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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
待機電力ゼロの連想メモリプロセッサとは

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマ「待機電力ゼロの不揮発性連想メモリプロセッサ」は、電子機器に欠かせない高速検索機能をハード的に実行するCAM(連想メモリプロセッサ)に最先端技術スピントロニクスを用いて、待機電力なしにデータ保持を可能にするもの。瞬時に起動して使える超低消費電力のPCや、超省エネデータベースを実現する可能性を秘めた夢の技術です!

1.「不揮発性連想メモリプロセッサ」とは?

2011年6月、NECと東北大学は、CPU内部やルータなどでアドレス変換に用いられるCAM(連想メモリプロセッサ)という回路を、既存のものと同等の高速動作と、電力なしにデータ保持できる不揮発動作、を両立する技術の開発に成功したことを発表した。

図1 不揮発性連想メモリプロセッサ
図1 不揮発性連想メモリプロセッサ

資料提供:NEC

この成果は、日本の国際競争力向上を目標とする国家プロジェクト事業、最先端研究開発支援プログラム(題名:「省エネルギー・スピントロニクス論理集積回路の研究開発」中心研究者:東北大学 大野英男教授)の一環として行われたものである。

1-1 スピントロニクスと垂直磁壁素子

スピントロニクスとは、これまで集積回路では電子の電荷のみを利用してきたのを、電子のスピン(微小な磁力)も利用することで、電力消費ゼロの不揮発性素子を用いた、超低消費電力の集積回路を実現する技術である。中でも、スピントロニクス不揮発性素子の1つとして有望視されているのが垂直磁壁素子である。

図2 垂直磁壁素子
図2 垂直磁壁素子

電子(負の電荷)は、電流の向きと逆方向に流れる

資料提供:NEC

垂直磁壁素子とは上の図のような構造を持つ微小な磁気デバイスで、流す電流の向きに応じて中央部の磁性を上向き、下向きに自由に書込むことができる。電流によって移動していく自由層の自由電子が、左右のピン層と呼ばれる強い磁石の影響で同じ方向に磁化されたまま流れていくことで、磁化方向が急激に反転する「磁壁」の位置を左右に移動する仕組みである。

図3 磁気トンネル接合
図3 磁気トンネル接合

磁化方向の読出しは、MTJ(磁気トンネル接合:Magnetic Tunnel Junction)と呼ばれる半導体構造で行う

資料提供:日本電気

磁壁が左右のどちらにあるかは、中央部の磁力線が上向きか下向きかで測ることができる。これを自由層の上に配置したMTJ(磁気トンネル接合:Magnetic Tunnel Junction)という特殊な半導体構造で読み取る。
 ちょうど磁気テープやハードディスクの磁気ヘッドと同じような役割を果たすのがMTJである。(厳密には図の手前/前奥方向に自由層に対してオフセットして配置される。上の図では手前にオフセットしている。)
 MTJ下部の読出し自由層は発生磁場と同じ方向に磁化され、上部の読出しピン層と方向が一致すると抵抗値が下がり、逆方向だと抵抗値が上がる。

図4 3端子構成の垂直磁壁素子
図4 3端子構成の垂直磁壁素子

2つの垂直磁壁素子は1回の電流で互いに逆の状態が書込まれる。

資料提供:NEC

互いに逆相(MTJのオフセットが対称)の2つの垂直磁壁素子を直列して一括書込みすると、対になるMTJの抵抗値の差を測ることで、簡便な回路で書込まれたビットを読出すことができる。(単一素子の抵抗値の高低をある閾値に対して比較するには複雑な回路が必要)。つまり、垂直磁壁素子を2つセットで1セルとし、1ビットを記録する仕組みである。
 上の図は、2セル分の回路図で、一対の垂直磁壁素子に1回の電流で書込むこと(相補一括書込み)ができ、書込み用のトランジスタは2セルに3つで済む設計となっている。読出し電流を分離し、書込み電流経路に抵抗をなくして、一対の素子への一括書込みを実現した点が、今回開発された技術の画期的なポイントなのだ。
 従来のCAMセルでは2セルあたり8つのトランジスタが必要だったのに対して、トランジスタ数を3/8に削減でき、約1/2の回路面積にCAM面積を削減できることになる。

1-2 不揮発性プロセッサの実現のキーとなるスピントロニクス技術

今回の技術は、スピントロニクス集積回路技術の実証実験の1つであり、垂直磁壁素子を用いた不揮発性メモリの応用範囲は、およそあらゆる記憶装置に拡がっている。今回CAMが実装対象となったのは、CAMが現実的な性能で実装できるならば、およそプロセッサ内のほとんどの部分を不揮発化できることを確かめられるからだ。

表1 実用化されている不揮発性メモリと性能
表1 実用化されている不揮発性メモリと性能

CPUや各種SoCに要求される性能をすべて満たすのはスピントロニクスのみ

資料提供:NEC

現在実用化がされている不揮発性メモリには複数の技術がある。しかし、例えばUSBメモリスティックやSSDに採用されているNANDフラッシュメモリは、広く普及してこそいるものの、プロセッサの内部に実装するには動作速度や書込み回数の点で非現実的である。
 そんな中で、CPUやSoCなど多岐に渡るプロセッサを不揮発化するのに最も有望な技術の1つがスピントロニクスであることは間違いない。磁性を使った記録方法は、古くはアナログテープの時代から使われてきた技術であり、歴史的にみても信頼性は高い。

2.プロセッサが不揮発化すると世界はどう変わる?

2-1 待機電力だらけの今の世界

私たちの使っている情報機器のほぼすべてが、現在のところは揮発性メモリに頼っている。例えばノートPCの場合、スタンバイ(サスペンド)状態では、プロセッサ周りのキャッシュデータなどをRAMにすべて退避させた後に微小な電力でRAM内のデータを保持している。完全に電源ゼロにする休止状態(ハイバネーション)状態にするには、RAM内のデータをHDDやSSD内に用意した退避領域へとコピーして、ようやく電源を落とすことが可能になる。現在の機器は、サスペンド状態にするのにも数秒程度のタイムラグが必要不可欠である。
 こうした状況下では使用中の機器の内部のあらゆる箇所に、例えアクセスがなくても、待機電力を消費して、様々なデータを保持させ続けることになる。スマートフォンなどの携帯端末においても事情は同じで、CPUを使った演算動作をしていない大半の時間にも、プロセッサとメモリに待機電力を流し続け、バッテリを消耗し続けているのだ。

2-2 プロセッサが不揮発化した世界とは

それでは、プロセッサとメモリのすべてが不揮発になったならば、世界はどう変わるのだろうか?少し考えてみることにしたい。

数クロックでオンオフし、必要な時だけ電力消費する

プロセッサ内のレジスタやキャッシュ、CAMなどすべてのメモリ及び記憶装置が不揮発性になれば、理論上は情報機器の待機電力をゼロにすることが可能になる。プロセッサを任意のタイミングで動作周波数の数クロック、数万分の1秒で停止して電源オフにし、再び数クロックで復帰して必要な計算をする、そんな理想的な動作が可能になる。

理想のプロセッサはソロバン?

拙い例え方ではあるが、これはソロバンに必要なエネルギーが玉を弾く分だけであるのと限りなく同じことだ。ソロバンの場合にはプロセッサ自体が(読むのに専門の知識が必要であるにせよ)ディスプレイの役割を果たしているのに対して、多くの情報機器にはディスプレイが別途必要なため、機器全体では最小限の電力が必要だが、それ以外の全デバイスを電力ゼロにできるはずだ。
 もっと言えば、アマゾンのキンドルなどに使用されている電子ペーパー技術を使えば、ソロバン並にエネルギー不要の情報端末を実現することも夢ではない。

アクセス分だけ電力を使用するデータベースを実現!

ディスプレイの不要なサーバやデータベースに至っては、アクセスのあった瞬間、実行した演算の分量だけ、わずかに電力を使用して、残りのほとんどの状態では消費電力ゼロという理想のシステムが現実となる。
 今回実装されたCAMのような検索機能つきの記憶装置を大量に搭載したシステム構築し、アクセスがあった瞬間に、ワンクロックだけ動作して瞬時に検索結果を出力し、即ストップするというCPUすら介在しない理想的なデータベースを実現することも考えられる。

未来の情報端末

メールや文書を作成している時、私たちの使っているコンピュータはその演算能力と記憶能力の1パーセントも使うことがないにも関わらず、システム内のすべての記憶装置を動作させ、プロセッサの内部に無駄な待機電力を垂れ流し続けている。
 オフィスに偏在するノートPCのほとんどが、文字を漢字変換するわずかな瞬間、ウェブサイトのリンクへのワンクリックと読込みの数秒間にしか、実際には動作していない(フラッシュなどで無駄に動き続けるバナーはともかくとして)。残りの大半の時間、キャッシュメモリの書換えはなく、メインメモリの全アドレスにもアクセスはない。にもかかわらず、CPUとハードディスクは発熱しバッテリは減っていく。



すべての記憶装置が不揮発化して、システムの大部分がいつでも自由にオンオフ可能になれば、夏場にアームレストが熱くなったノートPCに両手を載せ、汗ばむ手のひらにヤケドしそうになりながら文章をタイピングしていた時代を懐かしく思い出す日が来るだろう。そしてそれは決して遠い未来ではないはずだ。

取材協力 : 日本電気株式会社

掲載日:2011年9月28日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2011年8月24日掲載分

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