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デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
「植毛ファン」ってなんだ?!

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマ「植毛ファン」は、パソコンなどの冷却に使うファンを静かにする技術。風きり音を低減させるために、物体の表面に細かな毛を植えるというユニークな発想です!

1.植毛ファンとは

図1 植毛されたパソコン用冷却ファン

植毛ファンとは、鳥取大学大学院工学研究科の西村正治教授が中心となって研究している新しい騒音低減アプローチであり、パソコンなどの冷却用のファンの羽部分に長さ1〜3ミリほどの毛を植えることで、騒音を低減する技術である。
 ファンに植毛することでどの程度騒音が静かになるのか。今回取材でデモンストレーションを実演してもらったが、その効果のほどは明らか。通常のファンに比べ、植毛ファンのほうが格段に静かであった。また、発生する騒音のうち高い周波数の成分がより抑えられているらしく、音が小さくなるだけでなく低くなっている点も印象的だった。同じ騒音でも、甲高い音や耳鳴りのようなサーッという音はとくに気になるものだから、音量だけでなく音程まで低く抑えるこの植毛ファンは、生活する空間に存在するさまざまな騒音を低減する技術として、実用化の待たれる有望株だといえるだろう。

2.植毛ファンの生い立ちはフクロウにある!?

西村教授の騒音低減技術への取り組みは、鳥取大学に来る前の大型風洞開発までさかのぼる。高速鉄道車両の開発に用いる大型の風洞は、空力特性の計測だけでなく、風きり音の測定も行う必要がある。風きり音を正確に測定するためには、風洞自体の騒音をできるかぎり抑えなければいけない。そのため、その大型風洞の開発にあたっては、低騒音化に関する厳しいハードルが設定されていた。この低騒音化の基本設計を西村教授は担当していたのだが、形状の最適化などの通常の工夫を可能なかぎり実施しても、要求される低騒音化のハードルを越えることはなかなか難しかった。
低騒音化の課題に悩む西村教授にブレイクスルーを与えたのは、共同研究者から提案されたフクロウの静寂飛行の応用だった。フクロウは夜間に狩猟を行うために、目だけでなく周囲の音を立体的に把握している。獲物に気づかれないことはもちろん、視覚の代わりとなる聴覚を最大限活用する必要があるため、極めて静かに飛行する能力がフクロウには備わっている。
 羽根に生えた綿毛がフクロウの静寂飛行を可能にしていると考えられているが、この原理を風洞に応用することで、低騒音化が図れるのではと考えたのだ。結果は大成功。風洞のダクトの一部分をぬいぐるみに使うような柔毛材で覆うことで、世界でもトップクラスの大型低騒音風洞の開発に成功した。
その後、鳥取大学に移った西村教授は、柔毛材による騒音低減の現象を原理的に解明し、より応用範囲を広げる研究を開始した。その研究成果のひとつが、植毛ファンなのである。

3.植毛による騒音低減のメカニズム

3-1 毛の長さや密度の影響

西村教授は、柔毛材による騒音低減の仕組みを検証するため、直径26mmのパイプに長さや密度を変えた柔毛を植毛し、低騒音風洞で風きり音の変化を計測した。その結果が次に示すグラフである。

図2 柔毛材による発生騒音の低減効果(柔毛材長さの影響)


図3 低騒音化に及ぼす充填密度の影響(250Hz)


図4 植毛されたパイプ

左が長さ3mm、右が1mm、密度はどちらも1%

この実験結果から、柔毛材の長さは1mm〜3mmでも十分な効果があり、密度は植毛する面積と植毛した柔毛材の断面積の比率で1%程度が最適であることがわかった。
 ちなみに実験に用いた植毛技術は電気コタツのヒーターなどにベルベット状の植毛を行うのに用いられている技術(静電植毛という)であり、材質を問わず任意の複雑な形状に植毛でき、耐久性も十分であるという。


3-2 毛のかたさや材質の影響

西村教授はさらに騒音低減のメカニズムをより深く解明するために、柔毛材のかたさの影響を検証する実験として、柔毛に代えて網戸に使うメッシュをパイプに巻いて実験を行った。メッシュをパイプに直巻きすると効果がなかったが、メッシュとパイプの間に1mmの隙間を空くようにして巻くと柔毛同様の騒音低減効果が得られることがわかった。スポンジなどの多孔材を使用した実験でも類似の効果があることから、気流が柔毛やメッシュに入り込み抵抗を受けることが低騒音化のポイントであると推定できるという。
 下の図は、パイプにあたる気流の乱れを、柔毛材アリ/ナシで測定したもの。パイプ表面に適切な抵抗を与えることで、気流の乱れが抑えられ、かつ乱れる領域をパイプから遠ざけるため、円柱表面での圧力変動(騒音のもと)が低減されるメカニズムがわかるだろう。

図5 パイプ周りの乱れ強さの比較(上流乱れ有の場合)


4.植毛ファンの課題と可能性

植毛による騒音低減は、さまざまな製品への応用が期待されているが、そのなかでも最も実用化に近いのがパソコンやサーバなどに用いられる植毛冷却ファンである。そこで課題となるのが、ファンの冷却性能とのバランスである。羽根の表面に植毛することで気流に抵抗を与え低騒音化をはかるメカニズムだけに、冷却性能はどうしても植毛しないものに比べて低下する。

図6 各種植毛ファン


そこで、西村教授の研究室では、上の写真のように植毛部分を限定したファンを使って性能と騒音低減効果の両立できる方法を現在研究している。騒音のもととなる圧力変動は気流とファンがぶつかった際に発生するが、圧力変動はファン全体で発生するわけではなく、限られた場所で発生する。そのため、圧力変動が発生する部位だけに効率よく植毛することで冷却性能と低騒音化のバランスを図ろうとしているのだ。

フクロウの静寂飛行にアイディアを得て生まれてきた柔毛による低騒音化技術は、すでに大型風洞の低騒音化など、様々なジャンルで実用化が進められている。エアコンや換気ダクト、換気扇やプロジェクタの冷却ファンなど、低騒音化の望まれる機器は生活の場にも無数に存在する。これらの機器が数ミリの毛で静かになる日も近いかもしれないのだ。

参考URL 鳥取大学大学院 工学研究科 機械宇宙工学専攻 計測制御工学研究室
http://www.mech.tottori-u.ac.jp/mcs/
参考
文献
M.Nishimura, T.Goto and K. Kobayashi ; ‘ Effect of Several Kinds of Pile-Fabrics on Reducing Aerodynamic Noise ’ , AIAA Paper, AIAA 2005-3079, 10p, CD-ROM (2005)
M. Nishimura, T.Goto and T.Ito ; ‘ Study on Reducing Noise from a Small Axial Cooling Fan by Using Pile-Fabrics’ , Proc. of Internoise ‘ 2006, 9p, CD-ROM (2006)

取材協力 :鳥取大学大学院 工学研究科 機械宇宙工学専攻 計測制御工学研究室

掲載日:2009年3月18日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2008年05月21日掲載分

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