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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
「モーションコピーシステム」ってなんだ?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは"動作"を保存し、再現できる「モーションコピーシステム」。職人技を保存して後世に伝えることができるようになれば、伝統工芸は永久に不滅です!?

1.「モーションコピーシステム」とは?

モーションコピーシステムとは、人間が物などを触ったり押したりしたときの触覚や、道具などを手で操作するときの力の入れ具合(力覚)をデジタル情報として保存し、いつでも、どこでも、その再現を可能とするシステムのこと。これは独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の産業技術研究助成事業の一環として、慶應義塾大学理工学部の桂 誠一郎研究室で開発が行われているシステムだ。このシステムを使えば、人間の動作における力覚・触覚情報を、時間や空間を越えて忠実に再現することができるようになる。
 モーションコピーシステムは、図1に示すように「モーション保存システム」と「モーション再現システム」から構成されていて、前者は操作者の動作を保存し、後者は保存された動作データを基に操作者の動作(触覚)を時間と空間を越えて忠実に再現する。

図1 モーションコピーシステム
図1 モーションコピーシステム

資料提供:慶應義塾大学 桂研究室

モーションコピーシステムがどのくらい画期的な技術なのか、実際にこのシステムを体験してみないとなかなか理解できない。「百聞は一見に如かず」ならぬ「百見は一触に如かず」といったところだが、まずはモーションコピーシステムの基本技術(原型)となっている「力覚伝送システム」の使用例から紹介しよう。力覚伝送システムとは、触覚情報を遠隔地で双方向に伝送するためのシステムのことで、桂研究室ではこの技術のことを「テレハプト」(テレ(遠隔)+ハプト(ギリシャ語で「触る」の意味))と呼んでいる。

「テレハプト」とは?
図2 テレハプトの例1
図2 テレハプトの例1

図2に示すように、テレハプトはマスタシステム(右手前のゴムボールが設置されているアクチュエータ(インターフェース))とスレーブシステム(中央および左上の2つの何も設置されていないアクチュエータ)から構成されている。図2ではマスタとスレーブのアクチュエータ(入力されたエネルギーを物理運動量に変換する装置のこと)が同じテーブルの上に配置されているが、実際にはマスタを東京、スレーブを大阪と福岡といった具合に遠く離れたところに配置できる(スレーブは何台でも配置可能)。そして、スレーブのアクチュエータを操作すると、マスタのアクチュエータが感じ取ったゴムボールの感触をリアルタイムでスレーブのアクチュエータに伝えてくれる。つまり、大阪や福岡から、東京に置いてあるゴムボールの硬さ加減、弾力性をじかに感じ取ることができるというわけだ。ゴムボールの代わりに金属を置けば、今度は硬い物であることがすぐにわかる。


「テレハプト」の利用で実現できること
図3 テレハプトの例2
図3 テレハプトの例2

資料提供:慶應義塾大学 桂研究室

この基本技術を利用すれば、例えば次のようなことが可能になる。東京にある通販会社の企画担当者が新しいクッションの販売を開始したいと考えていて、理想とするサンプルのクッションが手元にあり、これと同等の柔らかさと肌触りをもつ低価格の商品を韓国のバイヤーから仕入れたいとする。そんなときは、テレハプトのマスタ側(図3の手前側)のアクチュエータに東京にあるサンプルのクッションを装着する。そして韓国に居るバイヤーがテレハプトのスレーブ側(図3の奥側)のアクチュエータを自分の手に装着して指を動かせば、アクチュエータを介してクッションの肌触りを確かめることができる。その結果、同じような柔らかさと肌触りを持つクッションを買い付けることができるようになるといった具合だ。
 こうしたテレハプトの技術をベースに開発されたのがモーションコピーシステムである。このシステムでは触覚情報を伝送するだけでなく、その情報をモーションデータメモリに記憶し、いつでも取り出せるようにしている。モーション再現システムでは、マスタ側のアクチュエータの代わりにモーションデータメモリを使って、スレーブ側のアクチュエータを制御できる仕組みになっている。このような構成にすることで、保存時と再現時の動作環境が同一であれば、再現されたスレーブの力と位置(触覚)は保存された際のスレーブの力と位置と完璧に合致する。

2.「モーションコピーシステム」開発のポイント

視聴覚情報はマイクやカメラによって保存でき、スピーカやディスプレイを用いて自由に再生することが可能だ。しかし、触覚・力覚情報の保存及び再現についての技術は未だ確立されていない。その大きな理由の1つに、触覚・力覚情報は「作用・反作用の法則」に基づく双方向性を有する感覚情報であるという点を挙げることができる。視聴覚情報は片方向だけで感覚を伝えることができるが、触覚情報は双方向で情報をやりとりしないと感覚を伝えることができない。つまり、音や映像は、その発信源に直接触れることなく感じ取ることができるが、触覚は直接物体に触れないと情報が伝わらないのである。
 また、この分野では力覚センサなどの開発も行われているが、今回のモーションコピーシステムではこうしたセンサ類は一切使用していない。なぜなら、力覚センサや触覚センサの場合、検出しているのは微小な変化量で、これをシステムで利用するには何千倍も増幅しなければならない。この増幅過程で信号にノイズが混入するので、ノイズを取り除くためにフィルタをかける必要がある。しかし、フィルタを通過した後の信号は触覚情報も削り取られることになり、インパクトのある触覚情報が得られなくなる。その結果、微妙な触覚の違いがわからなくなってしまうからだ。そこで、モーションコピーシステムでは、センサの代わりにリニアモータと独自開発した制御理論プログラムを使って触覚を検出している。
 人間の触覚を周波数で表現すると、0~400Hzまでの帯域幅の感覚をキャッチできると言われているが、力覚センサでは数十Hzまでしか検知できない。一方、リニアモータを使ったモーションコピーシステムでは、ほぼ400Hzまでカバーしている。また、触覚信号を増幅する必要がなくダイレクトに電気信号に変換できる。

3.「モーションコピーシステム」の実用化

ロボットや3歳児でも達人の技が!?

モーションコピーシステムの応用分野は非常に広い。ネットワークを介して力覚・触覚コミュニケーションを行うことができれば、eラーニング分野やアミューズメント分野での応用が可能になる。また、生産分野における熟練技能者や医療分野における手術の術者の動作や微妙なテクニックを保存することができ、自由に操作者の動作を再現することが可能となる。伝統工芸の世界における職人の優れた技も記録できるようになり、例えばロボットや小さな子供でも熟練者の繊細な技術を再現できるようになる。

実用化に向けて

今後、実用化に向けて解決すべき課題を挙げると、アクチュエータの小型化がある。例えば、オペで使う医療器具や職人の道具にアクチュエータを組み込む必要が出てくる場合、リニアモータを小型化しないとうまく技を記録できない。
 また、現在のシステムでは、1秒間に1万回の割合で双方向に触覚情報をやりとりしているが、この回数をさらに増やすことで、よりきめ細かい触覚を伝えることができる。さらに、ネットワーク経由での触覚コミュニケーションを実現するには、伝送遅延も解決しなければならない課題の1つ。例えば、ゴムボールを押したとき1秒遅れでゴムを押した感触が戻ってくるのでは使いにくい。桂研究室では、数年後の実用化を目指して、こうした課題の改善・解決に取り組んでいる。

取材協力 :慶應義塾大学 桂研究室

掲載日:2010年4月14日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2010年03月03日掲載分

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