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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
ブルーレイの200倍?次世代光記録材料とは

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。
 今回のテーマ「ブルーレイの200倍記録できる次世代光記録材料」は、これまで貴重なレアメタル(希少金属)、レアアース(希土類元素)資源に依存してきた光記録材料を、安価で豊富なチタン酸化物を使って実現する新物質。光学ディスクの飛躍的性能向上の可能性も秘めた新しい材料として、大きな注目を集めています!

1.「次世代光記録材料」ラムダ型五酸化三チタンとは?

2010年5月24日、東京大学の大越研究室は、光をあてることで金属状態と半導体状態を室温で行ったり来たりできる、新種の金属酸化物、ラムダ型五酸化三チタンを発見したと発表した。室温で、光をあてるだけで相転移を起こす金属酸化物は、これが世界初である。

図1 ラムダ型五酸化三チタン
新しいラムダ型の五酸化三チタンは、10~20ナノメートル程度の粒子

新しいラムダ型の五酸化三チタンは、10~20ナノメートル程度の粒子

資料提供:大越研究室

チタンの酸化物は、白色顔料や光触媒などに広く用いられる二酸化チタンや、黒色顔料や熱線吸収材料などに使われる三酸化二チタンが安定な物質として知られている。一部のチタン酸化物には、温度によって金属と半導体の間で相転移を起こす性質があり、次のような物質が存在する。

図2 代表的な酸化チタン
酸化数(奪われている電子の数)3価のチタンが混在する酸化物は、金属-半導体転移を起こす。

酸化数(奪われている電子の数)3価のチタンが混在する酸化物は、金属-半導体転移を起こす。

資料提供:大越研究室

今回発見されたのは、このうちの五酸化三チタン(上図中央)の新しい状態である。通常ならば五酸化三チタンは常温では半導体の性質を持つベータ型で存在し、460K(摂氏190度程度)を境に高温では金属の性質を持つアルファ型に変化する。


ところが、ナノメートルサイズの小さな粒子となると、表面に存在する原子の数が物質全体の10%を超えることなどから、エネルギーの状態が変化し、常温でも金属の性質を持つ、まったく新しいラムダ型という状態になることが、今回大越研究室の研究でわかった。

図3 温度による五酸化三チタンの違い
五酸化三チタンは温度によってアルファ型とベータ型の2種類の状態をとる

五酸化三チタンは温度によってアルファ型とベータ型の2種類の状態をとる

資料提供:大越研究室

図4 ラムダ型五酸化三チタン
ナノ粒子化することで新しいラムダ型五酸化三チタンが発見された

ナノ粒子化することで新しいラムダ型五酸化三チタンが発見された

資料提供:大越研究室

このラムダ型とベータ型の2つの状態は、どちらも室温で安定であり、光を照射することでそれぞれの状態の間を可逆的に変化させることが可能である。

図5 光の照射により、2つの相の間を可逆的に転移
図5 光の照射により、2つの相の間を可逆的に転移

資料提供:大越研究室

この現象を光相転移と呼び、金属の酸化物において常温で光相転移を起こす物質はこれまで発見されていなかった。

2.「ラムダ型五酸化三チタン」光相転移の仕組み

ナノ微粒子化した五酸化三チタンは、適切な分量のエネルギーをレーザー光などで与えることで、ベータからラムダ、ラムダからベータへと瞬時に変化させることができる。

図6 ベータからラムダ、ラムダからベータへの変化
茶色の部分がベータ型、濃紺色の部分がラムダ型

茶色の部分がベータ型、濃紺色の部分がラムダ型

資料提供:大越研究室

実験では、緑色レーザー光(波長532 nm)を照射して、ラムダ型からベータ型へ相転移させ、青色レーザー光(波長410nm)を照射して、逆相転移させてラムダ型へ戻すことに成功している。


また、532nmの緑色レーザー光だけを用いて、6ns(ナノ秒)のパルスレーザーとして照射する実験では、出力が一定以下ではベータ型へ、一定以上ではラムダ型へと相転移することもわかった。この閾値は明確なので、ブルーレイで使用され、現在主流となっている照射出力によるデジタルデータのビット書き込み制御にも適した性質だといえる。さらに、閾値付近の同波長同出力のパルスレーザー光を照射する実験では、ラムダをベータへ、ベータをラムダへと、繰り返しスイッチングすることもできた。

モデル計算から新物質の性質を予測

ラムダ型五酸化三チタンは、熱力学的な理論計算により、物性をあらかじめ予測することで発見された。

図7 五酸化三チタンに対する相転移の熱力学的解析
左が通常の五酸化三チタン、右がナノ粒子化した五酸化三チタン

左が通常の五酸化三チタン、右がナノ粒子化した五酸化三チタン

資料提供:大越研究室

上記のグラフは単結晶とナノ微粒子、それぞれの状態における自由エネルギーのモデル計算を表している。黒い線で表されているのは各温度(下に行くほど高温)における自由エネルギーと電気的な性質(右が金属的、左が半導体的)の関係で、一般に物質は自由エネルギーの最も低い場所で安定になるため、丸印で示されている「ボールを転がすと停止するだろう場所」が、五酸化三チタンの各温度において予想される電気的な性質である。

結晶状態では、高温から常温へと冷却される(より上の黒い線へと連続的に変化する)とき、丸印は左へと転がっていき、金属的(アルファ型)だった電気的な性質は半導体的(ベータ型)となる。一方ナノ微粒子の状態では、冷却していく過程でスロープが微妙に右側に傾きを維持しつづけるため、丸印は右側のくぼみへと転がり、金属的な性質を維持する。この常温で金属的な性質を維持している状態がラムダ型の五酸化三チタンなのだ。


常温、例えば摂氏20度は、ケルビン(絶対零度をゼロとする単位)では、293Kに該当するが、ナノ微粒子状態における300K付近のグラフは、右側と左側の両方に、「ボールを転がすと停止する」であろう場所が存在する。この右側がラムダ、左側がベータ型で、光相転移という現象は、光を照射してエネルギーを与え、この中央のスロープ越しにボールを行ったり来たりさせることだ、と例えることができる。

このようにナノ粒子化することで、常温で2種類の安定な状態が発生するだろうというモデル計算を行って物質を合成し、その予測通りに物性が得られたという点において、大越研究室の成果は世界的に見ても類まれな成功事例だといえる。

3.「次世代光記録材料」の実力

希少元素に頼らず、既存材料と同レベルのレーザー出力で記録可能

今回発見されたラムダ型五酸化三チタンは、現在書き換え可能タイプのブルーレイディスクに使われている材料と、同じかそれ以下のレーザー出力で記録可能で、光記録材料として理想的な性質を持っている。また、現在普及している光相転移記録材料は、地球上の埋蔵量が少ない希少元素(アンチモン、テルル、インジウムなどのレアメタル、レアアース)に依存しているが、チタン酸化物は大量に存在しており、地球資源の持続可能な利用という点からも圧倒的に優れた材料である。

材料自体のコストも当然安く、既存の光相転移材料の100分の1以下で調達することが可能で、製造方法についても、界面活性剤を用いた化学的な手法のほか、光触媒用として市販されている酸化チタンのナノ微粒子を適量の水素ガスとともに焼成する簡便な方法も発見されている。

幅広い活用範囲と高い記録密度

コストに優れ、量産しやすい光相転移物質、というだけでも、ラムダ型五酸化三チタンは極めて有望な物質である。電気的な性質だけでなく、色も茶色(ベータ型)と濃紺色(ラムダ型)で異なるため、読み取り方法も従来通りの光学式を使用できる可能性が高い。さらに空気中でも安定、安全な性質を持つため、印刷して書き換え可能なバーコードとするなど、多様な活用方法が検討されている。

また、ラムダ型五酸化三チタンは、10~20ナノメートル程度のナノ微粒子だが、この粒子1つひとつに1ビットを書き込めると仮定した場合、記録密度はブルーレイの200倍程度であり、この点でも社会的に多くの注目を集めている。さらに、既存の光相転移材料では、アモルファスと結晶の2つの相を、レーザー照射の熱で融解させたり、再結晶化温度まで加熱させたりすることでコントロールしている。これに対して、ラムダ型五酸化三チタンの相転移は熱によらないため、はるかに高速な応答速度を実現できる可能性が高い。このことは、書き込み速度の高速化につながる性質である。


ただし、光学メディアの記録密度の限界は、記録材料以上に、読み書きに使う光の波長によって決まってくる。レンズの性能も関係するが、原則的に光記録メディアに書き込める最小のスポット(1ビットを表現する点)は、光の波長に比例しているからだ。DVDからブルーレイへの記録密度向上は、赤色から青色へと利用する光の波長を短くしたことの影響が主である。

この限界を超えようとする試みとしては「近接場光」などの特殊な光学現象の利用があるが、極端に精密な読み書き方法を実装するには、ハードディスクのように記録メディアを密閉する必要が出てくる。日常的に持ち運びでき、気軽に扱える光学メディアの利点を損なっては本末転倒であるため、光ディスクの高密度化にはまだまだ技術的なハードルが少なくない。とはいえ、ラムダ型五酸化三チタンの登場により、材料サイドでは、記録密度向上に向けて大きな進歩が遂げられたといえそうだ。

取材協力 :東京大学大学院 理学系研究科化学専攻 大越研究室

掲載日:2010年8月25日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2010年7月21日掲載分

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