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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
「アトムトランジスタ」って何だ?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは「アトムトランジスタ」。これでPCも電源ONと同時にすぐ使えるのが当たり前の時代がやってくる!?

1.「アトムトランジスタ」とは?

アトムトランジスタとは、従来の100万分の1の消費電力で、演算も記憶も行うことができる、まったく新しいタイプのトランジスタのことだ。独立行政法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の長谷川剛主任研究者らのグループが、大阪大学大学院理学研究科の小川琢治教授と東京大学大学院工学系研究科の山口周教授らの研究グループと共同で開発に成功した。
 アトムトランジスタの優れた特長を以下に紹介しよう。

電子の代わりに金属原子を使って動作する
図1 アトムトランジスタの基本構造
図1 アトムトランジスタの基本構造

資料提供:物質・材料研究機構

従来のトランジスタは半導体中における電子の移動を制御することでオン/オフ状態を実現しているが、アトムトランジスタはわずかな金属原子を絶縁体中で移動させることでオン/オフ状態を実現している。図1に示すように、アトムトランジスタでは、ゲート電極(上部)からソース・ドレイン電極(下側の青い部分)側に金属原子を供給したり、呼び戻したりすることでオン/オフ動作を行っている。


1つのアトムトランジスタを、演算素子あるいは記憶素子(メモリ)として選択的に動作可能
図2 演算素子動作と記憶素子動作の原理
図2 演算素子動作と記憶素子動作の原理

資料提供:物質・材料研究機構

今回の研究開発では、絶縁体中における金属原子の濃度が臨界点を超えると、絶縁体から金属状態に変化することが明らかになったが、この金属状態には、電圧オフで絶縁体に戻る揮発的な状態と、電圧をオフにしても金属状態を保持する不揮発的な状態の2種類があることも発見された。

揮発的な状態とは金属原子が一定の濃度でばらばらに分布している状態のこと。不揮発的な状態とは原子がナノスケールの塊を形成している状態のこと。これにより、揮発性と不揮発性の動作が可能になる。揮発性動作とは、電圧を加えている間だけオン状態を保ち、電圧ゼロでオフ状態に戻る動作のことで、半導体トランジスタの動作がこれに該当する。一方、不揮発性動作とは、オン状態になったあと電圧をゼロにしてもオン状態を保持する動作のことで、ROMなどの不揮発性メモリの動作がこれに該当し、オフ状態に戻すためには、逆極性の電圧を加える必要がある。この動作の様子を図2に示す。

(a)のように正の電圧をゲート電極に加えると、ゲート電極から金属原子が絶縁体中に供給される。すると(b)のように、ソース・ドレイン電極近傍で金属原子の濃度が臨界値を超えると、絶縁体から金属的な状態へと変化する。そして(c)のようにさらに高い電圧を加えると、金属原子が塊を形成する。この塊をほどくには、(d)のように負のゲート電圧を加えてやればよい。今回の動作実証では、絶縁体として酸化タンタル(Ta2O5)を、絶縁体中を移動する金属として銅(Cu)ないし銀(Ag)を用いた。これらの材料は、現在の半導体素子製造と互換性のある材料であり、構造も簡単なので現在のプロセスで作製可能だ。


極めて低い消費電力で動作する

アトムトランジスタは半導体よりも抵抗の高い絶縁体を母材に使っていて、その内部をわずかな量の金属原子が移動してオン/オフ状態を実現することから、極めて低い消費電力で動作することができる。具体的には、アトムトランジスタの記憶素子動作に必要な電流はピコアンペアであり、磁気メモリのそれと比較した場合の消費電力は100万分の1となる(ピコはマイクロの100万分の1)。また、半導体トランジスタの消費電力はおもに待機電力と呼ばれる漏れ電流で決まるが、現在の半導体トランジスタでは1平方センチメートルあたりミリアンペア程度である。これに対し、アトムトランジスタの漏れ電流は、1平方センチメートルあたり10マイクロアンペアしかなく、演算素子動作時の消費電力は半導体トランジスタの100分の1で済む。

2.「アトムトランジスタ」の開発経緯

次に、アトムトランジスタにたどり着くまでの開発経緯を簡単に紹介しよう。今回開発に成功した物質・材料研究機構の研究グループでは、2000年に原子スイッチ(2端子型素子)を発明し、その実用化に取り組んできた。そして、その経験をベースに、より応用範囲の広い3端子型素子の開発を目指した結果、アトムトランジスタが誕生したのである。しかし、同研究グループでは、最初から次世代のエレクトロニクスデバイスの開発を目指していたわけではなかった。

同研究グループでは、当初、ナノサイエンスの研究の一環として、あたかも万年筆で文字を書くごとく銀原子をポタポタと試料表面上に落とすことで、任意のパターンの銀の細線を形成する「ナノペン」の研究を進めていた。この研究実験を行っていたところ、ペン先のナノスケール領域において銀原子の塊を出現させたり消失させたりできることが分かり、これを利用すればナノスケールのスイッチを開発できるという発想に行きついたのである。このとき、同研究グループのメンバーの中に電子デバイスの専門家がいなかったことも、原子スイッチの発明に幸いしたという。なぜなら、電子よりもはるかに重い原子を利用して動作するデバイスが使い物になるなどとは、デバイスの専門家なら考えようともしなかったはずだからである。現時点で、原子スイッチのスイッチング時間は5nsを達成しており、十分実用的な値を示している。

3.起動時間ゼロのPCが実現!?「アトムトランジスタ」の適用分野

図3 現在のコンピュータ
図3 現在のコンピュータ

資料提供:物質・材料研究機構

現在のコンピュータは演算回路と記憶回路が独立したノイマン型が採用されているため、演算回路と記憶回路間の信号伝達がボトルネックとなり、演算素子や記憶素子の高性能化をはかっても、コンピュータとしての高性能化をはかれないという状況になりつつある。例えば、図3に示すように、ノイマン型の場合、コンピュータの電源をオフにすると演算回路が初期状態に戻ってしまうので、起動の度に記憶回路から大量のデータ(プログラム)を読み込む必要がある。

この状況を打開しようと、各研究機関では、演算と記憶を同一回路内で行う「不揮発ロジック回路」の提案・研究が進められている。不揮発ロジック回路は、レジスタの値といった演算途中の状態を保持したり、演算結果によって回路の再構成を行ったりすることが可能なコンピュータ回路で、"起動時間ゼロのPC"を実現する回路として期待されている。不揮発ロジック回路の研究では、従来、演算素子として半導体トランジスタを、記憶素子として磁気メモリをそれぞれ使用することで「記憶する演算素子」を実現している。しかし、この構成では記憶に要する消費電力が極めて高く、回路のすべてを「記憶する演算素子」で構成することは難しい。

そこで、低消費電力のアトムトランジスタで不揮発ロジック回路を構成すれば、不揮発ロジック回路が本来有する機能を最大限に引き出すことが可能になると期待されている。具体的には、起動時間ゼロのPCを開発できるだけでなく、単一の小規模回路で複数の機能を実行することも可能になるので、たとえば、腕時計サイズで、PCや携帯電話などの日常生活に必要な機能のすべてを実現できるようになるはずだ。  また、アトムトランジスタは、人間の脳のような、より柔軟なコンピュータ回路の実現にも寄与することが期待されている。なぜなら、脳の中ではシナプスが演算(信号伝達)と記憶を同時処理していることから、これと同じような機能構成を持つアトムトランジスタを使えば、非ノイマン型のニューロコンピュータの開発に役立つと推測できるからだ。今回試作されたアトムトランジスタは既に1万回の連続動作に成功しており、「原子スイッチ」同様、早期の実用化が期待されている。

取材協力 : 物質・材料研究機構

掲載日:2011年3月 9日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2011年2月2日掲載分

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