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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
「携帯カンニング検知システム」って何だ?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。
 今回のテーマは、携帯電話の電波をとらえてその発信源の位置を特定する技術です。その目的はなんと「カンニング防止」。昨年の大学入試では試験会場から試験問題をインターネットのQ&Aサイトに送った予備校生がいました。そんな携帯電話による不正行為を検知するために、東京工業大学と株式会社光電製作所が共同で開発し、今年2月に公表されたのがこの技術。いったいどのようなものなのでしょうか。

1.携帯カンニング検知システムとは?

携帯電話持ち込み禁止の大学入試会場で、こっそり隠し持った携帯電話を取り出し、試験問題をすばやく入力してインターネットのQ&Aサイトに投稿、親切なユーザからの答えを待つ。昨年の大学入試カンニング事件は、こんな単純な手口だった。もしその時、試験官が気づいて退場させていたら、あの騒動も各方面の迷惑もなかったはず。とは言え、隠れて行う不正行為を人間の目や耳だけで発見するのは難しい。そこで、屋内で発生している電波を監視して発信源の位置を特定する技術が開発された。それが「携帯カンニング検知システム」だ。

1-1 携帯カンニング検知システムとは?

「携帯カンニング検知システム」を正確に言うなら、「携帯端末を用いた不正行為検出のための屋内位置推定方式」となる。携帯電話を用いてはいけない室内で電源をONにしている携帯電話の位置を、計測と解析によって導き出す技術のことだ。この技術を利用すれば、例えば試験会場の試験官がPC画面をモニタしていれば、どの席で携帯電話が使われているかがわかる。即座に退場を命じて、失格にすることができるので、カンニング防止に役立つというわけだ。

1-2 携帯カンニング検知システムのあらまし

図1 実証実験を行った教室
図1 実証実験を行った教室

資料提供:東京工業大学

この技術の実証実験は、今年初めに行われた。場所は東京工業大学大岡山キャンパスの入試センター試験会場になる教室。この教室には114席の座席がある。教室の大きさは10.8m×16.85m、座席の間隔は横方向1.2m、縦方向0.78mになっている(図1)。
 この教室の四隅に1本ずつアンテナを立てて、それぞれを1台のセンサ(電波の受信装置)につないだ。また中央には3本のアンテナと1台のセンサを配置した(図2)。
 そして各座席でノートPCにつないだLTE端末で送信を行い、センサが集めた電波状況のデータをPCに取り込んだ。対象とした通信は、通信端末が断続的に発する制御信号のみだ。
 送信端末のノートPCは、席上を決まった距離で少しずつ動かしながら、1席あたり20のポイントでデータを取った(図3)。


図2 設置したアンテナ
図2 設置したアンテナ

資料提供:東京工業大学

図3 使用したノートPC+LTE端末
図3 使用したノートPC+LTE端末

資料提供:東京工業大学


1-3 位置推定の精度は平均42cm

このデータを解析した結果、推定誤差平均42cmの精度で位置推定が行えることが分かった。席と席との間隔が最短で78cmなので、ほぼ発信した席が特定できる結果だ。図4は、実際の教室の席配置と、その位置推定の誤差範囲を表したものだ。

図4 携帯カンニング検知システムの位置推定誤差範囲
図4 携帯カンニング検知システムの位置推定誤差範囲

資料提供:東京工業大学

2.電波の発信源の位置を特定する仕組みは?

これまでの技術では、屋内の電波発信源の位置をここまでの精度で推定することはできなかった。同大学では従来からあった他の位置推定手法を用いて同じ環境で実験している。その結果、他の手法では約3~4mの推定誤差となった。明らかに今回の手法のほうが優れている。
 それでは、この実験の背後にどんな技術があるのか、少し踏み込んで見てみよう。

2-1 屋内からの携帯電話使用を検知する難しさ

子どもの頃、トンネルの中で大声を上げてみたことがあるだろうか。声はあたりに響き、少し遅れて何度も聞こえてくる。屋内での電波の状況はこれと同じで、室内の構造や物品の配置によってある時は反射し、ある時は回折し、1つのアンテナに電波が遅れて何度もやってくる(マルチパスという)。加えて、同じ施設内の別の部屋や廊下から、あるいは屋外からも電波は常に飛び込んでくる。このような状況で電波の発生源の位置を特定することはとても難しい。

2-2 なぜ電波を検知する仕組みにしたのか

それほど難しい電波発生源の位置推定技術をなぜ開発しなければならなかったのだろうか。コストと準備期間を度外視すれば、今すぐ実施できる対策は3つある。
 1つは、電波を遮断することだ。室内にくまなく電波吸収体(シールドシート)を貼り込めば、室内から電波は出ていかず、外からも入りこまない環境ができる。しかし事前に施工し、事後に撤去するのに大変なコストがかかる。
 もう1つは妨害電波だ。携帯電話の送受信を事実上遮断できるが、法律の制限もあり、何より会場周辺の正当な通信に害を与える可能性が高いので、採用しにくい。
 あとは試験監視スタッフを増やすことだが、これもコストがかかりすぎる。
 とすれば、携帯端末の送信電波を検出するアプローチが最も低コストになる。ただし、室内から通信が行われたかどうかだけを判定するのでは、罪のない他の受験者も疑うことになってしまう。誰が通信を行ったかまで正確に分かる精度の高い位置検出技術が必要だ。

2-3 携帯電話電波の発信源特定の方法

どうしたら精度の高い位置推定ができるのか。それには室内の電波の伝わり方(伝搬状況)を測定して、発信位置によって変わる電波の特性情報と、各席の位置情報とを紐づけすればよい、と考えたのが、今回の研究だ。
 電波を測定する時には、強度、遅延、位相という3つの性質に注目する。基本的にはこのどれもが発信源から受信アンテナまでの間の距離に応じて変化する。見晴らしのいい屋外なら、これらの性質に着目して複数個所で測定すれば、電波の発信源を突き止めるのは容易だ。これは例えば池に小石を放り込んだ時にできる波紋から、小石の落ちた場所を当てるのと同じようなことだ。
 ところが屋内ではどうか。壁や天井、床、家具などによって電波は反射し、ごちゃごちゃになってアンテナに届く。そのデータから発信源を突き止めるのは大変なことだ。
 そこでこの実験では、特定の位置(各席)から発信した電波が、反射などの影響も含めてどのように測定されるかを、複数のポイントで調査し、伝搬の特徴と位置情報とを紐づけるようにした。このように紐づけられた位置情報と特徴情報は一種の指紋だ。ある特徴に一致する電波が検出されたら、その特徴と一致する「位置指紋」を探し、一致する点が多ければ、その席から発信されたものだと推定することができる(図5)。いずれの位置指紋にも一致しない場合は、教室の外と判断するようにした。

図5 屋内環境における位置推定と特徴量のイメージ
図5 屋内環境における位置推定と特徴量のイメージ

資料提供:東京工業大学

この実験では学生が実際に各席で送信をして位置指紋を採取する方法をとったが、実際に適用する場合には、携帯電話を持った学生がその教室に座っているところを一定期間測定し、統計的な処理をして解析ソフトに位置指紋を学習させる必要がある。このような運用方法を考慮していることも、このシステムの1つの特長だ。また室内にカメラを用意して、映像情報を位置学習に役立てることまで考えられている(図6)。

図6 不正行為検出システムの構成イメージ
図6 不正行為検出システムの構成イメージ

資料提供:東京工業大学

3.不正行為検出システムの応用

この実験はセンサからの情報をオフラインで解析したものだが、リアルタイムで結果を出力することもできるので、試験会場で携帯電話の使用状況をモニタして、カンニング防止に利用することが可能だ。ただし、事前に試験会場となる教室で位置指紋を採取し、一定期間の学習により精度を高めておく必要がある。また今回はドコモのLTE通信端末についての実験だが、異なる通信方式の端末でも位置指紋を採取する作業が必要になるかもしれない。運用上の工夫が必要だが、入学試験に限らず、各種資格試験などの公正性の確保に有効に使えることは間違いない。
 また屋内での電波発生源を特定できることから、例えば企業のセキュリティエリアからの情報送信による情報流出を発見することにもつながるかもしれない。
 更に期待されるのが、屋内GPSとしての使い方だ。例えばショッピングセンターでお客さまの動線を発見したり、現在位置に直近のサービスブースの情報を携帯電話に知らせたり、公衆無線LANスポットへのガイドをしたりと、さまざまな使い方が考えられる。
 もっと言えば、携帯電話を持っていれば、それで自分のIDと位置を示すことができる。例えば講義や会議の出欠確認などは自動的に行える。必要な講義資料を、その場で必要な人にだけ渡す、あるいは手元の端末に送信するといった、教育システムへの利用も期待されている。
 以上、今回はカンニング検知という切り口で、最新の電波技術の一端を見てきた。この技術は不正な行動を抑止する効果がある一方、応用すれば新しいビジネスやサービスにもつながる。携帯電話やモバイル通信機器をより有意義に利用できる社会をつくるために、こうした技術開発や研究にも注目していきたい。

取材協力 :国立大学法人 東京工業大学 大学院理工学研究科 電気電子工学専攻 阪口 啓 准教授

掲載日:2012年6月13日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2012年5月9日掲載分

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