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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
ソーラー電力セイル「IKAROS」ってなんだ?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマはソーラー電力セイル「IKAROS(イカロス)」。このイカロスは世界で初めて太陽光を帆に受けながら宇宙空間をヨットのように航行しています。皆さんも宇宙の大海原をヨットに乗って旅できる日が来るかもしれません!

1.ソーラー電力セイル「IKAROS」とは?

宇宙ヨット"イカロス"の打ち上げに成功

「IKAROS(イカロス)」とは、太陽からの光の粒子を非常に薄い大きな帆(膜)で反射させることで推進力を得る宇宙ヨット(ソーラーセイル)であり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発したもの。イカロスの帆の一部は薄い膜の太陽電池になっていて、太陽光で進むのと同時に発電もできる。このためイカロスは単に「ソーラーセイル」ではなく、「ソーラー電力セイル」と呼ばれている。イカロスは、2010年5月21日早朝に種子島宇宙センターからH-IIAロケット17号機によって、金星探査機「あかつき」と相乗りで打ち上げられた。IKAROSという名前はInterplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sunの頭文字から取ったものだ。

図1 宇宙で撮影したイカロス
イカロスから分離された小型カメラが宇宙でイカロスを撮影した画像

イカロスから分離された小型カメラが宇宙でイカロスを撮影した画像

資料提供:JAXA

宇宙空間で帆を広げることに成功

打ち上げ後、イカロスは無事ロケットから分離され、6月9日にはイカロスの翼となる大きな帆を宇宙空間で広げることに成功した。また、帆の一部に貼り付けた薄膜太陽電池による発電も確認でき、世界初のソーラー電力セイルが誕生した。6月14日には、イカロスは本体から小型カメラを分離し、イカロスの全景を写真におさめることに成功、宇宙ヨットとして帆を張っている実際の姿を地球に送ってきた(図1)。

ソーラーセイリングに成功

6月9日にイカロスの帆(膜)が完全に開いた後、帆に太陽光を受けることで、イカロスの航行速度が加速している様子が確認できた。この太陽光による推進力は1.12mN(ミリニュートン)(これは地球上で0.114gの物体にかかる重力にほぼ等しい)であり、帆のサイズを考慮すると宇宙ヨットとしてほぼ理論どおりの性能を発揮していることが判明した。イカロスは太陽系を順調に「ソーラーセイリング」していて、このまま行けば、半年後には秒速100mの加速を得ることができるという。

燃料を使わない帆の姿勢制御に成功

7月13日には、姿勢制御デバイスによる帆の操舵実験にも成功した。姿勢制御デバイスとは、通電することで表面の反射特性が変わる液晶デバイス(会議室などに使われている曇りガラスと同じ原理)であり、図2のように帆の左右で太陽光の反射を変化させれば、燃料を用いずに帆の向き(角度)を変化させることができる。一般にソーラーセイルで探査機の軌道を制御するには、太陽に対する帆の向きを積極的に制御する必要がある。イカロスではスラスタ(小推力ロケットエンジン)を噴射することで姿勢制御を実現できるが、これとは別に、姿勢制御デバイスによる帆の方向制御にも成功したことで、イカロスは燃料を節約でき、より長期間航行することが可能になった。

図2 姿勢制御デバイスの原理
図2 姿勢制御デバイスの原理

資料提供:JAXA

2.イカロスはマストなしで帆を張っている!?

マスト型とスピン型

ソーラーセイルの帆は巨大であるため、打ち上げ時には折り畳んでおき、ロケットから切り離された後に広げる必要がある。ではどうやって非常に薄い膜でできた帆を展開するのだろうか?世界中で研究されているソーラーセイルの大半は宇宙空間でマスト(支柱)を伸ばしていき、そこに帆を張る仕組み。このマスト型は帆を広げるのは比較的簡単だが、帆が大きくなるとマストも太く重くなってしまうため、帆を一定以上のサイズにはできない。一方、イカロスは常に回転していて、この遠心力を用いて一辺14mの正方形(差し渡し20m)の帆を展開・展張(張った状態を維持)する方式。このスピン型は回転しながら巨大な帆を広げるため技術的難易度が非常に高いが、マストが不要なので帆を大きくすることが可能。JAXAは将来、イカロスの10倍程度の巨大なソーラー電力セイルを実現することを想定し、イカロスでは敢えて難しい技術実証に挑戦した。

帆は2段階で展開する

JAXAでは、帆の収納・展開方法について、ミウラ折り(人工衛星のパネルの展開方法を研究する過程で生み出された折り方)なども含めて、さまざまな研究や施行錯誤を重ねた結果、イカロスでは、図3のような手順・機構を採用した。帆の先端部分(四隅)に、0.5kgのおもり(4つで2kg)を取り付けることで、帆の展開・展張をサポートする。イカロスの帆は円柱形の本体の側面に巻き付けられていて、先端マス分離後2段階に分けて展開する。1段階目はゆっくりと、2段階目は一気に展開する。この方法に決定するまでに多数の地上実験を行った。実際に膜を折りたたんでスピンさせて展開実験を行った。

図3 イカロスの帆の展開手順・機構
図3 イカロスの帆の展開手順・機構

資料提供:JAXA

イカロスの実現に貢献したのは「ポリイミド樹脂」

イカロスの帆に使われている素材は、ポリイミド樹脂。これはとても薄く、厚みはたったの7.5μm(髪の毛の太さの1/10)。この表面にアルミニウムを蒸着してあり、太陽の光を鏡のように反射することで推進力を得る。帆の上には薄膜太陽電池や姿勢制御デバイス、温度センサ、ダストカウンタなど各種センサが貼り付けられている(図4)。
 太陽光の圧力を使って進むソーラーセイルのアイデア自体は約100年前からあり、SFの世界でもよく登場するが、実際に成功したのはイカロスが初めてである。なかなか実現できなかった大きな理由の1つは、薄くて丈夫な帆を用意できなかったからである。帆は、宇宙空間の放射線や熱に強い素材を用いる必要があり、それらの条件に合うのが電子基板材料にも使われているポリイミド樹脂である。このような優れた素材が入手できるようになり、さらに薄い膜を安定的に製造できるようになったことでソーラーセイルがにわかに現実味を帯びてきた。ちなみに、このポリイミド樹脂の世界シェアでトップの座を占めているのは日本であり、このことも世界で初めてのソーラーセイルを実現させる原動力になった。
 JAXAでは、接着剤を使わずに、熱を加えて融着して貼り合わせることができるポリイミド樹脂を開発。また、万一、帆の一部が裂けても、完全に破れてしまわないよう亀裂が途中で止まるような構造とするなど、様々な工夫が施されている。

図4 イカロスの帆
図4 イカロスの帆

資料提供:JAXA

3.ソーラー電力セイルの将来

イカロスのミッションは次の4つであり、打ち上げ後、約半年間で実施する。

1.大型膜面(帆)の展開・展張

2.薄膜太陽電池による発電

3.ソーラーセイルによる加速実証

4.ソーラーセイルによる航行技術の獲得

打ち上げ約半年後には、金星探査機「あかつき」とイカロスはともに金星に近づく。あかつきはブレーキをかけて金星の周回軌道に入るが、イカロスは金星を通過し、そのまま太陽のまわりを回り続ける人工惑星となる。ソーラーセイルは太陽の光を使って太陽から遠ざかることも、太陽に近づくことも可能で、イカロスがどこに行くかはソーラーセイルによる軌道制御次第(図5)だ。

図5 軌道制御の原理
図5 軌道制御の原理

資料提供:JAXA

今回、イカロスが打ち上げられた背景には、ソーラー電力セイルで木星圏を探査する「木星・トロヤ群小惑星探査計画」の存在がある。この計画で使用される技術の一部を宇宙で先行実証するためにイカロスが打ち上げられたのである。従って、イカロスではソーラー電力セイルの性能を正しく評価することに重点が置かれ、地球周回ではなく、惑星間飛行にこだわり、あかつきと一緒に金星に向かって打ち上げてもらったというわけだ。
 木星と太陽の距離は、地球と太陽の距離の5倍で、距離が5倍になると太陽電池の発電効率は25分の1(距離の2乗に反比例する)になる。このため大面積の太陽電池が必要になるのだが、これを帆に貼り付けた薄膜太陽電池でまかなおうというのがソーラー電力セイルのコンセプトだ。「木星・トロヤ群小惑星探査計画」では、帆のサイズを直径約50mとする予定。巨大な帆を用いることで、ソーラーセイルによる加速が大きくなると同時に、たくさんの薄膜太陽電池を貼って大電力発電が可能となる。この電力を用いて燃費のよいイオンエンジンを運転すれば、ソーラーセイルと合わせてハイブリッドな推進が実現でき、トロヤ群小惑星という未踏天体にも到達可能となる。ソーラー電力セイルは日本が将来の太陽系探査をリードする切り札となり得るのだ。

取材協力 :独立行政法人 宇宙航空研究開発機構

掲載日:2010年10月13日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2010年9月8日掲載分

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