにボールは突き刺さってしまうわけだ。
 このネットの位置に半導体素子を置いておくと、はじき飛ばされた光子は、エネルギーが減るので光電吸収を行いやすくなる。キーパーの位置と受けた衝撃(与えられたエネルギー)、はじき飛ばされたボールがネット(半導体素子)に当たって止まった(光電吸収された)位置と吸収した衝撃(吸収したエネルギー)が分かれば、ボールがどの方向から飛んできたのかは、物理学の「運動量保存則」と「エネルギー保存則」の2つから正確に計算することができる。

図5 コンプトンカメラの動作原理
図5 コンプトンカメラの動作原理

上記は、原理を説明するために観測対象を点光源に限定して、キーマンズネットが独自に作成したもの。
面に分布する物質を観測するために高度な統計処理を要する実際の超広角コンプトンカメラの動作を正確に表すものではない。もし、ガンマ線が蹴飛ばした電子の飛跡をも測定できると、円上のどこの方向から実際にガンマ線が来たかを知ることができる。これを電子追跡型コンプトンカメラと呼ぶ。

コンプトンカメラの動作原理(上図)をサッカーになぞらえるなら、散乱部がキーパーにあたり、吸収部はネットにあたることになる。それぞれが半導体素子で構成されていて、位置とエネルギーを検出することで、運動量保存則とエネルギー保存則からガンマ線の1光子が飛来した方向を、上の図のようなコーン型の領域に限定することが可能になるのだ。
 飛来する光子の数が増えれば、検出装置の測定誤差の限界までの精度で、放射性物質(ガンマ線源)の位置を決定することができる。

図6 コンプトンカメラの構造
図6 コンプトンカメラの構造

JAXAのコンプトンカメラは、半導体素子を高密度に多層化することで高性能を実現する。

JAXAのコンプトンカメラの概念図は上の図のようになっている。ポイントは原子番号が大きく散乱後の光子を高い確率で吸収できるテルル化カドミウム(CdTe)と、原子番号が小さくコンプトン散乱を起こしやすいシリコン(Si)を組み合わせている点にある。
 ボールを弾く係と、キャッチする係のそれぞれに最適な元素(半導体)を選ぶことで、「コンプトン散乱→吸収」という、コンプトンカメラが動作する上で必要不可欠な相互作用現象を、目的のエネルギー範囲で高確率に発生させることを実現しているのだ。  またシリコンという元素は、コンプトン散乱を起こす電子の運動量のゆらぎが少ないという、コンプトンカメラの精度限界を向上させるために重要な特徴も備えている。SiとCdTeの2種類の半導体イメージャを組み合わせたことによって、高い位置解像度とエネルギー解像度の両方を実現している。そしてもう1つのポイントが、それらで作られた半導体センサを多層化し、高密度とすることで、容易に検出効率を高めることだ。
 コンプトンカメラの仕組みと構造において興味深いのは、レンズがなく、コンプトンカメラの半導体センサは、キューブ型の散乱部とその周りの吸収部の組み合わせでよい点である。ついついカメラの受像装置というと平面的な板をイメージしてしまうが、そのイメージはレンズとセットでないと意味を持たないのだ。

実際の「ASTRO-H」には、上に挙げたようなコンパクトな構造のキューブ型撮像部(軟ガンマ線検出器:SGD)を3×2の配置で6個搭載して、運用する予定となっている。

取材協力 :宇宙航空研究開発機構(JAXA)

掲載日:2012年6月27日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2012年5月23日掲載分

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