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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
「細く巻き取れる有機ELディスプレイ」とは

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは「細く巻き取れる有機ELディスプレイ」。なんとボールペン程の太さに巻き取ることもできます!これさえあれば、大型テレビもノートPCもスマートフォンもみんな丸めてカバンやお尻のポケットに!?

1.巻き取れる有機ELディスプレイとは?

百聞は一見に如かず、まず図1を見ていただきたい。これは写真や動画をディスプレイに表示させながら、そのディスプレイをボールペンほどの太さに巻いたり伸ばしたりしている様子を捉えたものだ。これが「細く巻き取れる有機ELディスプレイ」の正体。ソニーが開発した、柔らかくて自由に曲げることができる高精細ディスプレイである。
 ディスプレイは、従来のブラウン管(CRT)タイプから液晶タイプ、そして有機ELタイプ(後述)と進化していく中で、より薄いディスプレイが作られるようになってきたが、今回ソニーが開発に成功したディスプレイは、厚みわずか0.08mmで、しかも巻き取れるほどやわらかい。画面サイズは4.1インチワイド(432×240画素)、解像度は121ppi(pixel per inch)で、世界最高精細を実現している。曲率半径4mmで巻き取りながらの動画再生が可能で、耐久性にも優れており、1000回の巻き戻しの繰り返し試験でもディスプレイの表示性能に劣化がないことが確認されている。

図1 ペンほどの太さにも巻き取れる有機ELディスプレイ
ペンほどの太さにも巻き取れる有機ELディスプレイ

<巻き取りながら動画表示する様子はこちらから:Web動画>
http://www.keyman.or.jp/3w/prd/00/00006400/?p_id=30003794&url=http%3A%2F%2Fwww.sony.co.jp%2FSonyInfo%2FNews%2FPress%2F201005%2F10-070%2F

資料提供:ソニー

2.開発成功の立役者は「有機EL」と「有機TFT」

薄さだけでなく柔らかさも追求した有機EL

ここで、有機ELディスプレイについて触れておこう。有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイとは、有機物の発光現象を利用して画像を表示するディスプレイのこと。例えば、ホタルは、酸化を含む数段階の化学反応を繰り返すことでエネルギーの高い状態の有機物質を生成し、それをエネルギーの低い状態に戻すときに光っている。このように、何らかのエネルギーを得ることで特定の波長の光を放出する現象を「ルミネッセンス」という。有機ELは電気エネルギーで「ルミネッセンス」を起こすもので、+と-の電極に有機化合物(発光層)をはさんで電流を流すというシンプルな構造で光を発生する(図2)。従って、有機ELディスプレイは赤・緑・青の1つひとつの画素自体が個別に発光する自発光デバイスなので、液晶ディスプレイのようにバックライト(光源)を必要としない。さらに、発光体である有機層もナノメートル(nm)単位で済むことから、パネルの厚さは有機層を保護する2枚の基板の厚みとほぼ同等になり、薄型化が可能だ。例えば、ソニーが2007年に発売した有機ELテレビ「XEL-1」では、ディスプレイ最薄部約3mmという薄型化を実現している。

図2 有機ELディスプレイの発光の仕組み
有機ELディスプレイの発光の仕組み

資料提供:ソニー

ただし、従来の有機ELディスプレイでは、画像の表示部には柔らかい材質の有機物が使われているものの、各画素を駆動する薄膜トランジスタ(TFT=Thin Film Transistor)には硬いガラス基板上に形成された無機材料のトランジスタ(材質はシリコンで、これもまた硬い)が使われており、曲げることが困難だった。そこで、今回開発されたディスプレイでは、やわらかい基板上に形成された有機TFT(後述)を採用することで、全体が柔らかく、巻き取ることが可能なディスプレイを実現した。
 今回、画素トランジスタとして採用された有機TFTには、ソニーが独自開発した酸素・水・光・熱に対して劣化しにくい安定した特性をもつ有機半導体「peri-Xanthenoxanthene(PXX)誘導体」が使われており、従来の有機TFTの8倍の駆動力をもつ。この結果、画素トランジスタのサイズを小さくすることも可能となり、有機TFT駆動による有機ELディスプレイとして、世界最高の精細度を実現している(図3)。

図3 巻き取れる有機ELディスプレイの内部構造
巻き取れる有機ELディスプレイの内部構造

資料提供:ソニー

ここで、有機TFTについても触れておこう。有機TFT(有機 Thin Film Transistor)とは、半導体層の材料に有機物を用いた薄膜状のトランジスタのこと。有機物とは、炭素(C)をベースにその他の元素を結合させた化合物のことで、プラスチックやビニールのような樹脂に近い材料などがこれに相当する。従来のトランジスタは無機物のシリコン(Si:ケイ素)結晶から作られていて非常に硬い。これに対し、有機物は軽くて柔らかい。本来、有機物は電気を通しにくい材料とされてきたが、近年、電気を通しやすい構造の有機物が多数見出され、化学合成などによって作り出すことも可能になってきたことから、有機TFTの研究開発が活発に行われるようになった。
 有機TFTと従来のシリコンTFT(無機トランジスタ)は、その作製温度にも大きな違いがある。シリコンTFTを作製するには500~1000℃もの高い温度が必要だが、有機TFTは室温~200℃で作製することが可能。このため、有機TFTは熱に弱いプラスチックなどのフレキシブルな基板上にも形成でき、軽くて薄いだけでなく、柔らかく曲げることのできるデバイスを作り出すことも可能だ。
 さらに、有機材料は、溶媒に溶かしてインク化することが可能であるため、将来的には、塗布・印刷プロセスでTFTや表示素子を作製することが可能になると考えられている。これが実現すれば、低コストで大面積のディスプレイが作製可能になるとの期待もある。

ゲートドライバ回路を柔らかい有機TFTで内蔵

従来の有機ELディスプレイを丸めることができるようにするには、実は画素トランジスタに柔らかい有機TFTを採用するだけでは不十分だ。従来の有機ELディスプレイでは、ディスプレイを駆動させるのに必要な周辺回路(ゲートドライバ回路)を、硬い無機トランジスタを使ってディスプレイパネル上に実装しているので、この部分も柔らかくしないと丸めることはできない。
 そこで、今回開発されたディスプレイでは、やわらかい有機TFTを使ってゲートドライバ回路を作製することに成功した。ゲートドライバのトランジスタには画素トランジスタよりも高い駆動性能が求められるが、ソニーが開発したPXX誘導体による有機トランジスタによって、従来の8倍の駆動能力が実現できた。したがって有機トランジスタによるやわらかいゲートドライバが作製でき、巻き取ることができるディスプレイパネルの回路レイアウトが可能になったのである(図4)。

図4 今回開発されたディスプレイパネルの回路レイアウト
今回開発されたディスプレイパネルの回路レイアウト

資料提供:ソニー

3.軽くて軟らかい有機ELディスプレイの将来

画面ごと手首に巻けるテレビ・スマートフォン・PC...新時代到来?

このような優れた特性を持つディスプレイの使い道としては、例えば「落としても割れないモバイルPCの実現」を挙げることができる。今流行しているスマートフォンやiPadなどを落として壊してしまったという話を見聞きすることがあるが、このディスプレイを採用したモバイル機器なら、落としてもディスプレイが壊れることはない。
 また、モバイル機器などをeBook(電子書籍)として使用する場合、その重量が気になるところだが、軽量化も同時に実現できるこのディスプレイなら、電車の中での長時間に渡る立ち読みでも、腕が疲れる心配がなくなる。もちろん、柔軟性もあることから、混み合っている車内で他人にぶつけて迷惑をかけることも少なくなるはずだ。さらに、図5に紹介するような腕に巻くスマートフォンや、ロールカーテンのように使用しないときは巻き取って収納しておくことができる大型スクリーンへの応用なども考えられる。

図5 将来のアプリケーション例
将来のアプリケーション例

資料提供:ソニー

現在、シリコンTFTなどの無機トランジスタの製造には、大掛かりな真空装置や複雑な加工工程が必要だが、有機物の多くは有機溶媒に溶かすことでインクにすることが可能なので、大気中で印刷するという単純な工程で有機TFTを作製することができる。従って、将来、デバイス製造の低エネルギー消費化、低環境負荷化に役立つことも期待されている。

取材協力 :ソニー株式会社

掲載日:2010年11月10日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2010年10月6日掲載分

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