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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
「バクテリア駆動型モーター」ってなんだ!?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは「バクテリア駆動型モーター」。分子レベルの微小なモーターの動力として、なんと生き物であるバクテリアを使ってしまおうというユニークな研究が行われています。SF映画さながらに、人体の中に微細なメカを送り込んで手術したりするような日も遠くないのかもしれません!

バクテリア駆動型モーターとは

科学技術の研究テーマの1つに、「どこまでモノを小さくすることができるか」を究める「ナノテクノロジー(微小化技術)」という分野がある。これはナノサイズのマシンを開発したり、ナノサイズで物質を制御・分析したりする技術のことだ。ナノサイズとは、10億分の1メートル単位の微小なサイズのこと。ナノテクノロジーでは、ナノメートル単位で分子を操作しながら物質の構造と配列を制御することにより、ナノサイズ特有の物質特性を利用した新しい機能を実現することを目指している。すでに、ナノテクノロジーは新たな産業革命を起こす最重要科学技術として世界中で盛んに研究が進められているが、今回取り上げるバクテリア駆動型モーターは、生命科学分野のナノテクノロジー研究における画期的な成果の1つである。

バクテリアで駆動する微小モーター

バクテリア駆動型モーターとは、サカナの寄生菌で哺乳類には無害である「Mycoplasma mobile」という、長さ500nm(nmはナノメートル)ほどのナス型をしたバクテリア(滑走細菌)を駆動力源に使った微小回転モーターのことだ。産業技術総合研究所(産総研)のセルエンジニアリング研究部門生体運動研究グループが世界で初めて開発に成功した。  ガラスやプラスチックの表面を滑走運動するバクテリアにはいろいろなものがあるが、Mycoplasma mobileの場合、動いたり止まったりすることなく連続的に滑走運動をすることから、このバクテリアが微小モーターの動力源として採用された。今回開発されたバクテリア駆動型モーターの構成図を図1に、このモーターに取り付けられた実際の微小ローター(羽根車)の様子を図2に示す。
 まず、ガラスの表面に、リソグラフィーと呼ばれる半導体微細加工技術を使って円形の溝を作成し、その溝の中にバクテリアを入れる。ただし後述するように、この円形トラックには、大半のバクテリアが同一方向(図の場合は時計回り)に回転運動するような工夫が施してある。次に、この円形トラックにちょうどはまるような突起を持った直径20μm(1μm=1000nm、μmはマイクロメートル)の微小ローターを用意する。微小ローターもリソグラフィーを使って作成する。一方、バクテリアの表面にはビタミンの一種であるビオチンを付加し、微小ローターはストレプトアビジンというタンパク質で表面を覆っておく。そして、円形トラックに微小ローターを取り付ける。すると、ビオチンとストレプトアビジンは強い親和性(物質同士が結合する性質)があるので、バクテリアは微小ローターの突起部分としっかり結合され、微小ローターはバクテリアの滑走運動と共に時計方向に回転し始める。このときの回転速度は約2rpm(回転/分)、トルクは2?5×10-16Nmである。

図1 バクテリア駆動型モーターの構成 図2 今回開発された微小ローター

資料提供:産総研

資料提供:産総研

バクテリア駆動型モーターは「分子モーター」の一種

分子モーターの研究から誕生

それでは、バクテリア駆動型モーターはどのような経緯で開発されたのだろうか。実は、バクテリア駆動型モーターは「タンパク質分子モーター」(以下、分子モーターと略)という研究テーマの中から誕生した技術なのだ。
 生命体の中には、細胞の移動や変形といったいろいろな運動を駆動するための多様なタンパク質が存在しているが、分子モーターとは、これらの運動に関係するタンパク質の総称のことだ。たとえば、筋肉収縮を駆動する分子モーター、神経の中で物質を輸送する分子モーターなどがある。また、バクテリアの鞭毛運動も分子モーターの一種だ。言い換えると、分子モーターは化学エネルギーを力学(運動)エネルギーに変換するナノ素子(ナノアクチュエータ)とみることもできる。本来、アクチュエータは化学エネルギーや電気エネルギーを運動エネルギーに変換するものだが、従来の技術では、小型化すればするほどエネルギーの変換効率が低下してしまうことから、分子モーターはナノマシン向けの新しいアクチュエータとして期待されているのである。

すべてのバクテリアを一方向に回転運動させる仕組み
図3 Mycoplasma mobileを一方向に
運動させるためのパターン(A-C)と、
円形トラックの壁に沿って運動している
Mycoplasma mobile細胞の様子(D)

資料提供:産総研

バクテリア駆動型モーターでは、円形パターンの中のすべてのバクテリアをどうやって同一方向に運動させるかが大きな課題の1つであった。生体運動研究グループでは、さまざまな微小パターンを作成してバクテリアの挙動を観察し続けた。その結果、Mycoplasma mobileは、平面上では直進するが、壁が急角度で曲がっているときは曲がりに沿って動いていくことができず、そのまま直進してしまうことを突き止めたのである。同グループではこのような性質を利用することで、Mycoplasma mobile細胞を一方向に回転運動させるためのパターンの設計に取り掛かり、その結果、図3のようなパターンを考案した。図3Aでは、大きな四角い平地上を運動していた細胞がたまたま周囲の壁にぶつかると、壁の下縁に沿って運動し、いずれかの円形パターンに導入される。矢印で示した直線路の上側の壁に沿って運動していた細胞はそのまま円形パターンを時計方向に回転し、ほぼ一回転したところで入り口に戻ってくる。ただし、図3のB、Cの▲印で示すように、下側の口は鋭角になっているので、壁に沿って方向転換はせずに、再びそのまま回転運動を続けることになる。一方、直線路の下側の壁に沿って進んだ細胞は、入り口の鋭角に沿って反時計方向に回ることはできないので、そのまま直進し、円形パターンの内側の壁に沿って時計方向に回転するようになる。したがって、約70パーセントの細胞は、円形パターン内のどちらかの壁に沿って時計方向に回転し続けることになる。

ナノアクチュエータを作るための現実的なアプローチ

生体運動研究グループでは、分子モーターを使ってナノアクチュエータを作る研究をずっと以前から続けてきた。たとえば、神経の中では微小管とよばれるタンパク質繊維の上をキネシンという分子モーターが神経伝達物質を輸送していることがわかっている。そこで、同グループでは、ガラス面上にリソグラフィーを使って矢じりパターンが付いたトラック(円形パターン)を作成し、その底面だけにキネシンを結合させたところ、ほとんどすべての微小管を一方向に運動させることに成功した。これは、精製した分子モーターを使った世界初の一方向性運動系で、この成功以後、キネシン・微小管一方向性運動系を微小輸送システムとして実用化しようという研究が世界中で進められるようになった。
 ただし、この方法には「分子モーターの精製に手間がかかる」「数時間から1日程度の寿命しかない」という欠点がある。これに対し、バクテリア駆動型モーターは、簡単な培養でMycoplasma mobileを増殖させることが可能で、長期間運動も可能である。また、精製したタンパク質を組み合わせて大きな機械を作るのは極めて困難であるのに対し、バクテリアはいわば組み立て済みの機械であるため、動作も安定している。ただし、現在利用しているバクテリアが哺乳類に対して無害のものであることははっきりしているが、遺伝学的にバクテリアが今後どんな突然変異を起こしうるのかは誰にも予想がつかないため、問題がまったくないとはいえない。それでも、バクテリアは分子モーターとしてすぐれた性質を持っているため(表1参照)、今回の開発はナノアクチュエータを作るための現実的なアプローチへの第一歩といえる。


取材協力 : 独立行政法人産業技術総合研究所

掲載日:2009年4月 1日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2007年10月03日掲載分

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