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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
お尻で認証!?「着座認証システム」とは

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。
 今回のテーマである「着座認証システム」は、自動車の座席やオフィス、教室などの椅子に組み込むことで「座る」だけで本人確認ができてしまうという画期的なシステム。紛失の危険がなく、なりすましの難しい生体認証の中でも、極めて手軽で実用的な技術として大きな注目を集めています!

1.着座認証システムとは?

「着座認証システム」とは、産業技術大学院大学が「プロジェクト・ベースド・ラーニング」という分野横断的な研究を通じて開発した技術である。
 椅子や自動車のシートに座った際の圧力の分布をもとに、個人の認証ができるシステムで、文字通り、座るだけでログインや本人確認ができてしまうという優れもの。現時点の実験で、6人の被験者をそれぞれ相互に識別することに成功しており、まずは自動車の盗難防止システムへの活用が期待されている。

図1 着座認証システム
図1 着座認証システム

座席の座面に、シート状の圧力センサが敷かれている。

1-1.開発の経緯

2009年、本技術の原点となるプロジェクトがスタートした当初は、床に敷いたマットのようなセンサを用いて、足裏を使った個人認証、識別の研究開発から始まった。

この足裏認証は、ドアなどを通過するだけで入退室の管理ができるなどの利点があり、病院の手術室など指紋などを利用することが難しい場所での認証システムとしても期待されたが、靴やサンダルなどを履いてしまうと生体の特徴をセンサから得ることができないといった点に問題があった。
 そこで、足裏認証で得た知見をもとにしつつ、着座するだけで認証できるシステムの開発へと移行したのだという。お尻や骨盤の形状は、それ自体の面積が大きいこともあり、着衣を通じても大きく変化しないため、足裏よりも着座圧力による認証は、制約が少なく信頼性の高いシステムとして利用することができると言えるだろう。

図2 足裏圧力による個人認証システム
図2 足裏圧力による個人認証システム

1-2.着座認証の仕組みは?

図3 センサシート
図3 センサシート

18×20で圧力センサが並んでいる

着座認証システムでは、18×20で配列された計360個の圧力センサをシートに配置して、着座時の圧力の分布を、一種の画像として取得する。
 圧力センサの圧力感度は256段階(8ビット)なので、360バイトのデータを1回(1フレーム)に得ることができる。またセンサのサンプリングは1秒に50回(50fps)で実行される。

実験では10秒間座り続けたデータを5回分用いて識別を行ったが、このデータ量は360バイト×500フレーム×5回=900000バイト=900キロバイトであり、現在のコンピュータであれば、負荷なく高速処理できるデータサイズだと言えるだろう。

図4 実際に着座した際の圧力分布データ(2D, 3D)
図4 実際に着座した際の圧力分布データ(2D, 3D)

こうした得られたデータを品質工学において用いられるMT法(Mahalanobis Taguchi Method)という統計処理を通じた一種のパターン認識の方法によって、本システムでは解析して個人の識別に利用している。

コラム:着座認証にも利用される「MT法」とは?
 図5は例えば人を「身長」と「体重」の2次元のグラフで表現したとき、その分布をMT法がどう解釈するかという模式図である。一般に普通の体格であれば、「身長が高くなれば体重も重くなる」関係があるため、その分布は図のように楕円形になる。
 これに基づいて、どれだけ平均的な体型に近いかを考える時、平均値からの距離だけを測ったのでは図のAさん、Bさん、Cさんは同じになってしまうが、これを楕円の中の矢印を単位として利用することで、Cさんは1倍、Aさん、Bさんは3倍程度、と平均的体型からの「距離」を数値化することができる。
 MT法は、こうした数値間の相関を考慮した基準データからの距離(ずれ、逸脱)を数値化することで、工場などにおける不良品と良品の識別などをシステム的に可能にする、品質工学から生まれた手法なのだ。
 図5に、例えば「年齢」を足すとグラフは3次元空間になり、成長期では年齢が低ければ低いほど身長も体重も少ない傾向にあり、成人以降は身長はあまり変化しない、といった相関を反映しつつ、楕円であらわされていた領域は、歪んだラグビーボールのような立体へと変化するだろう。
 「着座認証システム」では上の例で「身長」、「体重」、「年齢」などに対応する「特徴量」という指標を、「最高圧力値」、「接触面積」、「平均圧力値」など、39個用意してMT法で解析を行っている。
 39次元の空間(感覚的には理解しにくいが数学的に定義される)に分布する本人の基準量と、実際の計測データとの間の距離(ずれ、逸脱)を数値化することで、着座認証システムでは、お尻の圧力分布だけから、個人を識別できるシステムを実現しているのである。
図5 MT法のコンセプト
図5 MT法のコンセプト

2.着座認証システムの実用性

2-1.識別精度はどうなのか?

現時点でのシステムの精度は、約98%である。

表1 認証率の結果(しきい値:100)
表1 認証率の結果(しきい値:100)

本人排斥率と他人受入率で精度は測られる

より厳密に言えば、本人であるのに認証されない「本人排斥率」が2.2%、他人であるのに認証されてしまう「他人受入率」が1.1%となっている。
 この測定はそれぞれ、本人が15回着座して正しく認証されるかどうかのテストと、25人の他人が3回ずつ、計75回着座して誤って認証されないかどうかのテストの2つによって行われた。
 つまり、上の表で「本人排斥率6.7%」となっているのは15回に1回認証失敗したケース。「他人受入率1.3%」は75回に1回失敗、「他人受入率5.3%」は75回に4回失敗したケースである。
 この精度を良いと見るか悪いと見るかは立場によって異なると考えられるが、銀行ATMなどの認証としては弱いものの、自動車の盗難防止程度の目的であれば十分だとも言えるだろう。また、後ろのポケットに財布などを入れた場合には、特徴量が著しく変化してしまうので、当然のことながら認証失敗してしまう。しかしこれは手袋をしたまま指紋認証しようとするのと同じくらい当たり前のこと。自動車の運転時にポケットから物を出しておく程度の手間は、システムの有用性を損なうものではないだろう。
 また実用化に向けて、特徴量の精査や、しきい値などの設定の最適化を通じて、精度をより高くするべく研究は進められている。

3.活用シーンと将来性

3-1.着座認証システムの活用シーンとは?

実験でも使用された自動車のシートは、本システムと相性が良いものの1つだろう。盗難防止はもちろんのこと、運転者の自動識別を行うことで、オーディオシステムの設定や、カーナビの目的地データの最適化など、ソリューションは数多く考えられる。
 もちろん、オフィスや学校において、本人が着座しないとログインできないようなセキュリティの仕組みも考えられる。認証というほど厳密でなくても、座るだけで個人識別できる機能が椅子や座席につけば、様々なサービスに応用ができそうだ。

3-2.着座認証システムが描く将来像は?

そもそもの開発の発端となった足裏認証の可能性も、まだまだ模索されている。病院やサーバセンタ、工場など、性質上厳重なセキュリティが求められ、かつなるべく利用者への負担を減らしたい場所で、「立つ」「歩く」といった基本的な動作だけで、手軽に認証ができるようになれば、その可能性は計り知れない。
 床面全体を圧力センサで覆うことで、認証を超えた行動分析や、動線の最適化といったソリューションも、足跡の個人識別ができれば広がってくるだろう。
 「座る」、「立つ」、「歩く」、「寝る」、といった人間の基本動作は、地球重力のある限り、必ず個人の特徴を反映した圧力分布を発生させる。これを用いたセンサネットワークのシステムには、認証システムにとどまらない可能性があると言えるのではないだろうか。

取材協力 :産業技術大学院大学 創造技術専攻 越水研究室(越水重臣 准教授)

掲載日:2012年3月28日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2012年2月22日掲載分

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